夢の実現、ジョセフ・クロミー(その2)/タスマニア再発見

タスマニア再発見
No.109 夢の実現、ジョセフ・クロミー(その2)
文=千々岩健一郎

食肉産業の分野での目標が実現した後、ジョセフの夢はタスマニアで新しく興隆するワイン作りに向けられていく。

1997年ブルー・リボン社の株を上場することによって得た多額の資金を、まだ企業的に確立されていないタスマニアのワイン産業に注ぎ込んでいった。ブドウ畑を作りワインの製造を始めたものの天候不順などで行き詰まり、買い手を求めているワイナリーを引き受けるというようなことを始めたのだ。

ジョセフ・クロミー氏
ジョセフ・クロミー氏

もちろん、立地条件を吟味した上でタスマニアらしい冷涼な気候に適した高品質のワインができると見込んだ上でのこと。後年にまとめられた彼の10カ条のモットーの1つが、「経営の決めては判断の迅速性。考えているうちにチャンスは消え去る」。このような考え方で、幾つか将来性のある物件への投資を行い、事業が軌道に乗ると販路を持つ名高いワイン資本に売り渡すというような手法を繰り返した。

およそ10年の間に、こういった形で彼が手を染めたワインのブランドは、「Ninth Island」「Bay of Fires」「Tamar Ridge」「Jansz」など、現在タスマニアが中心となって流通している名高いものばかり。これらの人気ラベルは全て彼がその礎を築いてきたものだ。

2003年、人気ガイド・ブックで3年目にして早くも5スターの評価を受けたTamar Ridgeを譲渡した後、ロンセストンの郊外レルビア(Relbia)に倒産危機に陥っている61ヘクタールのブドウ畑を見つけた。すばらしい景観を持つこの立地は、ロンセストンの中心部からわずか10キロの距離でワイン醸造のみならずレストランやその他のビジネスにも有望な将来性を持っていることをいち早く見抜き、そこを買い取って自分の名前を持つワイナリーとし、ワイン・セラーとカフェを作った。

残念なことに、この場所に宿泊設備を含めた総合的な催事施設を建設するという計画は、政府機関からの承認を得ることができず現段階では実現していないが、すばらしい景色を見ながらワインと料理を楽しむ人びとが集まる場所となった。

彼の目標はワインの事業に続き見放された不動産の再開発にも向かっていく。20年間以上使われていなかった旧ロンセストン総合病院の建物を州政府と長期間掛けて交渉し買い取り、客室99室、アパートメント14室を有するホテルに改造する。この本当に夢のような計画は、1年後の09年、彼の80歳の誕生日に合わせて完成した。

11年、82歳で彼は会社の会長職をリタイアしたが、その後も会社の創立者として尽力し新たな事業への夢を求めている。


タスマニア再発見

 

千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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