ヒューオン・バレー「The Apple Shed」/タスマニア再発見

タスマニア再発見

No.119 ヒューオン・バレー「The Apple Shed」
文=千々岩健一郎

アップル・アイランドと呼ばれるタスマニアは実際に昔からリンゴの生産地だが、その中心はヒューオン・バレー。州都ホバートから南に走る6号線のハイウェーを下って約30分。山間の道を幾つか越えた先に広がるのがヒューオン・バレー。19世紀の半ばから世代を超えて続くリンゴの果樹園が多数存在している地域である。

今回はこのバレー入り口のグローブ地区で、古くからあるリンゴの博物館が進化して生まれ変わった「The Apple Shed」を紹介しよう。

何年か前の本コラムでも取り上げたが、リンゴは果物としては少し人気が落ち目、更にタスマニアは地の利の悪さから輸出産物としては不利な点が大きい。今回のテーマ「アップル・シェッド」の代表アンドリュー・スミスも4代目の若手後継者。父から130年続いている47ヘクタールのリンゴ園を引き継ぐに当たり、その将来性に不安を持ち世界各地の果樹の産地を見聞する旅を行った。父親のイアンも幾つかの過酷な災難を通じて新しい生産方式にチャレンジしていたが、帰国後、父親と共に更に新しいチャレンジに取り組んでいった。リンゴ園の一部を新しい集約的な植え方に変更し、有機農法を取り入れた。大手スーパー、ウールワースへの納入指定業者となり、生ジュースの生産にも取り組んだ。そして2012年、自社のリンゴを使って伝統的な手法でシードルを生産する「Willie Smiths Organic Apple Cider」のブランドを立ち上げた。ウィリーはスミス農園の最初のリンゴを植えた初代入植者の名前。そして更に翌年その製品の試飲販売を兼ねたカフェ「The Apple Shed」をオープンさせた。

ヒューオン・バレーの「The Apple Shed」。古い輸出用リンゴのラベルが可愛らしい

ヒューオン・バレーの「The Apple Shed」。古い輸出用リンゴのラベルが可愛らしい

元々この場所はこの地域を訪れる観光客に人気のあった博物館で、その古い木造の建物を改造してモダンなレストラン、シードルのセラーを兼ねたカフェとしたのだ。加えて、週末の夜はミュージック・バンドが演奏を行ったりする他、最近はリンゴから作るブランデーの蒸留設備も造られ、一種の文化発信基地としての役割を持つに至った。

毎年7月の中旬、このアップル・シェッドが主催して、「Huon Valley Mid-Winter Festival」が開催される。真冬の週末の3日間、英国南西部のシードルの産地の伝統をモチーフにしたお祭りが行われるのだ。民話の主人公に扮するモリス・ダンスの仮装の奇抜さを競うコンテストや、秋の豊作を祈念してのワッセリングと呼ぶリンゴの果樹から魔物を退散させる儀式などで盛り上がる。

かくして、伝統のリンゴの生産地は新しい世代に引き継がれ多様な発展をしていくようだ。


千々岩 健一郎
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る