森歩きの楽しみ① レインフォレスト/タスマニア再発見

タスマニア再発見

No. 129 森歩きの楽しみ① レインフォレスト
文=千々岩健一郎

タスマニアの自然探索の楽しみの1つは森歩き。タスマニアには大きくは3つのスタイルの森が存在しているが、中でも最も特徴的なのはレインフォレスト(冷温帯降雨林)だろう。

降雨林でよく知られているのは熱帯性のものだが、タスマニアに存在するのは冷温帯にある降雨林。熱帯性に比べると樹種が少なくシンプルで分かりやすい。熱帯性のジャングルに特有なつる植物はほとんど存在していない。

まずこのレインフォレストが存在するのはタスマニアでも湿った環境に限定される。年間1,500ミリ以上の降雨量も必要だが、乾季を持たないで年間を通じて平均的に雨が降ることが重要だ。従って降雨量の多いタスマニア西部に多く存在するが、同時に日当たりの悪い南向き南東向きの斜面、そして深い渓谷沿いなどの山火事に遭いにくい環境に残っている。

残っているという意味は、レインフォレストが山火事で焼失すると、いったん生えてくるのはユーカリ。ユーカリが生えて森の中に湿った状態が戻り初めて、レインフォレストの樹木が復活してくる。ユーカリがその寿命を終えてようやく復活するこの再生には、数百年がかかるというわけだ。

クレイドル・マウンテン・ロッジの裏にあるキングビリー・パイン・トラック
クレイドル・マウンテン・ロッジの裏にあるキングビリー・パイン・トラック

レインフォレストの樹木で最も重要なのは常緑の南極ブナ、マートルビーチ(Nothofagas cunninghamii)だ。この木は冷温帯レインフォレストの中心の木として、標高差に関わりなく常に存在する。先月取り上げた落葉のファガスと同属の植物だが、葉は小さく樹高ははるかに大きくなる。そして、通常このマートルビーチと共に存在するのが針葉樹だ。タスマニアには太古の時代から生き残る固有の針葉樹がありそれらが共に生える。野生の川国立公園のゴードン・リバー・クルーズで上陸するヘリテージ・ランディングの森ではヒューオン・パインが、クレイドルのワルドハイムにあるウエインドルファーの森では杉の仲間キングビリー・パインが共に存在する。その他もう1つの杉の仲間ペンシル・パイン、タスマニアの木工品で人気のサッサフラス、ハチミツを採るレザーウッドなども構成する樹木としてよく知られる。

このレインフォレスト、タスマニアの西側の国立公園を歩けば至る所に存在するが、最も簡単に味わえるのはクレイドル・マウンテン・ロッジの裏にあるキングビリー・パイン・トラックだろう。この森は成熟したステージのレインフォレストで、樹齢の高い瘤(こぶ)だらけのマートルが多数存在し、苔むした倒木が横たわる特異な環境を1時間程度のボード・ウォークで手軽に楽しむことができる。


千々岩 健一郎
1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うと共に、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手掛けている。北海道大学農学部出身。

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