No.64 世界最古の植物 キングス・ロマティア

タスマニア再発見
キングス・ロマティア(写真=国立公園局)

タスマニア再発見

No.64 世界最古の植物 キングス・ロマティア

文=千々岩健一郎

前回の生きている化石に続き、今回は現存する世界最古の植物の話。何と4万3,600年前から同じ遺伝子で生き続けている植物というのだからすごい。名前は、キングス・ロマティア(Kings Lomatia)、学名「Lomatia tasmanica」。もちろん、世界でタスマニアにのみ生育、しかもタスマニアでも南西部の国立公園の1つの、限られたエリアのみにしか生き残っていないという稀少種、かつ絶滅危惧種なのである。

この植物は、タスマニア南西部の開発のため奥地メラルーカに移り住んだ、採鉱師で自然主義者のデニー・キングによって、1937年に初めて発見された。1960年、デニーが初めてこの植物の標本をホバートの標本館に持ち込んでから一躍注目されることになった。

その一般名に発見者のキングの名前が付けられた所以である。

何ゆえにこの植物が重要なのか。最も大きな特徴は3倍体の遺伝子を持っていることで、そのため花が咲いても実を付けることができない。一般の植物は2倍体で、減数分裂をして子どもを作っていくのだが、このキングス・ロマティは種を作ることができないため、何万年もの間、同じ遺伝子で生き残ってきたというわけである。

もちろん、同じ固体が何万年も生き残ることはできないのだが、地に落ちた古い枝から再び新しい枝が成長を始めるという栄養繁殖の方法で子孫を残し、生き残ってきたのだ。現在、世界で唯一タスマニア南西部の限られたエリアに500株程度が存在しているらしいが、これらの遺伝子は全く同一なのである。

さらに、周辺から同じ葉や茎の形をした化石が発見されているのだが、放射性炭素法によってこの化石の年代は4万3,600年を経たものであることが判明している。この化石の植物の遺伝子とこの生きているキングス・ロマティアの遺伝子が同じものであることが証明されれば、まさにこの植物が世界最古の植物ということになる。

もし現在生育している唯一のエリアが、山火事で消失したり、あるいは病気によって枯れてしまったりすれば、地球上からこの最古の植物が消失してしまう。このエリアは現在世界遺産の原生地域の中に存在するのだが、自然の脅威によっても消失の危険は存在する。

ホバートの植物園に何株かが移されて、保存と増殖を試みているそうだ。公開の機会があれば、この貴重な植物をぜひご覧いただきたい。


タスマニア再発見

 

千々岩 健一郎 プロフィル

タスマニア在住21年。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する同社の運営を行なうとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。特に植物関係の造詣が深く、その専門知識をもとに各種の自然観察ツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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