No.56 フェントン湖 盆栽的「南極ブナ」

タスマニア再発見

タスマニア再発見

No.56 フェントン湖 盆栽的「南極ブナ」

文=千々岩健一郎

タスマニアにも秋の季節がやってきた。ダーウェント・バレーのポプラの木々もすっかり色づいているが、今回はこのダーウェントのさらに上流部にある、マウントフィールド国立公園のフェントン湖とその周辺の南極ブナについて紹介しよう。「南極ブナ」とは正式には「Nothofagus gunii(俗称Fagus)」のことで、豪州では唯一生き残っている固有の落葉樹である。豪州で生き残っていると言っても、もちろんタスマニアにしか存在していない。

ラッセル滝で名高いマウントフィールド国立公園の入り口から曲がりくねった未舗装の登山道路を上り詰めていくと、標高が1,000メートルぐらいの地点に突如このファガスが登場してくる。周辺はすべて、ユーカリやそのほかの常緑の植物で囲まれているために、この唯一の落葉樹のオレンジ色は、ひと際輝いて見える。

南極ブナの名前の所以は、この葉っぱの化石が南極大陸で発見されていることによる。そう、この植物は1億数千万年前のゴンドワナ大陸時代から生き残っている太古の植物群の1つ。数万年前の氷河期の終焉(しゅうえん)の後、地球が温暖になるとともに標高の高いところに追いやられて生き残っている貴重な存在だ。

マウントフィールド国立公園の上部、氷河湖フェントンの付近には風化して表面が白色や黒色の地衣類で覆われた火成岩の岩塊が転がり、その間に曲がりくねった枝振りのファガスがまるで盆栽のような感じで存在している。湖水で洗われ白く枯れたユーカリの流木がともに存在して、天然のロック・ガーデンの風情だ。背景にはスノーガムの林が広がる。

この付近のスノーガムの樹皮には、赤と黄色の縞模様が現れて、雨に濡れるとその鮮やかな色合いが特に印象的になる。

実は、この場所で昨年のちょうど4月の中旬に、日本の航空会社のカレンダーの撮影を行ったことがある。テーマは「World of Beauty」で、毎月の写真に各季節の世界各地の有名どころで、その土地の女性がモデルになって登場するというものだ。フェントン湖の南極ブナをバックに、ブッシュウォーキングのスタイルの美女が写った写真は、カレンダーの11月に採用されることになった。

この落葉の南極ブナはいったん山火事に遭うと復原が非常に難しいとされている。タスマニアでも生き残っている場所は限られた所になっていて、西部の標高の高い国立公園内、すべてを併せても延べ100平方キロ・メートル程度とのこと。この場所は、ホバート中心部から車で約1時間半の行程だ。この黄葉の時期にぜひ1度出かけてみてはいかがだろうか。ベスト・シーズンは4月中旬から5月の初めごろまで。


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千々岩 健一郎 プロフィル

タスマニア在住21年。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する同社の運営を行なうとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。特に植物関係の造詣が深く、その専門知識をもとに各種の自然観察ツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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