No.55 キャンベルタウンのレッド・ブリッジ

タスマニア再発見
アンティークで素朴なレッド・ブリッジ・カフェ

タスマニア再発見

No.55 キャンベルタウンのレッド・ブリッジ

文=千々岩健一郎

ヘリテージ街道と呼ばれるホバート−ロンセストン間を結ぶ幹線道路の途中にキャンベルタウンの町がある。州の南北を結ぶ重要な道路のため、現在ではほとんどの町をバイパスで横を通過していくのだが、この町だけは真ん中の通りを通過していく。

レッド・ブリッジは南側の入り口にあるこのハイウエーに架かる橋だ。下を流れるのはエリザベス川。私自身、何回となくこの町を通過し、橋を渡ってきたのだが、今まであまり注目したことはなかった。近くのロスの村やオーツランドと比較して、観光的なアトラクションが少ないためだろう。しかし、最近このレッド・ブリッジが注目され、立ち止まる人々の数が増えてきている。

その理由の1つは、隣接するブラックバーン公園の老いた大木が切り倒され、残った切り株に木彫が施されたこと。近くに住むチェーンソー彫刻家、エディー・フリーマンの手によって、精緻なタスマニアの動物や人物を刻まれた彫刻が完成したのは、3年前の2010年。大木の木の根っこに直接バンドソーを入れて彫り進むという、いかにも豪州的で大胆な手法だ。完成以来、ハイウエーを走る車からこの特異な造形に目を留めた多くの人々が立ち止まっていくようになった。

そして、もう1つは、この橋の袂(たもと)に長くアンティークの店として続いていた入植当時の建物が、モダンなカフェ兼グルメ・ストアとして生まれ変わったこと。その名も「レッド・ブリッジ・カフェ」。さまざまなタスマニア産の食品素材のショップとともに、キッシュやスコーン、パテなどを楽しめるランチ・スポットとして人気を集めるようになったのだ。

レッド・ブリッジの名前の由来は、その主たる材料に赤いレンガが使われているためであろう。ほぼ同じ時期に造られたロス・ブリッジの砂岩に対して、この橋には川の上流で取れる粘土を焼き上げたレンガが、何と150万個も使用されている。1838年に完成した橋であるが、幹線道路にかかる橋のために年間200万台もの車両が通過しているにもかかわらず、現在まで大きな修理を施すことなく維持されているというのは驚くべきことである。

技術的な堅牢さばかりではなく、ゆっくりと車を止めて眺めてみると実に美しい姿をしている。周辺には大きな柳の木が茂り、水面には睡蓮の葉が広がって、忙しい幹線道路の橋とは思えないのどかな風景を楽しむことができる。レッド・ブリッジ・カフェで、午後のティー・タイムを楽しんだ後は、ぜひこの川の周辺を散策してみてほしい。


タスマニア再発見

 

千々岩 健一郎 プロフィル

タスマニア在住21年。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する同社の運営を行なうとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。特に植物関係の造詣が深く、その専門知識をもとに各種の自然観察ツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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