No.74 マウント・ネルソン 信号場跡

タスマニア再発見
マウント・ネルソンの頂上に位置する信号場跡

タスマニア再発見

No.74 マウント・ネルソン 信号場跡

文=千々岩健一郎

州都ホバートの山の手の住宅地サンディ・ベイ。朝日のあたる展望の良い高台では、いまだに新しい家の建築が進んでいる。住宅地の上部、この港を見下ろす小高い丘がマウント・ネルソン、標高340メートル。入植直後の1811年にこの頂上部分に信号場が造られた。眼下のダーウエント・リバーの河口に入ってくる船の様子を観察し、その情報を港の管理局に送信するのが目的だった。その後、100キロメートルほど離れたタスマン半島にポート・アーサーの監獄施設が造られた後は、マストの高さを高くして半島との間で腕木シグナルによる通信も行った。時代とともに通信方法は変化したが、タスマニアで最初の電話線が引かれたのも、この信号場と港の間であったそうだ。信号場は、1986年までの120年間役割を務め役目を終えたが、その建物と通信用のマスト、仕事に従事した人たちが住んだコテージなどが残り、マストには現在でも毎日、州の旗が掲揚されている。

ホバート市内からは車もしくはメトロのバスで15分程度で行ける。晴れていれば、眼下にダーウエントの流れ、左にホバート市の中心部、右には南極方向に口を開けたこの川の河口方向とブルニー島などが展望でき、ホバートの町の人気のある観光ポイントの1つになっている。この信号場跡を目指して、サンディ・ベイのタスマニア大学近くにあるランバート・パークを出発点にして歩いて登るトレイルも整備されている。2004年ホバート市は、入植200周年を記念して周辺の私有地45ヘクタールを購入し、従来の保護エリアと併せて総面積130ヘクタールを200周年記念公園に指定した。山火事に焦げたユーカリと木麻黄の茂るクリーク沿いの道を息をこらして登っていくと、やがて左にダーウエントの流れを望むなだらかなスカイライン・ウォークとなる。出発点から40分程度で頂上に達する、週末の運動には最適のハイキング・コースだ。ひと汗かいた後は、休憩スポットもある。かつて、信号場の従事者が暮らしたコテージが展望の良いカフェになっており、モーニング・ティーやなかなか洗練されたメニューの昼食が楽しめる。

帰りは、同じ道を下るのが嫌な人は、反対の南側のトラックをタルーナ方面に下っていくトラックもある。タスマニア最後のアボリジニとして知られるトルカニニの名前を付けた自然保護地域の中を歩いていくコースだ。ただしこちら側は日当たりの悪い南向き斜面ということもあり、やや足場の悪い急斜面が続くので注意が必要。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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