「眠れる水」の湖上リゾート

タスマニア再発見
アボリジニの言葉で「眠れる水」の呼称を持つセント・クレア湖

タスマニア再発見

No.79 「眠れる水」の湖上リゾート

文=千々岩健一郎

世界遺産のクレイドル・マウンテン国立公園の南に位置するセント・クレア湖は、古来から「眠れる水」と呼ばれる豪州で最も深い水深をもつ氷河湖である。

この湖の豊かな水源を発電事業に活用する計画がスタートしたのは1930年ごろ。南側の岸から湖に向かって伸びる250メートルの橋脚の先にポンプ小屋が造られた。建物はアール・デコ調だがシンプルな5階建てで、40年の正式開業以来50年以上にわたってタスマニアの発電事業に寄与。このポンプ小屋は今年1月にリゾート宿泊施設として生まれ変わり、正式に操業を開始した。

この世界遺産の湖上に立つ建物と周辺の施設をツーリズムの資源として活用できないか、とのアイデアは95年の閉鎖直後からあり、いくつかの大きなホテル運営会社が巨大な投資の下でリゾート・ホテルの計画を出したが、環境保全の観点からなかなか承認を得るところまでたどり着かなかった。2005年、タスマニアのツーリズム事業の開発者として名高いサイモン・カラント氏が、「小規模だが価値が高い」というコンセプトのエコ宿泊施設の計画を立ち上げ、数年後にやっと建設の認可を得るに至ったのである。既存の建物のみを活用した環境保全型の考え方が、まさにこの場所にふさわしいものとして承認されたのではないだろうか。

この特異なエコ・リゾートは「Pumphouse Point」と名付けられた。湖上のポンプ小屋は12部屋とラウンジのある「The Pumphouse」に、湖畔の水力発電公社の建物は6部屋とレストランの設備を持つ「The Shorehouse」に、それぞれ改装された。全体で18部屋しかないコンパクトな施設である。

世界遺産の国立公園から流れ出る清涼な水を満々とたたえるセント・クレア湖は、周りを深い森林と山岳に囲まれた独特の雰囲気を持つ場所である。特に夜明けや日の入り前の湖水に映る光線の移り変わり、朝霧に包まれた山々の幻想的な風景など、湖と一体化した宿泊施設での滞在は、タスマニアでも極めてユニークな体験となることだろう。もちろん周辺でハイキングを行うも良し、フライ・フィッシングの釣り糸を垂れるのも良し、加えてハリモグラやカモノハシなどの動物たちとの出会いも大いに期待できる。


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千々岩 健一郎 プロフィル

1990年からタスマニア在住。1995年より旅行サービス会社AJPRの代表として、タスマニアを日本語で案内する事業の運営を行うとともに、ネイチャー・ガイドとして活躍。2014年代表を離れたがタスマニア案内人を任じて各種のツアーやメディアのコーディネートなどを手がけている。北海道大学農学部出身。

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