憧れの大陸最高峰「コジオスコ山」をハイキング

憧れの「大陸最高峰」を攻めよう
コジオスコ山にハイキング

文・写真=新井佳文(時事通信社シドニー特派員)

リフトを降りると、なだらかなコースが続く
リフトを降りると、なだらかなコースが続く

「セブン・サミット」――。登山家ならずとも、山好きなら誰しも憧れる7大陸最高峰のことだ。むろん、世界最高峰エベレスト(標高8,848メートル)は高度な登攀(とうはん)技術が求められ、遠征費用もかさむ。ところが、オーストラリア「大陸」の最高峰コジオスコ山(Mt. Kosciuszko)なら標高は2,228メートル。夏場なら、ハイキング気分で登れる。オーストラリア在住という足場の良さを生かし、セブン・サミットの一角を占めるコジオスコ山を攻めてみよう!

真冬に海パンで

コジオスコ登山が他の大陸最高峰と違うことが分かる、エピソードがある。7月8日、オーストラリア人男性5人が、厳冬期のコジオスコに海パン一丁の姿で登頂を果たしたのだ。ただの無謀な試み、というわけでなく、ハイスクール教員によるチャリティー・イベントだった。心の病を抱えたティーンエージャーが増えており、対策の必要性を啓蒙(けいもう)するのが狙いだ。

コジオスコは、スキー・リゾートのスノーウィー・マウンテンズ地域に位置する。もちろん山上は雪に覆われているから、スノー・シュー(かんじき)を着用した。教師らは普段から寒中水泳などをして体を鍛えた上で挑んだらしいが、いずれにせよ、真冬でも裸同然で登れるほどの難易度なわけだ。

それにしても、オージーったら、なんで海パン一丁がこうも好きなのだろう。10月2日には、マレーシアで開催されたF1マレーシア・グランプリ(GP)で、オーストラリア人の男9人がパンツ一丁で観戦し、逮捕される騒ぎがあった。

おそろいの海パンにはマレーシア国旗が描かれていたため、公然わいせつに加え、国旗侮辱の容疑がかけられた。開催団体は「マレーシア人への尊敬の念を欠く、馬鹿げた行為」と非難。9人は25~29歳で、国防省職員も含まれていた。幸い、9人は罪を認め、謝罪文を提出した上で、釈放された。

7大陸最高峰とは?

キーワードとなるセブン・サミット(7大陸最高峰)を、軽くおさらいしておこう。アジアはエベレスト、北米はデナリ(旧称マッキンリー、標高6,190メートル)、南米はアコンカグア(標高6,962メートル)、アフリカはキリマンジャロ(標高5,895メートル)。南極大陸には、4,892メートルのビンソンマシフがそびえる。

微妙なのは、欧州大陸の最高峰だ。そもそも、地理学的には欧州はユーラシア大陸の一部。欧州大陸という言葉は政治的、経済的用語なので、その範囲は欧州連合(EU)拡大や国際情勢を反映して変化してきた。伝統的には、ヨーロッパ最高峰はフランスとイタリア国境にあるモンブラン(標高4,810メートル)だった。ただ今は、ロシアのエルブルス(5,642メートル)を欧州大陸最高峰に挙げるのが一般的のようだ。

そして、我らが豪州大陸最高峰のコジオスコにも、若干議論の余地がある。確かに豪州大陸に限れば2,228メートルでも最高峰なのは間違いない。しかし、火山国のニュージーランドやニューギニアには、もっと高い山々がごろごろしているのだ。

オーストラリア大陸最高峰の定義を「オーストラリア・ニューギニア大陸」、または「オセアニア最高峰」に広げ、インドネシア・パプア州にあるプンチャック・ジャヤ(標高4,884メートル)をセブン・サミットに含める意見がある。

今年7月、早稲田大学2年の南谷真鈴さんが19歳と、日本人最年少でセブン・ミット制覇を果たし、話題を呼んだ。南谷さんは「豪大陸最高峰=コジオスコ」派だったようで、2015年12月にコジオスコに登頂している。

スキー用リフトで山上へ

コジオスコ登山の入り口となるのは、NSW州スノーウィー・マウンテンズ地域にあるスキー場スレドボだ。ナビに「Thredbo」と打ち込めばいい。筆者が住むシドニーからは約500キロで、車で6時間程かかる。メルボルンからは約550キロ、首都キャンベラからは200キロ強。いずれの都市からも公共交通機関はないから、自家用車かレンタカーを使って訪れるのが一般的だろう。日帰りは厳しく、現地周辺で1泊はしたいところ。初めての場合、ホテルに前泊して、早めに登り出す方が無難だ。

スレドボ・スキー場の駐車場に車を停め、リフト乗り場へ。夏場はスキー場はもちろん閉鎖されているが、ハイキング用に「コジオスコ・エクスプレス」というリフトだけは通年で運行されている。スキー場斜面をマウンテン・バイクで下るコースもあるため、リフトには自転車を設置する装置もついている。

このリフトの終着点は、標高1,930メートル。なんと、コジオスコ山頂までの標高差は、残り300メートルしかない。登山でなく、ハイキングと呼ぶゆえんである。片道6キロ強のなだらかなトレッキング・ルート。所要は、早足なら1時間強、ゆっくり歩いても2時間ほど。看板には「往復で計13キロ、所要時間は4~6時間」と書かれていた。

赤ん坊を背負って歩く人や、完全に手ぶらの子どもの姿も。確かに、ハイキングだけど仮にもここは大陸最高峰なのだから、と気になった。2,000メートル級の山なので、天気が急に変わる恐れはある。リュックにたっぷりの飲用水を入れ、雨具も忘れないようにしよう。

スキー場にあった案内図
スキー場にあった案内図
コジオスコへの登山道
コジオスコへの登山道
コジオスコ・ルックアウト付近の眺め
コジオスコ・ルックアウト付近の眺め
赤ん坊も豪州大陸最高峰を制覇(コジオスコ山頂)
赤ん坊も豪州大陸最高峰を制覇(コジオスコ山頂)

最高所のトイレ

リフトを降りて2キロ程歩くと、「マウント・コジオスコ・ルックアウト」という展望コーナーにたどり着いた。看板を見て、先ほどから左手先方に見えていたちょっと突き出た丘が、コジオスコ山頂だと知った。左手には、湖も広がり、なかなかの絶景である。かつて存在した氷河によって削られ、形成された湖らしい。

片道6キロ強のトレッキング・コースでは、強い日差しを遮るものはない。脱水症状にならぬよう、こまめに水分補給した。

ローソン峠(Rawson Pass)まで着けば、山頂部はもう目前。峠には、トイレまで設置されている。間違いなく、「オーストラリア最高所にあるトイレ」だ。ここから山頂部までのラスト・スパートは、幸いなるかな、ちゃんと登り坂になっている。そうだよな、山歩きはこうじゃなくちゃなあ、と、独り笑みを浮かべながら、息を切らせて登った。ローソン峠から頂上までは30分ほど。頂上部に立つと、周りの方々も「アメージング」「ファンタスティコ」と思い思いの歓喜の声を上げていた。筆者も、「しゃー、7大陸最高峰の1つを極めたぞ」と、声には出せず、心の中で叫んだ。

山頂部では、200人もの人びとが楽しそうにランチを食べていた。オーストラリアの観光地では通常、アジア人やインド人の姿が目立つ。コジオスコはちょっと客筋が違うようで、オージーの姿が多かった。

ローソン峠から、頂上に向けてラストスパート
ローソン峠から、頂上に向けてラストスパート

ローソン峠から、頂上に向けてラストスパート

山はトンガリをもって尊し

山好きの間に、「山はトンガリをもって尊しと成す」との言葉がある。急峻(きゅうしゅん)な崖に囲まれ、とがった山こそ美しく、登攀(とうはん)意欲をそそられる、といった趣旨だろう。ヨーロッパのスイスとイタリア国境にそびえるマッターホルンなどが、その典型だ。

その点、我らがコジオスコの、なだらかさと言ったら。コジオスコのみならず、山頂から見渡す山々はいずれも、伏せた牛の背中を思わせ、一様にトンガリがない。オーストラリア大陸の古さや、地震がないことと関係しているのだろう。もちろん、このゆったりと雄大な山々が連なる眺めも、地球の広大さを思わせ、魅力的だ。

ニュージーランド出身の登山家、エドモンド・ヒラリー卿(1919~2008年)が生前、日本の尾瀬を訪れた際、取材をしたことがある。ヒラリー卿は言うまでもなく、世界最高峰のエベレストを人類で初めて極めた登山界のレジェンドだ。

一緒にいた毎日新聞のN記者が、尾瀬ヶ原の向こうに悠然とそびえる燧ケ岳(ひうちがたけ)(標高2,356メートル)を指し、印象をたずねた。ヒラリー卿の答えは「ナイス・ヒル(きれいな丘だね)!」。

燧ケ岳は火山のためそれなりにトンガリもあり、その噴火が尾瀬ヶ原を生んだ。いくらなんでも「ヒル」はないじゃないの、と一瞬思いもしたが、レジェンドから見たら、まあ丘なのだろうな、とすぐに納得した。ヒラリー卿は、体が屈強なだけでなく、不屈の闘志で幸運を引き込んだ。ニュージーランド出身者ながら、英国の登山隊に抜擢され、見事、エベレスト初登頂を果たした。

往復32キロの健脚向けコースも

コジオスコ山には、リフトを使わず尾根歩きを楽しめるコースも、ちゃんとある。シャーロット峠(Charlotte Pass)から入るトレッキング・ルートだ。

ここからは2通りのルートがある。緊急車両や作業車だけ通れる車道が、山頂部に近いローソン峠まで伸びている(「サミット・ウォーク」)。それと、尾根歩きルートの「メーン・レンジ・ウオーク」。行きと帰りで、組み合わせてみるのもいいだろう。看板には、「往復で計32キロ、所要時間8~10時間」と書かれている。

メーン・レンジ・ウオークは、幾つもの峰をつなぐ尾根を歩くので、それなりにアップダウンがある。やや疲れるかもしれないが、景観が変化に富んでいる。なだらかと思っていたコジオスコなのだが、尾根歩きをしていて、突然、視界に飛び込んでくると、はっと息を飲み、山容を見入ってしまった。

太古にあった氷河に削られた、カールした崖も美しい。尾根に立つと、遮るものが何もないから、意外と風が冷たい。岩の陰に身を潜め、持参したペーパー・フィルターでいれたコーヒーを飲み、改めてコジオスコの山容をゆっくり眺めた。ああ、荘厳な山だなあ、と素直に見とれた。

尾根ルートを行くと、変化に富んだ景観が広がる
尾根ルートを行くと、変化に富んだ景観が広がる
尾根ルートから、コジオスコを望む
尾根ルートから、コジオスコを望む
マチュピチュに続く古代インカ道を思わせる登山道も
マチュピチュに続く古代インカ道を思わせる登山道も
トレッキング中に見かけた奇岩
トレッキング中に見かけた奇岩

クラフト・ビールで祝杯

下山後には、近隣にある町ジンダバイン(Jindabyne)へ。ここには、その名も「コジオスコ」という名のクラフト・ビールの醸造所兼ホテル(Banjo Paterson Inn)がある。この界隈に宿泊し、「大陸最高峰コジオスコ制覇」をクラフト・ビールで祝うのが最高だ。

バンジョーのバーで「コジオスコ・ペールエール」の生を注文。地下にある樽から管が伸びており、樽からグラスへ直接注がれる仕組みだ。紛れなき、新鮮さ。ペールエールらしいまろやかさはあるが、喉越しは意外にもすっきりし、全体にキレがある。ちなみに、筆者は自宅でビールを趣味で醸造している。ペールエールもよく造るが、素人にはこれほどのバランス感のさえたビールは造れない。

コジオスコ・ブルワリーのビール醸造タンク
コジオスコ・ブルワリーのビール醸造タンク

無理もない。聞くと、コジオスコの醸造所は、ビール界で知られたマイスター、チャック・ハーン氏が2009年に手掛けたものと知った。ハーン氏は、「ハーン」など商業的に大成功したビール会社をつくる一方、数々のクラフト・ビールも手掛けた。オーストラリア・ビール界の立役者の1人だ。

調査会社IBISワールドの調査(15~16年度)によると、クラフト・ビールが全ビール消費量に占める割合は8.9%に上った。日本もクラフト・ビール・ブームと騒がれるが、その比率は1%にも達していない。豪全土には、パブも含めると400カ所以上のクラフト・ビール醸造所があるらしい。セブン・サミット制覇も難しいけど、豪クラフト・ビールを全て飲む制覇も、これまた難しそうだ。

ビール好きなので、つい話がそれてしまった。いろいろな魅力を秘めたコジオスコ。この夏、コジオスコのハイキングに、ぜひ挑戦を!



■プロフィル
新井佳文(時事通信社シドニー特派員)

早稲田大学政経学部卒業後、時事通信社入社。福島支局、財務省、国土交通省など担当。シリコンバレー、ロサンゼルス特派員を経て13年9月から現職

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