ランバージャック

ベン・ホルトの豪州ワイン物語

ベン・ホルトの豪州ワイン物語

ランバージャック

本質的な施作や方針よりも、それを掲げる総裁自身の方が注目を浴びてしまう政治があるように、ワインも、肝心なボトルの中身よりも、セレブリティーを求める作り手が、注目されてしまうものなのだろうか。

体格においても、ワインの作り手としても、デイブ・パウエルのその存在の大きさには、つい圧倒されてしまうのは仕方がない。しかしデイブの場合、人としても醸造家としても、確かにそう感じさせるだけの何かがある…。その理由を考えてみよう。

アデレードで生まれ育ったデイブは、国内の多くの素晴らしい醸造家たちと同じく、若いころはバロッサや海外のワイン名地で過ごしてきた。そしてそのうち、樹齢の古いブドウ園の栽培者と契約し、自身のワインを醸造するチャンスと巡り会った。

デイブは、エネルギーが噴出する火山のような、大柄でたくましい、いかにも、というようなオージーだが、ワインについてはミダスタッチ(ギリシャ神話で「手に触れるものすべてを黄金に変える力」)を併せ持つ。驚くべきことに、彼が生み出すワインには、バロッサで味わえるほかのどのワインにも勝るほどの繊細さがある。


キュヴェ・ジュヴナイルズ

僕はデイブが作る「キュヴェ・ジュヴナイルズ」が特に好きだ。グルナッシュ、ムールヴェードル、シラーズがローヌの伝統技法でブレンドされている。このブレンドのブドウの純粋な果実味は、木樽熟成させずに作るワインならではのもので、赤ワインにしてはたいへん珍しい。「キュヴェ・ジュヴナイルズ」は、エネルギッシュな握手のように力強く、かつスパイシーな風味と華やかな味わいを併せ持つワインなのだ。

デイブのワインを飲んでみると、「抵抗」がないことに気付く。口に入った瞬間、驚くほどすっと体に受け入れられるのだ。この感覚を言葉で説明するのは難しいので、ぜひ皆さん自身で試してみてほしい。そこで皆さんを待ち受けているのが、彼のワイナリー「トルブレック」の世界だ。

デイブが昔、木こり(ランバージャック)として働いていたスコットランドの森がこのブランド名の由来となっている。彼のワインの名声は、彼自身のセレブリティーというより、むしろすべてボトルの中身、ワインそのものにあると、少なくとも僕はそう思っている。


ベン・ホルト
◎ヒルトン・ワールドワイド・マーケティング統括本部長(日本・韓国・ミクロネシア地区担当)。QLD大学で文学修士(日本語と韓国語)ならびに科学修士を取得後、在豪日系企業などで食品輸出、商品取引、マーケティングに従事。2002年~07年にオーストラリア・ワイン事務局日本代表、12年5月までオーストラリア政府観光局日本地区マーケティング本部長を務めた後、現職。

Web: www.holt-blog.com
Twitter: Mr_Riesling
www.facebook.com/Ben.Holt.69
 

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