Berowra Waters Inn オーナー・シェフ ディートマー・ソーヤーさん

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
ディートマー・ソーヤーさん

第7回

Berowra Waters Inn オーナー・シェフ
ディートマー・ソーヤーさん




素敵な時間を過ごし、
美しい思い出を
持ち帰ってほしい



Berowra Waters Innのオーナー・シェフを務めるディートマー・ソーヤーさんは、20年以上にわたって オーストラリアのレストラン産業と食文化の発展を支えてきたトップ・シェフだ。シドニーのダイニン グ・シーンを象徴する高級レストランを長年にわたり経営し、近年は「ベローラ・ウォーターズ・イン」 の他にフレンチ・ビストロの展開を進めているソーヤーさんに、自身の活動を語ってもらった。

“思い出”を提供したい

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
エルサレム・アーティチョークを 添えた和牛サーロインのステー キ

 ホークスベリー川の河岸に佇むBerowra Waters Inn。深い森の静寂に包まれた神秘的 な空間だ。アクセスはフェリー、ボート、水 上飛行機のみというのも、特別な気分を盛り 上げる。
 1926年に建てられたこの建物は、本連載の前 回で紹介したトニー・ビルソンさんが、かつてレ ストランに改築したものだ。2007年にソーヤー さんが再び改築し、新たなBerowra Waters Inn をオープンした。豪州のレストラン産業の歴史 において特別な意味を持つ場所だ。
 ソーヤーさんは、自らの仕事と評価について こう語る。「自分の選んだ職業でトップと見て もらえるのは嬉しいことです。ダイニング体験 はレストラン全体で生み出すもの。私たちが提 供しているのは、料理とワインだけではなく“思 い出”なのです」
 トップであるための努力について尋ねると、 かつて一流シェフに言われたという言葉を教え てくれた。「毎日きちんと起きて精一杯の努力 をすれば、95%の競争相手を先んじることが できる。彼らは日々最善を尽くすという意識を 持っていないのだから・・・」
 日々の努力をともに重ねているのは、ダイニ ング・ルームを担当するニコール夫人だ。「も ともと、ダイニング・ルームにいるよりも、 キッチンの仕事に集中する方が好きなんです」 と言うソーヤーさんとの間で、明確な役割分担 ができている。では、シェフと役割を担う中で 感じる、最大の喜びとは何だろうか。「ゲスト に素晴らしい時間を提供し、美しい思い出を持 ち帰っていただけたら、私もとても幸せです。 それができれば、成功していると言えるでしょ うね」

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
キャビアをのせたホークスベリー・オイスター揚げ とヴィシソワース
食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
ラズベリーの果実とスフレ、マスカルポーネのシャーベット

何より大切なのは“味”
  ソーヤーさんは2010年4月、約17年間にわた りシドニーのレストラン業界をリードしたForty One Restaurantを、惜しまれながら閉店した。 この決断はシドニーのレストラン事情を象徴し ているのだろうか。
 「残念ながら、市内の賃料があまりに高騰し、 存続が難しくなりました。シドニーの高級ダイ ニングは今も活発ですが、トップ・シェフが次々にカジュアルなレストランを開くようになり、 中間市場が成長していることも確かです」
 そして、豪州の高級ダイニングの問題点とし て、価格に“見えない天井”があることを挙げてい る。「ロンドンやパリ、東京では、トップ・クラ スのレストランの食事は1人当たり500ドルにも なり得ますが、シドニーでは250ドルくらい。こ れで最高級の食材を使い、納得のいくレベルを 維持するのは難しい。そこで、今トップ・シェフ たちは高級ダイニングを諦めないまま、カジュ アルなレストランの経営で補っているのです」
 カジュアルな店の増加により、シドニーのレ ストラン産業の競争が激化しているわけではな いとも言う。「結局、できる限り最高の品を提 供して人々に受け入れられれば、うまくいくの です」
  ソーヤーさんはForty Oneの閉店とほぼ同時 に、シドニー北郊ピンブルでAd Lib Bistroを立 ち上げ、続けてダブル・ベイ店もオープンした。 彼好みのカジュアルな料理を提供する、モダン・ スタイルのフレンチ・ビストロだ。「シドニーに は、アジア料理やイタリア料理のように、気軽 にフランス料理を楽しめるカジュアルな店がな い。そこからAd Libのアイデアが生まれました」
 自身の料理のスタイルについて、「Ad Lib Bistroはモダン・フレンチ」「Berowra Waters Innは世界各地の料理からヒントを得て、多様 な技術と素材を使ったフュージョン料理」と語 る。新作料理を創る時に最も大切にしているの は“味”だ。「何よりもまず美味しいことが一番。 それ以外の要素もあればなおよし、ですね」
 彼にとっての究極の料理を尋ねると「そうい うものはありません」という答えが返ってき た。「料理は“味”です。味は変化するものです。 そして、物事の受け取り方は人によって異なり ます。私が素晴らしいと感じる料理は、あなた にとっては塩味が濃いものかもしれない。世界 一のレストランについて語ることはできても、 同じように究極の料理を語ることはできないの です」
 ソーヤーさんの“味”を堪能できる場は、今後も さらに広がりそうだ。「Ad Lib Bistroをシドニー 市内や他州、いずれはアジアにも展開したいと 考えています。故郷スイスにもいつか、洗練さ れた小さなレストランを開きたいですね」

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
鮭の砂糖漬けとスパイスを効かせたアボカド
食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
ダーク・チョコレートのタルト・ラズベリー添え

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理

ベローラ・ウォーターズ・イン
Berowra Waters Inn

Via East or West Public Wharves Berowra Waters NSW
Web: www.berowrawatersinn.com
Tel: (02)9456-1027

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
2010年11月に出版された著書 「Table by the River」

Dietmar Sawyere
プロフィル
◎スイス出身。レストランを営む家庭に生まれ、14歳で料理の世 界へ。16歳からロンドンのサヴォイ・ホテルとコンノート・ホテルに勤務し、ミ シェル・ブルダン氏の下でも働いた。外来の食材や風味を取り入れる手腕が世 界に認められ、19歳で数々の賞を受ける。1983年にはニュージーランドのハイ アット・ホテルでレストランを開き、高く評価される。その後リージェント・イ ンターナショナル・ホテルに勤務し、香港とバンコクでアジアの食材への理解 も深める。88年にメルボルンへ栄転。92年にシドニーのパーク・レーンでGekko を、93年にチフリー・タワー最上階でForty One Restaurantをオープンし、豪州の レストラン産業をリードした。2007年にBerowra Waters Innを、2010年にはAd Lib Bistroを2軒オープン。英語・独語・仏語に堪能で、読書家でもある。

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