第1回TETSUYA’S オーナー・シェフ 和久田哲也さん

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理

第1回

TETSUYA’S オーナー・シェフ
和久田哲也さん




究極の料理は
  進化し続ける



 シドニー市内タウン・ホールに程近いケント・ストリートにTetsuya’sをオープンして10年になる和久田哲也さん。オーストラリアのグルメ・シーンに“和”のテイストを浸透させた貢献度は計り知れない。そんな和久田さんに料理哲学を聞いた。

食べることが好き
 和久田さんの料理は「フレンチと和のフュージョン」という言い方で紹介されることが多い。来豪1年後に、寿司を作れる料理人を探していたトニー・ビルソンさんのレストランで働くことになり、和久田さんはここでフレンチのテクニックを学ぶことになる。これがフレンチと日本料理が出会うきっかけとなった。

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
オーシャン・トラウトのコンフィ、フェンネルのサラダ添え(Confit of Ocean Trout with Fennel Salad)

 しかし、フレンチと日本料理がマッチするという予感や確信があったわけではない。和久田さんに言わせると、それは「おいしいもの」を毎日毎日求めた結果であって、○○料理と名の付く料理を作ろうという気持ちはなかったのだという。つまり、ジャンルは何であろうと「おいしければよい」のである。
 ただし、そのおいしいものを作るには条件がある。絶対によい食材を手に入れることがベース。それがなくては、おいしいものは生まれない。
「イチゴ1つにしても、先日ここに届けられたイチゴは小さなトレイ1つ置いただけで、部屋中に香りが広がったのです。そういうものがある時は、なるだけ手を加えない、いじらないで出したい。そういうことです」
 よい食材をベースに、テクニックなり、ハーブやスパイスなりを加える。あるいは、火を入れる度合いを変える。しっかり入れるのか、軽く入れるのか、すごく弱い温度で長く入れるのか、そういうことによって持ち味を引き出す。料理の真髄は、どうすれば食材の持ち味を引き出せるのかということになるのだろう。

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
和牛のロール、マッシュルーム・ソース(Rolled Japanese Wagyu Beef)

「冷たいコーンのスープを作るなら、絶対に60度以上に温度を上げずにコーンの旨みを出す、ということをするのです。どうやったらおいしくできるのか。それを考えることに尽きます」
 誰も気が付かないそうだが、Tetsuya’sのチョコレート・ケーキのクリームには西京味噌が少し入っている。クリームっぽくないのに、クリームがおいしくなっている。これは試行錯誤というより、西京味噌がおいしいのでクリームと合うのじゃないかと思い、合わせてみたらおいしかったのだそうだ。
「食べることが好き」「いつも次に何を食べようか考えている」、そこが原点となって和久田さんの料理は生まれている。

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キングフィッシュの刺し身、ブラックビーンとオレンジ添え(Sashimi of Kingfish with Blackbean & Orange)

究極に行き着くということはない
「オーシャン・トラウトのコンフィ」をはじめ、すべてがシグネチャー・ディッシュと呼べるようなTetsuya’sのメニュー。それらはシェフにとって究極の料理といえるが、和久田さんにしてみると、作ろうと思ってシグネチャー・ディッシュができるわけではない。その料理がシグネチャー・ディッシュになるかどうかは、お客様にどれだけポピュラーになるかということなのだ。これは上出来と思った料理がそれほど受けなかったり、それほどでもないと思った料理の人気が出たりすることもあるそうだ。
 人間の欲には限りがないから、「これだ!」というところに行き着くところはあり得ないだろうという。手に入れたいと思っていた食材が手に入ると、また次に別のものが欲しくなる。食材も変わるし、人の嗜好や味覚も変わる。だから、究極の料理は常に進化し続けるのだ。
 そんな和久田さんのコンセプトを生かした新しいレストラン「Waku Ghin」が今年7月、シンガポールにオープンした。オーストラリアでは入手が難しかった日本の食材などが手に入り、やりたいことがやれる場所だという。料理のベースは“和”、そしてキッチンからお客様が見える「究極のシェフ・テーブル」というスタイルで、シドニーとはメニューも出し方も違うレストランを作った。料理は食べる人あってのこと。“もっとパーソナルにお客様にできることはないか”と考えた和久田さんの新境地である。
「おいしいものを食べたい」「お客様においしいものをお出ししたい」—料理哲学はシンプルであればあるほど、おいしいものが生まれるのかもしれない。


食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理

テツヤズ Tetsuya’s
「グッド・フード・ガイド」誌の最優秀レストランに4度輝き、世界のトップ・レストランの上位に名を連ねる。料理はもちろん、ワイン・セレクションの豊富さと質の高いサービスでも知られる。
529 Kent St., Sydney NSW
Tel: (02)9267-2900(要予約)
営業時間:土12PM~、火~土6PM~、土・日・祝休
Web: www.tetsuyas.com
わくだ・てつやプロフィル
◎1959年浜松生まれ。海外にあこがれ22歳で来豪。オーストラリアについて「コアラとカンガルーがたくさんいる国」ということくらいしか知らなかった。皿洗いから始まり、レストランで働くうちに料理人になることを決意。1989年、RozelleにTetsuya’sをオープン、2000年現在地に移る。今年7月、シンガポールのカジノ内に「Waku Ghin」がソフト・オープン。

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