第4回 est. ヘッド・シェフ ピーター・ドイルさん

食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理
ピーター・ドイルさん

第4回

est. ヘッド・シェフ
ピーター・ドイルさん




学び続けて、
   進歩を重ねる



シドニーのダイニング・シーンをリードする「est.」のヘッド・シェフ、ピーター・ドイルさん。彼が創り出す、旬の素材の風味を生かした芸術品のような料理は、数多くのファンを魅了し続けている。常に学び進歩するという謙虚な姿勢を貫き、トップ・シェフの座を守り続けているピーターさんが、本紙のインタビューに応えてくれた。 

知れば知るほど、学ぶことがある

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サーモンを鮮やかに彩ったジュエリーのような一品

 ピーターさんは、長いキャリアの中で数々のレストランを立ち上げて高く評価され、名誉ある賞にも輝いているトップ・シェフだ。それらの功績はすべて、自身のたゆまぬ努力の結晶である。
「私は常に“知れば知るほど、さらに学ぶことがある”と考えて料理に臨んでいます。進歩を続けるために、より優れた新技術や調理法、素材の準備の仕方などを常に試しているのです。優れた料理は進化し続けるものです。トップであるためには、常に学び続けなければ」
 一方で、「あれもこれもと八方美人にならず、自分が引いた“線”に忠実であることも必要」とも語る。自分の料理の領域とスタイルを維持するということだろう。ピーターさん自身は、どこに“線”を引いているのだろうか。
「旬の食材の新鮮な風味が生きる料理を創ろうと努力しています。風味の強さやバリエーション、複雑さなどは多様ですが、優れた料理には必ず新鮮さがある。食べてみればすぐに分かります」
 特色はさまざまでも、優れているものにはその理由たる要素がある。変わり続けるレストラン業界についても、同じことが言えるようだ。
「この業界は経済情勢や気候、文化などの影響を受けて絶えず変化し、進化しています。でも、変わらない部分も多いのです。既に素晴らしいレストランであっても、オーナーとスタッフが発展への情熱を持ち続けていれば、これからも優れた店であり続けると思います」

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チョコレートを囲む赤い果実が印象的なデザート

 確かに、競争の激しいレストラン業界において、est.は常にその人気とクオリティーの高さを維持している。その秘訣は、統一感のあるレストランを目指す姿勢にあるようだ。
「スタッフが一丸となって仕事を楽しむことがとても大切です。ダイニング・ルーム、サービス、ワイン・リスト、そしてソムリエや給仕長、シェフをはじめ関わる人々全員が、お客様を喜ばせるという目標に向け、1つのチームとして働かなければなりません。チームとしての優秀さが真に優れたレストランを築くのです」
 est.の素晴らしいチームの中で、ピーターさんは純粋にシェフであることを楽しんでいる。 スタッフとともに働き、彼らの成長やキャリア・アップを実感するのも楽しいという。「質の良い食材で魅力あふれる料理を作り、お客様に喜んでいただくという仕事に、夢中になっています」

旬の食材を自分のスタイルで
 ピーターさんの料理の数々は、芸術作品のように繊細で美しい。自身が特に気に入っている“作品”を尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

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アワビ、ヒラタケ、細ネギに蒸したマーレー・コッドを乗せたメイン

「特にこれというものはないのです。常に変わるものなので。たいていは新しく創り出したものが好きですが、時とともにひねりがきいてくるような、何年経っても魅力的な料理もありますね」
 実は、est.はあえてシグネチャー・ディッシュを掲げていない。毎日、その日の最高の食材をもとにメニューを構成しているからだ。このメニューに加えられる新しい料理は、旬の素材から生まれることが多いという。
「ある食材が旬を過ぎたら、それに変わるものを求めて新たな料理を模索します。次に旬を迎える食材をどのようにメニューへ組み込むか考えていくのです」
 新しい料理を考案する際には、食べる人を楽しませ驚かせるような料理であると同時に、ピーターさんのスタイルに合うものであることを大切にしているという。彼は自身の料理のスタイルをこう語る。
「風味と質感が相互に高め合って調和する料理を目指しています。完璧な調理には、控えめであること、シンプルであること、そしてタイミングが重要なのです」
 具体的には、切れ味が感じられること、しっとりとした食感、そして全体のバランスを重視しているそう。また、ワイン・リストの充実にも力を入れているest.だけあって、ワインとの相性が良いことも大事なポイントだ。では、ピーターさんにとっての究極の料理とは?
「究極の料理とは、技術や創造性などにおいて、いくつかの基準を満たすものだと思います。私自身はまだ究極の料理を創り出したとは思っていませんが、ほかの方々による絶品を味わったことはあります。料理が目の前に出された瞬間、その完璧なバランスにただ驚嘆し、幸せを感じられるものなのです」
 究極の料理を生み出すために努力を続ける、ピーターさんの素材を生かした優れた料理をぜひ体験してほしい。


食の仕事人に聞く 私が考える究極の料理

エスト est.
Level 1, 252 George St.,
Sydney NSW
Tel: (02)9240-3010
ランチ  月~金12PM~2:30PM
ディナー 月~土6PM~10PM

Peter Doyle
プロフィル
◎est.のヘッド・シェフ。30年以上のキャリアを持ち、過去にフレンチ・レストラン「Le Trianon」「Cicada」「Selsius」などの有名レストランも開業している。est.のシェフとなった2003年から毎年、同店はシドニー・モーニング・ヘラルド紙の「グッド・フード・ガイド」誌で3ハットを獲得し続けており、自身も2003年に「プロフェッショナル・エクセレンス」賞を受賞、最新の2011年版でも再び同賞に輝いている。

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