第4章 日本庭園とオーガニック野菜 和解の町、カウラ

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美しく手入れされている日本庭園

MASUYA GROUP CEO  —KEN定松が歩いた—

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第4章 日本庭園とオーガニック野菜
   和解の町、カウラ

 シドニーの西北320キロにある町、カウラ(Cowra)で、1996年より自然農法で野菜を栽培する日本人経営の企業「北之台開発」の佐野茂紀氏にお話を伺いながら、当地のフード・ツーリズムをご紹介したい。

 シドニーを車で出発し、ブルー・マウンテンズを抜けて1時間ほどで到着するのがバサースト(Bathurst)です。アンガス牛の飼育で有名なこの地を訪れた際に、ぜひ立ち寄りたいのがステーキ・レストラン&パブ「A・J ANGUS」。豪州のブランド牛を本場で堪能しながらひと休みし、後は南西に100キロほど車を走らせると到着するのがカウラです。

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ステーキ・レストラン&パブ「A・J ANGUS」
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 現在の人口は1万人程度ですが、第2次大戦中はここに戦争捕虜収容所があり、1,104名の日本兵が捕虜として収監されていました。この地で起きたのが、当時の日本軍人の「生きて虜囚の辱めを受けず」の考え方から、満月が輝く真冬の深夜に決行された集団脱走事件。死者数235名(豪州人4名、日本人231名)を出す大惨事となりました。
 豪州人は日本兵捕虜を戦時国際法であるジュネーブ条約の下、衣食住にわたり 人道的に扱っていましたが、約2割の捕虜による脱走決行の意見にほかの捕虜も反対意見を言えず、歴史に残る悲惨な結末となったと言われています。
 現在この地には、戦争という悲しい過去を乗り越え、互いを理解し合おうという“日豪和解”のシンボルとして、全長5キロに及ぶ桜並木通り「サクラ・アベニュー」や、日本政府から寄贈された日本庭園などがあります。
 このカウラは、小麦や各種野菜、ワインの一大産地としても知られており、自然農法で野菜を生産する日本企業「北之台開発」が活躍しています。

◎「北之台開発」佐野茂紀氏にインタビュー
定松(以下 定)
 カウラで農業を始め、10年間にわたって続けられている経緯を教えてください。
佐野(以下 佐)
 私どもの初代社長・井口昌司が、この地の日本人墓地を訪れた際、現地の豪州人1人ひとりが心を込めて墓を守っていることを知り、感動したのがきっかけです。そして、この地こそ世の中のために自分たちの自然農法を始める地にふさわしいと決心をし、太陽光が降り注ぐ50ヘクタールの土地を購入しました。
 その土地は以前、放牧に使われており、開墾をした我々は、牛糞を取り除くことに苦労しました。5人のスタッフが約2カ月間、40度近い暑さの中で歩き回り、8トン・トラックで100トン分の牛糞を除去。その後、コンクリートのように乾燥した大地に、機械のツメが壊れても壊れても打ち込んで、耕していきました。
 作物としてトウモロコシから始めていきましたが、自然農法でのトウモロコシができた時には、大地への感謝とともにそれまでの苦労を思い出し、またその美味しさに感動しました。その後、日本食レストランに大根やキャベツ、カボチャやキュウリを出荷するようになり、それから豪州人がオーガニックとして育てることが難しいホウレン草へと生産物を広げていきました。

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左から梅田氏、佐野氏、著者


 以前の佐野さんの手記の中で、干害などの自然災害、また農薬を使わないがゆえの手作業による雑草との戦いなど、日々の野菜との真剣勝負が紹介されています。自然農法のこだわりを教えてください。

 私どもは有機農法や無農薬農法とは考え方が違います。太陽の光と水、そして健全な土から生産された農作物は本当に美味しいはずであり、土に何か養分を入れなければ育たないという考え方は持っていません。そのためには土作りが大切であり、作物が根を十二分に張れるだけの深くて柔らかい土壌が必要と考えます。その後は作物の持つ能力を最大限に引き出します。赤土や黒土など、土に合った作物を育てていきます。

 ちなみに北之台開発でワーキング・ホリデーの若者が働くことができますか ?

 ちょうど今、2人のワーキング・ホリデーの若者がボランティアで働いてくれています。ありのままの自然を生かして作物を育てることの難しさ、また楽しさを感じてくれているようです。

 佐野さんはご自身で作った野菜をどのように食べていますか ? マル秘レシピがあれば教えてください。

 マル秘ですか(笑)。それでは、台湾人の友人が教えてくれた大根の漬物を。まず1センチ角、5センチの長さに皮付きのまま切り、数日間、天日干しにします。そしてごま油、からし、ニンニクに1週間ほど漬け込めば、特製ピリ辛大根のでき上がりです。

 さて、次回は今が旬の「ミナミマグロ」の産地、SA州ポート・リンカーンを訪れ、水産物、ECO、そしてワインのフード・ツーリズムをご紹介します。
Enjoy your meal !
読者の皆さんへ
 4月中旬より数週間、ノースブリッジの日系スーパー「東京マート」で、佐野さんの育てた自然農法のトウモロコシ、栗カボチャなどが販売されます。ぜひその“大地の味”をご堪能ください。


プロフィル
◎日本食レストラン「鱒屋グループ」社長。
肉体的にも精神的にも自分では38歳と信じている。
1961年生まれ。愛媛県松山市出身。A型
Web: www.masuya.com.au

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