幸せワイン・ガイド@オーストラリア「マーガレット・リヴァー その2」

幸せワイン・ガイド@オーストラリア

今月の銘醸地:マーガレット・リヴァー その2

激動の半世紀

ⓒLeeuwin Estate
ⓒLeeuwin Estate

ヨーロッパに比べ短いとされるオーストラリアのワインの歴史には、どの産地にもたくさんの「ストーリー」が残っています。歴史そのものは短いかもしれませんが、その分激動を経て、革新が急速に進んだ国でもあります。多くの人びとのさまざまな試みや、型破りな革新的な1歩があったからなのでした。

前回から引き続きご紹介させて頂くマーガレット・リヴァーもまた、先人の弛(たゆ)まぬ努力により、急速に発展したワイン産地の1つです。1970年代初期に瞬く間に高級ワインの産地としてその名声が広がり始めました。マーガレット・リヴァーの先駆者となったワイナリーは、ヴァセ・フェリックス(Vasse Felix)、モスウッド(Moss Wood)、カレン(Cullen)、ルーウィン・エステート(Leeuwin Estate)、ケープ・メンテル(Cape Mentelle)の5社で、この産地の面白い特徴の1つに、これら先陣を切ったワイナリーが、ワイン造りもブドウの栽培も未経験であった人びとが設立したという史実があります。

アマチュアらによって始められたワイン産地

今から51年前の1967年、パースを拠点にしていた心臓外科医であったトム・カリティ医師が、マーガレット・リヴァーにカベルネ・ソーヴィニョン、マルベック、リースリング、シラーズなどのブドウを植え、ヴァセ・フェリックスを設立しました。それに続いたモスウッドのビル・パネルと、カレンのケヴィン・カレンもまた、元々は医師でした。そして、ルーウィン・エステートの創業者デニス・ホーガンは銀行員でした。ブドウ栽培もワイン造りも、最初は完全に素人であった男たちが、情熱だけに駆り立てられゼロから始めたワイン造り。世代交代した今でも、これらのワイナリーはマーガレット・リヴァーを代表する生産者として世界中に知られています。

人生を変えた1本の電話

半世紀前にゼロからワイン造りを始めた男たちの情熱は、今なお受け継がれている(ⓒLeeuwin Estate)
半世紀前にゼロからワイン造りを始めた男たちの情熱は、今なお受け継がれている(ⓒLeeuwin Estate)

その中でもルーウィン・エステートには、特に面白いエピソードが残っています。創設者であるデニス&トリシア・ホーガン夫妻は、マーガレット・リヴァーのある土地を購入します。土地を購入した当初の目的はワイン造りなどではなく、元々そこにあった水道業者を買収するためでした。

1973年、そんなデニスの元に、遠くアメリカのワシントン州シアトルから、弁護士を名乗る人物から突然1本の電話が掛かってきます。この1本の電話が、その後のデニスの人生を完全に変えてしまうことになったのでした。

この電話の主は、その当時から既にカリフォルニアのワイン王として世界的に名声を馳せていた、ロバート・モンダヴィ氏の代理人でした。現代のワイン産業を大きく発展させ、ワインのレジェンドとされた人物からの突然の電話は、「君が持っている土地にブドウを植えたいのだが」という申し出だったのです。カリフォルニアのワイン王が、遥(はる)か遠いオーストラリアのマーガレット・リヴァーに、高級ワインを生み出すポテンシャルを見出したのです。

シャルドネを植えよ

ロバート・モンダヴィは、自ら土地を開墾することにしたデニスをワイン・コンサルタントとして支えました。彼の指導の1つに、シャルドネを植えるように指示したことがあります。今でこそオーストラリアのワイン産地全てに植えられ、白ワインの中では国内生産量ナンバー・ワンとなったシャルドネですが、1970年代から80年代当時、オーストラリアでは非常にマイナーな品種だったのです。これが、現在ルーウィン・エステートのフラッグシップ・ワインであり、オーストラリアと世界で「最高峰のシャルドネ」として知られる「ルーウィン・エステート・アート・シリーズ・シャルドネ」のルーツなのです。

毎年変わるデザインのラベル

ルーウィン・エステートは芸術を重んじるワイナリーとしても知られています。特にアート・シリーズは、リースリング以外は毎年ラベルのデザインが変わることで有名で、毎年オーストラリアの新鋭アーティストの絵を起用しています。シャルドネとカベルネ・ソーヴィニョンは特に、長期熟成が可能であり、しかもヴィンテージごとに違うアートによるラベルが楽しめるという特別感が合わさり、メモリー・ワイン、あるいはコレクターズ・アイテムとしても人気の高いワインです。

マーガレット・リヴァーでワイン造りが始まって、50年と少し。これからも、まだまだ伸びしろがありそうな産地に期待が高まります。

*今月のお薦めワイン*
現代に受け継がれた先人からの贈り物

平日のディナーに

Cape Mentelle Sauvignon Blanc Semillon 2017/$20~
Web: www.capementelle.com.au
白身の魚、ホタテ、アジア系の緑野菜などと

焼肉デートに

Vasse Felix Cabernet Sauvignon 2014/$45
Web: vassefelix.com.au
上質なステーキなどと

贈答、記念日に

Leeuwin Estate Art Series Chardonnay 2014/$98
Web: leeuwinestate.com.au
牡蠣、揚げたての天ぷら、ホタテのカルパッチョなどと


フロスト結子
日本人としての合格者はまだ少ないワインの国際資格WSET® Diplomain Wine & Spirits及び日本酒のAdvanced Certificateを取得。日本でワイン関連商社の貿易業務に携わった後、2009年オーストラリア人の夫との結婚を機にシドニーへ移住。現在はオーストラリア国内大手オークション会社であるGraysOnlineのワイン部門でカテゴリー・スーパーバイザーとして勤務する傍ら、フリーランスとしてライティング、ワイン関連の翻訳、市場調査などで精力的に活動中。ワインのコメントは「とにかくおいしそうに書く」がモットー。
Web: auswines.blog.jp

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