「熱射病」「熱失神」「熱けいれん」などの熱中症について

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Q 先日、暑い日に2~3時間休み無しで庭仕事をしていたらフラフラして倒れそうになりました。日陰で水を飲んで休んだら治まりましたが、これは「熱射病」だったのでしょうか。
(60歳主婦=女性)

A ご質問者の方が言う「熱射病」とは熱中症と呼ばれる症状の一部で、熱中症は暑熱によって起こるあらゆる障害の医学的総称です。熱射病の他には、熱失神、熱けいれん、熱疲労などの症状が含まれます。中でも熱射病が一番重症な疾患で、緊急対応が必要となります。また、よく使われる「日射病」は正式な医学用語ではありません。以下に、熱中症に含まれるそれぞれの症状についてご説明します。

熱失神(Heat syncope)

暑さで血漿(けっしょう)体積が増え、皮膚の血管拡張が起こることにより体の末端部に水分がたまり、特に下肢にたまることで心臓への血流が減り低血圧になることがあります。治療方法は体を休め水分を補給することです。心不全などがあれば、同症状がより起こりやすくなります。

熱けいれん(Heat cramps)

気温が高い時に長時間運動をすると起こる筋肉がつる症状です。特に膝屈曲筋、大腿四頭筋、腓腹筋などの大きな筋肉に起こりがちです。原因は明確に分かっていませんが、体を休め水分と電解質の補給をすることで症状が治まります。

熱疲労(Heat exhaustion)

極端に暑い環境に長時間いると体の恒常性が保たれなくなり、熱疲労の症状が起こります。体温は高めになりますが、平温の場合もあります。熱射病との違いは、たとえ体温が上がっていてもコア体温(核芯温)は40度以下であることが定義です。
 頻呼吸、吐き気、失神、筋肉痛、皮膚の紅潮、頭痛などが主な症状です。熱疲労の場合、意識は明瞭で内臓への影響はありませんが、必ず水分と電解質が不足している状態になっています。そこで、経口ルートか点滴で水分と電解質を補充することと体を冷やすことが大切です。

熱射病

体温を保とうとする体の恒常性のメカニズムが働かなくなると核芯温は上昇を続け、41.6~42度まで達すると体の細胞に損傷を来します。そして、体内に炎症反応が起こり、血液の凝固反応も起きます。この反応が進むと播種性血管内凝固症候群(小血管において凝固因子と線溶酵素の調整しがたい活性化に引き続いて起こる出血徴候)、すなわちDIC(Disseminated Intravascular Coagulation)が起こることもあります。この炎症反応は全身性炎症反応症候群(SIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome)とも言います。
 上記のDICとSIRSによって最も損傷を受けやすい臓器は脳(特に小脳)と肝臓です。脳障害が起こる場合、めまい、錯乱状態、運動失調、てんかん、昏睡(こんすい)状態として現れます。その他には腸や心臓にも影響を及ぼすことがあります。

熱射病は生命に関わることがあるので、必ず救急病院で治療を受ける必要があります。治療は体を冷やし呼吸器と循環器の機能を安定させ、水分と電解質の補給をすることです。核芯温を40度以下に下げることで昏睡状態から回復できれば予後は良く、脳や肝臓に既に損傷がありDICにより凝固作用が起こっているような場合は良くありません。


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鳥居 泰宏(とりい やすひろ)
ノースブリッジ・メディカル・プラクティス

 

メルボルン大学医学部卒。Northbridge Family Clinicを昨年閉院し、現在Northbridge Medical Practiceで診療中

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