【QLD】いつまでも健康的にしいかりと噛めるように歯を大切にしよう①

歯が果たす役割は“食べ物を噛み砕く”以外にも、私たちの健康を取り巻く体のさまざまな機能と大きく関わっている。永久歯は一度悪くしてしまうと二度と元の状態へ戻ることも、再生することもないため、日頃からのケアを欠かさず、大切にしなければならない。本特集では、歯の持つ役割に加え、予防や治療で歯科に掛かる際のオーストラリアにおける歯科システムや利点などについて紹介する。健康的な歯を保つための知識を深めよう。(監修:松岡デンタルクリニック/松岡ひろみ先生)

[歯の持つ重要な役割]

大人の歯の本数は通常、“wisdom tooth”と呼ばれる第三大臼歯(親知らず)を含めて32本、第三大臼歯の本数は個人によって異なるため、少なくとも各上あご下あご14本、合わせて28本が基本と言われている。その口の中に当たり前のように生えそろっている歯には、食べ物を噛むこと以外にも、私たちの体の健康を守るための重要な役割があることを知っているだろうか。まずは、その歯の役割から理解していこう。

食べ物を咀しゃくし飲む込む

歯の最も大切な役割は、食べ物を噛み砕き、体内に飲み込めるよう咀しゃくした状態にすることにある。食べ物を切り砕くのは前歯、噛んですり潰すのは奥歯の役割だ。また、歯がうまく噛み合わさっていない状態では、食べ物を飲み込むことが難しくなる。細かく噛み砕くことにより、胃腸の消化に掛かる負担を軽減できるだけでなく、体内でのスムーズな栄養の吸収を助ける。

食べる楽しさをもたらす

食べ物を噛み砕く際の「歯ざわり」や「噛みごたえ」などの食感によって味覚を助け、食事のおいしさと食べる楽しさを広げる役割を持つ。生活を楽しむ上でなくてはならない役割の1つだと言える。

脳の活性化を促し老化を防ぐ

歯とあごは脳の近くに備わって頭蓋骨の一部として収まっている。そのため、あごを動かし歯で噛むことによる刺激は、歯根膜がセンサーとなって脳に伝わり、脳に刺激を与えて活性化を促すと共に、脳の発達を促進させることが、さまざまな研究から分かっている。成長期の子どもが歯ごたえのある硬い物をよく噛み、また噛む回数の多い食事を取ることで、子どもの脳の発育に良い影響を与えることは世界的にも知られている。

大人にとっても歯と脳の関係は同様で、歯周病や抜歯など、自分の歯で噛めなくなることで咀しゃくによる脳への刺激が減少し、認知機能の低下につながるとされている。自分の歯でしっかり噛むことが、脳の老化を防ぐのである。

また、最近の研究では、集中の連続で脳が疲れてきた時にガムを噛むことで脳が活性化され、精神的な疲労が回復することも解明されている。スポーツの試合で集中力を高めるためにガムを噛んでいる選手の姿をテレビなどで見掛けるようなったのはそのためである。

瞬発力を生み出す

奥歯を噛みしめることで全身に力が入り、スポーツなどでの瞬発力を生み出す役割を持つ。日常、鼻をかんだり、くしゃみをしたりする際の小さな瞬間的な噛み締めから、重い物を持ち上げる際の踏ん張りまで、奥歯をきちんと噛み締めることで全身の筋肉のバランスが整い、瞬発力を発揮させることができる。歯の噛み合わせを改善することで、瞬発力を始めとする身体機能を更に向上させることができる。

聞き取りやすい正しい発音を作る

人間は声帯を震わせて音を出すことで発声ができるが、発音には口周りの筋肉、唇、舌や歯が関係しており、歯並びに合わせて舌が動くことでさまざまな音が出る仕組みになっている。口の周りの筋肉は「咀しゃく筋」とも呼ばれ、唇、舌、歯を正しい位置に保つ働きを担っており、これらのバランスが保たれることで正しい発音ができる。歯が欠けていたり歯並びが悪いと音を出す際に空気が漏れてしまったり、正しい歯の位置に舌が付きにくいため、正確な発音ができず、言葉によるコミュニケーションに影響が及んでしまう。

豊かな表情を作る

歯には機能的な役割ばかりでなく、顔の表情を構成するための大事な役割も果たしている。正しい歯並びや噛み合わせは、顔付きのバランスを整え、清潔で白く輝く歯と美しくそろった歯並びは、表情に明朗さと豊かさをもたらしてくれる。しかし、歯が欠けていたり歯並びが悪いと、口元を気にして話したり、笑顔にも自信を持つことができなくなる。生き生きとした表情であり続けるためにも、正しい歯並びや噛み合わせは必要不可欠である。

以上のことから、いかに自分の歯が体の健康と密接に関わっているかが理解できるはずだ。では、基本的に28本ある歯を健康に保ち、20年後、30年後も自分の歯として残すことができるように「歯の寿命」を延ばすには、一体何が必要とされるのかを考えてみよう。

[歯の寿命を延ばすには予防から]

2016年度厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、75歳から84歳の日本人男女における歯の残存平均本数は、17本。第三大臼歯(親知らず)を除く基本の28本の歯から11本の歯を失くしていることになる。年々改善傾向にあるそうだが、それでも歯科先進国スウェーデンの歯の残存平均数25本には追いついていない。なぜこのような大きな差が生まれてしまうのか?

その理由は、「予防歯科」に対する意識の違いにある。従来、日本での「歯科」の位置付けは、虫歯や歯周病になってから悪い所を「治療しに行く場所」とされてきた。一方、オーストラリアを含む歯科先進国では、虫歯や歯周病にならないように「予防に行く場所」という考え方がされている。普段から歯のチェックアップとクリーニングを定期的に行うことで、悪くなる原因を早期に発見して未然に防ぐという、予防に集中した考え方が重要視されている。悪化させない、再発させない「予防」に努めることが大きく歯の寿命を左右している。その成果として、スウェーデンでは多くの人が年齢を重ねても自分の歯を残すことができているのだ。

「予防歯科」に取り組んでいる割合

「予防歯科」に取り組んでいる割合※ライオン株式会社調べ
※ライオン株式会社調べ

75歳から84歳の平均残存歯数

75歳から84歳の平均残存歯数※2016 年厚生労働省「歯科疾患実態調査」
※2016 年厚生労働省「歯科疾患実態調査」

歯を失うことは老化現象だけではなく、予防を怠ったことで虫歯や歯周病が悪化した結果でもある。歯と一緒に体にとって大切な機能も同時に失われていることを決して忘れてはならない。毎日の食事をおいしく味わい健康的に生活するためには、いかに多くの“しっかりと噛める自分の歯”を保てるかどうかで、将来の「生活の質」に大きな差が出てくることになる。

[オーストラリアの一般歯科での治療の流れ]

オーストラリアの歯科治療も欧米の歯科先進国と同様に、定期的な歯のチェックアップとクリーニングを行って、悪い部分を早期に発見して未然に防ぐという「予防歯科」を重視している。通常6カ月から1年に1回の割合で歯科を訪れ、以下の流れで診療が行われる。

検診(Examination)

歯科医が歯、歯茎、口の中に異常が見られないか、虫歯や歯周病の兆候がないかを調べる。その際、歯がしみる感覚や痛みを感じる箇所など、目に見えない問題があれば、医師に伝える。日常の歯磨き、フロスの使い方の指導や予防についての相談もできる。

レントゲン(X-rays)

一般的には2年に一度、歯に問題が発見された場合は必要に応じてレントゲンを取り、更に詳しく歯の状態を調べる。別の歯科医を訪れる場合や専門医へ行く場合は、その写真のコピーを持って行くことが可能だ。

クリーニングと歯面研磨(Cleaning and Polishing)

毎日の歯磨きやフロスでは奇麗に取り切れない歯垢(しこう)や歯石、目に見えない奥歯の汚れなどを、機械を使ってクリーニングしてもらう。歯科医、もしくは歯科衛生士がハンド・スケーラーと超音波スケーラーという専用の器具を使って歯石の除去を行う。その後、ポリッシュ・ブラシやラバー・カップなどを使い、残っている歯垢や表面の汚れを磨き落とす。

フッ素塗布(Fluoride)

奇麗になった歯にオーストラリアでは“フローリン”と呼ばれているフッ素を掛ける。フッ素塗布には、虫歯予防、歯の再石灰化、歯の表面のエナメル質を強化するという3つの効果が期待できる。トレー法による塗布の仕方が主流で、いわゆる上あごと下あごのマウス・ピースにフッ化物を入れて、これを口に1~2分間程くわえて塗布しフッ素を浸透させ、その後30分は飲食を控える。

治療処置の説明(Treatment Recommendations)

もし何らかの問題が発見された場合、その問題箇所の説明とその治療処置の方法を話し合う。何通りかの処置方法の選択肢や、費用の見積もり、治療の期間などを検討し納得した状態で治療に進む。日本の保険点数にこだわった何回も通院して治療する方法とは異なり、軽度から中程度の問題であれば、1回の治療で処置が完了することもある。

[歯科専門医の存在]

近年、一般歯科で大抵の治療は可能だが、歯の状況によって、口腔(こうくう)内の更に細かい検査や、より複雑な処置が必要な場合は、専門医での診療を紹介される。また、紹介状の有無にかかわらず、問題の状況に応じた専門医に行けばいつでも、セカンド・オピニオンを得られるコンサルテーションや治療を受けることができる。13分野ある歯科専門医は、その専門分野の資格をDental Board of Australia(DBA)から承認を得て、登録される。専門医としての登録には、最低2年間の一般歯科医としての経験を積んだ上で、各専門分野で必要とされる年数の勉強が必要とされる。特に外科的処置を行うオーラル・アンド・マキシロフェイシャル・サージョンは通常3年から10年間に及ぶ特別なトレーニングが要求される。

歯科治療に当たり、よく目にする主な専門医について紹介する。

オーラル・アンド・マキシロフェイシャル・サージョン(Oral and Maxillofacial Surgeon)

日本では「口腔外科」と呼ばれ、虫歯や歯周病治療を除く、口腔(口の中)、あご、顔面にかけての範囲での疾病の外科処置を扱う。親知らずの抜歯から、先天性及び後天性の疾患、事故やスポーツで受けた外傷の外科的疾患の治療を行う。

オーソドンティスト(Orthodontist)

歯並びを改善するための歯科矯正の専門医。あごのずれや微妙な顔面のゆがみなどの治療にも当たる。矯正には、主にブレーシィズ(Braces)と呼ばれるブラケットとワイヤーを使う形態や、アライナー(Aligner)やリテイナー(Retainer)と呼ばれる矯正器具を使って、約1年から3年間かけて歯並びを治していく。

エンドドンティスト(Endodontist)

歯髄(しずい)、歯の神経の治療(根管治療)など歯の内部の治療に当たる歯科医を指す。主にルート・カナル(Root canals)と呼ばれる「根管治療」を専門とする。これは、歯の内部にあるデンタル・パルプ(歯髄)と呼ばれる神経や血管が通っている組織が、虫歯や外傷によって感染したり壊死した際に、それらを取り除くために必要とされる治療だ。再発して根管が感染したり、感染が残っていた場合は、再根管治療を行う。

ペリオドンティスト(Periodontist)

歯周療法学を専門とし、主に歯を保持する組織、骨や歯茎の疾患と歯周病の治療、インプラントを行う。歯周病治療の専門として、歯周病予防に加え歯周組織の初期治療、インプラントを含む根治的療法、メンテナンス療法の3層に分類された治療を行う。

プロストドンティスト(Prosthodontist)

日本では「補綴(ほてつ)歯科」と呼ばれ、クラウン(かぶせ・差し歯)の素材選択から、見た目や微妙な噛み合わせ調整が必要なブリッジや入れ歯、インプラント製作など人工物を扱う専門家。また、けがや腫瘍の切除手術などで、口の中やあごに残った欠損を人工的に補填して咀しゃくや嚥下(えんか)、発音機能を改善するための特殊な義歯、あるいは顎補綴(がくほてつ)装置の製作も行う。

ピーディアトリック・デンティスト(Paediatric Dentist)

18歳未満の子どもの患者を扱う小児歯科医のことを指す。幼児から青少年の口と歯の健康予防と治療に当たる。

[活用したいチャイルド・デンタル・ベネフィット・スケジュール]

2014年から始まったオーストラリア政府による「チャイルド・デンタル・ベネフィット・スケジュール」(以下、CDBS)は、オーストラリアに在住しているメディケア加入の2歳から17歳までの子どもを対象に、1人に付き2年間ごとに上限1,000ドルの歯科治療費の補助が受けられる制度である。この制度を受けるには、「Family Tax Benefit Part A」もしくは子どもに関わる政府の経済的補助(Parenting Paymentなど)を家族が受けていることが条件となる。

CDBSを利用できる歯科サービス(治療)は以下の項目となっている。

  • 検診(Examinations)
  • レントゲン(X-rays)
  • クリーニング(Cleaning)
  • フィッシャー・シール(Fissure sealing)
  • 詰め物(Fillings)
  • 根管治療(Root canals)
  • 抜歯(Extractions)

CDBSを利用する際、使用する資材や方法に制限のある歯科もあるため、サービス内容について事前に医師に確認することが重要だ。また、矯正歯科や審美歯科、病院での歯科治療にはCDBSは利用できない。

制度の適用期間については、一番最初にCDBSを利用して治療を受けた時点から2年間のサイクルで歯科治療を受けられる。使い切れなかった場合、次の新しい2年のサイクルへの持ち越しはできない。

CDBSは、治療に掛かった費用を歯科で支払った後、通常のメディケアの払い戻し申請と同様に申請することで指定した自分の銀行口座に費用が払い戻されるシステムとなっている。

子どもが17歳まで定期的に予防ケアを受けられる最良の制度なので、資格のある子どもにはぜひとも活用して健康な歯を維持しよう。

[海外療養費支給制度の仕組み]

最後に日本の健康保険が適用できる、海外療養費支給制度の仕組みを理解しておこう。この制度は海外で急な病気やけがで現地の医療機関で診療などを受けた場合、帰国後に申請手続きを行うことで、一部の医療費の払い戻しを受けられる制度で歯科治療にも適用される。

[支給金額]

日本で同じ治療を受けた場合の診療報酬点数に換算して算定され、算定した額から保険で適用される自己負担分(原則3割負担)を控除した額が払い戻される。海外で支払った全額が払い戻される制度ではないことを理解しておこう。海外で実際に支払った額の方が算定された額より高い時は、算定額から、自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた額だけが「療養費」として支給される。

外貨で支払われた医療費については、支給決定日の外国為替換算率(売りレート)を用いて円に換算して支給金額が算出される。

[支給対象の範囲]

海外療養費の支給対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られるため、矯正やインプラントなど、日本国内で保険適用となっていない医療行為や薬が使用された場合は、給付の対象にならない。また、療養(治療)目的で海外へ渡航し診療を受けた場合も対象外となる。

[基本の申請の手続き]

海外療養費支給制度の申請手続きの流れは以下の通りとなっている

  1. 現地の歯科で治療費全額を支払い、領収書を受け取る
  2. 診療内容明細書と領収明細書に現地の歯科で記入してもらう
  3. 診療内容明細書と領収明細書の日本語訳を添付する
  4. 世帯主名義の口座が確認できる書類を添付する
  5. 帰国後、関係窓口に上記の必要書類を提出・申請する

必要書類は日本での住民票がある各市区町村によって異なるため、必ず渡航前に確認しておこう。申請できる期限は治療費を払った日の翌日から起算して2年間である。

もしも、海外で急に歯が痛み出したり、詰め物が取れてしまったり、歯に異常を感じた場合、放置しておくと状況が悪化して大きな治療が必要となり、その分時間と費用の両面で大きな負担が掛かる恐れがあるので、迷わず現地の歯科医に行って治療を行おう。


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