フィジオセラピストに聞こう!/乳がんの術後のリハビリ~前編

フィジオセラピストに聞こう 体の痛み改善法

▶▶▶フィジオセラピストは、筋肉や関節の痛みや機能障害、神経系機能障害や呼吸器系疾患などの治療やリハビリを行う専門家で、必要に応じてMRIや専門医を紹介し、包括的な治療を行っている。さまざまな体の機能を知り尽くした奥谷先生に、体の痛みの原因や改善法について聞いてみよう!

第92回 乳がんの術後のリハビリ~前編

2016年の統計では、オーストラリア国内で1年間に1万6,000件の新しい乳がんの診断がくだされました。これは国内で発症した全てのがん件数の12.3%に当たり、がんと診断された27%の方が女性であることを考えると、女性に発症したがんのほぼ半数を占めると言って良いでしょう。

過去30年間に乳がんの発症率は3倍になりましたが、診断後5年間の生存率は現在90%にまで推移しており、「治せない病気ではない」という認識が広まっています。しかし、乳がんを克服し再発もしていなくても、元のような健康体に戻ったとは残念ながら言えません。乳がんとその除去手術は体に大きな影響を与えるので、フィジオセラピストの指示の下、リハビリを行うことで術後の障がいを克服し、症状を緩和することが大切です。

術後によく起こる症状として「リンパ浮腫(むくみ)」「骨密度の低下」「慢性的な倦怠感」などが挙げられます。今回は「リンパ浮腫」についてお話しします。

リンパ浮腫

リンパ節の除去術や放射線治療によるダメージで、多くの人に発症する症状です。術後の痛み・強張りや、術後に腕を動かす頻度が減ることにより、体液が腕や指先に停滞しやすくなりむくみます。

浮腫が悪化すると筋肉は動きにくくなり、更に体液が流れにくくなるという悪循環に陥ります。リンパ節が十分に機能できない状態なので、上腕の免疫力も低下します。今までは勝手に治っていた小さな擦り傷も、それが原因で浮腫が発症したりするのでスキンケアも大切になってきます。

血圧計や注射・点滴などは除去術を受けた反対の腕に行うことも大切です。重たいウェイト・トレーニングをする必要はありませんが、肩から指先までの上腕を可能な限り常に動かす意識を持ち、可動域を維持することを心掛けましょう。肘の屈伸や腕の上げ下げと内転・外転、手首・指の屈伸なども大切なリハビリです。また、定期的に専門家に診察してもらい、運動療法を見直しつつ、自分に合ったグループ・セッションやアクア・セラピーなどを続け、術後の低下した筋力を回復させましょう。

フィジオセラピーでは手術痕などから起こる強張りを和らげるマッサージや浮腫に対するリンパ・マッサージも行います。浮腫を防いだり緩和する目的で手から腕全体を覆うガーメントの処方と着用も有効です。リンパ浮腫は術後直後、そして数カ月から数年後に発症することもあります。完治することが難しいのは事実ですが、運動療法、圧力ガーメント、スキンケアを継続することにより良好な状態で管理することが可能です。


奥谷匡弘(おくたに・ただひろ)
シドニー大学理学療法学科卒業後、西オーストラリア大学で理学療法修士号取得。ダーリングハーストのセント・ヴィンセント病院で5年間勤務し、プライベート・クリニックでは財界の著名人などの治療に多く携わる。オーストラリア・フィジオセラピー協会公認筋骨格系理学療法士。
Web: www.metrophysiotherapy.com.au

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