絵本会議出席の記

オーストラリアの子どもの本
写真:今会議で講演をしたうちの1人、ショーン・タンの『レッドツリー』
(”The Red Tree”, by Shaun Tan,Simply Read Books, 2003 、邦訳・早見 優、今人舍、2004年)


オーストラリアの子どもの本 第11回
 秋も深まった週末、5月1日から4日間、メルボルン国際会議場でオーストラリア児童図書評議会(Children’s Book Council of Australia)の全国会議が開催されたので出席してきました。この大会は2年に1度開かれ、オーストラリア全土および海外から、作家、画家、批評家、編集者、司書、教員らが集まり、子どもの本に関しての講演、出版記念会、ワークショップ、サイン会などを行うものです。今回は1,400人名の参加者がありました。この会議で絵本作家が集まって、いったいどんなことを話したのか報告をします。


 大会のテーマは「All the wild wonders」、「すべての、新鮮な驚き」とでも言ったらいいでしょうか。子どもの創造性をどのようにして読書で伸ばしたらいいかがテーマの核心でした。
 大会は、作家ソーニャ・ハートネットのアストリッド・リンドグレン賞の受賞挨拶から始まりました。リンドグレン賞はスウェーデン政府が授与する賞で、「児童文学のノーベル賞」とも言われています。この賞をオーストラリア人作家が受賞したのは初めてのこと。会場からは拍手が鳴り止みませんでした。
 ハートネットは、オーストラリアや英語圏全般では定評のある作家です。若者の心理や葛藤を巧みに描き、見事な物語展開で読者の心をつかみます。日本でも、『木曜日に生まれた子ども』(金原瑞人・訳、河出書房新社、2004年)、『小鳥たちが見たもの』(金原瑞人、田中亜希子・訳、河出書房新社、2006年)、『銀のロバ』(野沢佳織・訳、主婦の友社、2006年)などが出版されています。
 講演や討論会では、読書離れ、ブックスタート運動、環境破壊と文学、異文化理解、歴史と文学などのテーマが議論されました。全体を通して感心したことは、オーストラリアの作家たちは、誰しもが自作の絵本や文学、その背景となる社会の動向について的確な解説ができることでした。
 この連載でも何度か取り上げた新進作家ショーン・タンは、パースに生まれ育った生い立ち、幼いころ美術に目覚めたこと、そして、どのようにして絵本の道を志したのかを話していました。タンは、子ども時代に読んだ漫画や絵本、学校時代に描いた絵のスライドを見せながら、パースの見慣れた街を、架空の場所として作品の中でどのように表現したか、自分が描いたスケッチや映した写真を絵本のイラストに重ね合わせながら巧みに解説しました。
 以下に、作家や講演者の印象深い発言を列挙します。
「一番大切なのは想像力だよ。MP3プレーヤーだって、ピラミッドだって、誰かが想像したものを形にしたわけだからね。想像力がなければ何も生まれやしない」(ニール・ゲイマン、作家)
「古い手紙や日記を読んでいると、迫害され、忘れられたままの子どもたちの亡霊が私にささやきかけます。私は、そうした霊に声を与えるため、歴史小説を書くんです」(ジャッキー・フレンチ、作家)
「商業目的の本、例えばディズニーのピーターパンや白雪姫、ハリーポッターなんかを読んでも、それだけでは児童文学の伝統に触れたことにはなりません」(ジャック・ザイプス、評論家)
「もうリテラシー(読み書き能力)という意味不明の言葉を使うのは止めて、昔のように堂々とリテラチャー(文学)と言いませんか ? 」(ウェンディ・クーリング、読書運動推進家)
「私は、身辺の小さな出来事を積み重ねて書くの。でも、それだけでは物語にならないから、それを磨き上げるのよ。言葉でね」(エミリー・ロッダ、作家)
「このイラストの気味の悪い子どもたちは、夜中の公園に集まってくる半分死んでいる子どもたちなんです。パースの郊外には、こういう子どもたちがたくさんいましたから」(ショーン・タン、絵本作家)
「親が本好きでなければ、子どもだって本好きにならないでしょうね」(シャロン・フォスター、王立メルボルン小児病院)
「読書には集中力が大事。インターネットしながら携帯で話してたら、集中力がなくなるわよ。そうなったらおしまい」(デニース・スコット、コメディアン)
「テレビがなければ子どもは本を読むわよ。好きなだけテレビを見ていいってことになったら、読まないわね」(リン・ホルテイン、ABCラジオ・アナウンサー)
「図書館、図書館、図書館。私は、いつも図書館にいました」(ソーニャ・ハートネット、作家)
「日本人って、今でも『赤毛のアン』を読んでるんだって ? 少しは新しいものも読んどるのかね ? 」(名前不明。ランチで同席した図書館員の男性)


渡辺鉄太プロフィル
著述業。息子との森歩きエッセイ「もりのなか」を日豪プレスに2005年から06年まで連載。著書に異文化での子育てについて書いた「緑の森のバイリンガル」(三修社)、絵本「もりのびょういん」(加藤チャコ・画、福音館書店)、翻訳書に童話「ベンジー」シリーズ(アリス館)など。メルボルンこども文庫主宰。モナシュ大学客員研究員、博士(言語学)。妻は美術家で絵本作家の加藤チャコ(web: www.chacokato.com/)。96年からメルボルン在住。

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