子どもと絵本と自然環境

オーストラリアの子どもの本
オーストラリアの子どもの本 第6回
『水さがしのまじないし』(Water Witcher、by Jan Ormerod, Little Hare, 2006)
数年前、妻で画家の加藤チャコが『おおきなカエル ティダリク』(加藤チャコ再話・絵、福音館書店、2000)というアボリジニのドリームタイム物語の絵本を出版したことがあります。
これは、VIC州南部ギプスランドのガナイ族の物語です。大きなカエルは喉が渇いて、辺りの水を飲み干してしまいます。おかげで動物たちは困り果てます。皆で知恵を寄せ合って考えた結果、カエルを笑わせて水を吐き出させることになりました。動物たちの珍妙な芸を見て、カエルは大笑いして水を吐き出します。
ギプスランドは今でも大雨が降ると洪水になり、晴天が続けば干ばつになりやすい地方です。ブッシュ・ファイアにもよく襲われます。こうした厳しい自然環境がこの物語を生んだことがよく分かります。
このように、嵐、洪水、ブッシュ・ファイアなど、オーストラリアの物語は厳しい自然と深い関わりがあります。例えば『燃えるアッシュロード』(”Ash Road”、アイバン・サウスオール作、1966、Mills Press 1966/2004、日本語版は小野章訳、偕成社)などがそうです。


最近では,厳しさを増す干ばつが子どもの本のテーマとして取り上げられるようになりました。例えば、06年度オーストラリア絵本大賞の候補『水さがしのまじないし』(”Water Witcher”、邦題著者訳、ジャン・オーメロッド文・絵、 Little Hare、 2006)、同候補作『雨をよぶとりたち』(”The Rain Birds”、邦題著者訳、デービッド・メツェンゼン文、サリー・リッピン絵、Lothian、 2006)などの絵本があります。
『水さがしのまじないし』は、水探しという呪術の力を持った人が地下水を探し当てる話です。この絵本の主人公は、農場の小さな男の子です。この男の子は、亡くなったおじいさんが水脈探しの名人だったと知り、おじいさんと同じ方法で水を探します。男の子は二股になった木の棒を手に、渇ききった牧場を歩き回ります。すると、ある場所を棒が指すのです。男の子はそこを掘り始めます。すると、水が湧き出たではありませんか。「Water witching」あるいは「Water dowsing」と呼ばれる一種の呪術は、昔から行われてきたという記録が残っています。水探しの能力を持った人は、地球の微かな振動を体で感じ取ることができ、そのため地下の水脈の位置が分かるのだそうです。
作者で画家のオーメロッドは、WA州の田舎育ちだそうですが、子ども時代しょっちゅうこの方法で水探しをしていたそうです(本当に水が見つかったかどうかは分かりませんが…)。『水さがしのまじないし』の絵は、大地の赤茶けた色、強い陽光にさらされて浮かび上がる人や樹木の黒い輪郭、空と水の青色だけで描かれています。この色使いの絵本には、過酷な自然と、その中で水を求めるオーストラリア人の姿が見事に表現されていると思います。
今回『雨をよぶとりたち』という絵本を詳しく紹介する紙面はありませんが、こちらは、雨をもたらす、カラスによく似たキュラウォングという鳥と都会の男の子の触れ合いの物語です。この絵本にも慈雨を求めるオーストラリア人の心情が美しく描かれています。
人間は地球の自然環境を維持していけるのか、昨今、サステイナビリティー(持続可能性)の問題が地球規模の緊急課題となっています。こういった問題自体は絵本の主題になりにくいのですが、『水さがしのまじないし』や『雨をよぶとりたち』の根底にはそうした問題意識があることは確かです。
オーストラリアの水不足は深刻です。私たちは、自然破壊を食い止める方法を模索する一方、もはや恒久的な水不足の中で生きていくしかないのです。この問題は、私たち大人が、子孫に残さなければならない「負の遺産」であるという自覚が必要だと感じます。
最近、私は雨水を貯めるタンクをダンデノン山の我が家に設置しました。昨夏うちの畑は乾いて壊滅状態でしたから、今年は、水を確保するためにタンクを取り付けたのです。洗濯のすすぎ水や風呂の排水も庭に撒いています。それだけで、自分が今までどれほど水を無駄にしていたか思い知りました。
『水さがしのまじないし』の男の子は、不思議な能力のおかげと言うよりも、自然と対話できる曇りのない心で水を探し出せたのだと思います。子どもには自然と対話する能力が潜んでいるはずです。そのことが言いたくて、『水さがしのまじないし』や『雨をよぶとりたち』の作者たちは、これらの絵本を作ったのではないでしょうか。
私もこうした絵本を読みながら、未来を作る子どもたちにこそ、傷ついた自然を癒し、雨を呼び、緑を復活させる力を持ってほしいと思います。その願いは、古くて新しい、子どもの本の普遍的テーマだと思います。


渡辺鉄太プロフィル
著述業。息子との森歩きエッセイ「もりのなか」を日豪プレスに2005年から06年まで連載。著書に異文化での子育てについて書いた「緑の森のバイリンガル」(三修社)、絵本「もりのびょういん」(加藤チャコ・画、福音館書店)、翻訳書に童話「ベンジー」シリーズ(アリス館)など。メルボルンこども文庫主宰。モナシュ大学客員研究員、博士(言語学)。妻は美術家で絵本作家の加藤チャコ(web: www.chacokato.com/)。96年からメルボルン在住。

 

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