メルボルン探訪/科学者が造る「最高のワイン」とは?

シリーズ・メルボルン探訪1

Lethbridge Winesを訪ねて

 

マリーさん(左)とレイさん

マリーさん(左)とレイさん

 

メルボルンの西、ムーラブール・バレーに位置するレスブリッジ・ワイン(Lethbridge Wines)は、日本でも数種類のワインの販売を開始したばかりのブティック・ワイナリー。ピノ・ノワールやシャルドネ、リースリングなど、メルボルン周辺で多く生産されるぶどう品種のほか、シラーズやメルロー、ヴィオニエなど数種のワインを生産している。

 

同州内には特徴のあるブティック・ワイナリーが数多く存在するが、レスブリッジ・ワインはほかのワイン・メーカーと一線を画す興味深い特色がある。このワインを造っている生産者が、4人の子どもとともにワイナリーに暮らす2人の科学者なのだ。

 

1年で最も忙しい時期を迎えたワイナリーのセラードアで

1年で最も忙しい時期を迎えたワイナリーのセラー・ドアで

 

 

ワイン好きが高じてワイン造りの道へ

 

 

パートナーのレイ・ナディソンさんとマリー・コリスさんはともに医療業界で研究者として勤務していた科学博士だ。レイさんは神経医学、マリーさんは薬学の分野でそれぞれ活躍していた1990年代当時、大のワイン好きだった2人は持ち前の探究心から「いかにして完璧なワインが生まれるのか」ということを真剣に研究し始める。そして科学者ならではの正確なアプローチ法を用い、畑を耕し1本のぶどうの木を植えたのだ。

 

2人とも、大学でブドウ栽培やワイン醸造を徹底的に学ぶほどの力の入れようで、メルボルン郊外の古いブドウ園を買い取ってぶどうの栽培を始め、気が付けば研究者としての職を辞してワイン造りが専業になっていたという。

 

翌日に収穫する予定というぶどうの木を見せてくれた

翌日に収穫する予定というぶどうの木を見せてくれた

 

「96年にぶどう園を買ってワイン作りを始め、レスブリッジ・ワインを立ち上げたのが2003年。最高の結果をとことん追求することが性分な私たちにとって、その成り行きはとても自然なことでした」とマリーさんは笑う。

 

ぶどうの収穫期を迎えワイナリーが忙しくなる4月は、小学生になる4人の子どもたちの学校への送り迎えや家事との両立が最も大変になる時期と言うが、その笑顔からは充実感が満ち溢れている。セラードアには、4人の子どもの名前をラベル名に冠したワインボトルも飾られていた。

 

ラベルにはワインの品種ごとに異なるストーリーが紹介されている

ラベルにはワインの品種ごとに異なるストーリーが紹介されている

 

メルボルン西に発見した奇跡の土地

 

もちろん、レスブリッジ・ワインのぶどう園も2人の科学的調査によって選び抜かれたものだ。土壌のタイプ、年間を通した気温の変化、太陽光の強さや湿度などそのほかの気象的数値などを調べ上げた結果、たどり着いたのがメルボルン西郊外にあるムーラブール・バレーの1区画だったのだという。

 

そして自分たちのぶどう園をこの土地で造ると決めた最も大きな要因が、ぶどうの木が根を張る土壌の特徴にあったそうだ。

 

「木の根が水分と栄養を土から吸い上げる際に、土壌成分の特徴がぶどうの個性に大きな影響を与えるのですが、この土地には地下の深さによって異なる3層の土壌が存在しているのです」

 

土壌の特徴がワインの個性となって現れるという

土壌の特徴がワインの個性となって現れるという

 

レイさんの解説によると、まず上層がかつて火山灰が降り積もってできた「鉄鉱石」の層。その下も同様に火山岩の一種である「玄武岩」の層。さらに下層にあるのが、この地がかつて海だったことを示す「石灰岩」の層。これらのどの層に根が到達しているかによって、実るブドウの個性が大きく変わるのだという。

 

ちょうどピノ・ノワールのぶどうが収穫と搾汁を終えたところだったので、その味わいの違いを試させてもらった。鉄鉱石の栄養分を吸い上げたぶどうはほのかな「血」を感じさせる鉄分の香りと味わい。玄武岩層のものは豊かなミネラル香が感じられ、そして石灰岩層のピノ・ノワールからは、驚くことに「海」の風味を感じることができる。

 

発酵の真っ最中のワインをテイスティングさせてくれた

発酵の真っ最中のワインをテイスティングさせてくれた

 

同じぶどう園で実った同じ品種のぶどうでも、その香りと味わいにはそれぞれ全く異なる個性がもたらされる。そして、異なる3層の土壌を有する「奇跡の土地」で収穫されたこれらのぶどうは、その後の発酵過程で個性的な特徴がより際立つワインへと変貌を遂げていく。

 

目指すのは、今までにない“芸術作品”

 

レスブリッジ・ワインのぶどう園では、豊かな味と香りを持つ最高品質のぶどうを栽培するためにバイオダイナミック農法が採用されている。ぶどうの成長にとって必要不可欠な微生物をも殺してしまうケミカルな農薬を用いないことで、本来ぶどう自体が持っている味と香りを最大限引き出すことができるのだという。

 

そして収穫されたぶどうを搾汁して、その果汁がワインへと生まれ変わる発酵過程でも、夫妻は人工的な手段を一切加えず、自然のなすがままにする。それが彼らが考える究極のワイン造りだ。

 

発酵過程の果汁を日々観察し、最適な環境を整備しながらワインの個性を形作っていく

発酵過程の果汁を日々観察し、最適な環境を整備しながらワインの個性を形作っていく

 

レイさんの説明には一点の曇りもなく、美味しいワインがすっと身体に馴染むようにとても分かりやすい。「培養酵母を使って強制的にアルコール発酵を促せば、発酵過程を決まった期間に安定的に終えられます。それに培養酵母の種類を選べばワインの個性も容易に形作ることができます。しかし私たちは、この土地ならではの野生酵母が自然と果汁に降り立ち、ぶどうの糖分をアルコールと二酸化酸素に分解していくという、自然のなすがままの過程を選んでいます。それがこの土地の特徴を最も反映したワインを造る唯一の方法だからです」

 

培養酵母を使えば1週間ほどで終わる発酵期間が、この場合は20~30日もかかる。いつ発酵が始まるかも分からない。そしてこの発酵過程は醸造家である2人の最も重要な期間でもある。ゆっくりと発酵が進んでいく果汁の状況に合わせて、ケースを置く場所を、刻々と変わる温度、湿度、太陽の当たり具合によって常に移動させる必要があるからだ。片時もワイナリーから目を離せない。

 

収穫したぶどうを搾汁機に

収穫したぶどうを搾汁機に

搾汁後のぶどうの皮は畑の雑草を食べるために飼われている羊たちの餌になる

搾汁後のぶどうの皮は畑の雑草を食べるために飼われている羊たちの餌になる

 

 

「“本物のワイン”とは、ひと言でいえば“ナチュラルな風味が豊かなワイン”のこと。その土地の環境をバランス良く反映した香りと味わいを持ったワインです。そして私たちが常に目指しているのは、今までにない私たちだけのワインを造り出すことです」

 

ワイン醸造家である彼らは、ぶどう果汁がワインになる過程において「環境を徹底的に管理する」ことによって、でき上がるワインの特徴を彼らの考える理想型へと導いていくのだ。

 

樽の中で熟成しながら完成を待つワインたち

樽の中で熟成しながら完成を待つワインたち

 

「ワイン造りは科学研究と同じ。必要なのは99%の努力と1%のひらめきです。私たちはワイン造りにこの1%のひらめきを注ぎ込むことで、最高のワインが誕生すると信じています。完璧を超えたところにある美しさやユニークさ。科学とはつまり、芸術活動と似ているのかもしれません」

 

発酵が終わったワインはこの後、特注のオーク樽で寝かされ、熟成を経てボトルに詰められる。今年収穫したぶどうに彼らならではの芸術的なエッセンスがどう加えられ、どんな味わいのワインになっているのか。栓を開けるその時が待ち遠しい。

(取材=メルボルン支局・原田糾)

 

 

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◼︎Lethbridge Wines

74 Burrow Rd., Lethbridge VIC Australia

Web: lethbridgewines.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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