映画『さよなら歌舞伎町』監督インタビュー

上映後のQ&Aコーナーで質問に答える廣木監督

――廣木監督は、これまでにも蒲田(『やわらかい生活』)や秋葉原(『RIVER』)など、東京のさまざまな町を舞台にした作品を手がけていらっしゃいました。今作でフォーカスした歌舞伎町には、どんな印象を持たれていましたか?

飲みに出かけたり、仕事の打ち合わせをしたりと、僕はもう長年当たり前のように歌舞伎町で過ごしているので、逆に特別な印象と改めて聞かれると難しい――。一般的にはきっとまだ「ヤクザと風俗の街」というイメージが大きいのではないでしょうか。しかし、そんな歌舞伎町も最近ではどんどん変わっていて、これからオリンピックに向けてさらに浄化されてつまらない街になっちゃうのかな、と寂しく思うこともありますね…。

――それではどちらかというと、変化を遂げる前の古き良き時代の危険な歌舞伎町を作品に残されたかったのでしょうか。

そうですね。今では生活の一部になってしまっているとは言いましたが、特に1960年代ごろは新宿を中心としてそこからいろいろなカルチャーが生まれていて、そんな町に対しやはり憧れもありましたから。

――そのようにして、リアルな新宿の一角を切り取った本作ですが、今回のシドニー・フィルム・フェスティバルをはじめ、トロントや釜山など、数々の海外都市の映画祭にも出品され、好評を博していますね。

これは毎作品そうなんですが、「海外からどう見られるか」ということは別に意識していないんですよ。海外で受け入れてもらうよりも、きちんと日本のお客さんに伝われば良いなと思って作っています。今作も、ラブ・ホテルという設定はユニークかもしれませんが、そこに登場するそれぞれのキャラクターは日本人からしたら「いるよね、こういう人たち」っていう感じに仕上がっていると思います。別にすごく珍しいものを描いているわけじゃないからこそ、逆にそんなありのままの日本の姿が、海外から見るとどのように受け止められるんだろうという疑問や興味はありますね。

――ロケを進める中で苦労した点、工夫したことなどはありますか?

新宿でロケをするのは割と大変なのですが、今回は警察などの許可もスムーズに下りて良かったですね。実際に撮影に使用したラブ・ホテルは歌舞伎町のど真ん中にありましたが、そのほかにも、百人町や新大久保といったコリアン・タウンのあたりで撮影することも多かったです。

――今作は歌舞伎町のラブ・ホテルの清掃員が書いたルポがベースとなっており、脚本は、以前から『ヴァイブレータ』『やわらかい生活』などで廣木監督とも組まれてきた荒井晴彦さんだそうですね。脚本や設定において、とくに惹かれた点があれば教えてください。

1人の主人公をずっと追うのではなく、複数の登場人物がシンクロする群像劇は、ずっと撮りたいと思っていたので、この点に一番惹かれましたね。

――今回主演を務められた、染谷将太さんと前田敦子さんの演技はいかがでしたか。

染谷は既にいろいろな所で会っていて面識がありましたし、独特の上手さを持っているので、かねてから一緒に仕事をしたいと思っていました。一生懸命な感じを全面に押し出しているタイプではないのですが、ちゃんと技術や持ち味を持っていて、自然とそれが出てくるのですごくやりやすかったですね。前田もほかの映画にいっぱい出ていたので気になっていたのですが、実際やってみたら結構面白かったですね。

――監督から2人にそれぞれ求められたもの、それに対して返ってきたものは何でしたか?

前田には、とにかくギターと歌の練習をしてくださいと言っていました。特にギターは、ほかの現場でもずっと一生懸命練習してくれていたようです。染谷とは現場で話して相談しながらやっていくだけで、特に注文というのは全然言わなかったですね。

現代社会を生きる若者のありのままの姿をナチュラルに好演した染谷将太と前田敦子

――そのほかにも豪華な俳優陣が出演されています。

南果歩さんとも初めて一緒に仕事をしましたが、彼女もすごく良かったですね。清掃員の役だった彼女には、実際にラブ・ホテルで働く清掃のおばちゃんに取材をしに行ってもらって、その方の仕事現場なども見てもらったりしました。その分、ばっちり役作りに反映してもらえましたね。また、韓国女優のイ・ウンウさんもこの撮影のために1人で韓国から来て、とてもがんばってくれました。裸になるシーンもありましたが、韓国の女優さんが日本の映画の中で脱ぐということに対してはやはりかなりナーバスな部分もあったと思うんです。いろいろな見方や意見が出てきますから。本人としても強い決心が必要だったと思うのですが、見事にやりきって良い演技を見せてくれましたね。

――実際に今作では、彼女の渾身の演技が高く評価されていますね。

そうですね。彼女は出番が終わった時点で韓国へ帰ってしまったので、完成版を観るのは釜山映画祭の時が初めてだったんです。映画祭での上映に先がけてDVDを送ることももちろんできたのですが、「私は絶対に大スクリーンで見たいから」と言っていて…。それで当日はようやく最終編集したものを観ることができて、上映後も周りの皆から「ウンウの演技がすごく良かった」と言われて好評だったようで、ボロ泣きしていました。

体当たりで挑んだ演技力が高く評価された韓国人女優のイ・ウンウ

――イ・ウンウさんに限らず、本作ではまるで演技とは思えないような各キャストの生の表情がぎゅっと詰め込まれていますが、そうしたリアルな感情を引き出すコツなどはあるのですか?

「お願いですから泣いてください!」と頼むと、だいたい皆、泣いてくれましたね――というのはウソですけど(笑)、僕の映画では長回しをよく使うんですよ。そうすると長く回していくうちにだんだん皆、感情が入っていくようでしたね。

――今作で、監督の特にお気に入りのシーンなどはありますか?

自転車に2人乗りするシーンです。作中で2人乗りのシーンは、徹(染谷将太)と沙耶(前田敦子)によるものと、里美(南果歩)康夫(松重豊)によるものの2通り出てくるのですが、両方とも気に入っています。

――今後はどんなジャンルや作品に挑戦されたいですか?

群像劇はこれを機にまたもっとやりたいですね。ホラー以外は何でもやりたいと思っています。ホラーは怖いのでちょっと…(笑)。

――今後の抱負について聞かせてください。

まだ撮りたい企画がいっぱいあるので、とにかくもっとたくさんの映画を撮っていきたいですね。

<作品情報>
『さよなら歌舞伎町』
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦/中野太
音楽:つじあやの
出演:染谷将太/前田敦子/イ・ウンウ/ロイ(5tion)/大森南朋/村上淳/松重豊/南果歩
Web: www.sayonara-kabukicho.com


<プロフィル>
廣木隆一プロフィル◎1954年生まれ。82年『性虐!女を暴く』で映画監督デビュー後、日活ロマンポルノ映画を手がける。奨学金を得て米サンダンス・インスティテュートに留学し、その後発表した『800 TWO LAP RUNNERS』で文化庁優秀映画賞ほかを受賞。2003年には、『ヴァイブレータ』で第25回ヨコハマ映画祭の監督賞など数多くの賞を受賞。その後も興収30億円を超える大ヒットとなった『余命1ヶ月の花嫁』や『きいろいゾウ』『100回泣くこと』など数々のヒット作品を撮り続け、現在も精力的に活動中。

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