第20回「ビエンナーレ・オブ・シドニー」日本人作家インタビュー(Chim↑Pom他)

The 20th Biennale of Sydney

第20回ビエンナーレ・オブ・シドニー 参加アーティスト・インタビュー

2年に1度の現代アートのビッグ・イベント「ビエンナーレ・オブ・シドニー」が、6月5日までシドニー各所で開催中だ。世界中からの約200に上る出展作品の中、4つの作品で日本人アーティストやキュレーターも活躍しており、それぞれの展示会場で彼らの作品に対する思いなどを伺うことができた。ビエンナーレでの作品鑑賞を楽しむきっかけに、また、より深い作品理解の一助となれば幸いだ。(インタビュー・構成=関和マリエ、取材協力=Naomi Shedlezki)

▼会場:Cockatoo Island、Museum of Contemporary Art(MCA)、Art Gallery of NSW、Carriageworks、Artspace Sydney他
▼日程:開催中~6月5日(月)※時間は会場により異なる
▼料金:無料
▼Web: www.biennaleofsydney.com.au/20bos(公式サイト)、nichigopress.jp/event/event_spe/123299(作品紹介)

「ビエンナーレ作家インタビュー(塩田千春、中村裕太、篠田太郎)」はこちら ▶▶▶

Don't Follow The Wind, 'A Walk in Fukushima', 2016–ongoing video. Courtesy the artists and Don’t Follow the Wind. Created for the 20th Biennale of Sydney. The presentation at the Biennale of Sydney is supported by Google Cultural Institute, Maspro Denkoh Corporation, and Thierry Porté Photographer: Leila Joy
Don’t Follow The Wind, ‘A Walk in Fukushima’, 2016–ongoing video. Courtesy the artists and Don’t Follow the Wind. Created for the 20th Biennale of Sydney. The presentation at the Biennale of Sydney is supported by Google Cultural Institute, Maspro Denkoh Corporation, and Thierry Porté Photographer: Leila Joy

“Don’t Follow the Wind” @ Carriageworks

「Don’t Follow the Wind」(以下、DFW)は、2011年の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によりできた帰還困難区域の中で、2015年3月11日に開始された展覧会。日本のアーティスト集団Chim↑Pom発案の下、3組のキュレーターの呼びかけに応じた12組の国際的なアーティストが、それぞれ新作を出展している。地元住民も立ち入りが厳しく制限されている封鎖区域の中で同展は、誰も観に行けない展覧会として、住民から借りた民家や倉庫を使い、封鎖が解除される日を待ちながら今も開催中だ。参加アーティストはアイ・ウェイウェイ、小泉明郎、タリン・サイモン他。■Web: www.dontfollowthewind.info(音声のみ)


窪田研二さん(キュレーター)
想像力を喚起させるアート展示

DFWの3組のキュレーター(展覧会の企画・構成などを司る人)の1人、窪田研二さんが語る展示の経緯や「これから」とは。

――DFW参加アーティストはどのように選んだのでしょうか。
「展覧会のテーマ自体が福島を扱っているという『社会性』と、いつ観ることができるか分からないという『時間性』というキーワードの下、これまでにもそういったアプローチで活動しているアーティストをピックアップしました」

――帰還困難区域内には実際に行かれましたか?
「リサーチから展示まで実際に現地に行ってやっています。日本の中で原発事故が起きて、人が許可なく立ち入ることが出来ない区域ができたことは、やはりどう考えても異常な状況。そこに入るには防護服を着て、ガイガー・カウンターを持って自分の被曝量を計らなければいけない。1日で中に入れる時間は5時間と決められていて、実際にフィジカルにその場所に入っていくと、そういうエリアが日本に存在することを、とても強烈に感じます」

――現地での展示は、「一般の人が観に行けない展覧会」ですね。
「福島の会場には行けないので、案内所的なサテライト展として、東京のワタリウム美術館で昨年展示をやりました。今回のシドニーの展示も同様で、こうしたサテライト展やウェブサイトで資料やいろいろな展示を観てもらうことによって『一体、中では何が起きているのか?』と想像力を喚起させるのが1つの大きな目的です。喚起させることによって、福島の現在をもう1度想像してもらい、アートを通して住民とつながっていくという枠組みをこの展覧会では作っています」

――日本人以外の反応も気になります。
「DFWの海外での本格的な展示はシドニーが初めてです。僕らはこういったサテライト展を、場所によって展示内容を変えながら、世界中で巡回させていくことを考えています。今回は、ウランの最大輸出国である豪州と福島の核問題との関係を踏まえて、ウラン鉱石を展示しています。豪州のウランが福島第一原発で使われているという事実も、こうした展示によってこの国の人たちにも身近な問題としてイメージしやすくなればと思います」

窪田研二プロフィル◎上野の森美術館、水戸芸術館の学芸員、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の招聘などを経て、現在、筑波大学芸術系准教授、学習院女子大学非常勤講師、キュレーター、美術コンペ審査員などとして活躍。筑波大学ではキュレーターとして創造的復興プロジェクトで、東日本大震災の被災地でのワークショップなどを通じた支援活動にも携わる。


Chim↑Pom(イニシエーター/アーティスト)
原発事故の規模に見合うプロジェクトを

世界遺産などの入り口付近には、その情報や模型を展示したビジター・センター(案内所)が設けられていることがある。今回、DFWがビエンナーレに出展した「ノン・ビジター・センター」も、このプロジェクトを読み解く上で鍵となるものだ。同プロジェクトの発案者でアーティストとしても参加するChim↑Pomに話を伺った。

――オーストラリアには以前にも来たことがありますか?
「2009年か10年に、ミルデュラのビエンナーレにChim↑Pomとして出展した時に、エリイが作品を設置しに行きました。シドニーは初めてです」

――早速ですが、Chim↑PomがDFWを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
「2011年に震災が起きた時、Chim↑Pomは瞬発的なりアクションとして作品をいくつか発表しました。その後も興味があって何度も福島へ行き、この事故自体がすぐに終わるものではなく、長期間に渡り続いていくものだと痛感させられたんです。そこで1つ1つ作品を創るというより、その長い時間に見合い、事故の規模としての国際性、歴史性にそぐえるようなプロジェクトをと考え、Chim↑PomがイニシエーターとしてDFWを発案しました」

――現地にはどのような展示物がありますか?
「12組のアーティストが、福島の現状や未来に合わせてそれぞれ考え抜いた作品を展示しています。例えばアイ・ウェイウェイの作品は、基本的に真っ暗なゾーン内で夜と早朝に、1日2回だけある民家の部屋の中の明かりがともるというもの。電気はソーラー・パネルから供給しています。1軒だけ明かりがともって、あたかも生活がまだ続いているかのようですが、僕らもタイマーで写真を撮ってようやく確認しました。今回のシドニーの展示内のビデオでも観ることができます。タリン・サイモンは、福島の元住民の方々にお願いして震災前の一番最後に撮ったデジタル・フォトを集めて、それにまつわるストーリーなどと一緒にサーバにアーカイブしました。そのサーバ自体が帰還困難区域の中に展示され、オンライン上でその情報を観ることができるという作品です」

――今回のシドニーでのアート・ワークについても教えてください。
「3つの要素からなっていて、1つはガラス・ケースの中の、オーストラリアの鉱山で採取されたウランです。今回、ビエンナーレ出展が決まってからリサーチをして知ったのですが、福島でメルトダウンしたのはオーストラリア産のものでした。2つ目はそれを照らしているライトや、いすとテーブルのセット。これらは帰還困難区域内の、震災が起きて開業できなかった某レストランから実際にここに持ってきたもの。それらを囲むようにいくつか設置されているのが3つ目の要素で、ヘッド・セットを装着して観る映像です。帰還困難区域内の風景や、DFWの会場の一部などを『360度ビデオ』(※風景を360度同時に撮影するカメラ・システムで作成された映像)として、7分間に収めています。映像内で日本語のナレーションをしているのは元住民の1人で、彼は昔、原発で働いていたけれど、もう家に帰れなくなってしまった。その彼の話や、英語でDFWのサマリーなどが流れています。ビデオを観るためのヘッド・セットは、福島の帰還困難区域近くに住むとある3世代の家族にお願いして、ワークショップとして作ってもらいました。1人ひとりが作ったものに意味があり、例えばおばあちゃんの作品は、自分が使っていた座布団を震災後に防災頭巾として縫い直した物に、彼女が菜園で使っていたカゴを着けている。でも土が汚染されて、もう野菜作りはできなくなってしまった。バイク好きのお父さんはヘルメットで作りました。彼は震災後は外気の警戒をするようになり、バイクよりも車の生活に変わったけれど、将来またバイクに乗れるようになればと。その他、福島の赤べこをモチーフにしたものなど、3世代それぞれが考えながら作ってくれたヘッド・セットです」

――プロジェクトへの反響はいかがでしょう。
「国籍を超えて、かなり興味を持ってもらっているように思います。まず海外メディアだと『ガーディアン』『アート・レビュー・アジア』『フリーズ』などで多くの特集やレビューがありました。しかし逆に、このプロジェクトの分かりにくさから、批判の声が出たりもします。色々な角度からのリアクションがあってすごく面白い。南半球での公開はシドニーが初めてです。DFWは美術館やビエンナーレをベースに今回のような『ノン・ビジター・センター』を展開中で、昨年東京のワタリウム美術館でやった時は保守系の新聞などでも文化欄で真っ先に取り上げてくれました。原発問題ってポリティカルな側面が強いから、文化という枠に落とし込んだことで、おそらく皆書きやすくなったのではと思うんですよ。もちろん福島の住民の方々もたくさん観に来てくれて、たくさんの声を頂きました。ただこれらは今の時点での反応なので、帰還困難区域の封鎖が解除されて誰もが観に行ける日が来たら、もっとさまざまなフィードバックがあるのではと思っています」

Chim↑Pomプロフィル◎卯城竜太、林靖高、エリイ、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀の当時20代の6名が、2005年に東京で結成したアーティスト集団。時代のリアルに反射神経で反応し、現代社会に全力で介入した強い社会的メッセージを持つ作品を次々と発表。東京をベースに世界中で、映像作品を中心に、インスタレーション、パフォーマンスなど、メディアを自在に横断しながら表現している。2015年、アジアの若手現代アーティストを表彰する「Prudential Eye Awards For Contemporary Asian Art」で大賞にあたる「Emerging Artist Of The Year」およびデジタル・ビデオ部門最優秀賞、「Emerging Artist Of The Year」およびデジタル・ビデオ部門最優秀賞受賞。

「ビエンナーレ作家インタビュー(塩田千春、中村裕太、篠田太郎)」はこちら ▶▶▶

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