第21回日本映画祭『二重生活』監督・岸善幸さん × 主演・門脇麦さんインタビュー

第21回 日本映画祭 インタビュー
『二重生活』監督 岸善幸さん x 主演 門脇麦さん

第21回日本映画祭『二重生活』監督・岸善幸さん × 主演・門脇麦さんインタビュー

今年も11月にシドニーで開催された毎年恒例のイベント「日本映画祭」で、心理サスペンス映画『二重生活』の上映に合わせ、監督の岸善幸さんと主演女優の門脇麦さんが来豪。お2人に、同作の見どころや撮影の裏話の他、今後のビジョンなどを伺った。(インタビュー=関和マリエ、写真=Richard Kozhevnikova Luan)

――オーストラリアを訪れるのは今回が初めてですか?

門脇麦(以下、門脇):はい。思っていたより街にアジア系の人が多くて、日本語の看板もよく見かけたのでびっくりしました。昨日はオペラ・ハウス近くのレストランでランチをして、夜に食べたラム・チョップもすごくおいしくて、滞在を楽しんでいます。

岸善幸(以下、岸):僕はシドニーは初めてですが、20年以上前にドキュメンタリー番組の取材の仕事でタスマニアとメルボルンには行ったことがあります。

「哲学的尾行」をする女子大学院生

――さて、『二重生活』についてですが、映画化したきっかけとは?

岸:小池真理子さんの原作を読んだ時に、女子大学院生が尾行をする心理サスペンスというのが、映画に良い題材だと感じたんです。現代人の孤独を、主人公の「尾行」という行為を通して描けたら良いなと思いました。
 麦ちゃんは、映画『愛の渦』(2014年、監督:三浦大輔)やテレビCMなどでも実力を発揮していましたし、この年代の女優さんの中ではピカイチの存在だと思っていたので、『二重生活』の主人公にぴったりだと思ってお願いしました。実際に現場に入って一緒に仕事をしてみて、僕の考えていた主人公をやすやすと演じてくれましたし、期待以上でした。

――主人公の珠は、演じた門脇さんにとってどんな女性でしたか。

門脇:「受け身の女性」ですね、周りに巻き込まれていくような。尾行を通して彼女に変化が起きますが、それも受け身だからなんです。珠は自分が望んで意志を持って変わったのではなく、出来事に連れて行かれるように変わっていったので、そこは演じる時に気を付けました。変化の前後で演技に差を付けようとすると気持ちが前のめりになってしまうので、ニュートラルに演じるよう意識しました。

――日豪プレス11月号のインタビュー(Web: nichigopress.jp/enta/enta_spe/151962)で、門脇さんは『二重生活』の撮影現場は「臨場感と心地良い緊張感があった」とお話しされていましたが、どんな撮影方法だったのでしょうか。


岸:よほど危険な現場を除いて、カメラ・テストをほとんどしませんでした。東京・表参道で尾行のシーンを撮る時は、スタートとゴール地点だけ決めて、尾行される長谷川博己さんと尾行する麦ちゃんにはある程度自由に動いてもらいました。
 カメラ・テストを何度かやると、スタッフも演者もすごく「慣れる」んです。特にカメラマンと演者の緊張感はとても大切にしたかったところで、慣れてくると「カメラが来たからこの表情をすれば良い」というようなことが起こり得るので、面白くなくなってしまうんですね。

門脇:クランク・インの日の最初の撮影では段取りなしでいきなりカメラが回ったので、流れが早いなとは感じましたが、案外すんなりなじめました。私も基本的にあまり(カメラ・テストが)好きではないので。

岸:(笑)

門脇:やっぱり慣れてしまうのは演者も分かっていて、テストの時の方が考えずにリラックスした状態で良かったということは結構あるんですよ。その空気は再現しようと思ってもできないので、私は監督のやり方がありがたかったです。

――撮影全体を通して、印象に残っているシーンはありますか。

岸:尾行を始めるまでの珠は鬱屈(うっくつ)しているんです。恋人との同棲がうまくいっているわけではなく、大学院での勉強にも心の底から前向きなわけじゃない。そういう悶々とした表情の珠と、尾行をした瞬間に、本人は意図していないにもかかわらず獲物を追うギラついた目になる珠、そこが良かったですね。こういう顔を大切にする映画なんだ、と改めて思わせてくれて面白かったです。

門脇:私は撮影前日に現場で転んで足に傷ができてしまったことがあり、とても苦労しました。居酒屋やラブ・ホテルのシーンでは衣装から傷が見えてしまうので、後から消してもらわなくてはならず大変でした。

また一緒に映画を撮りたい

――ちなみに、カメラが回っていない所ではお互いに対してどんな印象をお持ちですか?

岸:麦ちゃんはすごくフラットな人で、現場のスタッフなどに対しても、人に分け隔てがない。眠い時はどんなに偉い人がいても寝るし(笑)、自然体です。

門脇:(笑)

岸:僕は撮影時に52歳だったのですが、麦ちゃんは自分の娘のように親しみやすい人ですね。娘が20代ならこんな時にこんな表情をするのかな、とか。

門脇:私にとっても監督は親しみやすい人です。そして知識も豊富で、若干偏っているけれどいろいろな見方ができる方(笑)。一般的にそういう人は頭でっかちになりがちですが、監督は中学生みたいな心をお持ちで、真剣にモニターを見ながら誰よりも興奮していたりするんです。役者としてうれしいですし、感覚的なところも信頼できます。


――今後お2人は、どんな作品に挑戦したいですか?

岸:僕にとって『二重生活』は、映画作品として第1作目。見た目は平凡な大学院生が尾行という行為を通してその生活に変化をきたすという作品ですが、尾行のような刺激的な題材の映画を今後も撮り続けられたらうれしいですね。映画は、テレビ作品のように納品したら終わりというわけではなく、完成品の観られ方も含めて長いスパンで関わり続けるというのが、大変なところであり、魅力でもあります。

門脇:私はどんな役でもやってみたいです。今年、ミュージカルをやってすごく楽しかったので(編注:『わたしは真悟』、原作:楳図かずお)、体を動かすことをもっとやってみたいなと思いました。あとは岸監督ともう1本、映画をやってみたいですね。

岸:僕がもう50代だから、早くしないとね(笑)。

門脇:「女」をテーマにした話なんかも良いですね。1人の女性の人生に焦点を当てたような。

――今回の日本映画祭では、門脇さんの主演作として『世界は今日から君のもの』(2017年、監督:尾崎将也)もラインアップされました。こちらはコメディー要素のある役どころでしたね。

門脇:この作品は尾崎監督自身が主人公のキャラクターに100%反映されていて、近くにいる監督の仕草を真似したりしながら演じるという面白い経験をしました。それが映画の魅力にもなっていて、作り手の人間性が伝わる作品です。コメディー・タッチの作品も、オファーがあればこれからもやりたいですね。

――最後に、『二重生活』をまだ観ていない方にメッセージをお願いします。

岸:尾行という、罪悪感を抱えてしまうような行為を通して、人は他人の生活を覗き、想像するんですね。現代人は孤独を感じがちですが、誰かのことを想像するということは、もしかしたらその孤独を癒やし、そして相手への理解も深めるかもしれません。尾行=想像、という部分を感じて頂けるとうれしいです。

門脇:日本の方はもちろん、他の国の方にもたくさん観て欲しいです。スキャンダラスな「尾行」がキーワードの作品ですが、あくまでどこにでもいそうな女の子の話なので、普遍的に共感できる部分があると思います。(11月17日、Event Cinemas George Streetで)

© 2016 “A Double Life” Film Partners
© 2016 “A Double Life” Film Partners

映画『二重生活』(2016年公開)
監督・脚本:岸善幸、原作:小池真理子
出演:門脇麦、長谷川博己、菅田将暉、リリー・フランキー他

あらすじ:哲学科の大学院生の白石珠(門脇麦)は論文執筆のために、担当教授の篠原の勧めで、他人の後をつけて生活を探る「哲学的尾行」をすることに。戸惑いながらも近所に住む妻子持ちの編集者・石坂(長谷川博己)の尾行を始めた珠は、彼の秘密に触れ、尾行にのめり込むことで同棲中の恋人・卓也(菅田将暉)との関係にも影響が生じるようになる……。門脇麦は本作が映画単独初主演。


門脇麦プロフィル
1992年、東京都出身。2011年にデビュー後、『愛の渦』(14年、監督:三浦大輔)で大胆な濡れ場に挑戦して話題を呼んだ。14年第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、15年第36回ヨコハマ映画祭日本映画個人賞最優秀新人賞、15年第88回キネマ旬報ベストテン新人女優賞などを受賞。大河ドラマ『八重の桜』(13年、NHK)、連続テレビ小説『まれ』(15年、NHK)、映画『太陽』(16年、監督:入江悠)など出演多数。

岸善幸プロフィル
1986年、テレビマンユニオンに参加以降、数々のドキュメンタリー番組を手掛ける。『少女たちの日記帳 ヒロシマ 昭和20年4月6日~8月6日』(2009年、NHK)や、ドキュメンタリー・ドラマ「開拓者たち」(12年、NHK)、東日本大震災被災地でロケを敢行した『ラジオ』(13年、NHK)など、ドキュメンタリーで培った独自の演出方法は、俳優陣からも絶大な信頼を得ている。

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