世界で活躍する彫刻家 牛尾啓三氏インタビュー

世界で活躍する彫刻家

牛尾啓三氏 インタビュー

日本を拠点に、国際的に活躍する彫刻家の牛尾啓三氏は、1997年にシドニーのボンダイ·ビーチでスタートしたアート·イベント「スカルプチャー·バイ·ザ·シー(Sculpture by the Sea Bondi)」に、第3回目に当たる99年から20年間にわたって作品を出展し続けている。その功績が称えられ、名誉アーティストの殿堂入りを果たした同氏が、7月26日に行われたスカルプチャー·バイ·ザ·シー22周年記念ディナーに出席するために来豪した。オーストラリアを始め、世界各地で活躍する同氏のスカルプチャー·バイ·ザ·シーに対する思いや、メビウスの輪をモチーフにした作品で彫刻家として成功を収めた経緯などについて伺った。(聞き手:石井ゆり子)

――スカルプチャー・バイ・ザ・シーに20年間、毎年作品を出展し続けていますが、同イベントに対する思いをお聞かせください。

僕が出展し始めたのはイベント開催の3年目で、スカルプチャー・バイ・ザ・シーがちょうどインターナショナルな展覧会になった時だったんです。新しい展開があるだろうと直感し、そういう時に僕はいつも「10年は続けよう」と思うのですが気が付いたら20年経っていました。

20年というのは一見長いようですが、ほんの一瞬だったように感じています。現在、オーストラリアのスカルプチャー・バイ・ザ・シーを手本にした野外アート・イベントが世界各地でたくさん開催されています。オーストラリアから広がっていったということにすごく意味があると思うんです。今までは、芸術世界の中心はパリやニューヨークだと言われていましたが、これからはますます世界各地の風土に合った芸術が生み出されていくでしょうし、オーストラリアのように広大な土地を持つ多文化共生社会ということで、いろいろな人種がそれぞれ新しい芸術を世界へ発信していく傾向になっていくと感じます。

20年以上にわたって行われているスカルプチャー・バイ・ザ・シーのカタログ表紙の額の前で
20年以上にわたって行われているスカルプチャー・バイ・ザ・シーのカタログ表紙の額の前で

僕は今まで、海外に出た日本人というのはその土地、地域の人に溶け込みながら、国際的な地位を確立した人だと思っていました。しかし20世紀後半からは、インターネットを使うだけで日本に居ても世界で活躍するチャンスが持てるようになりました。東京のような大都市ではなく田舎に居たとしてもです。ちなみに僕のスタジオは兵庫県の姫路市にあります。世界中のアーティストにとって今の時代、どこに拠点があっても関係ないのではないでしょうか。ボンダイで行われるスカルプチャー・バイ・ザ・シーには、常時20カ国ぐらいからアーティストが参加していますが、皆が大都市から来ているとは限りません。出展者はエントリーした中から選ばれるのですが、今年も10人以上の日本人アーティストが参加します。作品を日本から運んでこないといけないという物理的ハンディーはありますけどね……。

――大きな作品だと何トンにもなるそうですが、1つの作品の制作に費やす時間はどれくらいですか。

スカルプチャー・バイ・ザ・シーに出展した僕の作品で一番重いのは大体10トンくらいかな。制作に掛ける時間は、素材などにもよりますが速い人だったら1カ月くらいでしょう。ですが僕は素材が石なので、大体半年くらい掛かります。道具は石屋さんにある機械よりも大きいかもしれません。スタジオは神戸港に近く、作品を送るのに便利なため、スカルプチャー・バイ・ザ・シーに出展する日本人アーティストの作品は僕が一括してシドニーに送っています。

――作品の多くがメビウスの輪(帯状の長方形の片方の端を180度ひねり、他方の端に貼り合わせたることで生じる環)をモチーフにされるなど幾何学的であり有機的でもあり、その造形の不思議さが世界の数学者をも魅了していると伺いました。

メビウスの輪をモチーフした代表的な作品は、2008年のスカルプチャー・バイ・ザ・シーで披露された(ⓒKeizoUshioo ushizokei2008 SxSBondi2008 JWilliams)
メビウスの輪をモチーフした代表的な作品は、2008年のスカルプチャー・バイ・ザ・シーで披露された(ⓒKeizoUshioo ushizokei2008 SxSBondi2008 JWilliams)

2006年に、スペインのマドリードで行われたICM(International Congress of Mathematicians)という数学の国際会議に呼ばれました。数学者は数式でしか数学を表せないけれど、アーティストは数学の持っているその形を一般の人に見せることができます。数式は、数学を勉強した人にしか読めないわけです。実際、僕も高校で習った数学の公式を言えるくらいです。しかしアートは違います。世界中の数学者にとって僕の彫刻は論文の好材料だと言われ、研究の材料になっているようです。

メビウスの輪というのは、日本の学校ではあまり教えられていないらしいですが、アメリカでは力を入れて教育されているそうです。21世紀の建築はトポロジー(位相幾何学)がベースになると言われています。これから宇宙規模でいろいろな物を作るためには、こういった数学が重要だということで20年以上も前からアメリカの高校ではトポロジーが教えられています。

――メビウスの輪をモチーフに選び、それを形にしようと思ったきっかけは何ですか。

娘が幼稚園生の時、夏休みの宿題で親子で短冊を一緒に作るというものがありました。短冊を1回ひねってテーピングし、それを切ると鎖になるというものだったのですが、そこからインスピレーションを受けました。石を曲面に切ることは、いわゆる数学的な作業です。サイエンスとアートの共通する部分として、今まで人がやっていないことを形にするという面白みがあるのではないかと思います。僕は、芸術には皆が目にしていても感じなかったことや知られていないこと、見たこともないものを提示する役割があると思います。数学者にとって理論的には分かってるけれど、石の塊でこういうものを作って形にするというのは、至難の業のようで注目されたみたいです。

2016年に行われたスカルプチャー・バイ・ザ・シーに出展された作品(ⓒKeizoUshio OushiZokei SxSBondi2016 GCarr)
2016年に行われたスカルプチャー・バイ・ザ・シーに出展された作品(ⓒKeizoUshio OushiZokei SxSBondi2016 GCarr)

芸術には時代背景ありきでないと成立しないものがあります。しかし時代背景がなくても成立する芸術の方が長生きするんじゃないかと、あるアメリカの数学者が論文で書いていました。日本とオーストラリアでは言語が違うし、歴史的背景や自然環境も違います。しかし、両者で深く理解され通用する作品を作ってみたかったという思いがあります。だから数学をテーマに選びました。アメリカの数学者が、『10万年前から10万年後の芸術』という論文を出しているのですが、10万年後にはデジタルが残らないとか、時代背景が背後にあるものは残らないと書いています。では何が残るかというと、素材とテーマは残るということでした。そこで僕の作品のテーマも扱ってくれていました。

――最後に、今年スカルプチャー·バイ·ザ·シーに出展される作品についてお話を伺えますか。またイベントに訪れる日本人の方に向けてメッセージをお願いします。

僕の作品のシリーズ名は「オウシゾウケイ」というのですけど、今回はそのシリーズの一番最初の作品に戻った感じです。前回は、形が見えやすいように立てていましたが、今回は置き方を変えます。そして、いわゆる貝殻のような要素も含めています。貝というのはものすごく幾何学的でしょう。ですが、もちろん数学的に作られているわけではなく自然と造形されています。それと同じように僕もどちらかというと数学を勉強しながら作品を作っているわけではなく、石と格闘する中で、数学が浮上してきたという感じです。今回は、ボンダイのアイスバーグの上から見える位置に置かれるので、砂浜からではなく真上から見た時に隙間の中にもう1個メビウスが入っているのが見えます。

オーストラリアに住んでいる日本人は、そんなに日本を意識していないか、もしくは海外にいるからこそ日本人であるということをもっと意識しているの分かりませんが、今回は僕以外にも出展する日本人作家が10人くらいいるので、作品を見て少しごひいきにしてもらえたらありがたいなと思います。

 今年で開催22周年を迎えるスカルプチャー・バイ・ザ・シーは、ボンダイ・ビーチからタマラマ・ビーチの約2キロのコースタル・ウォーク沿いに設置された彫刻などを観賞できるアート・イベント。世界中から100以上の作品が集められ、ビーチ付近の自然を満喫しながらさまざまなアートを堪能できる。

▼場所:ボンダイ・ビーチ~タマラマ・コースタル・ウォーク ▼日程:10月18日(木)~11月4日(日)▼料金:無料 ▼Tel: (02)8399-0233 ▼Email: info@sculpturebythesea.com ★Web: sculpturebythesea.com


プロフィル
1951年兵庫県に生まれる。74年に京都教育大学卒業、76年に京都市立芸術大学美術専攻科修了。日本美術家連盟正会員、兵庫県彫刻家連盟会員。ヘンリームーア大賞展、神戸須磨離宮公園現代彫刻展、朝来町野外彫刻展、イスラエ国際彫刻シンポジウムなどで数々の賞を受賞。オーストラリアを始め、ニュージーランド、アメリカ、スペイン、アイスランド、ドイツ、デンマークなどで彫刻シンポジウム·国際会議·海外展招待を受ける。日本国内では循環型環境造形で地域活性化のサポートも行っている

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