【インタビュー】オペラ歌手・大村博美さん~蝶々婦人を演じる


©Branco Gaica

蝶々夫人を演じる

オペラ歌手(ソプラノ)
 

大村博美さん

 


来豪インタビュー


 

イタリア人作曲家、ジャコモ・プッチーニの名作オペラ『蝶々夫人』が、オペラ・オーストラリアによりシドニーで11月1日まで、そしてメルボルンで11月14日〜12月14日に開催される。そして同オペラには、世界各国で公演活動を行う日本人オペラ歌手の大村博美さんと、指揮者の沼尻竜典さんがゲスト出演している。残念ながら、沼尻さんはシドニー公演後に帰国してしまうそうだが、大村さんの公演はメルボルンでも観られる。本紙は、シドニー・オペラ・ハウスでの公演が初めてだという、蝶々夫人役の大村さんに、同作品への想いや、今回のツアーの見どころについて話を伺った。

『蝶々夫人』ペア・チケットをプレゼント

オペラ・オーストラリアによる『蝶々夫人』のシドニー公演のA席ペア・チケット($430相当)を抽選で1組様にプレゼント! 応募の際は、10月10日までに①氏名 ②郵便宛て先 ③電話番号 ④本紙または「NICHIGO ONLINE」へのご意見ご感想を明記の上、メールまたは郵便で「蝶々夫人ペアチケット」係までお送りください。ご応募をお待ちしております!【注意】平日の夜に行われる公演でご利用になれます。週末の公演は適用外となっておりますのでご注意ください。
Email: nichigopress@gmail.com
宛て先:Nichigo Press, Level 3, HSBC Bldg., 724-728
George St., Sydney NSW

 

シドニーでの初公演について

シドニー公演初日を終えた9月21日、シドニー市内のオペラ・オーストラリア事務所に大村さんが現われた。1年中、公演のために海外を飛び回るほどのオペラ歌手と聞いて、近寄りがたい雰囲気があると思っていたが、生き生きとした笑顔が印象的な朗らかな人物のようだ。

インタビュー用の個室に向かう途中、同事務所の広報担当者が迎えてくれ、公演初日後に届いた観客からの大量のメールについて報告があった。「今までにないくらい大反響」だったそうだ。その初日の様子について大村さんに聞くと、「シャープレス領事役のマイケル・ルイスさんが当日急病で、急きょ代役が立てられるというハプニングもありましたが、皆リハーサルよりもリラックスしていて、楽しかったですし、いい舞台になりました」と話してくれた。

オーストラリアに来るのは初めてというが、実際に来てみた感想はいかがだろう。

「オーストラリアには多くの日本の方が永住されていると聞きましたが、納得できます。本当に住み心地が良い国ですね。オペラのリハーサルで、今まで1カ月ほど滞在しているのですが、道に迷った時に知らない人に訊ねても、皆さんとてもフレンドリーに教えてくれますし、オペラの団員も皆家族みたい。ほかの国のオペラ・ハウスだと、監督などに近寄りがたいオーラが漂っているのですが、今回一緒にお仕事している監督や演出家の方々は、とても気さくです。

だからこそ、『こんなことまで言っていいのか?』と戸惑うようなことでさえ気軽に意見交換できて、皆が舞台で1つになれるのだと思います。

また、公演期間がほかの国と比べると長めに設けられていて、公演日の間の休息がしっかり取れるのもこの国の良さかもしれません。休養をたっぷり取って本番に備えられるので、いい舞台ができるのだと思います」

 

沼尻さんとの共演について

びわ湖ホール芸術監督や、日本センチュリー響首席客演指揮者として、国内のみならず海外でも音楽活動を行う指揮者の沼尻竜典さんとは、以前2回、日本の新国立劇場やテレビのNHKニュー・イヤー・オペラ・コンサートで共演したことがある。しかし、『蝶々夫人』のようなタイトル・ロール(題名役)でオペラを一緒に創り上げるのは初めての機会だったという。

「『蝶々夫人』は以前、日本、フランス、ドイツ、カナダ、スイス、スペイン、フィンランド、ポーランドなど世界の国々で何度も演じていますが、日本人の指揮者と共演するのは初めてです。特に沼尻さんとは、前にお仕事をご一緒したことがありますが、長い間共演するのは今回が初めてです。沼尻さんは、日本人の指揮者だからこそ素晴らしい感性をお持ちで、リハーサルの時からずっと的確なアドバイスをしてくださいました。西洋人の指揮者の中には、蝶々夫人は立派な声さえ出ていれば良しとして、ニュアンスはあまり要求してこない人も多いのですが、沼尻さんはデリケートな音色の違いを敏感に聞き分けて、『ここはもっと可憐にささやくように歌ってほしい』など、日本女性である蝶々さんの細やかな音色作りをリクエストされました。何度も演じた蝶々夫人に新たな発見を見出すことができたように思います」

 

ジョーン・サザーランドへの想い

大村さんは、声楽を始めたころからオーストラリアに対して強い思い入れがあった。シドニー郊外出身で、マリア・カラスと並ぶ偉大なオペラ歌手、ジョーン・サザーランド(1926-2010)の大ファンなのだそうだ。サザーランドの歌声は、大村さんにとっては永遠の「お手本」となっている。

幼少時代以来、父の書斎から流れてくるクラシック音楽やオペラを聞き、音楽に囲まれて育った大村さんは、5歳から15歳までバイオリンを習っていたが、プロのバイオリニストになることは諦めた。しかし、ちょうどそのころ東京の田園調布雙葉高等学校に進学し、そこで偶然に素晴らしい声楽家の先生との出会いがあった。

「バイオリンがダメなら、今から始めてもプロの音楽家になれるものがほかに何かないかな、と考えていました。当時この高校には三浦智津子先生のおかげで専門的な歌唱コースがあったのですが、この先生に出会ってから、本格的に歌の勉強を始めました。そのころですね、ジョーン・サザーランドの歌を何度も聞いていたのは。彼女のように歌いたくて、一生懸命真似していました(笑)」

その後、東京藝術大学から大学院に進み、卒業後はイタリアに4年間留学。フランス・マルセイユにある国立オペラ歌手研修所で1年間研修した後、プロ・デビューを果たした。その後、マルセイユ歌劇場国際オペラ・コンクール第1位のほか、数々の国際コンクールで入賞し、海外公演を行うオペラ歌手に。大村さんにとってサザーランドの存在は今でも大きく、現在のキャリアの原点であると言っても過言ではないだろう。

「シドニーは彼女の故郷ですし、ここでの公演はとてもいい思い出になると思います。実際に、シドニー・オペラ・ハウスの楽屋のドアに“サザーランド”の名札があるのですが、その横に私の名札が並んでいて…。すごく感動したので、思わず写真を撮りました」と、無邪気に笑った。

 

オペラの旅に生きる生活

世界各地で海外生活を送る大村さんに、常に移動することの楽しみや苦労について聞いてみた。

「ずっと旅をしていて、大変だろうとよく言われますが、同じところに住んでいるとストレスが溜まるような気がして、むしろ旅をしている方が良い気分転換になっていると思います。子どものころから自転車で近所をあちこち探検したり、遊園地が大好きだったり、もともと冒険好きなのかもしれないです(笑)。海外生活で苦労していることは、時差ですね…」

多忙な日々を送る上で、体調管理が重要になってくるが、大村さんはいつも粗塩をぬるま湯に溶かしてうがいすることで、喉のケアを行っているそうだ。

 

本ツアーの見どころ

『蝶々夫人』では、15歳の少女である蝶々さんの喜びや悲しさなど、さまざまな心の動きが見て取れる。その役を演じる上で、大村さんが心に留めていることとは。

「日本人を超えた、1人の人間としてのヒロイン像を観客の皆さんに伝えたいですね。それには、蝶々さんの言葉の裏にある複雑な気持ちを理解して、表現することが大切だと思います。西洋人にとって一般的な“蝶々さん像”は可憐で優雅な女性ですが、彼女はきれいな日本人形ではなく、血の通った1人の生きた人間です。その心情を表現することで、観客の皆さんの心に触れる、より魅力的な蝶々さん像を創造できるのだと信じています」

最後に、『蝶々夫人』ツアーの見どころをご紹介いただいた。

「数々のオペラ作品の中でも、『蝶々夫人』は各役者のさまざまな感情が見られますし、ストーリーもドキドキする展開なので、きっと楽しめると思います。歌はイタリア語ですが、英語字幕付きなので、何について話しているのか分かるので大丈夫ですよ。また、芝居の要素を多く含んでいますので、人と人とのやり取りの面白さもあって、お芝居のような感覚で観ていただけると思いますし、そのお芝居は、相手の歌い方によって返す表現方法も異なってくるので、毎回変化のある公演が楽しめます」

シドニーやメルボルンで、ぜひこの機会に観に行ってみてはいかがだろうか。大人から子どもまできっと楽しめるはずだ。

 

『蝶々夫人』あらすじ

舞台は19世紀後半の長崎。アメリカ海軍中尉のピンカートンは、結婚紹介所のゴローの口利きで芸者をしていた15歳の蝶々さんと結婚するが、やがてアメリカへ帰国。3年が経ち、生活費も残りわずかとなった蝶々さんだが、大金持ちのヤマドリ公爵の求婚にも耳を傾けず、生まれた息子を大切に育てながら、女中のスズキとともにピンカートンの帰りを待ち続けるのだった。

ある日、アメリカ領事のシャープレスがピンカートンからの別れの手紙を持ってくるが、蝶々さんの喜ぶ姿を見て申し訳なく思い、用件を伝えられずに帰っていく。そこに書いてあったのは、ピンカートンが、かねてから付き合っていたケイトと結婚をしていたという事実。そうとは知らずに、蝶々さんはピンカートンと息子の3人で幸せにアメリカで暮らすことを夢見ていた。

大砲の音でピンカートンが戻ったことを知り、大喜びで正装着に着替えて夫をひと晩中待ち続ける蝶々さん。しかし翌朝、夫に似た蝶々の息子を前にケイトが立ち尽くしているところを見て、真実を知る。

息子をケイトに託すことに同意した蝶々さんは、青い目の息子に別れを告げた後、父親の形見の短刀でのどを衝いて自害する。

■蝶々夫人/Madama Butterfly
歌:英語字幕付きイタリア語
 
【シドニー公演】
上演日:10月1日、6日、13日、17日、20日、22日、27日、30日、11月1日
*大村博美さんは10月20日まで出演、沼尻竜典さんは17日まで。10月20日と27日には、上演45分前からオペラ
についてのフリー・トークが行われる
会場:Opera Theatre, Sydney Opera House, Bennelong Point, Sydney NSW
料金:大人$105〜297、子ども$53〜297、学生・ペンショナー$95〜297 *日によって異なる
 
【メルボルン公演】
上演日:11月14日、17日、20日、24日、26日、29日、12月3日、8日、11日、14日
*大村博美さんは全公演に出演予定。11月29日、12月3日、11日には、上演45分前からオペラについてのフリー・トークが行われる
会場:State Theatre, Arts Centre Melbourne, 100 St Kilda Rd., Southbank VIC
料金:大人$57〜250、子ども$28. 50〜125、ペンショナー・学生$57〜225、シニア$57〜238
 
■オペラ・オーストラリア
Tel: (02)9699-1099(シドニー事務所)、(03)9685-3777(メルボルン事務所)
Web: www.opera-australia.org.au

 
大村博美さん
◎東京都出身の声楽家、オペラ歌手(ソプラノ)。東京藝術大学大学院修了後、1996年にイタリアへ留学。同国内の数々のオペラ・コンクールで上位入賞を果たす。2000年にフランス・マルセイユ国立オペラ研修所「CNIPAL」で政府の給費により1年間研修し、01年マルセイユ歌劇場国際オペラ・コンクールでの優勝をはじめ、さらにいくつかのコンクールで上位入賞。現在はフランス・パリ近郊に在住。海外を中心に公演活動を行う。

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