【インタビュー】黒沢清監督─小泉今日子主演『贖罪』、シドニーで上演

 

シドニー映画祭上映作品

『贖罪』(しょくざい)
黒沢清監督インタビュー

 

 代表作『CURE』などで知られ、“日本ホラーのゴッドファーザー”(Godfather of J-Horror)と世界中で讃えられている黒沢清氏監督。同氏が監督・脚本を手がけ、小説家・湊かなえの人気作『贖罪』をドラマ化した、連続ドラマ『贖罪』(全5話)は、2012年に日本の衛星放送WOWOWで放送され、多大な人気を博した。この作品は再編集され、第69回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門などで上映されたところ、大ヒット。6月5日から開催のシドニー映画祭でも上映される運びとなった。オーストラリアでの上映に先駆け、本紙は黒沢清監督に制作の舞台裏や、本作に込める思い、見どころなどについて話を伺った。

黒沢監督は兵庫県出身の1955年生まれ。代表作には、世界的な名声を得た役所広司主演の『CURE』をはじめ、第54回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞作『回路』などがあるほか、監修としては清水崇監督作『呪怨』などがある。『回路』のハリウッド・リメイク版『PULSE』のトレイラーでは「Godfather of J-Horror」と称されるようになり、その名がより世界に浸透した。この功績から、2005年には北野武監督とともに東京芸術大学大学院教授に就任している。

08年のシドニー映画祭では、第61回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門審査員賞を受賞した映画『トウキョウソナタ』の上映のため、同氏は来豪。それ以来、しばらく映画作品は発表されなかったが、今回、大ヒット連続ドラマ『贖罪』をインターナショナル版として映画用に再編集することで、5年ぶりに同氏の作品がシドニーへと舞い降りることになった。

『贖罪』は、原作・ドラマともに、章ごとに主人公が変わる独白形式で話が展開していく。幼い愛娘を殺害された母親が、殺害者を目撃していたのにもかかわらず顔を思い出せない子どもたち4人に向かって、呪いにも近い言葉で罪を償うように命じたため、それがトラウマとなって子どもたちの人生のし掛かる——という、実に重みのある人間ドラマがテーマだ。

−−ドラマ『贖罪』で、監督・脚本の仕事を引き受けようと思った主な理由とは何でしょうか。また、原作の印象も教えてください。

個人のトラウマを克服するドラマと、罪を償うドラマとが同時に成立しているユニークな原作の構成に興味を持ちました。しかも、それがたっぷり5人分も書かれてあることに驚きつつ、果たして私に映像化が可能なのだろうかと不安にもなりました。

−−ドラマ化する際に心がけていたことは何でしたか。また、原作をどのように表現しようと思われましたか。

最初、5人の女性の描き分けがたいへん難しいのではないかと危惧していましたが、途中からそのことをあまり気にしなくなりました。登場人物たちは同じような経験をした、ほぼ同じ年齢の女性ばかりなのだから、無理に区別しようとせず、同じところがあっても構わないと割り切ってから、逆に1人ひとりがリアリティーを持って見えてくるようになりました。それと、何より女優たちが皆素晴らしく、彼女たちの個性によって、1つ1つの物語がさらに鮮明になったように思います。

−−ヴェネチア国際映画祭などの海外の主要映画祭で『贖罪 インターナショナル版』が上映され、高い評価を得ています。スイスの第27回フリブール国際映画祭では国際批評家連盟賞を受賞されています。監督自身、この作品のどのような点が海外で注目され、反響を呼んでいるのだと思いますか。

1つ1つのエピソードは小さく、かつ日本の極めてローカルな地域に限定されたものでしかないのですが、それが5本集まることによって、ある種の映画的な普遍性を持ち得たことが、海外の人にも理解される理由かもしれないですね。

−−『贖罪』では、緊迫感があり不穏な空気が漂うシーンなどから、ホラーの要素が感じられました。海外では、黒沢監督は「Godfather of J- Horror」と称えられ、たくさんのファンがいますが、そう呼ばれることについてどう思われますか。

その国の文化の美しい面だけを海外に紹介するのではなく、影の部分、醜い部分も含めて、すべてを発信することが、ひいては深い相互理解につながると私は信じていますので、ジャパニーズ・ホラーが新しい現代日本映画として海外にも受け入れられたことは、たいへん喜ばしいことだと思っています。そして、私が少しでもそのことに貢献できたのだとしたら光栄です。

−−今作の主演の1人である小泉今日子さんとの仕事は、『トウキョウソナタ』以来だと伺いました。

小泉さんは、日本の女優にはたいへん珍しく、孤独と愛情を同時に表現できる人だと私は認識しています。また、私はこの映画化で、麻子(編注:被害者である女子生徒の母親)の母性を原作で書かれている以上に強調したのですが、その理由は、小泉さんにかつて『トウキョウソナタ』で演じてもらった母親の役を、この麻子とどうしても重ねてしまったからだと思います。

−−蒼井優さんや池脇千鶴さんをはじめとする、若手実力派俳優の皆さんと仕事されて感じることとは何ですか。

彼女たち現代日本の若手女優は全員、本当に素晴らしい。これは世界に誇るべき財産だと思います。彼女たちは皆、抜群の演技力と個性を持ち、かつそれまで自分が演じてきたイメージをまるっきり覆してしまうような役に、平気で挑む勇気も持ち合わせています。

−−黒沢監督が薦めるドラマ『贖罪』の見どころを教えてください。

5時間という長い作品ですが、偽善的に日本の美しいところだけを描いているのでは決してなく、ちゃんと醜い面、ダークな面を題材にしていることをまず確認していただき、その上で、5人の才能ある若手女優による5つの数奇な驚くべき人生を堪能してください。また、この作品は実はテレビ・ドラマとして制作されたものなのですが、ほとんど映画に近い濃密な映像と美術にも注目していただければ幸いです。

−−現地のオーストラリア人をはじめ、在豪日系コミュニティーの方々には、この作品からどのようなことを感じてもらいたいですか。

今回は私自身がオーストラリアに渡航できなかったことが、誠に残念です。ただその分、何の先入観もなくこの作品を観て楽しんでいただければ、それが一番でしょう。そして、オーストラリアのドラマとも、ハリウッド映画とも、ほかのアジアの国々の映画とも、どれとも違った個性のようなものを感じていただければ、それこそが、経済的には非常に厳しい状況にあるものの、まだまだ衰えていない現代日本映画の底力なのだと思います。

同作品は、サーキュラ・キーの映画館「デンディー・オペラ・キーズ」で6月14日に上映予定。ぜひ足を運んで、濃密な黒沢監督作の世界に浸ってみてはいかがだろうか。

 


 
映画『贖罪』は6月14日、サーキュラ・キーのシネマで午後6時に上映予定。上映時間270分、R18+指定。主演は小泉今日子、小池栄子、蒼井優、池脇千鶴、安藤サクラ。あらすじは本紙次ページで。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る