現代美術作家・束芋さんインタビュー

個展「MEKURUMEKU」開催記念

現代美術作家 束芋さん

インタビュー

 アニメーションを使用するインスタレーション作品を多く手がけ、現代美術作家として国内外で活躍されている日本人アーティスト束芋さん。今回は、オーストラリアでの初の大型個展となるオーストラリア現代美術博物館(MCA=Museum of Contemporary Art Australia)での個展「MEKURUMEKU」の開催に合わせて来豪した。(※過去にも、2004年にメルボルンのヴィクトリア州立美術館にて展示。また2006年にシドニー・ビエンナーレではArt Gallery of New South Walesにて展示を行ったが、いずれも個展ではなかった)世界が注目する彼女に今回の新作のこと、そして彼女の作品全体の世界観について話を伺った。
取材・文=編集部・安澤瑠美

最悪の印象を塗り替えた今回の来豪

「もともとオーストラリアへの印象は良くなかったんです。以前ビエンナーレで来豪した時に、展示を担当してくださった大工さんや展示会まで運んでくださったタクシーの運転手さんに舌打ちをされて、『もう2度と来るもんか』と思いました。今回のお話をもらった時も最初はお断りしたんですよ」

そんなかつての本心を語ってくれた束芋さん。でもその表情はどこか楽しげで、昔を懐かしむようでもあった。今でもオーストラリアが嫌いなのかを聞いてみた。

「今回は会う方すべてにものすごく良くしていただきまして、すっかりオーストラリアが好きになりました。実はお話を断った時に、キュレーターの方に『前回のような思いは絶対にさせないから』と力強く言われたので承知しましたが、本当に来てよかったなと思いました」

それを聞いて安心した。今回は大工さんともうまくいったようだ。おそらく束芋さんの作品は会場設計を手がけるスタッフさんとのコミュニケーションがとても大事になってくるのではないだろうか。

「そうですね。海外で展示をすると自分が思っているクオリティーに近づけるために、何度も話をしないと分かってもらえないことが多かったのですが、今回は私が言っていないようなことも先回りしてやってくださったりして、逆に私の方が『そんなやり方があったのか』と学ばせていただく部分も多かったです。本当に完璧以上にしていただきました」

束芋さんは以前ヴェネチア・ビエンナーレに出展した時に某雑誌のインタビューで、「自分がどこにいるのか分からなくなるような空間作りを心掛けている」と言っていたのだが、今回もそういったイメージで設計をしたのか尋ねてみた。

「その表現が今も合っているかは分かりません。でも、私は空間自体をまるっきり変えてしまうか、もしくはその空間にとことん助けてもらうかを、会場を最初見た時のインスピレーションで決めています。“その環境”は戦わなくてはいけない相手なのか、味方になってもらえそうな相手なのかと。時にどうしても戦わなくてはいけない空間に出会った時は、会場全体を全部囲ってしまって形がどうだったかも分からないようにすることもあります。そうやって考えると、今回の会場にはとても味方してもらえました。例えば最後の『TOZEN』という作品は、MCAの目の前に広がる海という情景をそのまま作品に盛り込んだものです。いつもできるだけ環境を味方にして、会場の環境や空間を利用したいと思っています」

全作品に通じる世界観

今回の個展のテーマや束芋さんの作品の世界観について伺った。

「今回の個展は、自分の世界観というよりも、私の中でずっと続いているテーマの延長になりますね。それは人間の体の内側と外側、そしてそれを隔てる皮膚に焦点を当てて作品を作ってきました。私は皮膚に一種のアレルギーを持っているため、日常的に掻きむしったりすることで中の液体が外にあふれ出るのを感じて、体の内側に収まっているものや収めている皮膚に興味を持つようになりました。例えば今回の『mekuru meku ru』という作品にはそういった意味合いが色濃く出ています。壁の木目から流れる液体は女性の愛液だったり、キノコは男性の性器だったり。泡のようなブツブツは私のイメージするアレルギーで、昆虫の羽は皮膚をイメージしています。周りの壁が一気に開けるところは、人が痒みから解放される瞬間のあの開け放たれたような開放感を表現しています。そのようなものを積み重ね、それを俯瞰して見ると何が見えるだろうか、という気持ちで作りました」

今回の展示名称『MEKURUMEKU』に込められている意味を聞いてみた。

「いろんなものがめくれていく、剥がれ落ちるイメージと、展開していくイメージ、どちらも含まれています。とにかく私がこれまで作ってきたものは表面を境にして、常にその向こう側をイメージして作っています。ちなみに、今回そのイメージに特にフォーカスして作った作品が『TOZEN』です。スクリーンに対してプロジェクターで投影する行為に関しても、コンセプトの一部になっています。スクリーンという2次元の壁の向こう側を想像しながら作りました」

正直、筆者が束芋さんに最初にお会いした時は「こんな可憐な方が本当にあのような奇妙な作品を創り出しているのだろうか」と疑問に思った。しかし同氏は始終穏やかな笑みを浮かべ、たまに見え隠れする作品への情熱もうまくコントロールして隠しているようにも見えた。常にモノの内側・外側を意識的に考えているアーティストなのだから、その“内側”は作品にのみ現れるのだろう。「今回お話ししたことは私が意味するところであって、ほかの方が(作品に対して)別のイメージを持たせてくださってもいいと思っています。今後も、イメージが持つ意味の表と裏を感じさせるような作品を作って行きたいと思います」

作品だけではなく、その人柄でも相手の心をつかんでしまう魅力的な束芋さん。今後の各国での活躍を同じ日本人女性として応援していきたい。

 

Exhibition TABAIMO: MEKURU MEKU 作品を一挙公開

まるで葛飾北斎の浮世絵を髣髴とさせる色使いとともに、今日の人々や町の様子をシュールに描いた、アーティスト・束芋のインスタレーション作品を一挙に紹介。その作品1つ1つは、何を語りかけてくるのか——。

mekuru meku ru(2014年)

頭上まで続く大きなスクリーンに映し出される束芋さんの世界。まるで本のページをめくっていくかのように、アートの世界が中から外へ、あるいは上から下へと変わりゆく作品で、シドニーの個展に合わせて制作された。女性の長い髪、流れる水、角砂糖、鳩など、さまざまなモノが映し出されるが、この作品全体が何を意味しているかは、それぞれのモチーフを人がどう解釈するかによるのだそうだ。

Image courtesy the artist, James Cohan Gallery, New York and Shanghai, and Gallery Koyanagi, Tokyo Ⓒthe artist

TOZEN(2014年)

部屋の隅とその左右に広がる壁をうまく利用した、本展の中で一番スケールの大きな作品。「当然」「徒然」の意味を組み合わせた作品で、これには通常、作者が使用しないという「白」があえて使われている。白は、明るさ、清さ、平和、善などを連想させるが、実はこの世界には実在しない色であるという。そのことから、白という概念から未知なる物を感じ取り、スクリーンと壁を通して表現している。

にっぽんの通勤快速(2001年)

比較的初期の作品となる本作。「にっぽんの台所」「にっぽんの湯屋(男湯)」などと同様に日本の日常的な生活シーンに焦点を当てた作品だ。車内に座る無表情な人たちと、その人たちを寿司のネタにする職人。それを食べる車外の人々。奇妙なのに、どこか現実味のある情景にいつのまにか惹き込まれていく。

Image courtesy the artist, James Cohan Gallery, New York and Shanghai, and Gallery Koyanagi, Tokyo
Ⓒthe artist

flow-wer 08-14 2014(2014年)

本展で唯一のドローイング作品。頭蓋骨や臓物から生まれる植物たちは静かに額縁に収まって入るものの、どこか生き生きと描かれている。それもそのはず、本作品はほかの作品には含まれている「死」の要素を含まず、「生」だけを表現したのだという。本展のために書き下ろされた、ウォールドローイングも見所。

BLOW (still) (2009年)

左右そして床全体をつなぐスクリーンから、飛び出すように映し出される花と人体の映像。花から体が生まれ、体から花が生まれるその映像は生物的で美しいが、同時に魅惑的で有毒でもある。それは体の中からあふれ出す「気」のように、自分が中から外に出ていく様子を表現したという。

Image courtesy the artist, James Cohan Gallery, New York and Shanghai, and Gallery Koyanagi, Tokyo
Ⓒthe artist

お化け屋敷(2003年)

覗き穴から見る、どこか見たことのあるような日本の住宅地の風景。その中に、家の中で首をつる人、ゴルフの練習をして家を壊す人、恋人を殺してしまう人などが現れる。淡々と進む不気味な映像と、ヘッドフォンから流れるゲームのような音楽が、私たちを現実とフィクションの曖昧な世界へと連れて行く。

Image courtesy the artist, James Cohan Gallery, New York and Shanghai, and Gallery Koyanagi, Tokyo
Ⓒthe artist

dolefullhouse(2007年)

フル・スクリーンに映し出されるドール・ハウスと、画面外から伸びる手によって、私たちがハウスを作っているかのような感覚に陥る。ハウスに張り巡らされた蛸の足は血管のように脈打ち、最後には奥の部屋から流れ出てくる水によってドール・ハウスは満たされる。それはドール・ハウスを人体のメタファーとしているかのよう。
Installation view, Philagrafika, Philadelphia Museum of Art, 2010
Image courtesy the artist and Philadelphia Museum of Art
Ⓒthe artist
Photograph: Jason Wierzbicki

■Exhibition TABAIMO: MEKURU MEKU
日程:開催中〜9月7日(日)
※日本語ツアー:日時:8月6日(水)3PM、9月4日(木)7:30PM
会場:Museum of Contemporary Arts Australia, 140 George St., The Rocks NSW
料金:無料
Web: www.mca.com.au/exhibition/tabaimo

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