長編映画「サカサマのパテマ」吉浦康裕監督インタビュー

長編アニメーション映画「サカサマのパテマ」

吉浦康裕監督 インタビュー

「サカサマのパテマ」は、9月に開催されたメルボルン国際映画祭で上映。その際、450席分ものチケットが完売し、日本アニメーションの人気の高さを改めて示す形となった。本作を手掛けた吉浦康裕監督は、同作品を機に日本の若手クリエーターとして世界から大いに注目を浴びることになったが、監督業だけにとどまらず、脚本や編集までこなしたことで、そのマルチな才能を開花させ、世に知らしめている。本作は、11月13〜23日にシドニーで開催される日本映画祭での上映も決定。また、オーストラリア国内ではDVDの発売も12月に控えており、吉浦監督の活躍の場はオーストラリア全土へと広まっている。そんな吉浦監督に、今の心境をうかがった。(インタビュー=メルボルン支局 大木和香)

 

——主人公が「サカサマ」になっているという発想はどこから得たのでしょうか。

それは私の子供時代の話までさかのぼります。幼少期を過ごした北海道は空が広く、天気の良い日に空を見上げた時、ふと空が自分の上ではなく、下に広がっている感覚を覚えました。つまり、ひゅっと自分が落ちて行くような感覚が強烈にしたのです。大人になって、あの感覚はいつか物語に使えるのではと思い、それ以降ずっとこのアイデアをストックしていました。そこで今回、長編映画を作るチャンスを得た時、「サカサマになって空に落ちる」というワン・コンセプトからすべてを作ろうと思いました。実際、企画書の段階で書いた絵も、このポスターとほぼ同じでした。

 

——場面が逆転して、見ている方も目が回るような感覚がありました。映画制作時に大変だったことはありましたか。

自分の中では固まったイメージがあったものの、それをほかのスタッフに伝えるのは大変な作業でした。例えば、つかまっているシーンなどは、まず紙に描いたものをさらにひっくり返して描いたために、作画監督などは本来の絵の向きがどっちだったのかと混乱してしまいました。主人公のパテマとエイジが同時に出てくる場面は特に苦労したようです。そこで本作の製作では、スタッフはもちろん、自分自身も混乱しないように、すべてのシーンとカットを一度3D CGで作成しました。3Dコンピューターを使って実際の空間やシーンを作り、その中でカメラを動かして撮影したものをドラフトのレイアウトに使用したのです。完成した画面は背景もキャラクターも手描きですが、このような作業の基礎となるレイアウトはすべて3Dです。

 

——今作では、原作、脚本、撮影、編集、3D CGとそのすべての分野で、観客を驚かせていますが、最初にアニメーションを作るきっかけは何だったのでしょうか。

大学のころにコンピューター・グラフィックの勉強をしていて、アニメというよりもCGで描く場所や世界に興味を持ちました。自分で作った背景に手描きのキャラクターをのせてみたら面白かったので、映画好きということもあり、これにストーリーを加えてアニメーションを作ってみようと思ったのがきっかけでした。大学の自主制作の延長上に今があるといったところです。

 

——映画制作の初めから最後までは、どれぐらいの期間を要するのでしょうか。

まず、プリ・プロダクションという段階で1年。これは世界観をの全体像を練ったり、キャラクター、脚本、絵コンテを作るステージです。その後、本編を作り始めるプロダクションの段階で約1年半から2年ほどかかります。

 

——映画を作る時に心がけていることはありますか。

やはり面白く、楽しいものにしたいというのが1つです。それから、その作品を見た時に、「これは今までに見たことがないな」という“センス・オブ・ワンダー”を入れることです。例えば、今回の映画であればサカサマになるという今までにない体験を入れつつ、それ以外は安心して見られるような普遍的なものをミックスしています。絵のタッチとしては、丸い絵柄などによって今時の映画にしては懐かしい感覚を残し、そこにノスタルジックな雰囲気を感じてもらえるようにしています。

 

——今後、海外を意識した作品を作っていきますか。作るなら、何を意識しますか。

この作品は初めから、世界のどこに持って行っても障壁なく楽しめるように意識して作った作品でした。今後、日本が舞台だったとしても、どの国でも分かるような内容や笑い、考え方を盛り込んで、多くの人が共有できる作品を作りたいです。

 

——スタジオ・ジブリが映画制作部門を解体し、宮崎駿監督も長編作品から引退すると表明がしました。今後の日本アニメーションはどのように変わって行くと思いますか。

この業界を俯瞰して「これ」と答えるのは難しいですが、年々、アニメーション人口が拡大し、見る人の裾野がどんどん広がっていると思います。願わくは、ジブリの新作映画がなくても、多くの人が「ほかのアニメも見てみよう」と思ってくれると嬉しいですね。昔と違い、自主制作で作ったアニメのクオリティーも高くなっています。若手クリエーターたちが、ウェブ配信やユーチューブから名を挙げたりと、作品を発表する場もさらに多様化していくと思います。

 

——最後にこの作品の見どころや思い入れ、観客の皆さんにメッセージをお願いします。

「ヒロインがサカサマである」という、そのワン・コンセプトから全部作り上げていった作品です。見どころは、このコンセプトの通り、突然カメラがスイッチングして、それまでなんでもなかった場所が、突然怖い場所に変わるという感覚の変化です。は、私は高所恐怖症で、空を飛ぶ躍動感を追求したアニメはよくありますが、この映画は「高いところは怖い」という方向で作ろうという思いがありました。年齢も国籍も問わず、1人でも多くの方々に見ていただきたいと思います。アニメ好きな人も、普段アニメを見ない人も「お、なんだこれは」と興味を持ってくださった全員に楽しんでいただきたいです。

●PROFILE

よしうらやすひろ
北海道出身。九州大学芸術工学部卒。在学中からアニメーション制作を開始し、卒業後に商業アニメのデビュー作「ペイル・コクーン」を発表。2008年に「イヴの時間」をWEB上で無料配信し話題を呼ぶ。2010年には初の劇場作品「イヴの時間 劇場版」、2013年に「サカサマのパテマ」を発表し、国内外の映画祭で数々の賞を受賞。ポスト宮崎駿監督として、期待される次世代アニメーション監督の1人。

©Yasuhiro YOSHIURA / Sakasama Film Committee 2013
問い合わせ: Entertainment Pty Ltd Tel: (03)8391-9300
◎「サカサマのパテマ」DVD & Blue-rayの発売を記念して、こちらのDVDを抽選で2名様にプレゼント。①名前、② 住所、③電話番号、④メルボルン・ページへの意見を書いて、Eメールで「viceditor@nichigo.com.au」までお送りください。

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