知らなかったでは済まされない!今そこにあるテロの脅威

知らなかったでは済まされない!

今そこにあるテロの脅威

2015年11月13日、市民や観光客で賑わう花の都パリ――。スタジアムやコンサート会場、レストランなど市内6カ所で、過激派組織・自称「イスラム国」(IS)による同時多発テロが起き、約130人が犠牲になりました。ISに対する空爆に参加しているオーストラリアにとってもひとごとではありません。既に国内でも単独犯によるテロ事件は相次いでいますが、パリのような組織的な大量殺りくがいつ起きても不思議ではないのです。身近に迫るテロの背景に何があるのか? テロの危険から自分や家族の身を守るにはどうすればいいのか? 素朴な疑問にQ&Aで答えます。

Q:オーストラリアが戦争しているというのは本当ですか?

昨年11月16日、メルボルンで開かれたバリ同時多発テロ事件の追悼セレモニーに出席した女性。フランス国旗の3色を頬に塗って犠牲者の冥福を祈った(Photo: AFP)
昨年11月16日、メルボルンで開かれたバリ同時多発テロ事件の追悼セレモニーに出席した女性。フランス国旗の3色を頬に塗って犠牲者の冥福を祈った(Photo: AFP)

A:街やビーチの平和な風景を眺めていると想像しがたいですが、オーストラリアは現在、イラクとシリアでISと戦争しています。テロリストという見えない敵との戦いです。

オーストラリアは14年にISの進撃で孤立した難民に物資を投下する人道支援を始めました。同年9月には空軍機を中東に派遣して10月からISの拠点や車両への空からの攻撃を開始しました。15年10月にはそれまでイラク領内に限っていた空爆の対象をシリア領内にも広げました。

地元メディアによると、オーストラリア空軍の戦闘攻撃機は15年10月までに998回出撃し、642個の爆弾を投下しました。空爆を支援する空中給油機は459回、早期警戒管制機が160回、それぞれ出撃しました。オーストラリア軍は現在、この作戦に合計約780人の兵力を送り込んでいます。内訳は、航空要員が約400人、イラク政府軍への軍事訓練要員が約300人、特殊部隊が約80人です。

オーストラリアはこれまで、同じアングロサクソン陣営の米国や英国が主導する戦争に積極的に関わってきました。01年の米同時多発テロ後もアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に参加しました。アフガニスタンではオーストラリア兵40人が戦死し、262人が負傷するなど多大な犠牲を払いました。

オーストラリア政府は空爆によるIS側の死者数を明らかにしていませんが、女性や子どもなどの非戦闘員が空爆で死んでいるのも事実です。それでも、テロの脅威を背景に、多くの国民が空爆を支持しています。民間のシンクタンクであるローウィー研究所が2015年に実施した世論調査によると、オーストラリア軍の対IS空爆を支持した回答者は69パーセントに達しました。米国との軍事同盟がオーストラリアの安全保障にとって「重要だ」と答えた人は80パーセントを占めています。

Q:自称「イスラム国」の正体は何ですか?

A:国際社会は正式な「国」と認めていませんが、ISは「シャーリア」(イスラム法)の下で預言者ムハンマドの後継者「カリフ」が統治する帝国の建設を目指しています。ルーツは01年の米同時多発テロを行った過激派組織アルカイダ系の一派です。米軍の攻勢で一時弱体化しましたが、バグダーディー師が10年に指導者となり、13年までにイラク領内での活動を再び活発化させました。2年ほど前までは一般にほとんど知られていませんでしたが、14年6月にイラク第2の都市モスルを制圧。バグダーディー師がカリフを名乗って建国を宣言したことで、一気に世界中の注目を集めました。

イスラム過激派といっても、スンニ派、シーア派の各宗派に様々な勢力が入り乱れていて、一枚岩ではありません。その中で、ISには他の主な勢力にはない特徴がいくつかあります。1つは出身母体のアルカイダが「破門」したほどの残忍さです。対立するシーア派や異教徒を捕らえ、男性は処刑し、女性や子どもは拉致して奴隷にしました。外国人を誘拐して首を刃で掻き切り、その様子をインターネットに公開して西洋社会を震え上がらせました。自分たちが信じる過激思想以外は一切認めず、異者をすべて惨殺するカルト集団なのです。

その一方で、「領土」を統治する行政機構を持っているのも大きな特徴です。モスルの銀行から強奪した米ドル、原油の密輸収入、住民から徴収する税金などが財政を支えているといいます。イスラム帝国の建設という大義が、「国民」から一定の支持を集めている側面は否定できません。

さらに、インターネットを駆使した情報操作で欧米諸国など世界各地の若者を巧みに勧誘しています。オーストラリアでも一部の若者がISの呼びかける聖戦思想に傾倒し、「ローンウルフ」と呼ばれる一匹狼型のテロに走ったり、中東に渡って軍事訓練を受けて戦闘に参加したりしています。オーストラリアのビショップ外相は14年6月の段階で、イラクとシリアで過激派組織の戦闘に加わっているオーストラリア人の数は約150人に上ると指摘しました。

もちろん、ほとんどのイスラム教徒は過激思想とは無関係です。相次ぐテロでオーストラリアでも反イスラム感情が広がっていますが、イスラム教徒に対する偏見や対立が深まることは、まさに西洋社会の分断を図るISの「思うつぼ」と言えます。その一方で、難民や移民に紛れ込んでテロリストが入国する危険が高まっていることも否定できません。この問題は、民族や宗教の違いにかかわらず平等に移住者を受け入れてきたオーストラリアの多文化社会のあり方にも、一石を投じていると言えるでしょう。

Q:キリスト教徒とイスラム教徒は仲良くできないのでしょうか?

A:今起きているテロや戦争は、約1,000年に及ぶ長い宗教対立や歴史的な要因が複雑に絡み合っていて、一朝一夕に解決できる問題ではありません。

まず第1の要因は、ヨーロッパのキリスト教徒と中東のイスラム教徒の間で繰り返されてきた対立の歴史です。預言者ムハンマドは7世紀にアラビア半島でイスラム教を開祖。勢力を拡大したイスラム教徒は、イエス・キリスト生誕の地エルサレム(現在のイスラエル)を支配し、西は現在のスペイン、東は中央アジアに至る広大な地域に勢力を広げました。

これに対して、ヨーロッパのキリスト教徒は、奪われた聖地エルサレムを取り戻そうと「十字軍」を派遣しました。しかし、イスラム教徒は「ジハード」(聖戦)を呼びかけて激しく抗戦しました。十字軍は11世紀から13世紀にかけて合計7回出兵しましたが、ついにエルサレムをイスラム教徒から奪回することはできませんでした。

イスラム過激派組織が、西洋社会に対するテロ攻撃を「ジハード」、テロリストを「ジハーディスト」(聖戦主義者)と呼び、正当化しているのはこのためです。1,000年前の激しい殺し合いが憎悪の発端になっているのです。

第2の要因は、第1次世界大戦後のヨーロッパ列強の歪んだ政策です。イスラム王朝のオスマン帝国は第1次世界大戦で連合国に敗北し、広大な領土を失いました。大戦終結前に連合国側の英国、フランス、ロシアの間で結ばれた「サイクス・ピコ協定」に従って、戦前にオスマン帝国が支配していた現在のシリアやイラクのモスル地区などはフランスの勢力圏、シリア南部やイラクの大半などは英国の勢力圏へとそれぞれ分割しました。

この地域の国境線に不自然な直線が多いのは、この協定に従って連合国側の都合で国境を線引きしたからです。当時重要性が増していた石油の利権を連合国側で分け合ったのでした。それから約1世紀を経て、ISはヨーロッパが作った中東の地図を塗り替え、強大なイスラム帝国を復活させようとしているのです。

Q:なぜ悲惨なテロ事件が繰り返されるのでしょうか?

A:テロの背景には、西洋とイスラム圏の長い歴史的な対立に加え、第2次世界大戦後の米国の中東政策もあります。ヨーロッパで迫害を受けたユダヤ人は戦後、それまで英国の支配下にあったパレスチナに入植してユダヤ人国家のイスラエルを建国。敵対するアラブ諸国との間で、4回の中東戦争が発生しましたが、米国はイスラエルの後ろ盾となりました。また、石油利権を持つ米国は、湾岸戦争、アフガニスタンでの対テロ戦、イラク戦争と地上軍投入による大規模な軍事介入を繰り返しました。アルカイダが01年9月11日に米同時多発テロを起こした「動機」は、強い反米思想でした。

また、近年では米軍の存在感が縮小したことも、過激派組織に付け入る隙を与えました。アフガニスタンとイラクでの2つの戦争に疲れた米国は、オバマ大統領の下で両国に展開する兵力の縮小・撤退に舵を切りました。ところが、これがイラクに軍事力の空白地帯を生み出し、ISの台頭を許してしまったのです。

ISの急速な勢力拡大に慌てた米国は、再び軍事的な関与を深めました。14年以来、オーストラリアなど有志連合の各国と手を組み、イラクとシリアでISに対する空爆を続けています。空爆をやめさせるため、ISは有志連合各国への報復テロを加速させているのです。

もう1つ、テロの背景には、スンニ派とシーア派というイスラム教2大宗派間の争いという構図もあります。ISはスンニ派です。イラクでは米国のイラク侵攻でスンニ派のフセイン政権が崩壊した後、シーア派主導の政権ができました。これがスンニ派の離反を招き、ISの台頭につながりました。

一方、イラクの北側にあるシリアでは現在、シーア派の政府軍、スンニ派のIS、複数の非IS系の反政府勢力、クルド人勢力などが、まさに三つどもえ、四つどもえの内戦を繰り広げています。イラクの東側にあるシーア派の盟主イランは、スンニ派のISの勢力拡大が許せません。そこで対ISで利害が一致する米国とイランが接近しました。米国は核開発疑惑をめぐりイランと敵対していましたが、昨年、イランへの経済制裁解除を決めました。イランは密かに精鋭部隊を送り込んでISの掃討に当っていると言われています。

ところが、今度は米国と関係が深いスンニ派の盟主サウジアラビアが今年1月、国内のシーア派指導者を処刑。これをきっかけにサウジアラビアとイランは断交しました。両派の対立が加速する中で、シリアの後ろ盾となっているロシアの思惑も絡み、対ISの戦いはますます混迷の度合いを深めています。

要するに、イラクやシリア周辺の中東情勢は戦国時代さながらの群雄割拠の様相を呈しています。国際社会が一致団結してテロを封じ込めることはきわめて難しくなっているのです。

Q:テロや戦争を終わらせることはできないのですか?

A:現時点では米国などと同様に、オーストラリアの軍事行動は空爆に限定しています。空爆は一定の効果を上げているようですが、約1年半を経た今もISに大打撃を与えるまでには至っていません。ISの壊滅を図るには地上戦以外に決定的な解決策はありませんが、数多くの人命が失われます。アフガニスタンとイラクから撤退して戦争を終わらせることを公約に掲げたオバマ大統領の任期中は、米国が再び地上戦に踏み切る可能性は低いでしょう。

新しい米国大統領が就任する来年以降、圧倒的な戦力を誇る米軍主導の大規模な地上部隊が侵攻する可能性はあります。そうなれば、兵力で劣るISをイラク領内から撤退させるのは時間の問題と言えます。ただ、ISが拠点とするシリアへの侵攻については、一筋縄ではいきません。シリアの後ろ盾となっているロシアや、クルド人勢力と敵対しているトルコなど関係国も利害も絡んでくるからです。

それに、仮に米軍主導の有志連合がISを掃討したとしても、イスラム過激派組織の息の根を完全に止めることになるでしょうか。米国が一度失敗したイラクの統治が、次は成功するという保証はどこにもありません。イラク駐留は長い年月に及び、シリアの内戦を終わらせるのも骨が折れる作業になるでしょう。

その間、敗退したISの残存勢力は新たな拠点を作り、報復テロを続けていくかもしれません。米国はこれまでイスラム過激派組織との戦争で、試合に勝って勝負に負けてきました。世界最強の軍事力をもってしても、報復が報復を呼ぶテロと戦争の連鎖を断ち切ることは難しいのです。

Q:オーストラリアでもテロ事件は起きているのですか?

A:オーストラリア軍が空爆を開始した14年以降、国内では一般市民や警官、警察職員が犠牲になるテロ事件が相次いでいます。

昨年12月15日、シドニー中心部マーティン・プレースで開かれたカフェ立てこもり事件から1周年の追悼式典。オーストラリア国旗を掲げた多くの市民が参加した(Photo: AFP)
昨年12月15日、シドニー中心部マーティン・プレースで開かれたカフェ立てこもり事件から1周年の追悼式典。オーストラリア国旗を掲げた多くの市民が参加した(Photo: AFP)

14年9月にはメルボルン郊外エンデバー・ヒルズの警察署で、要注意人物として内偵を受けていた18歳の少年がナイフで警官2人を襲って重傷を負わせました。14年12月にはシドニー市内中心部のリンツ・カフェでライフル銃を持った男が立てこもり、警官隊との銃撃戦の末、人質2人が犠牲になりました。15年10月にはシドニー西部パラマタのNSW州警察本部前で、15歳の少年が警察職員を銃で殺害する事件も起きています。

いずれの事件も、容疑者は警官に銃殺されましたが、ISの過激思想に共鳴した個人の犯行とされています。これまでにIS絡みで米国やカナダ、オーストラリアなど西洋の先進国で発生したテロは、こうした一匹狼型の犯行に限られていました。しかし、昨年12月のパリの同時多発テロは規模も性格も全く異なります。これが、単独犯行から組織的な大規模テロへの転換点になったとの指摘もあります。

オーストラリア政府は法律を改正し、テロ対策を強化しています。治安当局の権限を強化して要注意人物の通信内容の傍受を行ったり、テロに関与した2重国籍を持つ人のオーストラリア国籍を奪い、テロリストを再入国できなくすることで攻撃を未然に防いでいます。それでも、オーストラリアでもパリと同様の大規模テロが起きないという保証は何もありません。

特にパリの事件で注意したいのは、小規模なコンサートホールやレストランなど「ソフト・ターゲット」と呼ばれる比較的警戒の緩い施設が標的になったことです。航空機、空港、スタジアムなどゲートのある施設ではある程度対策は徹底されていますが、街の至るところにある小規模な店や施設を治安当局が100パーセント完璧に警備することは物理的に不可能です。身体に小型爆弾を巻き付けた自爆テロや、駐車場や道路脇に停めた自動車に仕掛けた時限爆弾も、当局が情報を未然に察知しない限り、基本的に防ぎようがありません。

Q:どうすればテロから身を守ることができるでしょうか?

A:まずは普段からテロに対する危機管理意識を高めましょう。オーストラリア政府のテロ警戒レベル(現在、5段階中上から3番目)を注視し、テレビやウェブサイトのニュースでオーストラリアのテロ情報を常に収集しましょう。

爆弾テロや武装襲撃に遭遇しないようにするには、その確率を低めることしかありません。標的になりやすい警察や軍、政府、米国に関連した施設のほか、特に不特定多数が集まる街の中心部にある広場や施設などに行かなければ、テロに遭遇する可能性は限りなくゼロに近づくでしょう。もちろん仕事や通勤などで避けられない場合もありますが、不要不急の場合はそうした場所に行く回数をできるだけ減らし、滞在時間を短くすることです。誰でも入ることができるホテルのロビーでの長居は避け、空港でもできるだけ早くセキュリティー・エリアに入ることが重要です。

その上で、外出中は常に自分の360度に注意を払い、人の態度、目、手の動きを観察するクセを付けましょう。一般的な防犯対策としても、不審人物から距離を保つことは有効です。もし相手が銃を持っていても、至近距離でなければ、銃弾というのはそうそう当たるものではありません。専門家によると、20メートル以上の距離を保てば、よほどの熟練者でなければ弾が急所に命中する確率は低いそうです。

では、実際に襲撃に遭遇した場合はどうすればいいのか。かばんなど身の回りのもので心臓を守り、頭を両手で覆うことで銃弾が急所に命中する確率を減らすことができます。パリの事件の際は、銃弾が携帯電話に当たって助かった男性もいました。1カ所にとどまっていては狙われる確率が増す一方なので、安全と思われる方向に可能な限り素早く逃げます。テロリストと治安当局との銃撃戦に巻き込まれる可能性もあるので、両手を上げて速やかに保護を求めましょう。

万が一の事態に備え、すぐに安否が確認できるようにしておくことも重要です。3カ月以上海外に滞在する人は、最寄りの在外公館に「在留届」の提出を忘れてはいけません。3カ月未満の旅行や出張の際は、在外公館から緊急時の情報提供が受けられる「たびレジ」(外務省のウェブサイト参照)に登録しましょう。

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