オーストラリアの「海の幸」2016年版(図鑑、名店ガイド付き)①

取材・文=馬場一哉、写真=伊地知直緒人、馬場一哉
取材・文=馬場一哉、写真=伊地知直緒人、馬場一哉

BBQ文化など肉食のイメージの強いオーストラリアだが、実は「海の幸」にもかなり恵まれた国であることをご存知だろうか。オーストラリアではシーフードを積極的に食べる文化は元々なかったというが、食文化の異なる海外からの移民の増加と、恵まれた漁場が近くにある幸運が重なり近年、シーフードの存在感はかなりの高まりを見せている。本特集ではオーストラリアの「海の幸」に関する最新事情、及び日本とはまた異なる当地特有のおいしい魚の情報をお届けしていく。Photo: Naoto Ijichi, Kazuya Baba

オーストラリアの海の幸事情(1/2)▶▶▶

オーストラリアの海の幸事情(2/2) ▶▶▶

オーストラリアの魚図鑑 ▶▶▶

厳選、海の幸がおいしい8店 ▶▶▶


早朝5時半、シドニー・フィッシュ・マーケットの朝が始まる。オークション会場(競り市場)には数多くのバイヤーが集まり、その朝マーケットに届いた魚の値付け合戦が繰り広げられる。バイヤーが座る座席は大きなひな壇状になっており、その前方には巨大なスクリーンが3つ並べられている。バイヤーはそこに表示される魚の情報を見ながら手元のボタンを操作し、次々に売買を成立させていく。非常にスピーディーに進むため、素人目にはどの魚がいくらで売れたかなど具体的な取引内容は分からない。

本特集を行うに当たり、今回シドニー・フィッシュ・マーケットでどのような競りが行われているのか見ておこうと考え早朝、現場まで取材に訪れた。朝早い時間にもかかわらず会場は独特の熱気で溢れかえっており、時に怒声も上がるが、オークション自体は淡々と進行し全体としては非常に洗練されたスマートな印象を受けた。

オークションは1989年から完全コンピュータ制御のダッチ・オークション方式(値段がどんどん下がっていく方式)で行われており、毎時1,000以上の魚の入ったボックスをさばくことができるという。

朝いちのオークション会場の様子。見学ツアーも開催されている
朝いちのオークション会場の様子。見学ツアーも開催されている

1日53トン、ボックスにして約2,700個ほどの量の魚が取引される

1日53トン、ボックスにして約2,700個ほどの量の魚が取引される

魚が所狭しと並べられたオークション会場を広報担当者の話を聞きながら歩く。マーケットには毎日100種類以上、53トンもの魚が入って来るそうでボックス数にすると2,700ほどだという。オークションでは約2時間半で全てのボックスがさばかれる計算だ。

フィッシュ・マーケットは近年ますます活気を増しており扱う魚の種類も多様性を増し、年間500種類ほどに上る。そして驚かされるのはその大半がオーストラリア産の魚介だという点。市場に集まる魚介の56パーセントがNSW州産、30パーセントが他州産と全体の86パーセントが国産だ。海外からの輸入は全体の14パーセント程度でそのほとんどがニュージーランドからのものだという。

南半球最大、世界では3番目に多くの魚介類を扱っている世界規模でもよく知られる魚市場であるシドニー・フィッシュ・マーケットは、毎年300万人以上が訪れる観光名所としてのイメージが一般的には大きいだろう。

しかし、本来の姿である市場としての役割を目の当たりにした早朝取材では、ここがオーストラリア最大都市シドニーの魚食文化を支える台所なのだと改めて感じさせられた。オークションは月~金曜日の毎朝行われており見学ツアーも開催されている。興味がある人はフィッシュ・マーケットまで問い合わせてみると良いだろう(直接担当者と話したければマーケットのメイン・ビルディング2階にオフィスの受付がある)。

多様性を増す魚介マーケット

オーストラリア都市部では近年至る所ですしのテイクアウェイ・ショップを見かけるようになったが、実際、すしや刺し身を始めとした日本食は今やかなりポピュラーな食べ物として認知度を増している。魚介類を取り巻く食事情はここ数年でどのように変わったのか。

本紙では引き続き、シドニー・フィッシュ・マーケット内でこれまで幾度もアワードを獲得してきた優良魚店「クラウディオス」代表のジョージ・コスティ氏、シドニーを代表する日本食レストランのシェフたちから絶大な信頼を得るバイヤーの石井誠人氏(ピアモント・シーフード)、10数年以上にわたりオーストラリアの魚市場を舞台に活躍し現在は国内最大の加工・卸業者デ・コスティで卸を担当する桜井光春氏、そしてクラウディオスで販売員として日本人客の信頼を集めている木村大郎氏の計4人に取材を重ねた。

ここ数年の短いスパンで見ても魚介類を取り巻く状況は多様性に富んできているというが、その理由をコスティ氏はこう分析する。

「かつてオーストラリアでは魚介にバラエティーはさほど求められていませんでした。しかし、移民の受け入れを積極的に行っていることもあり食文化は大きく変わってきています。ご存知の通り品質の良いメニューを提供する日本食レストランは急増していますし、ギリシャ料理、ベトナム料理、イタリアン、中華などさまざまな国籍のレストランで魚を多く扱っています。そういった面からレストラン業界をはじめとし、魚介の消費量はどんどん増えています。

更にフィッシュ・オイルが健康に良いということで健康面で魚を食べることの利点が注目されていることも理由の1つに挙げられるでしょう。魚をよく食べる日本人が長寿であるということも知られています」

扱われる魚介のバラエティーもどんどん広がりを見せている。例えばかつてタコなどは見向きもされず捨てられていたというが、今は商品として店頭に並ぶ。そうした多様化にはバイヤーの努力に寄るところも背景としては大きい。

「ネタを増やす努力は日々行っています。いろいろな魚を仕入れてみて実際に食べてみます。そしておいしかったらそれをレストランなどにプレゼンテーションして使ってもらうようにする。実はおいしいけれどシェフに知られていない魚は結構たくさんあるので、それを僕たちが教えるわけです。普段あまり見ないような魚にはシェフもなかなか手を出しませんから」と石井氏は話す。

そのようなアドバイスを受けて仕入れた魚をシェフが美味しく調理し客に提供する。それに伴い客の舌が肥え、同時に知識としてその魚の名前を覚えて店を出ることになる。巡り巡ってそれが結果的にマーケットでの需要増加へとつながっていくのだ。

実際、刺し身用として切り身で売られる魚の種類は年々増えている。その点に関し桜井氏はこう言う。「市場も需要と供給の関係で成り立っていますから、需要に合わせて置かれる魚も変わっていきます。それぞれのお店が売れると判断すれば増えていきます」

消費者の舌が肥え、求められるものが変化していった分かりやすい例として桜井氏はマグロへの嗜好の変遷を挙げる。「マグロはざっくりと分けると、下の価格帯からアルバコア(ビンチョウ・マグロ)、イエロー・フィン(キハダ・マグロ)、ビッグ・アイ(メバチ・マグロ)、そしてブルー・フィン(ミナミ・マグロ)及びクロ・マグロを1セットに4つほどのカテゴリーに分かれます。しかし以前はオーストラリアでマグロといえば9割以上はイエロー・フィンでした。もちろん上のクラスのマグロのほうがおいしいのですが、身が柔らかく色が変わりやすいなど扱いが難しいので敬遠されていました。しかし、消費者の舌が肥えたことに加え、フィッシュ・オイルの効能が注目され、脂身の多いトロなども好まれるようになっています。ここ1~2年は、レストランだけではなく小売り店でもトロが売られ始めています。嗜好は確実に変わってきていますね」

以前はなかなか見かけることのなかったウニが店頭によく置かれるようになったのも分かりやすい変化と言える。パック詰めされたものだけではなく殻付きの活きウニもシドニー・フィッシュ・マーケット以外の魚屋などでも見かけるようになった。世界で元々ウニを食べる習慣があるのは日本人とニュージーランド人くらいだそうだが、今やシドニーでは多くの人がウニのおいしさを覚えたというわけだ。だが、コスティ氏いわく水温が冷たい時期はあまり漁師が海に潜りたがらないようで冬場は流通量が減るそうだ。そういったところもまたオーストラリアらしいと言えるだろう。


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