日豪プレス、メディア体験プログラム2019②

日豪プレス、メディア体験プログラム2019

竹若敬三・在シドニー日本国総領事インタビュー
人と人とのつながりを大切にしたい

竹若敬三・在シドニー日本国総領事(以下、竹若総領事)が現職に就任してから約2年強が経つ。「オーストラリアに来たからこそ日本について分かることがたくさんあった」と語る竹若総領事は、常に先を見据えた方策を立てている。しかし、良好な関係を継続している日豪両国ではあるが、これから更に発展させるための課題も多くあるようだ。そのため、日豪関係について、在シドニー日本国総領事館としての現在の取り組みから、ご自身がこの2年余りで感じたこと、今後の展望などを伺った。(取材・文=内田光咲、江橋朱里、荻野夏海、鈴木璃子)

日本の文化に親しみを。在シドニー日本国総領事館の取り組み

各国に存在する領事館には「邦人保護」という重要な役割がある。在シドニー日本国総領事館の、シドニーに関する情報を発信するメール・マガジン、いじめや差別の窓口はこの一環である。しかし、竹若総領事は日本人を保護するだけではなく、「日本人のコミュニティーに活力を与える」ことも重要な業務と考えている。そこで、オーストラリア人が日本の文化に対して親しみが持てるような取り組みを行っているという。例えばNSW州の小・中・高等学校を対象に「習字ワークショップ」などの学校訪問を行い、子どもたちが日本文化に触れられる機会を提供している。

また2006年より毎年12月に開催されている「祭りジャパン・フェスティバル」では、日本の伝統的な祭りや文化の紹介を目的としたパフォーマンスが行われ、昨年は約4万人が来場したという。会場はにぎわい、在シドニー日本国総領事館もブースを持ち、竹若総領事も盆踊りに参加して来場者と一緒に楽しんだ。こういった取り組みは、竹若総領事の「日本の文化に親しみを持ってもらうことは、人びとの関係を安定させ、促進させる上で非常に重要」という考え方そのものの表れであるように感じる。一方で、日豪関係は祭りや習字などの文化交流を通してだけではなく、「カウラ」などの歴史的に意味を持つ地を通しても促進されているようだ。

敵味方の垣根を超え、つながる日豪の絆

シドニーから西へ約330キロの内陸にあるカウラでは毎年、多文化祭が開催されている。今年は3月15日〜17日に行われ、カウラ捕虜収容所集団脱走事件から75周年ということもあり日本がゲスト国として開催された。竹若総領事はもちろん、首都キャンベラの高橋礼一郎・駐オーストラリア特命全権大使も参加し、日豪関係の良好さをアピールする場となると共に平和を発信する場となった。また、カウラでは同事件の慰霊祭が毎年8月に開催されている。

カウラ捕虜収容所集団脱走事件とは

1944年8月5日、NSW州カウラ第12戦争捕虜収容所から日本兵捕虜1,104人の内545人以上が脱走を試みた。その際、日本兵捕虜はナイフや野球バットなどの日用品で武装し、オーストラリア軍の機関銃に立ち向かおうとした。その結果、日本兵231人、オーストラリア兵4人の死者を出した。脱走の背景には、食事も支給され野球などの娯楽をすることもできたにもかかわらず、生き延びることを恥とした当時の日本兵の考えがあった。この事件は日本でも度々メディアで取り上げられている。

この事件後の対応にオーストラリアの国色が出ていると竹若総領事は述べた。確かに、戦後日豪関係が容易でない時期もあったが、戦後のマイナスな感情をプラスに変える力をオーストラリアは持っているという。「特にNSW州は『マルチカルチャリズム』という多文化主義を色濃く持っている」と竹若総領事は語る。同事件の犠牲者は、脱走者としてではなく、戦時中オーストラリアで亡くなった全ての日本人と共に葬られているという。

また、当時のオーストラリアの人びとも日本との「共同墓地」という形で同じ敷地内に埋葬されている。シドニー市内からほど近いクッタバルでは、1942年に日本の特殊潜航艇三隻の攻撃によって日豪共に犠牲者が出た事件もあったが、毎年行われるこの追悼式典もまた、敵味方ノーサイドで行われるというのだ。竹若総領事はオーストラリアについて、「世界中のいろいろな所に人を派遣して戦場を体験しているだけに、戦争に対する意識は人一倍高いのではないかと思う」と続け、平和を支えるために在シドニー日本国総領事館が式典に参加し、関わることが大事だと語った。そして、この平和に対する態度が、両国の絆を更に深くしているという。

人的交流から生まれる日豪関係の発展

日豪関係の発展と絆を更に深めるためには、「スポーツが交流の重要なツールになる」と竹若総領事は語った。1月26日にメルボルンで開催されたテニスの全豪オープン決勝戦では、大坂なおみ選手が優勝し、オーストラリアでも多くの人が彼女のプレーに熱狂した。このように、共に熱くなれるスポーツの存在は良好な関係を築くのに大きな役割を果たす。

今年はラグビー・ワールド・カップ、来年には東京オリンピック・パラリンピックと、この先日本で開催される国際的なイベントが数多く控えており、竹若総領事は「この機会を生かしていきたい」と意気込んでいる。開催地である日本を訪れた人が文化だけでなく人びとと触れ合い、相互理解を深める、またとない機会となるであろう。

既に多くの関係者が成功・発展に向け動いており、日本からは、石川県や岡山県などから知事が在シドニー日本国総領事館を訪れ、オーストラリアの人びとにプロモートして欲しいと依頼を受けているという。オーストラリアも、時差がほとんどない日本でこれらの大会が開催されることで非常に盛り上がっており、イベント成功に向けて貢献したいと力強い応援をしているようだ。このことを鑑みると、スポーツの力を通して、更に深まるであろう日豪関係にも注目したい。

また、東京五輪が開催される2020年は、名古屋市とシドニー市が姉妹都市関係を結んで40周年という節目の年でもある。この40年間、コアラやユーカリ栽培技術の輸入を始め、人的交流も盛んに行われてきた。その長い友好関係を継続する中で「恩返しのような現象を生んでいる」と竹若総領事は語った。例えば、若いころに日本でホームステイを経験した人が、現在オーストラリアでホームステイを受け入れている、といったようなことである。このような人と人との親密な関係は国と国との良好な関係を築く要因となる。これからも、継続するからこそ生まれる力を大切にし、更なる日本とオーストラリアの交流と発展を期待したい。

若者が発信し創り出す未来の日豪関係

最後に、在シドニー日本国総領事館が今後取り組みたいと考えている課題について伺った。昨年度、オーストラリアからの日本への旅行客は約55万人に上った。しかし日本国内ではこれだけ多くのオーストラリアの人びとが日本に注目していることに気付いていない面があると竹若総領事は語る。「先日、日本人学生と話した時に、日本にオーストラリアについて学ぶ本などの題材はあるか? と尋ねたところ、ないと言われてしまった。すなわちオーストラリアのことが日本では、あまりよく伝搬されていない、共有されていない、一種のインバランスが生じている。この状況を改善していきたいと考えている」という。

2018年に行われた「祭りジャパン・フェスティバル」の様子
2018年に行われた「祭りジャパン・フェスティバル」の様子

カウラ市内にあるカウラ日本人墓 地「Japanese War Cemetery」

そして、そういった発信の上で若者の役割が大きいと考えており、実際そのようなアドバイスも受けているという。我々もシドニーで、日本食レストランが街中で現地の人に好まれている光景を見ることがあった。このように身近に感じた日本への注目を、我々若い世代が日本に持ち帰り、発信していく任務があるのではないだろうか。加えて竹若総領事は、日本のことは日本人が一番知っているというわけではないと語った。実際にオーストラリア人から日本の魅力や歴史的分析を教わった経験も多々あるという。日本人が自身を発見するには、鏡のように外から見ていくことが非常に大切であり、その点において、日本がオーストラリアから学ぶことも多いのではないだろうか。近年、プログラムの一環としてオーストラリアを訪れる日本の学生が増加しているという。その際竹若総領事は、その交流の場へ自ら赴き、学生たちと直接話し、生の声を聞くようにしているそうだ。今後も、在シドニー日本国総領事館の見方を共有・プレゼンしていく機会をより多く持っていきたいと話している。

今回は、我々大学生が在シドニー日本国総領事に直接お話を伺い、日豪関係の現状や在シドニー日本国総領事館として力を入れる文化的交流の発展などについての展望や課題を知ることができた、大変貴重な機会であった。一方これは同時に、我々学生それぞれが小さな大使としてシドニーを訪れ、自分の肌で感じたことを日本に持ち帰り発信していく機会でもあった。両者にとって有益であったこのインタビューが、さまざまな年齢層の読者へ届き、今後の日豪関係の発展の一助となれば幸いである。

【プロフィル】
竹若敬三氏(たけわか けいぞう)

1960年12月21日生まれ。福岡県出身。84年に外務省入省後、イタリア・インド・フィリピンなどでの公使を経て、16年10月末、在シドニー日本国総領事に着任


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