小野伸二の圧倒的な「存在感」と「人間力」


写真・リチャード・ラン

小野伸二、2カ月の軌跡
圧倒的な「存在感」と「人間力」


文・植松久隆(スポーツ・ライター/本紙特約記者)

小野伸二がウエスタン・シドニー・ワンダラーズに加入して、はや2カ月あまりが過ぎようとしている。開幕から8試合、チームの欠かせない要として活躍する小野の11月を本紙特約記者でスポーツ・ライターの植松久隆が振り返る。

“予想外”の滑り出し

 “予想外”、こう書くと熱心なウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(以下WSW)・サポーターには叱られるだろうか。リーグ開幕前のWSWに対する下馬評は要約すれば「新造チームがリーグ上位に食い込むのは至難の業」といったものだった。その前評判も小野の電撃加入後、「小野がチームにフィットすれば」という条件付きで若干上向いた。それでも、開幕直前に合流した小野がすぐにチームにフィットできるかを懐疑的に見る向きも多く、WSWは半ば見切り発車的に初年度のスタートを切った。

しかし、蓋を開けてみるとどうだろう。初めてのシーズンに臨んだWSWは、8試合を消化した時点で3勝1分4敗(11月28日現在)。負けが1つ込んでいるものの10チーム中6位と、かなり気は早いがファイナル進出圏内に付けている。10月27日、アウェーで昨季王者のブリスベン・ロアに歴史的なチーム初勝利を上げてからは3勝2敗と勝ち越し、そのうちの2勝をアウェーで挙げるなど、下馬評を良い意味で裏切っている。

首位アデレードに勝ち点9差と離されているものの、昨季王者のブリスベン、不倶戴天のライバル・シドニーFCを上回る現状は、冒頭に書いたように多くの人にとって“予想外”に違いない。

そんなチームの中で小野は、試合を経るごとに周囲との連携を向上させ、今や攻守の要として欠かせない存在になった。“たられば”の話になるが、開幕直前の小野の加入がなければ、WSWが果たして今の順位にいられただろうか。その答えは、否。そう断言できるくらい小野の存在感は他の選手を圧倒している。

 

“決定的な仕事”で、不動の信頼を

 小野自身は、チームの現況をどう捉えているのだろうか。第8節のメルボルン・ビクトリー戦終了後の本紙取材で、「もっと勝てた試合もあったし、勝ち点は少ない気がする」と前半戦を振り返り、当然ながら負け越しという現況に満足はしていない。

小野は、ここまでの8試合(うち4試合で90分フル出場)すべてに出場。前所属の清水エスパルスでは、移籍までの数カ月はなかなか試合出場の機会に恵まれなかっただけに、ピッチでの小野の表情は実にイキイキとしている。ブリスベン戦の試合後に話を聞いた時は、「しばらく試合に出ていなかったから、結構疲れますよ」と冗談めかしたが、体の疲労とは裏腹の充実した表情に、試合に出られる喜びが滲み出ていた。その充実感が“結果”として実ったのが、11月10日のニューキャッスル戦。試合は1―2で敗れたものの、初アシストを記録。Aリーグ6試合目にして初めて目に見える形での結果を残した。

前節の初アシストをきっかけに波に乗りたかった続く18日のアウェーのパース戦。この試合、本人も驚くまさかのベンチ・スタート(後半38分に交代出場)。小野不在のチームは、50分以上1人少ないという劣勢を跳ね返して、虎の子の1点を守りきる貴重な勝利を挙げるが、小野にしてみれば、何ともほろ苦い試合となった。

それでも、続く26日のホームでのメルボルン・ビクトリー戦で、“1回休み”を終えて定位置に戻ると、試合冒頭から果敢にゴールを狙う姿勢を見せつけた。

「前回休ませてもらったので、今日は気持ちも入ってたし、何とかして点を取りたいと思った」と試合後に語ったが、揺るぎない信頼を勝ち得るには、はっきりと目に見える形での“結果”を出し続けなければいけないという気付きがあったのか。

この試合も0-2と敗れたが、「チームとしては良くなってきているので、その中で決定的な仕事ができるように自分の中でもクオリティーを上げていきたい」と、静かなる決意を込める。小野の言う「決定的な仕事」とは、即ちチームを勝ちに導くゴール。今、WSWでゴールという結果を一番強く欲しているのは、ほかの誰でもない小野伸二、その人である。

 

小野伸二の“人間力”

メルボルン・ビクトリー戦ではいつも以上に積極的にボールに絡み、得点を取ることに貪欲な姿勢を見せた

今年4月に帰国した折、当時、清水エスパルスに所属していた豪州代表アレックスの取材で、清水の試合を観戦する機会に恵まれた。清水は4-3-3のフォーメーションで、3トップの後ろに小野とアレックスが並ぶ布陣(WSWでの小野とムーイの関係性に準えられる)。豪州代表でFWでプレーするアレックスが中盤で激しく相手をチェックするのも新鮮だったが、それ以上に目を惹いたのは小野だった。「こんなに動き回る選手だったか」と改めて知らされるくらいに、ピッチを駆け回り、相手のパス・コースを消す動きなど守備も惜しまない。清水入団後の小野の“変容”を耳にしてはいたが、実際、その日、ピッチで目の当たりにした小野のプレー・スタイルに強い印象を持った。

その時に味の素スタジアムで目の当たりにした、ゴドビ監督が若手起用に大きく舵を切るまでの「清水の小野伸二」と、今、豪州で見られる「WSWの小野伸二」は、ほぼ同じ役回りを担う。攻撃の全権を握り、守備では前線からの守備に大きく貢献するという役割は同じだが、ここで忘れてはいけないのが、清水で発揮していた存在感、リーダー・シップと同等かそれ以上のものを異国の地で、しかも合流直後からいかんなく発揮している事実。それを可能にしているのが、海外経験と語学力に裏打ちされた小野伸二の“人間力”。同じことを難なくやれる日本人選手は非常に少ないのではないだろうか。小野以外には、中田英寿、川島永嗣くらいしか浮かばない。

33歳にしてなお、挑戦を止めず、変化を受け入れ成長し続ける稀有なフット・ボーラー。その類稀な“人間力”が司る、小野伸二の一挙手一投足から目が離せない。

 

■順位表

試合数 ポイント
1 アデレード・ユナイテッド 8 6 1 1 12 5 7 19
2 セントラル・コースト・マリナーズ 8 5 2 1 15 7 8 17
3 メルボルン・ビクトリー 8 4 1 3 14 16 -2 13
4 ニューキャッスル・ジェッツ 8 4 1 3 14 16 -2 13
5 パース・グローリー 8 3 2 3 9 8 1 11
6 ウエスタン・シドニー・ワンダラーズ 8 3 1 4 5 7 -2 10
7 ウェリントン・フェニックス 8 2 3 3 11 10 1 9
8 メルボルン・ハート 8 2 2 4 11 12 -1 8
9 ブリスベン・ロア 8 2 1 5 12 12 0 7
10 シドニーFC 8 2 0 6 12 22 -10 6

 

■ゴール・ランキング

1 ダニエル・マクブリーン(セントラル・コースト・マリナーズ) 7
2 ジェレミー・ブロッキー(ウェリントン・フェニックス) 5
2 アレッサンドロ・デル・ピエーロ(シドニーFC) 5
2 エミール・へスキー(ニューキャッスル・ジェッツ) 5
2 ダリオ・ヴィドシッチ(アデレード・ユナイテッド) 5

 

視点・小野の守備を見逃すな

 WSWのここまでの戦いぶりを振り返ってみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。

第8節終了時点で、WSWの総得点はわずか5。これは断トツのリーグ最下位。試合平均0.63点という得点率は、1試合に1点を入れられないという計算。サッカーという競技、ゴールを入れない限り勝ちはないだけに、現時点で負け越しという成績も当然ということになる。ただ、その低い得点力ながら大きく負けが込まないのはなぜだろうかという疑問は残る。

その答えは、首位アデレードに続いて失点が少ない(8試合7失点)堅牢な守備陣にある。元豪州代表コンビであるビューチャンプとトポー=スタンリーのCBコンビは、高さと強さを前面に出した守備で安定感を見せる。キーパーのコヴィッチも気合の入ったセービングで守備陣を引き締めている。

しかし、WSWの守備力は、何もDFだけによってなし得ているものではない。一般的には、小野は、ベルベット・パスとも言われる柔らかいパスで攻撃を演出、創造性あふれるプレーで観衆を魅了するいわゆる“ファンタジスタ”の系譜の選手として認識されている。だが、小野伸二の守備力、これを決して侮ってはいけない。高い位置からのチェイシングを惜しまず、積極果敢にボールを奪いに行き、相手のパスが出た時、相手の最良の選択肢を消すポジショニングの妙。意外に思えるかもしれないが、小野は実に守備の上手い選手で守備面での貢献も非常に大きいということも覚えておきたい。 (植松久隆)

■今後の試合日程

12月 2日(日)4:30PM VS ウェリントン・フェニックス (アウェー)
12月 9日(日)5PM VS ブリスベン・ロア (ホーム)
12月15日(土)7:45PM VS シドニーFC (アウェー)
12月21日(金)7PM VS アデレード・ユナイテッド (ホーム)
12月27日(土)6:45PM VS パース・グローリー (アウェー)
1月 1日(火)6:15PM VS アデレード・ユナイテッド (ホーム)
1月 6日(日)6PM VS セントラル・コースト・マリナーズ (ホーム)

 チームの歯車が毎試合ごとに強くかみ合い始めていることは明らか。どこかのタイミングで臨界点を突破すれば爆発的な得点力を発揮するようになる。ワンダラーズにはそう信じさせるパワーがある。その時は小野もまた本来の能力を存分に発揮できるようになるだろう。その日をぜひこの目で見に行こう!(編集部)

観戦チケット・プレゼント

12月9日(日)に開催される、昨年の覇者、ブリスベン・ロア戦のチケットを抽選で10組20名様にプレゼント! 応募の際は①お名前、②連絡先を明記の上、「サッカー・チケット係」まで、以下のメール・アドレスにお送りください。Email: nichigopress@gmail.com
※チケットの受け取りなど詳細は、当選者にのみ報告します。締め切りは12月7日(金)午後5時です。

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