オーストラリアで起業するには?

オーストラリアで起業する

本特集では、オーストラリアで起業した4人の日本人経営者にインタビュー。オーストラリア市場の特徴から起業スピリットなど、多角的な視点からその魅力やポテンシャルに迫る。(文=小副川晴香)

バブル崩壊後、経営環境の悪化などにより非正規雇用の増大が進んだ日本社会。企業の「終身雇用制度」が崩壊しつつあると言われる今、若者を中心に「働く」ことへの意識が変化している。そんな中、数ある働き方の選択肢の1つとして「海外で起業する」ことを検討する人も少なくないという。そこで今回、オーストラリアで起業し成功を収めた日本人の起業家4人に話を伺いながらその魅力を探った。

オーストラリアの市場概要

オーストラリアの人口は現在、約2,365万人(2014年10月時点)。総人口の約4分の1が海外生まれの移民1世で形成されている多民族国家だ。世界第6位の広さを持つ国土と鉱物や天然資源を産出する肥沃な大地を持つ、世界でも有数の資源国である。

シドニー五輪が開催された2000年以降、堅調に発展してきたオーストラリア経済。2008年に起きた金融危機ではオーストラリアも影響を受けたものの、軒並みマイナス成長に陥った先進諸国に比べ、比較的早い段階で景気後退から脱した。

その後も、中国をはじめとするアジア新興国への鉱物資源の輸出などにより、一貫して経済成長を維持。オーストラリア政府統計局(ABS)の発表によると、2014年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率は前期比で0.5%増、前年同期比で3.1%増と23年連続のプラス成長を達成した。

しかし、鉱物資源ブームは既にピークを迎えたと言われ、商品市況や中国景気に左右されない安定した経済成長のため、今後は資源産業依存からの脱却が求められる。鉱業投資の鈍化による影響を相殺するには、豪ドル高や相対的に高い金利により苦戦を強いられてきた非鉱物関連部門(不動産、教育関連、観光業など)の回復が必要と言われている。

資本金1ドルから起業できる

オーストラリアは中小企業が市場の大半を占め、中小規模のビジネス売買も盛んだ。オーストラリア政府もスモール・ビジネスを促進し、資本金1ドルから起業が可能であることから、外国人でも比較的簡単に入りやすい市場と言える。

オーストラリアでビジネスが行える事業形態は主に、①外国企業の現地法人や支店を含む会社、②合弁会社(パートナーシップ)、③個人事業主、などが挙げられるが、「現地法人の設立」が、オーストラリアの現地企業と同等の活動ができる一番の近道だ。現地法人を設立する場合、個人事業主になるのか、もしくは株式会社を設立するのか、を選択する必要がある。

個人事業主の場合は、ABNナンバー(企業納税登録番号)の取得が必須。株式会社設立の場合は、ACNナンバー(オーストラリアン・カンパニー・ナンバー)の取得に加え、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)に、会社名や登録所在地、取締役の氏名、第1回目株式発行の詳細などを記載した必要書類を提出し会社登記を行う。

外国人にとって最大の難関は「ビザ」の問題だ。オーストラリアは起業しやすいといっても、会社登記をする場合、取締役のうち1人は同国の市民権あるいは永住権保持者を登録する必要がある。こういった諸々の手続きは複雑な上、すべて英語で行われるので、弁護士や会計士、コンサルタントなどの専門家に十分相談することをお勧めする。

オーストラリア市場の魅力とは?

ポテンシャルの高いアジア市場が注目される中、人口が少なく市場規模の小さいオーストラリアを選ぶメリットはあるのだろうか。

同国は、北米やヨーロッパなど先進国のマーケットへ参入を図る外国企業が「テスト・マーケティング」を行う場として重要な位置付けを担っている。これは、企業が新製品の正式な発表前に、限られた地域に対して製品の販売を行い消費者の反応を調査するもの。NSW州第2の都市ニューキャッスルは、平均的なオーストラリア人が住む地域として、医療業界などがテスト市場に利用することが多いという。先進諸国に先駆けて、オーストラリア市場にしか投入されない製品もあることから、そういった意味ではイノベーションが進んでいると言える。

マーケティング戦略コンサルティング会社「doq」の代表を務める作野善教氏は、「市場規模は小さいが、グローバル戦略の観点から見て良い面はある。オーストラリアでさまざまなテストを行い、その事例を基にグローバルな市場へ挑戦することで、海外事業展開の投資と運用効率を高める事ができる」と話す。

海外進出企業への支援や人材紹介などを行うコンサルティング会社「NM Australia」代表の永井政光氏は、市場をプロ・サッカーに例えた上で、次のように語った。「アジア市場とオーストラリア市場を比べるとその規模は何百倍も異なります。アジア市場がヨーロッパ諸国の有名リーグならば、オーストラリア市場はアジア諸国のマイナー・リーグ。プレーするならどちらが勝ちやすいのか。そういった視点から見るとオーストラリアは海外の中では起業しやすい国であると言えるでしょう」

注目集める外食産業

 

オーストラリアでは、10年間におよんだ鉱業投資ブームが終わり非鉱業部門の投資拡大が不可欠となった。そんな中、注目を集めている産業の1つに外食産業が挙げられるという。

オーストラリアの物価は年々上昇を続けているが、世界的に見ても1人当たりの外食費用は高い。

永井氏は外食産業についてこう語る。

「以前、私が市場調査を行った時、オーストラリアの外食産業の総売り上げは世界8位でした。この結果は国全体の結果であり、総売り上げを対人口比率に換算するとアメリカ、日本に続き世界3位という驚きの結果が得られました。では、外食産業をやるべきなのか?と言われれば、一概にそうとは言い切れない。始めることは容易だが、利益を上げられるかという点ではハイ・リスクと言えます。人件費や物件費用が高くつくためです。しかし、リターンは非常に大きい。その意味では外食産業は可能性がある業界と言えるでしょう」

また、飲食店などのビジネス売買を行う「平成不動産」代表の関口達夫氏は、オーストラリアの外食産業が、ここ数年で大きな転換期を迎えたと説明する。

「以前は不要だったRSA(酒類を販売・提供する際に必要なライセンス)やFSS(フード・セーフティー・スーパーバイザー)の講習セミナーが現在は必須となった。こうした制度が構築されたのは『外食産業を伸ばしていかなければならない』という裏付けであると見てよい」

では、外食産業に進出する場合に心がけるべき点は何か。ゴールドコーストで飲食店経営を手がける「BONZA Australia」代表の伊藤嘉祐氏は、次のように語る。

「シドニーCBDエリアや東海岸地区など賃貸料が高いエリア以外で、独立した日本食レストランを出店するのが良いですね。座席数は20~40席が妥当だと思います。また、日本人のみをターゲットにした商売はあまりお勧めしません。中国人や韓国人を対象にしたビジネスも増加していますが競争率が高く、成功するのはなかなか難しいでしょう。一番成功する確率が高いのは、オーストラリア人を対象にしたビジネスだと思います。また、卸業など日本食関連のビジネスも地域によっては、可能性があると言えるでしょう」

また、事業計画の段階で、厳しくコストを見積もることも重要だという。「オフィスや店舗を借りる場合、家賃は毎年3~5%値上がりします。事業計画の中で、あらかじめ値上がりを見込んでおく必要があります。また、オーストラリアは人件費が高いので電気や水道などを少し修理するだけでも、多額のコストがかかります。そのコストも見込んでおく必要があります」

成功のカギを握るのは?

実際に起業しても、事業を成功させそれを維持していくことは簡単ではない。では、どんなことに注意すれば良いのだろうか。

作野氏は、「1つの業界や業態にやみくもに注力するのではなく、各業界や業態の役割を理解した上で、事業戦略のポートフォリオとして幅広い分野に目を向けることでビジネス・チャンスの可能性が広がり、収益の安定にもつながる」とコメント。その上で「オーストラリア市場だけに頼らず、日本やアメリカなど海外にも視野を広げていくのが良い」と述べている。市場動向を常にチェックし、幅広い分野にアンテナを張りながら、臨機応変に時代の波に乗ることが、事業成功へつながる1つの道と言えそうだ。

一方、海外で事業展開を図っていく上で、日本人が不得意とするのがコミュニケーションだ。「日本人は良い製品やアイデアを持っているのに、それをプレゼンテーションする力に欠ける」(作野氏)という。英語の上手い下手はさほど重要ではなく、自分の強みを相手に売り込む高いプレゼン能力を身に付けることが、今後の課題となるだろう。

また、事業拡大を狙う場合、日系社会だけでなく「現地社会にどれだけ溶け込めるか」も重要なポイントになってくる。

関口氏は、仕事をする上で重要なのは「信頼関係」と話す。さらに「さまざまな人種がいるオーストラリアでビジネスをするのは容易ではない。しかし、どんな環境や業種であっても重要なのは相手との信頼関係を築くこと。また、オーストラリア人は日本人の『本音と建前』に戸惑うことが多い。誠実な態度で臨むことが大切です」と付け加える。

これから起業を目指す人たちに伝えたいこと

最後に、今回話を伺った4人に、今後オーストラリアで起業を目指す人たちに伝えたいことを聞いた。

伊藤氏:どんな会社を作りたいのか、何が自分の強みなのかを確認し、その強みを生かして起業することが成功への近道です。たくさん失敗することで、経験値が上がります。家賃の高騰、物価の高騰もコスト管理する場合、事前に計算に入れておく必要があります。また、国が変われば想定外のことがたくさん起こります。まさしく、「失敗は成功のもと」ですね。

 

作野氏:お伝えしたいことは2つあります。1つ目は学んだことをすぐに生かすことです。会社経営は法的業務、会計業務などさまざまな知識が必要になります。今日学んだことをすぐ使い、それを2回、3回と積み上げることでスキルになります。2つ目は、ネット・ワーキングや異業種交流会などで出会った人と、『何かを成し遂げる』ことです。ただ名刺交換をするだけで終わる出会いも多いですが、一緒に何かをして汗をかく。問題解決や意見交換を行う。こうしたことで、その出会いがより生きてきます。ただ出会うだけでは仲間意識は生まれないので、一緒に何かを作り出すことは非常に大切だと思います。

 

関口氏:ビジネスは、上昇しても下降しても必ず問題が発生します。また、ビジネスは世のため人のためにしなければうまくいかないことが多いように思いますね。人の心を動かすことは日本人同士でも難しい。ましてや文化、言語が異なる相手の心を動かすことは容易なことではありません。
 状況によって舵取りを変えていくのがトップの役割だと私は思います。企業のトップは大なり小なり常に孤独です。孤独の中での判断や決断。それで下の者がついてくるのか、動くのか、それらが非常に大切なことです。
 起業とはスピードと変化に富んだ継続性、その連続です。人と対面した際にも、信頼関係を築くことで相手は自分を理解してくれます。こういったことは、数多くの現場を踏んだことによる経験が大切になるので、1つ1つの経験と人との関わりを大切にしましょう。

 

永井氏:起業はある意味経験がものを言いますね。共同経営者がいるのであれば立ち上げる時点で方向性を同じ方向に向けておくべきです。また、ビジネスは立ち上げの3年間は安定しないものであると考えておいたほうが良いです。どの業種で立ち上げるのかどうかを悩んでいるのであれば、自身のバック・グラウンドの経験と知識を生かすほうが成功する確率は上がると思います。人件費やコストはかかりますがリターンが大きな国です。初期投資額は高いですが、がんばって欲しいと思います。

取材協力<五十音順>

伊藤嘉祐(いとうよしすけ)

Bonza Australia Pty Ltd 代表取締役

1987年来豪。1989年にツアーガイド会社「Bonza Australia」を設立。現在は、ゴールドコーストで「世界遺産グリーンマウンテン1日ツアー」を行うほか、人材教育派遣、飲食店経営など多岐にわたり事業展開を行う。また、若者たちを応援する完全無料の人生塾「シドニー寺子屋」を6年間運営中。
Web: www.bonzas.com

作野善教(さくのよしのり)

doq Pty Ltd 代表取締役

米国の大手広告代理店に勤務後、2009年来豪。同年、日系企業などのオーストラリア市場展開をサポートするマーケティング・コンサルティング会社「doq」を設立。国際市場に向けて、日本の優れた製品やサービスなどのマーケティング・ソリューションを提供している。
Web: www.thedoq.com

関口達夫(せきぐちたつお)

株式会社平成不動産 代表取締役

章和不動産から独立し、2012年に総合不動産会社としてシドニーを中心に新規レストラン出店開業や飲食店の立ち上げをサポートする「平成不動産」を設立。飲食店のビジネス売買のほか、海外移住の支援や事業投資など多岐にわたる分野で総合コンサルティング業務を行う。
Web: www.heiseirealty.com.au

永井政光(ながいまさみつ)

NM Australia Pty Ltd 代表取締役

2002年に海外起業・進出支援、人材コンサルティング会社「NM Australia」を設立。海外進出を図る企業への支援、経営および人材コンサルティングを中心に活動。また、日本でも中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。
Web: www.nmaust.com

オーストラリアでの起業をフルサポート
ブリース洋子公認会計士事務所 (ブリース洋子CPA)会計事務所

ゴールドコーストで開催された起業塾の様子


オフィスはサウスポート駅近くの便利な立地にある


相談者の状況に応じて臨機応変なアドバイスを提供してくれる

 事業設立の際には、状況に応じて最適な事業形態を選択する必要がある。オーストラリアの事業形態は大きく分けて、個人、会社、トラスト、パートナーシップの4つのタイプがあり、それらを選択する際には節税効果や資産保護、将来の事業売却により得られる売却益へのキャピタルゲイン税などさまざまなことを考慮する必要があるが、これらの意思決定の際には専門家のアドバイスを求めるのが望ましい。

 QLDに事務所を構え、数多くの事業主をクライアントに持つブリース洋子公認会計士事務所では、通常の会計業務に留まらず、相談者の状況に応じて、最適な事業形態の選択や、設立のサポートなどの包括的なアドバイスを行ってくれる。例えば、最も簡単で低資金で始められるのは個人事業の形態だが、個人が被るリスクや利益が大きくなった場合の節税効果を考えると、会社やトラストといった形態での起業が有効だということなども教えてくれる。またリスクや利益が50対50で分配されるパートナーシップにおいても、相手側の事業形態により長所と短所が変わってくる。

 より詳しく知りたいという人は、同事務所が主催する「起業塾」がおすすめだ。会計はもちろんのこと、金融、商業法、雇用法、保険、マーケティングなどの幅広い分野のプロフェッショナルたちを講師に招く同セミナーは、起業者たちから好評を得ている。

<事業内容>
 個人タックスリターンの作成と申告、各種事業形態の財務諸表作成と税申告、消費税申告、記帳代行とトレーニングなどの税金・会計全般の業務のほか、起業サポートやビジネス・コンサルティングなども実施。海外からの収入がある場合の、オーストラリア国税局への申告や監査に関するアドバイスも行っている。
●会社名(英語):Yoko Briese Accounting & Business Services
●会社名(日本語):ブリース洋子公認会計士事務所
●住所:Level 8, Southport Central T3, 9 Lawson St., Southport QLD
●Tel:(07)5667-9245
●Fax:(07)5667-9254
●Mobile:0412-606-023
●Email:yoko@ybabs.com.au
●Web:www.ybabs.com.au

 

ビジネス・不動産の豊富な経験と知識で起業をサポート
ハーディング法律事務所 (ハーディング裕子 代表取締役/弁護士)法律事務所

ゴールドコーストを拠点に、ケアンズ、シドニーの案件も多数扱う

 既存のビジネスを購入する際に発生する、購入契約に含まれる内容や購入時のビジネス形態の選定、店舗リースの引継ぎ・リース契約の条件など、多岐にわたる確認事項に対し、専門弁護士が適切なアドバイスを提供してくれる法律事務所。酷似する名称の会社が既に存在した場合にトラブルになる可能性があるビジネスネームの取得に際しても、それを防ぐための商標登録に関するサポートなども行っている。東京オフィスに続き、12月には新たにシドニー・オフィスをオープン予定。

● 住所:Level 1 Kaybank Plaza, 33 Scarborough St., Southport(QLDメイン・オフィス)/東京都港区虎ノ門4-3-1 城山トラストタワー33階 クイーンズランド・ビジネスセンター内(東京オフィス)/Level 32, 1 Market St., Sydney(シドニー・オフィス12月1日OPEN) ●Tel: (07) 5630-3877 ●Mobile: 0421-779-164 ●Fax: (07) 5676-5310 ●Email: yh@hardinglegal.com.au ●Web: www.hardinglegal.com.au

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