【特集】新旧対談・豪州の留学業界「留学エージェントの役割の変遷」

大橋賢一x諸澤良幸

日豪プレス40周年特別企画

新旧対談・オーストラリアの留学業界
「留学エージェントの役割の変遷」

インターネットやスマートフォンの発達と共に、留学エージェントに求められる役割は、かつて主流だった海外生活のサポートだけではなくなりつつある。国際舞台で活躍できる日本人の育成を目的とする「海外での職場経験プログラム」を展開するBBIジャパン・センター・オーストラリア(以下、ジャパセン)代表の大橋賢一氏と、現在トレンドであるフィリピン留学をオーストラリア国内で唯一専門的に提供するMorrow World代表の諸澤良幸氏。両氏にオーストラリアでビジネスを立ち上げた経緯から、今後留学エージェントに求められる役割に至るまで話を伺った。文・構成=木下かをり、写真=クラークさとこ


『人材を育てていくための、僕らは水先案内人』
大橋賢一(BBIジャパン・センター・オーストラリア)
おおはしけんいち/ニュージーランド、オーストラリアでの生活を経て、日本でオーストラリア系のビザ・人材・留学会社に転職。その後再び来豪し、2004年「Big Bridge International」をオーストラリアと日本で設立。留学生のサポートを行うジャパン・センター・オーストラリア(Web: japancentre-au.com)では、グローバル人材育成に向けて英語環境での職場経験プログラム事業などを実施。

『ハングリー精神を持てる機会の1つが海外、そして留学』
諸澤良幸(Morrow World Inc.)
もろさわよしゆき/大学卒業後、日本最大のレジャー・アミューズメント会社に就職。フィリピンでの3カ月の語学留学の後に来豪。シドニーの飲食店グループのマネージャーや過去フィリピン在住の経験を生かし、オーストラリア国内で唯一フィリピン留学を専門的に提供するエージェント「Morrow World Inc.」(Web:tabiken.com)を2015年に設立。

オーストラリアでの起業

――オーストラリアでビジネスを展開されているお2人にお聞きしたいのですが、そもそも来豪したきっかけは何でしたか。

大橋賢一氏(以下、大橋):来豪前、大手旅行会社で営業の仕事をしていましたが、お客様と接する機会も多く国内外で添乗員もしていました。その当時は英語を全然話せなかったのですが、お客様から頼られることもよくあったので、何とかしなければいけないという気持ちがありましたね。

その会社で5年ほど働いた後に“世界を股に掛ける男になりたい(笑)”という思いから、英語もしっかり学びたいと考えました。当時オーストラリアのワーキング・ホリデー制度は25歳までで、その時28歳だった私には同制度でオーストラリアに行ける選択肢がなかったので、まずはニュージーランドに学生ビザで行き、その後ワーキング・ホリデー・ビザで働きました。日系の旅行会社のオークランド支店で働いた後、豪・NZ系旅行会社で働きました。そこでは1人の上司だけが日本人という環境でしたが、その時に苦労をした経験が今に良い形でつながっていると思います。

旅行業界を転々とした後、オーストラリアの永住権を取得できたので来豪しました。オーストラリアという国については、暖かそうで良いな、にぎわっていそうで良いなという感覚でしたね。

諸澤良幸氏(以下、諸澤):日本では、大手レジャー・アミューズメントの会社で約4年間、営業から人材育成の業務を幅広く携わり働いていました。就職した当時は、海外に対する関心は全くなかったのですが、ある旅行をきっかけに英語を学ぶことが、海外の人たちの価値観や文化、宗教を学ぶために大切なツールだと実感したんです。

またその当時、高校1年生だったいとこがオーストラリアの高校に通っていたこともあり、オーストラリアを身近に感じたため、来豪することを決めました。

――なぜオーストラリアで、留学エージェントを立ち上げたのでしょうか。

大橋:日本で働いていたころ、株式会社を立ち上げたいという思いがあったのですが、会社設立に1,000万円の資本金が必要でした。しかし資本金が足りず悩んでいた時に、先にオーストラリアで会社を立ち上げ、その後日本で立ち上げることで両国で株式会社を設立できることを知りました。また、日本に帰国した際に転職した人材会社がオーストラリア系で、留学も取り扱っていたことがきっかけで留学エージェントを立ち上げることを考えました。

その人材会社は留学業の中でも「日本語教師を海外に派遣をする」という日本人であることを生かしたインターンシップ・プログラムを主に扱っていました。日本語教師、日本語アシスタント教師は日本人であることが望ましいです。その会社で働く中で、そもそも自分自身が海外生活をする上で何ができるかを考えた時に特別なスキルがありませんでした。では何ができるのかと考え、「俺は日本人だ」という根本的な所にたどり着いたのです(笑)。

日本人は海外の人びとから評価されるポテンシャルを持っていますが、その反面、伝える力やリーダーシップを取ることを苦手としているのも事実です。このスキルを身に着けることによって、世界でも日本でも国際人として活躍できるのではないかと考え、そういった人材を育てるためのビジネスをしたいと思い、現在のエージェントの立ち上げに至ります。オーストラリアは、日本語学習者数が世界第4位と多く、優れた日本語教育環境を持つ国でもあるので、この国をベースにしています。

諸澤:私の場合、家族が起業家一家だったんです。祖父が会社経営をしていて自分も経営者になることを夢見ていました。また弟が会社を立ち上げたこともあり、ビジネスを始めたいと考えていました。

ただその時に、国内で自分が関心を持てたビジネスがなかったことと、海外で新しい価値観に触れることが何かのヒントになるかもしれないと思ったことから今に至っています。最初はオーストラリアではなく、留学していた友人の薦めがきっかけでフィリピンに3カ月ほど滞在しました。フィリピンで授業を受けた時、この価格でこんなに勉強ができるのかと、コスト・パフォーマンスの高い留学に圧倒されました。また、3カ月の滞在で英語が全く話せなかった自分が言いたいことを発言できるようになりました。

その後、ワーキング・ホリデーでオーストラリアに渡り、「Masuya Group」で採用して頂き、ホール・マネージャーを任せてもらえることになりました。7割が現地スタッフ、残りの3割が日本人という環境の中で、英語の壁や、いろいろな苦悩がありましたね。例えば、各店舗の店長が集まるミーティングでも、英語でのプレゼンがほとんどできず、5分で終わるという経験もしました。

そんな日々を過ごし、セカンド・ビザのために、タスマニアのファームへ行きました。セカンド・ビザの取得後は、再度フィリピンへ渡ろうと思ったのですが、オーストラリアからフィリピンの留学をしっかり扱っているエージェントが1社もなく、日本オフィスのエージェントとやり取りをするしかありませんでした。そこで、そういったサービスを提供するエージェントを自分自身の力で立ち上げられるのではないかと考えたんです。

フィリピン留学の費用は、授業料、滞在先、1日3食の食事、ハウス・キーピング、クリーニングなどが全て含まれて1カ月当たり12万円くらいから、1人部屋でも20万円程度。1日の半分以上の授業がマンツーマンで、勉強だけに集中できる環境が用意されています。このフィリピン留学という選択肢をオーストラリア国内にいて、英語に悩んでいる人やスキル・アップを目指したいと考えている多くの人に広めたいと思い、今の留学エージェントを立ち上げました。

――諸澤さんにお聞きしたいのですが、フィリピン留学を希望される方はどういった理由が多いのですか。


諸澤:フィリピン留学について元々詳しい方が多いですね。周りの経験が口をそろえて「良かった」と言うことが多いようで、良いイメージを持って来られる方が多いように感じます。その理由として、コスト・パフォーマンスが良い、短期間で英語がしっかりと勉強できる、マンツーマンの授業体制、環境が整っているなど、英語を本気で勉強したいと思っている人たちへの条件がしっかりそろっているからだと思います。

日本では経験できない体験ができるのも魅力で、児童養護施設への訪問や、ゴミ山や海に行きマングローブの植林ボランティアをするなどの社会貢献もできる。フィリピンは、自分自身の価値観を変える1つのきっかけとなる場所だと思います。開発途上国の文化を知るとことができるのも、大きなポイントではないでしょうか。

世界で求められる国際人になるために

――ジャパセン「日本語教師海外派遣プログラム」、モローワールド「オーストラリアからフィリピン留学」とそれぞれ特化した分野をお持ちですが、共通項として「国際舞台で活躍できる日本人の育成」、つまり国際人になることを見据えたサービスを提供しているように感じます。「国際人」とは、どういった人物であると考えますか。

大橋:言語を操れる人であることはもちろんですが、そこが重要というよりも外国人の物の考え方や仕事の仕方を知っている、それに加えて日本人のアイデンティティーをしっかりと持っている人であることが国際人としての条件ではないかと思っています。

諸澤:その点については同感です。ただ単に外国語ができるというわけではなくて、それはツールであり、自国以外の人たちが考えることを同じような目線で考えられることが重要だと思います。初めて海外を訪れる人にありがちなのが、自分と異なる考えを持つ人びとを自分と違うからという理由で引いて見てしまうこと。いろいろな人がいる中で、それを柔軟に受け入れ、共感できることが大切です。このスキルがあれば国際人であるというようなものはありませんね。

大橋:本当にその通りだと思います。コミュニケーション能力があるということは、自分自身が持っている意見をただ単に通すということではありません。相手の考え方を知ろうと努力し、理解した上でどうするか考え実行する事ができる人こそ国際人だと私は思います。留学とは、そういった経験を手にする機会が持てるということです。

シドニーの留学業界変遷

――シドニーにおける留学業界の変遷をどのように見られていますか。

大橋:オーストラリアの留学エージェントの勢いがすごかったのは1997、98年ごろかと思います。その時に活躍していたエージェントの特徴は「留学生のサポート・センター」という役割。来豪した人たちに対して学校や銀行口座の開設、携帯電話、PCなどのサポートがメインで、まずはオフィスに来て頂くという形が多かったのではないかと思います。恐らく今はそういう形を取っているエージェントは少ないと思います。その背景として、当時はそういう場所に行かなければ情報が得られませんでした。そこで情報を得たり、友達ができたり、さまざまなイベントを計画していましたね。現在は、情報が簡単に得られるようになったことで直接留学エージェントのオフィスに行く必要がなくなりました。それが目に見える大きな変化の1つであると感じます。

諸澤:この数年間の中でまだ大きく感じることはありませんが、個人的には、今後語学ができるというスキルだけでは十分ではなくなると考えています。それを踏まえて実際に自社が行っている取り組みとしては、オーストラリア国内の日本人へのコミュニティーの提供、交流の場を作ることです。ビジネスやデザインなど、何かに特化したコミュニティーを作っていくという取り組みをしています。自分の興味を持った分野を広げていくお手伝いができればと考えており、そこが今後変わっていくことの1つであると思いますね。

大橋:本当にそうですね。今までそういうのはなかったですからね。今そういった仕掛けを留学エージェントが行っているというのは、これもまた新たな変化ですよね。

諸澤:将来のキャリアに向けたスキルを学ぶ場を提供するというのは、新しいエージェントの形だと思います。留学前の情報収集がインターネットで対応でき時間も省ける分、オーストラリア国内でできることの可能性は更に広がっていきます。その可能性に向けてサービスを提供していくことが、留学エージェントとして面白い変革になるのではないかと思います。

――留学生のサポートを行うだけではなくなりつつあるということですね。では、今後求められる留学エージェントの役割とは何でしょうか。


諸澤:スマートフォンの時代になってきて物事をネットで検索する人たちがほとんどである今、留学に来る人たちがどういった分野に興味・関心を持っているか把握できるようになっています。私たち留学エージェントも、留学生たちが欲しい情報を発信できるような場所、プラットフォームを作っていく必要性があると思います。コミュニティーや勉強会、セミナーなどに参加して、楽しいだけの留学生活で終わらせずに、本当に成果を得る体験にして欲しいですね。その目的に特化したサービスをしていくことが今後必要となっていくと思います。

大橋:少し話はそれますが、今の若者は考える力が以前よりも劣るような気がしています。だからそういう場所の提供が必要なんだと思いますね。実際、自分の力で考えなさいと思うのですが。自分の目標に向かって留学をどのように生かすのかをしっかりと考えて欲しいと思います。もちろん手助けは必要ですが、目的意識や自分で判断する人間力、力強さを持っている人はすごく少なくなってきている気がします。

先ほどの変遷につながるかもしれませんが、自分自身がワーキング・ホリデーの世代だった当時は本当に貧乏でお金がなく親の援助もない中、何とか1年かじりついてやろうという気持ちの人が多かった。しかし今は旅行の延長で来ている人が多いです。それを悪いとは思いませんが、今後の人生に向けた意識付けは目的意識を持っている人とそうでない人の間ですごく差があるのではないかと思います。ただ、留学という環境自体は、それに気付ける場でもある。だからこそ、諸澤さんが言っていた機会を与えてあげるというのは大切です。もっとたくさんの壁にぶつかって、人間力を高めて欲しいですね。

諸澤:どこに行っても楽しめる人たちっているじゃないですか。そういったどこの国に行っても自分の世界を築くことができたりとか、楽しいことを見つけることができる人が今は少ないと思います。自分自身も若い世代ではありますが、それでも感じることが多いですね。ハングリー精神とかは、自分の環境を変えないと難しいと思います。だからこそ、どこでも楽しめる力やハングリー精神を持つということは、海外だからこそ培える力です。ハングリー精神を持てる機会の1つが海外、そして留学だと思います。こっちで苦労はした方が良いのではないでしょうか。

大橋:本当にそうです。情報が氾濫していることには、良い面もあり悪い面もあります。そこで何をするのかを考えることですね。日本人は守られて育ってきました。人間的な力強さや、個人で意見を発するといったことが少ない。それに対して海外の人は個人主義や、自分で考えて何かをしていくといった教育を受けて育ってきている人がほとんど。幼稚園の時くらいからプレゼンをやっているくらいですから。

日本人は今後、日本だけでなく国際社会で生活をしていかなければならない。そこでうまくやっていくためには、日本から発信できる人材が不可欠です。これからの留学はそういった人材を育てていくための、僕らは水先案内人みたいな形で、そういう場の提供やプラン立てを提案・提供したい。こういったものがあるということを、プロから伝えてあげることと、次世代を担う若者たちが国際舞台で活躍できるようサポートすることができれば良いと思います。

――最後に読者の皆様に、ひと言ずつお願いします。

諸澤:留学業界とは、人が成長する場所だと思っています。留学を経験して何かを身に着け、世界で活躍するためには、やはり世界を知らないといけません。オーストラリアという国は、ビザの面でも、仕事の面でもすごく条件が良い所だと思います。フィリピンにおいても、英語を短期間で集中して学べたり、開発途上国の文化を体験できます。留学はきっかけ作りであり、スキルと経験を積んでいく場所です。留学を経験することによって、その先の長い人生の中で幅が広がっていく。その先のビジョンを見据えた上で、留学生が多く来ることを私たちは望んでいます。

大橋:留学の理由も人それぞれでしょうし、いろいろな目的で来て問題ないと思います。ただ、もし来るのであれば、諸澤さんが言うような先のビジョンを持った上で、この留学を生かすというように利用して欲しいです。広い意味で言えば、好きなものを見つけて欲しい、それがその後の人生にも生かされていくような気がします。

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