日本発のテキスタイル・アートとして世界で注目の「BORO」辰巳清氏インタビュー

日本発のテキスタイル・アートとして世界で注目の「BORO」辰巳清氏インタビュー

日本発のテキスタイル・アートであるBOROの展示会が、6月から8月、シドニー・メルボルン・キャンベラで開催される「クラフト&キルト・フェア」にブースを招待出展。その展示会に合わせ来豪した、アミューズミュージアム館長・辰巳清氏に、BOROが世界中から注目されている理由やその魅力について話を伺った。(聞き手:石井ゆり子)

――BOROについて、そして今回オーストラリアの展示会に出展している作品について教えてください。

東京・浅草にあったアミューズミュージアムに展示していたコレクションは元々、故・田中忠三郎という民俗学者が1人で収集した、主に青森を中心とする東北で、実際に農民や漁民が着ていた衣類です。年代的には、1800年ぐらいのものもあります。今回オーストラリアで展示している「ドンジャ」と呼ばれる物は、布団替わりに使われていました。4~5世代にわたり150年間使われた物で重さは15キロほどになります。元の布がどれだか分からないくらい継ぎはぎが繰り返されています。

防寒着として使われていた「丹前」
防寒着として使われていた「丹前」
お産の時に使われていた「ボドコ」
お産の時に使われていた「ボドコ」

青森は寒冷地で綿花が育たずコットンが採れないため、麻でできています。自生力の強い麻を家の近所に植え、それを糸として紡いで布を織機で織って家族の衣類を仕立てていたのです。専門の職人もいましたが、ほとんどは一家の(特に女性の)家事の一環として衣類を作っていました。雪が5メートル以上も積もる世界有数の豪雪地帯のため、小さな布切れや短い糸も大切に衣類が使われていました。寒い地域では、食べることよりも着ることの方が大事とされ、何世代にもわたって使いまわし続けられていたと言います。1人が1つの布団を持てるほど豊かではないため、1つのドンジャに3、4人がくるまって肌を寄せ合い寝ていたそうです。

また、主に防寒具として使用され、外出着・仕事着とされていた「丹前」や、お産の時に使われていた「ボドコ」も展示されています。お産の際には世界中どこでもいらなくなった布が使用されていたと言われています。それらは汚れてしまうため、捨ててしまうことがほとんどですが、その布さえも使いまわすほど貧しい地域だったということです。亡くなった祖父母が着ていた衣類を継ぎはぎした布で赤ん坊を取り上げることで、その赤ん坊は1人で生まれて来たのではないというようなメッセージも込められていたと言います。

――日本で主に防寒具として使用されていた「襤褸(ぼろ)」にアート性が見出され、日本発のテキスタイル・アート「BORO」としてキルトやクラフト界で世界的に注目されている理由はどういったところにあると思いますか。

今年3月に閉館しましたが、「BORO」を展示していた東京・浅草のアミューズミュージアムには、ファッション・デザイナーらなど世界中からたくさんの人が来てくれました。彼らはBOROを観て、「無作為の美」すなわち意識しないで作られた美しさがあると言います。しかし、僕個人としては、作為はあったと思っています。例えば今回オーストラリアで展示している丹前などは、シンメトリーになるように工夫され作られているように見えます。

大切なのは中身だという理由でモテ服だとか、外見ばかり気を使っているなど、ファッション・装うということは軽く論じられがちです。しかし僕は「装う」ということを通し、少しでも自分を良く見せアピールし、結果自分の遺伝子を残していこうとする行為は人間だけでなく、人間以外の動物にも共通する、生き物としての本能のようなものを感じます。だから、人間はどんなに貧しくてもお洒落をするのだと思います。BOROには、家族の健康を考え、少しでも温かく、快適に、そして美しく装うというような思いが込められているのではないでしょうか。継ぎはぎの配置やデザインの面白さだけでなく、そこに込められている思いに心を揺り動かさられるのが、BOROを見た時の感動の本質だと思います。

2009年にアミューズミュージアムがオープンしてしばらくは、クラフトや手芸好きであろう年配の客層が多かったのですが、何年かするとファッション関係らしき人びとが増えました。13年には世界的ファッション・ブランドであるルイ・ヴィトンが日本のBOROをテーマにしたコレクションを発表し、翌14年にはアルチュザラが同じくBOROをテーマにしたコレクションでファッション界のオスカーとも呼ばれるCFDA賞を受賞しました。15年にコムデ・ギャルソン、その後、僕が知る限りでも30~40のファッション・ブランドがBOROをテーマにしたコレクションを発表していますね。

――浅草のアミューズミュージアムが惜しまれながら閉館してしまいましたが、その後、世界巡回展が始まった今の心境とこれまでの活動を振り返り、どのような思いでいらっしゃいますか。

1年前に同ミュージアムの閉館が発表されるとすぐに、世界中の美術館などのキュレーターたちから巡回展に来て欲しいと問い合わせが来ました。せっかくなので、新しいミュージアムが開館するまで、いろいろな国を周るのも良いかなと思いました。今回、オーストラリアへはシドニー、メルボルン、キャンベラで行われるクラフト・キルト・フェアの一環で来ました。

笑顔でBOROの魅力について語ってくれた辰巳氏
笑顔でBOROの魅力について語ってくれた辰巳氏

オーストラリア3都市を周った後、10~12月に中国2都市(北京・深圳)を巡り、来年3~6月に行われるニューヨークでの展覧会には100点くらい持って行く予定です。

元々、浅草のミュージアムは入館者の3~4割が外国人でした。オーストラリアのクラフト・フェアでは日本の伝統的な刺繍(ししゅう)である刺し子などを出品しているブースも多く目にし、改めてそれらの人気を実感しています。オーストラリアはもちろん、各国の主催者の方々とやり取りをしている中で、皆さんがBOROに対して理解を示し、興味・感心を持っていることを肌で感じます。

――世界巡回展後、日本国内で新アミューズミュージアムの開館を検討しているとのことですが、今後の展望について伺えますか。

より世界中の人にBOROを観て頂ける場所を検討しています。それまでの期間にこうして世界巡回展を行うことができたのはすごく良かったと思います。

――オーストラリア滞在中は、お仕事以外にどのようなことをして過ごす予定ですか。楽しみにしていることはありますか。

今回で来豪は2回目なのですが、前回タスマニアに訪れた時にMONA美術館に行き、度肝を抜かれるほど面白さを感じたので今回も再訪します。世界中約500のミュージアムを訪れていますが、だんとつにおもしろかったと思います。ちょうど、タスマニアでアート・フェスティバルが行われているので、ぜひ行かなば!ということですごく楽しみにしています。

――最後に、BORO世界巡回展に訪れる日本人の方に向けてメッセージをお願いします。

BOROが展示されたブースにはたくさんの来場者が訪れた
BOROが展示されたブースにはたくさんの来場者が訪れた

僕自身もブラジルに留学していた経験があり、異国で暮らしていたことがあります。日本のBOROが世界的に注目されていることは、日本人でも知らない人が多いと思います。外国に住んでいると、外国人が日本を評価する機会やその情報を耳にすることがあるでしょう。外国人にとっての日本像は、これまでのいわゆる日本の伝統的な文化や美術とされていたものとは違う視点で見られたり、情報が更新されていっているのではないでしょうか。だからそういう目線で、BOROを観て欲しいです。

また、世界各国の美術館などのキュレーターと話をしていると、なぜ日本にはこれほど美しいぼろ布があるのかという質問をよく受けます。それには、江戸時代の日本幕府の政策がすごく影響しています。1654年に江戸で、町民は勝手にごみを捨ててはいけない、全て分別回収するという法律ができたことも背景にあります。その時に日本人の間にリサイクル精神が広まったともされています。そういった「もったいない」という日本人独特の感覚が、現代の日本の美意識につながっているのではないかと思います。そういったことも考えつつ、資源に乏く、しかも自然災害が多い日本で、その困難に立ち向かい、克服して乗り越えていく日本人の真の強さをBOROから感じ取って頂きたいと思います。

BORO世界巡回展

Web: www.craftfair.com.au(Craft & Quilt Fair)
入場料:<前売り>大人$22、シニア$19、コンセッション$17、5~19歳$9、4歳以下無料、当日券あり
<メルボルン>
日時:7月25日(木)~28日(日)9AM~4: 30PM
会場:Melbourne Exhibition Centre, Hall 4(1 Convention Centre Pl., South Wharf VIC)
<キャンベラ>
日時: 8月15日(水)~18日(日)10AM~PM
会場:Exhibition Park in Canberra, Mitchell


たつみ きよし
奈良県出身。同志社大学商学部卒業後、ブラジル留学を経て株式会社アミューズに入社。主に音楽・演劇の公演制作、海外ミュージカルの招聘興行などアート・マネジメントと舞台制作全般を担当。2009年アミューズミュージアム開館と共に館長に就任。館内運営とキュレーションを担当。アミューズ・エデュテインメント代表取締役社長を務める

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