「江戸凧」凧師・土岐幹男さんインタビュー

「江戸凧」凧師・土岐幹男さんインタビュー

シドニーCBD南部に位置するジャパンファウンデーションで10月12日まで開催中の「Edo in the Sky: Traditional Kites of Japan」では、職人技で1枚1枚丁寧に作られた日本の伝承玩具である江戸凧が展示されている。同展示会とワークショップに合わせ来豪した、凧師・土岐幹男さんに、江戸凧の制作に懸ける思いやその魅力を始め、日本の伝統を絶やさないために日本国内外で行っている活動について話を伺った。(文・写真:石井ゆり子)

凧の骨組みの部分について丁寧に説明してくれた土岐さん
凧の骨組みの部分について丁寧に説明してくれた土岐さん

――日本の伝統的な江戸凧の職人として42年もの経歴をお持ちですが、土岐さんにとって江戸凧とはどういった存在ですか。その魅力をお聞かせください。

僕は東京で生まれ育ったのですが、若いころ60~70代くらいのおじさんが江戸角凧を揚げてる姿を見て、とにかく格好良いと思いました。僕らが子どものころは、冬の遊びの1つとして、正月が近くなると駄菓子屋さんなどに行って凧を買って遊んでいました。今は多くの建物が建設されているので難しいですが、昔は凧を揚げて遊べる原っぱなどがたくさんありました。東京では、だんだん凧揚げをする場所がなくなってきたことから、凧揚げはどんどん廃れてきていますが、何とかして日本の伝承遊びをつなげていきたいという気持ちを持ち続けていました。

日本には地方によって、その土地伝統のさまざまな凧があります。東京は「江戸凧」です。僕はその東京の凧を継承していこうと頑張っています。東京・上野に、江戸時代から3代にわたり凧屋を商売にしていた橋本禎造(ていぞう)さんという人がいました。彼が凧作りのデモンストレーションをしているのをよく見に行ったり、お宅へ遊びに行かせてもらったりなどするうち、作品や職人技など、その魅力に惹かれていきました。やはり後々まで残していくべきものだと改めて思いました。

子どものころから凧揚げをして遊んでいたので、その面白さは知っていたのですが、実は、凧揚げは大人の遊びでもあります。昔でいう「旦那の遊び」です。うまく揚げるには技術が必要ですし、日本画が描かれていたり、粋(いき)な江戸の文化が息づいているように感じられます。

※東京の凧が総称して「江戸凧」と呼ばれる。「江戸奴凧」「江戸角凧」などがある。縦長の長方形で長いうなりが付き、糸目(凧に付いている14本の糸)」で揚げられる凧を特に「江戸角凧」「江戸角」と言う。

展示されている凧は、間近で細部にわたり観ることができる
展示されている凧は、間近で細部にわたり観ることができる

――江戸凧は、鮮やかな色彩が美しく印象的ですが、制作する上で心掛けているポイントはありますか。

一番大事なのは骨です。骨が良ければ何とか糸目で調整でき、揚げることができますが、骨の悪い物はどうしようもありません。骨をいかにうまく削るかによります。さまざまな工程がありますが、まずは竹を切って半年以上乾かします。大体9月頃から12月ぐらいまでの時期に切らないと、竹に虫が入ってしまいます。竹に水が上がらないうちに切り、よく乾かした物を割るのがポイントです。凧の寸法まで薄くし、反らした際に奇麗なカーブが出ないと、歪んだ凧ができてしまいます。航空力学の要素もあり、美しい曲線を作らなければバランスが取れません。だから重さや強さも含めて、同じ骨を作り出さないといけないわけです。

骨はもちろん、絵柄も全て手作業です。僕は、子どものころから絵を描くのが好きでした。凧は空に揚がる物なので、地上から見ても分かるように大きく絵を描かなければなりません。通常の絵画などは、手前の物や人を手前に描き、後ろにある物や人を後ろに描きますが、凧の場合、そうすると下から見にくくなってしまいます。ですから、同じ位置に描きます。それは凧絵の基本で、下から見てそれが何の絵か分かるように描かなければならないのです。また、家紋や歴史的人物の描き方にも決まりがあり、例えば源義経を描く場合、名前を文字で入れなくても彼だと分かるように描きます。鑑賞する人は、ある程度知識がないと分かりませんが、知識を持って見たらもっと面白いと思います。歌舞伎と同じです。

壁面だけでなく天井から吊された作品を観ることができ、違った角度から鑑賞を楽しめる
壁面だけでなく天井から吊された作品を観ることができ、違った角度から鑑賞を楽しめる
会場には40点に及ぶ江戸凧が所狭しと展示されている
会場には40点に及ぶ江戸凧が所狭しと展示されている

――世界中のカイト・フェスティバルに招待出展され、世界各国を訪れていらっしゃいますが、江戸凧が世界的に注目されている理由はどういったところにあると思いますか。

日本びいきの人は、和紙が面白いと思うみたいです。和紙にもいろいろあるのですが、奇麗な和紙を使ってみたいらしいのです。西洋人が作る凧では、リップストップ・ナイロンと呼ばれるパラシュートの生地が縫い合わせられています。そこにカーボンロッドや釣り竿などで使用されるグラス・ファイバーなどを骨として作成します。僕が和紙と竹で作る作品を見て、それに興味を示す人が多いです。今では西洋でも和紙や竹を使って凧を制作する人がいます。カイト・フェスティバルは文化交流みたいなもので、そこで参加者同士が知り合い、「そんなひもの結び方があるんだ」など素材の違いなどについていろいろ話し、お互いの良いところを取り込み合うという側面もあります。

――同展で展示されている作品についてお話を伺えますか。数ある作品の中からどのように厳選されたのですか。

日本からは50点持って来たのですが、全部で40点飾りました。江戸凧は、四角い凧のことを指します。東京の凧で、他にも六角形の凧や奴さんなどいろいろありますが、今回は大・中・小のサイズの四角い凧を展示しています。また、36年前から正月用の干支凧、約300枚を毎年制作しており、日本の文化を紹介したいと思い、その十二支を描いた物もあります。他には、歌舞伎の演目を題材にした物や、墨一色で描いた物などさまざまです。

1年に1枚作成され、12年の歳月を掛けて今年完成した十二支シリーズ
1年に1枚作成され、12年の歳月を掛けて今年完成した十二支シリーズ

――7月10日に行われた同展のオープニング・レセプションと11日・12日に行われたワークショップの感想をお聞かせください。

オープニング・レセプションには、日本人も含め多くの人に来て頂けました。僕が以前、ボンダイ・ビーチで開催されたカイト・フェスティバルに参加したのを覚えていてくれて、プレゼントを持って駆け付けてくれた人がいたり、たくさんの方々とお話できて楽しかったです。

また、昔から交流のある世界中で玩具の凧を販売しているアメリカ人の友人が、3年程前に僕が凧を作成した際の姿をDVDに収めたいということで、約1年掛けて制作してくれたDVDの映像を会場で流してくれました。また、僕が日本の凧についてや、カイト・フェスティバル、ワークショップの様子を写真100枚くらいにまとめたスライドを使ってお話させて頂く時間も持てました。

3回にわたり行われたワークショップには、親御さんと共に小さい子どもたちが90人ほど参加したのですが、みんなわりとちゃんとを話を聞いてくれて、学校の先生になったみたいな感じでした。日本も含め、さまざまな国で子どもを対象としたワークショップを開催していますが、言葉が違うだけで子どもはみんな同じです。1~2時間くらい掛けて制作した凧は、毎回、狭い所でも良いから絶対に外へ出て揚げてみる時間を設けます。一度は揚げてみないとその楽しさは分からないのです。僕は子どもが好きなので、彼らが笑顔で凧を揚げている姿を見るとうれしくなります。

子どもたちを対象としたワークショップは、1クラス約30人が参加し大盛況だった
子どもたちを対象としたワークショップは、1クラス約30人が参加し大盛況だった
7月10日に開催されたオープニング・レセプションには多くの人が訪れた
7月10日に開催されたオープニング・レセプションには多くの人が訪れた
凧作りのワークショップで子どもたちと一緒に絵を描く土岐さん
凧作りのワークショップで子どもたちと一緒に絵を描く土岐さん
ワークショップで制作した凧を屋外で揚げる子どもたち
ワークショップで制作した凧を屋外で揚げる子どもたち
ワークショップを終えた土岐さん(左)と娘の亜沙美さん(右)
ワークショップを終えた土岐さん(左)と娘の亜沙美さん(右)

――世界各地でのカイト・フェスティバルへの参加や展示会、ワークショップを始め、本の出版などその活躍は多岐にわたりますが、今後の展望について伺えますか。

今まで以上に、もっとこのような機会を増やし、さまざまな人に日本の文化を見て、知って、経験してもらうことができれば幸いです。楽しく凧を作って、揚げてというのを長く続けていきたいです。

今回の展示会とワークショップには、娘の亜沙美も一緒に来豪しました。彼女は3年程前から少しずつ凧作りに興味を持ってくれ、制作を始めたのです。彼女は今まで、フルタイムで別の仕事をし、離れて暮らしていたのでなかなか会う機会がなかったのですが、今は彼女も頑張って手伝ってくれています。

竹を割るのは、簡単そうに見えるけれど難しい作業です。力の加減によっては、普通に割ると、どちらかが細くなってしまったりするので、真っ直ぐに割るためには技術が必要になります。奇麗なアーチを出すのも経験がないとできませんし、何千本と割らないとうまくなりません。僕は、年末になると正月用の干支凧を300枚ぐらい作るのですが、1枚につき骨が6本必要なので、およそ1,800本の竹を割らなければなりません。完璧な骨を作らなければ、凧は揚がりませんので、その骨を奇麗に削れるようになるまでにもやはり3年くらいは掛かります。毎日のように練習しないとできません。彼女は、少しづつ技術を学んでいるところなのでまだ勉強中ですが、僕のやってきたことがうまく伝われば、また次の次の世代にもつながっていくのではないかと思います。

――最後に、「Edo in the Sky: Traditional Kites of Japan」に訪れる方に向けてメッセージをお願いします。

やはり、日本の特徴である和紙と竹を使用して作られた凧ですので、文化的な目線から楽しんで見てもらいたいと思います。日本の凧は、物によっては絹が貼られていたり、伝統的な技術なども見てもらえます。また、絵に描かれたストーリーも楽しんでもらえると思います。例えば源義経が描かれた物からは、源平の戦いなどさまざまな物語がうかがえます。そういう日本の歴史的な背景や、歌舞伎の演目が描かれた作品もあるので、歌舞伎に興味を持ってもらえたり、さまざまなことを考えながらご覧になって頂けるとうれしいです。

特に日本を離れ、こちらにいらっしゃる人はなかなかこういった日本の文化に触れる機会がないと思うので、ぜひ一度見に来て欲しいです。作品を観て何かを思い出したり、懐かしく思ったりする人もいるのではないでしょうか。

■Edo in the Sky: Traditional Kites of Japan
会場:The Japan Foundation, Sydney(Level 4, Central Park, 28 Broadway, Chippendale)
日時:開催中~10月12日(土)、月~木10AM~8PM(9月30日~10月4日・8日~10日は6PMまで)、金10AM~6PM、土10AM~4PM、日・祝休
料金:無料
Tel: (02)8239-0055
Email: reception@jpf.org.au
Web: www.jpf.org.au/events/edo-in-the-sky

とき みきお◎東京都出身。グラフィック・デザインを学んだ後、子どもの伝承遊び・玩具を研究。都内の児童館に勤務中、子どもたちに凧作りを含む伝承遊びなどを指導。現在、江戸凧・凧師として国内外で自作凧の展示及びワークショップ、凧絵の実演などを行い活躍中。「お江戸の凧屋さん・凧工房とき」で江戸凧、武者絵凧、奴凧、字凧の制作・販売も行っている(Web: www.kobo-toki.com)。日本の凧の会会員、江戸凧保存会会員、米国凧の会会員。また、世界各地で開催されているカイト・フェスティバルなどで和凧揚げのデモンストレーション、現地の学校を訪問し凧作り教室などを開催

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