
「経済外交の推進に貢献したい」
相互理解を深めつつ日本売り込む
新メルボルン総領事 側嶋秀展氏に聞く
在メルボルン日本国総領事に10月5日、側嶋秀展氏が着任した。着任から約1 カ月が経った11月9日、メルボルン市内の総領事館に側嶋総領事を訪ね、メルボ ルンの印象や今後の抱負などをうかがった。
Q.まずは、メルボルン着任前の任務の 中で一番印象に残っていることは何ですか?
ジュネーブに勤務している時に、出 張でイラクのサマーワ市に行っていまし た。2005年の12月から06年の7月まで約 1カ月おきに1カ月ごと、合計約120日間 です。ご存知のように、自衛隊が04年の1 月から06年の7月まで約2年半、サマーワ 市のあるムサンナ県全体を対象にさまざ まな支援活動をしていました。自衛隊は 常時600人駐留していたんですが、実は、 外務省からも5人ほど常駐していて、一緒 に支援活動をしていました。
私は2年半のうち最後の半年を外務省連 絡事務所長として勤務していましたが、 結果として1人の犠牲者も出なかった。自 衛隊も、外務省も、イラク人側にも、で す。米兵やイラク人が何千、何万人も亡 くなっていることと比べると誇れること だと思います。これは偶然ではなくて、 努力の上に幸運も重なったもの。
自衛隊の人たちは「手振り作戦」「あ いさつ作戦」と称して、道行く人たちに 手を振りながら「スラマレコン(こんに ちは) ! 」とあいさつしました。砂漠で すから、米、英、豪の軍隊は灰色を基調 としたユニフォームを着ている。でも陸 自は緑を基調とした迷彩服を着ていて、 そんな人たちがニコニコしてあいさつを していると。それが「友達だ」といって 受け入れられたわけですね。我々は迷彩 服を着ていませんでしたが(笑)。
もう1つ、自衛隊は学校や病院の補修 はしていましたが、建物の建設や機材の 供与は行っていません。それは、実は外 務省を通じて政府開発援助(ODA)で実 施していたわけです。例えば、発電所の 建設の協力や浄水施設の供与などはODA です。つまり、外務省と自衛隊が車の両 輪のような形で連携して成果を上げ、住 民に受け入れられて「日本の自衛隊と外 務省を守ろう」という機運が出た。この ようにして互いが友好関係を築き、結果 として無事撤収できたことが一番印象に 残っています。
Q.メルボルンの印象はいかがですか ?
美しい街ですし、皆さん親切で友好的 ですね。日本が歓迎されているとも感じ ます。ある著名刊行物により「メルボル ンは世界で一番住みやすい街」と認定さ れましたが、本当に世界一かどうかをこ れから実感していきたいですね。
Q.着任後はどのような行事に参加されましたか ?
招待を受けた行事はできるだけ出るよ うにしています。最初の大きな行事は、 (VIC州豪日協会とメルボルン日本商工会 議所、メルボルン日本人会が開催した) 10月7日の「スプリング・ガラ・ディナー」 でした。参議院、愛知県の訪問団の来訪 時は、両方とも上下両院議長との会談に 同席しました。茶道裏千家のお家元が来 られた時の行事にも出席しました。
一番印象に残っているのは、最初に出 席した行事です。着任の次の日の10月6 日、オーストラリア外務貿易省が主催、 ディーキン大学と国連が共催した朝食会 合がありました。そこでケビン・ラッド外 務大臣とサンパイオ元ポルトガル大統領 が講演し、それに対する質疑応答があり ました。3人だけ質問ができたのですが、 最後にぎりぎりで挙手しました。といっ ても、せっかくオーストラリアの外務大 臣や各国の総領事がいたので、質問の機 会を利用して、震災後にいただいた温か いお見舞いと多大なご支援に対してお礼 を申し上げたのです。
着任したばかりでしたし、外相、元大 統領、総領事たちの前でちょっと緊張し たのですが(笑)、お礼を言えたことが 印象的です。今後も機会を見つけてお礼 は述べていきたいですね。
Q.日本が震災から復興に向かっていくこの時期、総領事としての役割や責務についてどうお考えですか ?
私の責任は「感謝」を伝えることだと 思います。震災後に受けたお見舞いとご支援に対して、在留邦人 の方を含めてオーストラ リアの人にお礼を伝える こと。もう1つ、日本政府 として、各国からの支援を受けて「恩返 し」をするという方針ですので、「必ず や復興を実現する」「国際社会に再び力 強く貢献することで恩返しをする」とい う意思を伝えることですね。
Q. 今後の抱負をお聞かせください。
管轄 本との友好関係を一層発展させることに 尽きます。日本政府としては、側面支援 という形になりますが、例えばビジネス の関係の強化。オーストラリア人に機会 があるごとに言っているのは、現在オー ストラリアの最大の貿易相手国は中国で すが、オーストラリアにとって日本が最 大の貿易黒字を供給している国、つまり 最大の収入源は日本です。一方、日本は さまざまな天然資源を各国から輸入して いますが、エネルギー資源を全体として 換算すると、オーストラリアからの資源 供給量が一番多い。したがって、オース トラリアが世界で一番日本に対して資源 面で貢献しているのです。こうしたお互 いに補完的な関係の中で、各企業がVIC 州などに投資しています。メルボルンが 世界で一番住みやすいと言われる背景に は、経済的な発展があります。それには 日本企業の活発な活動も貢献していると 考えます。
日本は現在、「経済外交」*を推進して います。人口の減少、高齢化、経済の停 滞、財政赤字といった困難を打開するた めには、日本の経済成長を確保する必要 があるからです。この経済外交に貢献を したい。
もう1つは、貿易は原則としてウィン・ ウィンの関係が成り立ちます。売り手は 収入を得ますが、買い手は安く質の良い ものを手に入れることから、日本にとっ て成果があると同時に相手国にとっても 成果があるという前提です。お互いのた めだという理解を深めながら日本を売り込んでいきたいと思います。
Q. 趣味は何ですか ? また、メルボルンで個人的に挑戦したいことは ?
さまざまなスポーツが好きで、特に野 球やサッカーは日本の番組をよく見てい ます。こちらでは、オーストラリアン・ フットボールやクリケットのルールを覚 えたいですね。音楽も好きなので、機会 があればギターなどをまた弾きたい。
また、メルボルンやVIC州のいろいろな 場所を訪れたいですね。オーストラリア と日本の間には100以上、管轄する3州で は34の姉妹都市関係があります。そこに できるだけ足を運んで、この土地を理解 したいと思います。理解することが「世 界一住みやすい場所かどうか」の評価に つながりますから。
Q. 最後に日本人コミュニティーへのメッセージをお願いします。
2つの意味でお礼を申し上げたいです。 1つは震災後にお見舞い、ご支援を日本人 社会からもいただいたこと。もう1つは、 日本人の方々が本当に活発に活動しておら れることに対してです。それがメルボルン の経済をも下支えしていると思うので、そ の活動に敬意を示したいと思います。
総領事館としてもメルボルンの住みや すさにも貢献していきたいので、ご意見 があれば寄せていただいて、可能なもの は実施していきたいと思います。
■経済外交の5本柱
①経済連携協定(EPA)、自由貿易協定 (FTA)交渉の推進
②資源、エネルギー、食料の安定供給の確保
③インフラの輸出
④観光客の誘致
⑤日本ブランドの発信
◎プロフィル
1956年福岡県生まれ。1981年、東京大学法学部卒業、外務省入省。2003年、在 ジュネーブ国際機関日本政府代表部公使(その間、在サマーワ外務省連絡事務所長 兼任)。07年、在フィリピン日本国大使館公使(08年兼在マニラ日本国総領事館 総領事)。10年、外務副報道官兼広報文化交流部参事官。 ヨハネスブルグの環境開発サミットに国際社会協力部地球環境課長として出席 (02年)、エネルギー憲章会議の副議長を務める(00〜02年)など国際会議の経 験も豊富。家族は妻と2子(息子と娘)。
