国際人としての視点を日本の政治に生かす

【特別企画】シドニーで知る在外選挙制度


【特別企画】シドニーで知る在外選挙制度




国際人としての視点を日本の政治に生かす
インタビュー 保坂佳秀氏(シドニー在住)



 国債増発で危機水域に突入した国家財政、世界第2位を誇った経済力の相対的低下、そして少子高齢化で縮小する国内市場。祖国を憂う我々海外在留邦人は今こそ、迷走する日本の政治に国際人としての視点を反映させるべきだ——。海外から国政に参加する意義について、1990年代にシドニーから海外在留邦人の投票制度実現に向けた草の根キャンペーンを立ち上げ、在外選挙権の確立を主導した保坂佳秀氏に話を聞いた。
                       (ジャーナリスト・守屋太郎)

聞き手:今年で豪州移住から30年の節目を迎えられた保坂さんですが、豪州など先進国への移住がまだ一般的ではなかった当時、なぜ海外移住を ?
保坂氏:日本では会社員を経て、都内で大手自動車メーカーの販売代理店を経営していました。当時は石油ショックもあっていくらクルマを売っても利益が出ず、店をたたむことにしました。当時私は47歳。日本ではサラリーマンとしての再就職は困難な年齢です。そこで海外に活路を見出そうと考えたんです。
 当時、現実的に移住が可能な国は、南米諸国とカナダ、オーストラリアしかありませんでした。その頃、海外移住の窓口となっていた国際協力事業団(JICA=現在の国際協力機構)のセミナーに参加して情報を集めました。英語圏で気候が温暖で暮らしやすいオーストラリアに決め、永住権を取得して80年にシドニーに移り住みました。仕事は、技術者として現地のガス会社AGLに17年間勤務しました。
シドニーは在外選挙発祥の地
聞き手:日本を離れた新天地で保坂さんを在外選挙制度のキャンペーンに駆り立てた原動力は ?
保坂氏:オーストラリアに来て10年以上経った頃、海外から客観的な視点で日本を見ていると、どうも日本国内の議論は世界の動きと噛み合っていないと感じることが多かったのです。
 そのころ、91年にオーストラリア各都市の永住日本人団体を束ねる全豪日本クラブが発足し、初代会長に選出されました。海外在住の日本人約100万人が選挙権という憲法で保証された当たり前の権利を行使し、その声を国政に反映できるようになればと思い、在外選挙制度の実現を同クラブの活動として推進することにしました。
 その年に東京で開催された海外日系人大会に初めて出席し、海外在留邦人の投票権の問題を訴えました。当時自民党幹事長だった小渕さん(恵三・元首相)や鳩山邦夫さん(前総務相=当時自民党国際部長)、外務省、自治省にも陳情に行きました。また、当時の日豪プレスの菊地勝吾・編集長や、70年代に朝日新聞社シドニー支局長を務めた青木公氏が記事に取り上げてくれ、活動について一般に知ってもらうことができました。
 
聞き手:まったくゼロからのスタートだったわけですが、世論に浸透するまではたいへんな苦労があったのでは ?
保坂氏:最初はまさに孤軍奮闘でした。在外選挙権の活動は、日本国籍保持者として当然の権利を主張しているだけで、私は草の根の市民運動だと考えていました。しかし、豪州の日本人の間では「政治運動ではないか」という反発の声が上がり、活動は結局、全豪日本クラブとは別に独自で行うようになったのです。
 世論が国際的な広がりを見せるようになったのは93年になってからです。「一緒に署名を集めて請願書を出そう」とニューヨークから呼びかけがあり、賛同者を集めて「海外有権者の会」を設立しました。1カ月間で1,597人の署名を集めることができました。同年11月にシドニー市内のホテルでニューヨークと同時記者会見を開き、日本の国会に請願書を送付しました。
 翌94年にはバンコクとロサンゼルスの日本人社会も署名運動に参加し、4組織が東京に集まって国会に請願を行いました。請願は国会で、全会一致で承認されましたが、内閣改造によって日の目を見ないまま消えてしまいました。
インターネット普及が追い風に
聞き手:結局、98年に在外選挙法案が成立するまで7年の歳月がかかりました。何度も日本へ飛び、法廷に持ち込むなど活動は長期化しましたね。
保坂氏:94年に東京に集まった4組織は「海外有権者ネットワーク」を結成して共同歩調を取っていくことになりました。何かを成し遂げるには戦略が必要です。我々は法的な矛盾に焦点を絞りました。
 まず、95年には、在外邦人が投票できない状態は「憲法に保障された基本的権利の侵害である」と主張して日弁連に申し立てを行いました。日弁連は96年に申し立てを全面的に認め、首相と衆参両院議長、外相、自治相、法務相に在外選挙制度の立法化を要望しました。
 しかし、これといった反応もなく時が過ぎていきました。海外有権者ネットワークはこの年の11月、シドニーから参加した我々5人を含む世界各地から参加した53人の原告団を組織して東京地裁に提訴しました。関係者は各国から手弁当で集まり、弁護士もボランティアで引き受けてくれました。
 こうした動きを受けて事態は進展しました。当時の新進党と太陽党が97年6月、衆院に法案を共同提出、与党も衆参比例区に限って海外投票を認めるとした対案を出しました。度重なる法案審議を経て、公選法の改正案は98年4月、ようやく衆参院で可決、成立しました。最初に陳情に行ったとき快く対応してくれた小渕さんがその時、外相だったのも何かの縁だと思っています。
(注:公選法は海外有権者の選挙権を制限していると判断した2005年12月14日の最高裁判決を受けて、公選法が一部改正されている。現在までに、在外公館投票と郵便投票の選択、当初の比例代表選挙だけではなく選挙区選挙への投票、3カ月間の住所条件を満たしていない時点での登録申請が可能になるなど制度が改善された)
聞き手:海外有権者の声を集めて1つの大きな流れを作ることができたわけですね。時間と苦労が報われ、在外選挙制度が実現できた最大の要因は何だと思いますか ? 96〜97年頃と言えば、急速にインターネットが普及した時期と重なりますね。
保坂氏:インターネットがなければ実現できなかったでしょう。各国との連絡は最初ファクスでやっていましたが、次第に電子メールに変わりました。インターネットによる情報発信も、シドニーで海外有権者ネットワーク・オーストラリアがホームページを立ち上げたのに続き、ニューヨーク、英国、フランスなどに広がっていきました。
選挙の電子化を進めるべき
聞き手:当初の目標であった在外選挙制度の実現を機に活動から退かれました。施行後にずいぶん改正されたとはいえ、現行制度の問題点についてはどう考えていますか ?
保坂氏:問題はあります。手続きが煩雑で登録に時間がかかる場合があります。政治がつまらない上に、手続きが面倒なら、登録者はなかなか増えないでしょう。
 
聞き手:デジタル・デバイド(情報技術を使用できる人と使用できない人の格差)の問題はありますが、ネット投票も1つの手段では ?
保坂氏:日本は技術大国を標ぼうするからには電子化を進めるべきです。パスポートと暗証番号で投票できるようにするのです。選挙違反の可能性やセキュリティーの問題を指摘する声がありますが、大切なお金を扱う銀行やクレジット・カードなどでは既に電子化が進んでいるのに、選挙ができないというのはおかしい。
 ネット投票を最初から否定するのではなく、そのメリットを天秤にかけて、いかに選挙違反を最小限にとどめるかに注力するべきだと思います。
聞き手:在シドニー日本国総領事館によると、他国・地域の在外公館と比較して当地は在外選挙人名簿への登録率が非常に低いそうです。シドニーから世界に発信した保坂さんとしては複雑な心境でしょうね。
保坂氏:オーストラリアの在留邦人には、国際結婚の若い女性が多いことが背景にあるのでしょう。一般的に政治に関心の薄い人が多い層であることに加えて、豪州人の配偶者と生活しながら地元社会に溶け込むと、日本の政治に目が向かなくなるのはむしろ当然です。
 しかし、誰でも老後はやってきます。例えば年金。既に制度が変わって年金は日豪両方で受給できるようになりましたが、国家財政が破綻して日本の年金がもらえなくなったら、制度が再変更されて海外在住者に年金が支給されなくなったら、困るのは私たちです。日本国籍を保有する限り、日本の政治には関わっているのです。
聞き手:特に日本の財政問題には関心を持つべきだと。
保坂氏:日本人はこれまで政治を「お上」に任せていたようなところがあったのではないでしょうか。日本は江戸から明治に入って優れた官僚機構を作り、敗戦を経て高度成長を成し遂げました。
 これまでは他人任せでよかったんです。ところが、今後は政治を常に監視していないとたいへんなことになります。国債の乱発を背景に国の財政は既に破綻寸前の状態にあります。
聞き手:日本には約1,400兆円とされる個人金融資産があるから大丈夫だという議論もありますが。
保坂氏:でも最終的にはその大きな部分を国債が占めています。それに国家は金がなくては動けません。与党が今苦労しているのも、政治路線が異なる集団の寄せ集め所帯であるなどさまざまな要因がありますが、結局、政策を実行するカネがないのです。
良好な日豪関係があってこそ
聞き手:海外から日本を見ているからこそ、日本では見えないものが見えてくることもあります。
保坂氏:オーストラリアが先進国の中で高水準の経済成長を実現できた背景には、確かに資源輸出国という幸運はありますが、政治力もあります。スーパーアニュエーション(年金基金)制度を始めたポール・キーティング元首相、経済発展と財政黒字化を実現したジョン・ハワード前首相は良い仕事をしました。
 一方、豪州と比較すると、日本の財政は既に臨界点を越えています。もう戻れない所まで来ているのかも知れません。でも、こうした危機的状況を前にして、我々は海外からでも常に日本の経済、財政について考え、将来の発展につながる着地点を見つける必要があります。そのためにちゃんとした経済的見識を持った候補者を選ばなくてはいけません。今の日本の状況は我々日本国民全体の責任でもあるのです。
 まずは日本の政治に興味を持つことでしょう。豪州に居住していても、今はインターネットが発展していますから、候補者の個人のサイトや情報をクリック1つで見ることができます。SBS放送(豪国営の多言語放送局)が毎日放映しているNHKニュースを見るだけでも、日本の政治家の発言は分かります。
聞き手:日本では夏の参院選を前に、政局が風雲急を告げてきました。政権交代で国民の期待を集めた鳩山政権の支持率が低下、与党は普天間や日航再建、高速無料化、ダム、財政、経済、政治とカネなど多くの問題を抱える一方、野党は有力議員の離党が相次ぎ、新党旗揚げが続出しています。
保坂氏:日本が抱える問題の解決は容易ではありませんが、選挙で多少なりとも意思を示さなければなりません。ちゃんとした経済的認識を持った人を選ぶ必要があります。
 今回の参院選は見逃せません。オーストラリアの生活が快適すぎて、日本への関心は薄れている人が多いかもしれませんが、世界に散らばっている日本人は祖国と一体になって発展していくべきです。海外にいるからといって、日本のことを知らないとは言えません。我々がオーストラリアで元気で暮らしていけるのも、良好な日豪関係のおかげなのです。

【特別企画】シドニーで知る在外選挙制度

海外から投票するためには

在外選挙人名簿への登録申請〜在外選挙人証取得の流れ

 日本の現行の在外選挙制度においては、衆参両院の比例代表選挙、衆院小選挙区・衆院選挙区の選挙、それらの補欠選挙・再選挙に投票することができる。ここでは、海外からの投票を可能にする手続きについて解説する。まずは在外選挙人名簿への登録申請を行い、事前に在外選挙人証を取得しておく必要がある。

 NSW州と北部準州(NT)の居住者の申請受付は、在シドニー日本国総領事館が行っている。登録申請から在外選挙人の受領までには時間がかかる。同総領事館は、在外選挙人証をまだ取得していない人に対して、早めの登録申請手続きを呼びかけている。
 日本で「転出届」を提出した(住民票を抜いた)上で、豪州で3カ月以上滞在している人は、申請すれば1カ月ほどで登録されるため、現在でも今回の参院選に間に合う可能性がある。この場合、オーストラリアで3カ月以上滞在していることを証明する書類の提示が必要だが、3カ月以上前に「在留届」を総領事館に提出している人は証明を提出する必要がない。
 ただ、豪州に3カ月以上滞在している人や在留届を3カ月以前に提出している人であっても、日本で「転出届」を出していない人(住民票を抜いていない人)は登録申請が不可能だ。まずは「転出届」を出した上で3カ月待つ必要がある。
 なお、日本国籍を失った場合や、日本へ帰国した後に転入届を提出してから4カ月経過した場合は、在外選挙人名簿から登録が抹消される。転入届から短期間の滞在の後に再度海外に転出した場合でも、同様に登録が抹消され、改めて登録申請が必要となるので注意が必要だ。
 また、申請書には日本での最終住所地と本籍地を記入する必要があるので事前に確認しなければならない。在外選挙人証に記載されている住所や氏名などが変わった場合は、在外公館を通して在外選挙人証の記載事項変更の手続きを行う必要がある。
 さらに、在外選挙人証を紛失したり、市町村合併によって登録先の選挙管理委員会の名称に変更があった人は、在外公館を通じて在外選挙人証の再交付を申請しなければならない。

【特別企画】シドニーで知る在外選挙制度

■登録資格
①年齢20歳以上の人
②日本国籍を持つ人
③海外居住者(日本国内の最終住所地の役所に転出届を出した上で、在外公館の占拠管轄区域内に3カ月以上居住している人。3カ月未満の人でも登録申請は可能だが3カ月経過時に改めて申請者の住所を確認した上で手続きを再開する。この場合、手続き再開から在外選挙人証の受領まで2〜3カ月を要する)
■申請書の提出方法
①申請者本人が直接、在外公館で申請
 申請書は在外公館に備え付けているほか、総務省のホームページからダウンロードすることも可能。
②申請者の同居家族などを通じた申請
「同居家族など」とは在留届の氏名欄に記載されている人、同居家族欄に記載されている人が該当する。
■申請時の持参書類
<申請者本人による申請の場合>
①申請者本人の旅券(何らかの理由で旅券が提示できない場合は、運転免許証など日本か居住国の政府・地方公共団体が交付した顔写真付き身分証明書)
②在外公館の選挙管轄区域内に居住していることを確認できる書類
 (a)引き続き3カ月以上居住している人
 住宅賃貸借契約書、居住証明書、住民登録証など。ただし、在留届を管轄の在留公館に3カ月以上前に提 出ずみで申請書と同日の住所である場合は不要
 (b)申請時の居住期間が3カ月未満の人
 申請時の時点までの住所を確認できる書類
<同居家族などを通した申請の場合>
上記①、②のほかに、以下の書類が必要。
③申請者本人が自署した申請書と申出書
④申請を行う同居家族などの日本国旅券(旅券以外の身分証明書は認められない)
■在外選挙人証の受領
在外選挙人証は登録申請を受け付けた在外公館で直接受け取ることができるほか、登録申請時に希望すれば郵送も可能。
■在留届とは?
海外で非常事態が発生した場合の在留邦人の安否確認、事件・事故などに遭遇した際の在外公館の支援に必要となる書類。在シドニー日本国総領事館は、3カ月以上滞在する予定がある人は在留届を提出するよう呼びかけている。また、転居や帰国、結婚などによって届出事項が変わった場合も、変更の届出を忘れないこと。
Web: www.mofa.go.jp/mofaj/toko/todoke/zairyu/
■在外選挙に関する問い合わせ先:
在シドニー日本国総領事館
Sydney Consulate-General of Japan
Level 34, Colonial Centre, 52 Martin Place, Sydney NSW 2000
(マーティン・プレイスとエリザベス・ストリートの角のビルの34階)
Tel: (02)9231-3455
電話受付時間:平日9:30AM〜12:30PM、1:30PM〜5:30PM
来館受付時間:平日9:30AM〜12:30PM、2PM〜4:30PM

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