【シドニー公演】YASUKICHI MURAKAMI Through a Distant Lens

YASUKICHI MURAKAMI
Through a Distant Lens
By Mayu Kanamori

シドニー公演

 村上安吉という、オーストラリアに多大な貢献をしながらも戦争を経てその存在を忘れ去られてしまった日本人写真家がいた。その彼を題材とした舞台作品を制作したオーストラリア在住の写真家/劇作家・金森マユさんが、2月10日からのシドニー公演を控え、作品に対する思いや観客に向けたメッセージなどを語ってくれた。

歴史に埋もれてしまった村上安吉という人物

——村上安吉という人物を舞台の題材として取り上げるに当たり、最大の魅力とは何だったのでしょうか。

「1998年にアボリジニと日本人のミックス・ヘリテージの人々の写真を撮影していた際、『私の祖父は日本人でブルームに住んでいた』と教えてくれた人がいて、それが村上安吉という存在との出会いでした。オーストラリアの歴史上に、彼以外にも写真を撮影していた日本人は何人かいましたが、村上氏は写真以外の分野でも功績のある人物として、残っている情報も多かった。さらに、戦争勃発時に彼は帰国せずオーストラリアに残りましたから、自身は捕虜として収容所で亡くなったものの彼の子孫は現在もこちらに住んでいて、今のオーストラリアとつながりがあるという点も重要ですね。

また、彼の写真によって戦前の日本人がオーストラリアで実際にどのような生活をしていたのかを知ることができるので、その点でも安吉の写真には大きな価値があります。彼が生涯撮り続けた写真の多くは戦時中の収容によって失われてしまい、劇中でもそれを探していくということがストーリーの1つの軸になっています」

——この作品のテーマとして、どのようなことを意識されていますか。

「まずは写真論です。アナログとデジタル時代で写真は大きく様変わりしているので、『写真とは何か』という問いや、失われた写真を探していく中で何が大切なのかということを考えたい。

また、社会への自分の貢献が認識されることが大切か否かという問いかけです。安吉はオーストラリア初の真珠養殖に挑戦し、それが現在のブルームの真珠養殖につながっています。彼はまた、近代のスキューバ道具の型になった潜水服をデザインしたりとオーストラリアの産業や文化に大きく貢献した人物ですが、残念ながら彼の名前は現代にほとんど残されていません。彼以外にも同様の貢献をしつつも歴史に埋もれてしまった日系人は多くいたでしょうし、それらを思い出したいという願いもあります。

さまざまな『愛』も大きなテーマです。例えば、ストーリーの中では安吉の亡霊が現れて現代の写真家・金森マユを指南します。これは世代が全く異なる2人の関係の中で生まれた、写真を通しての師弟愛ですし、家族愛や恋愛といった愛も登場します」

日系人の歴史を伝えたい、観てもらいたい

——役者や製作スタッフの中にも在豪の日本人や日系人が複数いると伺いました。そのような人々による日系人に関するパフォーマンス、という点でも意味を持つ作品ですね。

「金森マユを演じる由良亜梨沙さんは小学生のころに来豪していますし、制作には日系の人々が多く関わっています。作品を見せるにあたり、伝えられていない日系人の歴史を伝えたいとい思っています。現在の在豪の人の多くは、大人になってからワーキング・ホリデーなどでこちらに来た1世代目の移住者なので、日本人という意識が強いと思います。しかしその後オーストラリアで生まれた子どもは日系人になるわけで、彼らは同国や日本の歴史は学んでも、両国をつなぐ「オーストラリアの日系史」というものは学びません。それだと、何か抜け落ちているように感じます。在豪の日系の子どもたちは育っていく中で日本の捕鯨や日本軍による捕虜の虐待といった両国にまたがる難しい問題を知り、何か責められているような、触れてはいけないような思いを抱くのではないかと想像できます。彼らにこそ、戦前に安吉のような日系の民間人によるオーストラリアへの貢献があったということを知ってもらい、後世に伝えていってほしいです。そうすることで、戦争を広い視野から見ることもできると思います」

——金森さん自身もオーストラリアで暮らす日本人の1人ですが、日系人という存在に対してどのような思いをお持ちでしょうか。

「日系人は世界中にいますし、ある程度長い間海外に住めば自分自身も日系人になります。多文化主義のこの国の政策により、ありがたいことに移住者も発言権を持つようになりました。ですがいつまでも親世代が母国から持ってきた価値観を語るだけでは過去の中に取り残されてしまう。もっと日系人のことを知り、オーストラリアに住む日系人として時代に沿った声を上げるべきだと考えています」

——これまでさまざまな作品を発表されてきましたが、パフォーマンスというものを通してどのようなことを伝えたいとお考えですか。

「オーストラリアにおけるストーリーを観ると日本人・日系人は兵隊や何も分からない観光客といったステレオタイプの役が多いのですが、もっと違う面も伝えたいですね。

また、シアターや劇の世界に関しては、今後アジア人との連携が大切になってくると思います。今作のプロデューサーも中国系オーストラリア人です。実は、現在のオーストラリアの舞台作品は作家・役者・観客の多くがヨーロッパ系の人によって成り立っていて、このままでは新しさがなく化石化してしまうのではないかと危惧されています。最近ではヨーロッパ系以外の人種が伝えるオーストラリアのストーリーの上演も少しずつ試みられており、その中で、私の作品はアジア系の人々からも応援していただいています。戦争があったことによって日本人は、時としてほかのアジア人から孤立してしまうこともあると思いますが、戦争が1つの要素として登場する今作でも引き続き応援していただける環境に感謝し、これからもパフォーマンスを発表する上で大切にしていきたいです」

(インタビュー=編集部・髙木優希)

金森マユ・プロフィル
 写真家。1963年東京生まれ。メルボルンのトゥーラック・カレッジにて哲学を学ぶ。シドニー・モーニング・ヘラルドとエイジ新聞の東京支局マネジャーを経て、写真家として活動開始。写真のみならず音声、ライブナレーション、舞踏、音楽とともに新分野のドキュメンタリー作品を数多く制作、発表している。オーストラリア先住民アボリジニ女性の日本人父親探しの旅を描いた『ハート・オブ・ジャーニー』はオーストラリア国連マスコミ平和賞受賞ほか文化推進コメンデーション受賞

YASUKICHI MURAKAMI Through a Distant Lens
By Mayu Kanamori

日程:2015年2月10日(火)〜21日(土)
時間:月〜土7PM 、土のみ2PM/7PM
ポスト・ショウ・アーティスト・トーク:2月17日(火)
場所:SBW Stables Theatre, 10 Nimrod St., Kings Cross
料金:大人$43、コンセッション、プレビュー、シニア$35、30歳以下$30
予約:www.griffintheatre.com.auまたは(02)9361-3817

 

<あらすじ>
 村上安吉は1897年に若干16歳で渡豪、写真の技術を学んで写真家となる。ほかにも様々な事業を始め、真珠貝産業で栄えたオーストラリアの街ブルームでは、後に通りに「ムラカミ・ロード」と名前が付けられたほどの著名人。ダーウィンに移りその時代をカメラに納め続けるも、第2次世界大戦の勃発により捕えられヴィクトリア州の捕虜収容所内で64歳の生涯を終える。以後、写真はもとより彼がオーストラリアに残した功績は埋もれたままとなってしまっていた。この忘れられた写真家の存在を知ったオーストラリア在住の写真家・金森マユは、安吉の失われた写真を探すかたわら安吉自身の人生についても深く調べ始める。旅の最中に現れた安吉の亡霊はマユを指南し、マユも自分自身を安吉に投影させながら探求の旅が続く…

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