【原発】電力会社の危機管理能力──電力会社・元社員に聞く(後編)

ルポ:シリーズ・原発問題を考える⑪

電力会社の危機管理能力

 ──電力会社・元社員に聞く(後編)


 世界有数のウラン輸出国として原発産業を支えつつ、自国内には原子力発電所を持たない国オーストラリア。被ばく国であるにもかかわらず、狭い国土に世界第3位の原発数を誇る原発大国・日本。原発を巡る両国のねじれた構造を、オーストラリアに根を張る日系媒体が取り上げないのはそれこそいびつだ。ルポ・シリーズ「原発問題を考える」では、原発を取り巻くさまざまな状況を記者の視点からまとめていく。
取材・文・写真=馬場一哉(編集部)


未曾有の事態を引き起こしている福島第1原発

2020年五輪の東京招致が決まったが、最後にやはり懸案事項となったのは福島第1原発の汚染水漏えい問題であった。

安倍晋三首相は、汚染水の漏えい問題について「状況はコントロールされている。影響は港湾内で完全にブロックされている」と強調したが、水中カーテンがあるとはいえ、港湾内と外洋を水が行き来していることは東京電力も認めるところであり、それをもって「完全にブロック」と言うのは少々乱暴に過ぎるのではないかと感じる。実際その後、地上タンクから汚染水が外洋に直接流れ出たという報道が流れ、さらに9月17日には台風18号の影響で汚染水貯留タンク・エリアの堰に溜まった放射性物質を含んだ雨水が満杯となり海に流出された可能性があると報じられた。

福島第1原発の事故はいまだ五里夢中の様相を呈している。このような事態を引き起こした東京電力はじめ、電力会社のリスク管理はどのような体質の下、行われてきたのか。電力会社・元社員へのインタビュー・最終回では「リスク管理」に焦点を当てて話を聞いていく。

3.11以降、リスク管理はがらりと変わった

──Dさんのメインの仕事はリスク管理だったと伺っています。
「ひと言で言うと、会社全体のリスクをまとめてコントロールする仕事でした。半期に1回、リスク対策の観点から優先順位の高いリスクに予算を割り当て、スケジューリングし、それを取締役会にはかるというのがメイン業務でしたね」

 

──リスクの優先順位はどのように決められているのですか。
「リスクには大きく分けると5つあるんです。まずは政治的リスク。原発推進、停止など、政策の変化です。2つ目は自然災害リスク。地震や台風などいわゆる天災関係。3つ目は燃料費高騰などのリスク。ガス、石油、石炭、ウランなどの燃料調達に関するリスクです。4つ目は資金調達リスク。電力会社は常にお金を調達して建物を作らねばならないので、格下げなどによりその資金調達ができなくなるとまずい。そして最後はテロを含めたシステム・リスク。この5つをしっかりと分析して優先順位を決めていこうというのがここ3〜4年の流れです」

 

──3〜4年というと、それ以前は違った。
「それまでは、燃料費高騰や資金調達のコスト上昇などが起きれば電気料金に乗せていた。しかし3.11以降、世間の関心が非常に高くなってその選択は3.11前に比べ厳しくなりました。その意味で3.11以降リスク管理がシビアになったのは確かです」

 

──中でも大きく変わったのはやはり災害対策ですか。
「災害対策は大きく変わりましたね。事故前までは必要最低限の仕事をこなして9時〜17時で帰りましょうという風潮もありましたが、3.11以降は、新災害の対策や資金調達、為替の動きのチェックなど各人がしっかりと時間をかけてリスク管理するようになりました」

 

──3.11以前の災害に対するリスク対策は具体的にどのようなものでしたか。
「台風、大雨による送電線の切断、発電所の水没や落雷がメインでしたね。地震の優先順位は低かったです。なぜなら、福島のような事態は想定外だったからです。免震などの対策は当然やっていますが、そもそもマグニチュード9は想定していません」

 

──そもそも「想定」とは何を基準にしたものなのでしょう。
「内閣府の中央防災会議が、津波や地震が起きた際の被害をシミュレーションし、発表しています。災害の規模としては関東大震災、つまりマグニチュード8くらいです。各電力会社はそれを元に対策を立てています」

 

──では想定の甘さの責任は内閣府にあるということになるのでしょうか。
「電力会社の立場だとそうなりますね」

 

──しかし、内閣府の発表をベースにするにせよ、電力会社含めその土地に根ざした業者や専門家が協力し合いながらしっかりとシミュレーションを行うのは当然の責務だと思うのですが。
「そのシミュレーション1つとっても何億円もかかるんです。そんなことをやる体力はありません。だから、内閣府のシミュレーションに頼るしかない」

 

──津波対策はそもそもしっかり行っていたのでしょうか。
「3.11前はあまりやってないですね。台風の高潮や川の増水などは対策していましたが、津波はほぼ想定していなかったはずです」

 

──当然想定すべきものが想定されていなかったと。
「巨大台風など、過去に痛い目に遭ったものに対しては当然、優先的に対策を行います。しかし、起きたことのないレベルのものには目が行きません。しかしそれも3.11後に変わりました。富士山の噴火や隕石なども視野に入れるようになりました」

 

──しかし、過去にあった災害をベースにするという意味では福島県沖、宮城県沖、歴史をひも解けばかなりの高さの津波が起こったことが分かるはずです。それは想定に入れなかったということでしょうか。
「多少はしたでしょう。高い確率で起こるのであれば優先的に対策を立てますが、ほとんど起こる可能性のないことに何千億円もかける動きにはなかなかならない。要は経営判断です。乱暴な言い方をするとどうせ来ないと思っていたんですよ。一方で東北電力の女川原発は過去にシミュレーションした際に経営陣がやばいと考え10メートルほど建てる敷地を上げたんです。だから津波の被害は受けなかった」

 

──福島は甘かったと。
「経営的な判断の誤りだと思います。40年近く前の設置した際の判断が甘かった」

今後、事態はどうなるのか

──海水を注入し燃料タンクを冷やす作業を続けているわけですが、一方で海水で金属が腐食するという問題もあります。
「そうですね。ですが、今は何より冷やすことが最優先。1年後どうなるかは分かりませんが、注水を止めたら3日ほどで爆発しますし、そうなれば1年後もないですから」

 

──それでも汚染水流出など事態は徐々に悪くなっているような気がします。
「過去に経験していないことですから長い目で見て今やっていることが本当に正しいかは分かりません。チェルノブイリにしても、軍隊を使って一気に周りを石棺で囲んで空中に飛散することは抑えましたが、石棺の耐用年数もそろそろ限界ですし、何が起きるかは分かりません」

 

──素人考えかもしれませんが福島も何とかふさぐことはできないのでしょうか。
「ふさぐにしても、燃料のプルトニウムやウランがどこまで溶けているかなど被災の規模が不明です。その把握自体ができていないで塞いでしまうというのは得策ではないですね。覆った場合、作業員の出入りなどが難しくなりますし、中に溜まるガスをどうするかなどの問題が新たに出ます」

 

──今後事態はどう推移していくと見ていますか。
「あくまで私見ですが、あとは海に流してしまうという選択をどのタイミングで行うかだと思います。タンクや建屋もいっぱいで、置くところもなければもう流すしかない」

 

──海に流す、ですか。
「公表せずにやる可能性はあると思っています」

 

──そうなったら近海の漁業はどうなるんですか。
「その影響が太平洋のどこまで出るかは誰も調査していないので分かりません。いずれにせよ福島県沖は厳しいでしょうね。ただ、それが岩手までなのか、青森、北海道までなのか。それはいろいろな説があって分かりません。海流は北から南に流れているので北はOKという意見もありますが、いずれにせよ正解は誰も分かりません」

 

──海産物を獲った後に調べるしかない。
「放射性物質の蓄積量はものによって違いますからね。ただ、海藻は極めて厳しいでしょう」

 

──Dさんのお話を伺っていると全く希望が見えないような印象です。
「私が話しているのは、経験に基づくものではありますが私見です。事態をどう捉え、どう身を守るかは結局のところ個人の判断によります。私は逃げた。それだけです」

 

冒頭でも書いた通り、汚染水が本当にコントロール下にあるかどうかは極めて疑問だが、安倍首相が世界に向けて発言をした以上、国もあとには引けない。発言が嘘になり国際社会で激しく叩かれるようなことにならぬよう誠意を持って事態の収束に当たってくれると信じたい。

今回のインタビューは、時に発言が刺激的になることもあり、掲載すべきか悩んだ側面もある。だが、さまざまな立場の人のさまざまな意見を伝えることが唯一記者が読者の皆様に対してできることだと思い、ありのままに掲載したことを追記しておく。

 

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