【原発】「核のゴミ」 ── 続続・『美味しんぼ』作者・雁屋哲氏に聞く

ルポ:シリーズ・原発問題を考える⑮

「核のゴミ」

 ── 続続・『美味しんぼ』作者・雁屋哲氏に聞く


 世界有数のウラン輸出国として原発産業を支えつつ、自国内には原子力発電所を持たない国オーストラリア。被ばく国であるにもかかわらず、狭い国土に世界第3位の原発数を誇る原発大国・日本。原発を巡る両国のねじれた構造を、オーストラリアに根を張る日系媒体が取り上げないのはそれこそいびつだ。ルポ・シリーズ「原発問題を考える」では、原発を取り巻くさまざまな状況を記者の視点からまとめていく。
取材・文・写真=馬場一哉(編集部)


福島第1原発をはじめ、被災地にも何度も足を運び取材を重ねている雁屋氏

人気長寿漫画『美味しんぼ』の連載を通して、30年以上の長きにわたり日本全国の食文化に触れてきた雁屋哲氏にとって、「食の安全」を根底から覆すこととなった福島第1原発の事故はとうてい無視できるものではなかった。氏は実際に福島に取材に訪れ、それをもとに「福島の真実」というサブタイトルとともに『美味しんぼ』連載を再開。また、自身のブログで声高に日本政府の汚染水対策の非難などを行うこともした。歯に衣着せぬ大胆な氏の発言は良くも悪くも注目を集め、時に大きくたたかれた。

今回で3度目の掲載となる当インタビューもまた、第1回目の記事がネット上に配信されるや否や炎上の様相を呈した。本来、インタビュー記事は2回構成の予定であったが、前回の第2回目は炎上を受けて当連載の趣旨を改めて説明するため紙面を大きく割き掲載しきれなかったという経緯がある。というわけで今回は早速インタビューの続きに入っていこうと思う。

使用ずみ核燃料

ーー雁屋さんは3.11以前も原発に対して反対の立場だったのですか。
雁屋「大学の時の仲間と日本のエネルギー問題について考える機会を持とうということで勉強会を開いていました。原発についてもその安全性をもう1度とらえ直し、本でも書こうなどと話していたのですが、ちょうどそのタイミングで新潟県中越沖地震が起き、柏崎刈羽原子力発電所で問題が起こった。それまでも漠然と原子力は良くない、ダメだなと思っていましたがそれで目が覚めましたね。
それまで原子力に関する本は推進する立場のものばかり目立ちましたが、その状況に大きく疑問を持つようになりました。その後、高速増殖炉もんじゅの事故、東海村での臨界事故などが起こり、私も常日ごろから『危ない危ない』と言っていましたが、ついに東日本大震災で福島第1原発事故が起きてしまった。しかし、これはいつか起きると分かっていたことです。この先もいつ同じようなことが起こるか分かりません。そんな中、なぜ再稼働という選択肢が出てくるのか。なぜ、ベトナムなど海外への原発輸出を推進するのか。ダメだと分かっているものになぜ投資するのか。全く理解に苦しみます」

 

ーー使用ずみ核燃料の処理の問題もあります。
雁屋
「そうですね。全国の原発から使用ずみ核燃料が集められる青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場にも行きましたが、安全性には疑問を持たざるを得ません」

 

ーー再処理工場はプルトニウムとウランを取り出し、再び原発の燃料として使用することを目指している施設ですよね。
雁屋
「ですが、実際には再処理をするたびに事故が起きるような状況のため、安全性の問題から完成時期の延長を繰り返しています」

 

ーー着工から20年、完成時期を20回延長していると聞いています(※現在は2014年10月に完成と言われている)。
雁屋
「六ヶ所村にはおびただしい数の燃料棒が保管されています。現在は仮置き場にしていますが、やるたびに失敗している現状を考えると再処理はできないのではないでしょうか。そんな中、使用ずみ核燃料をガラス状に固め、どこか地下深くに埋めるという案も浮上しているのですが、ガラス状にする実験もするたびに失敗しているようです。そもそもどこに埋めるというのでしょう」

 

ーー周辺に住んでいる人にとっては不安ですよね。
雁屋
「再処理の実験をすれば放射性物質が出ますし、精神的にもしんどいですよ。施設の周辺で有機農業をしている人たちがいてその中の1人に話を聞いたのですが、自分が作った野菜を東京の消費者が買ってくれなくなったそうで少しノイローゼ気味になっているようでした。仮置き場はあくまで仮なので、早くどこか別の場所に移してほしいと訴えています。しかし現実問題、どこか適したところなどあるのかと考えてしまう。アメリカやヨーロッパでは地下深くの安定している岩塩の層に使用ずみ燃料を入れようと考え、実際に掘ってみたら岩塩は決して安定している場所じゃないことが分かったなどという話も聞きます」

 

ーー「核のゴミ」をどうするか。それこそ原発問題の最たる課題ですね。
雁屋
「放射性物質の寿命は種類によって異なりますが、例えばプルトニウムであれば半減期は2万4,000年と言われています。普通に考えれば分かると思いますが人間には想像できない長さですよ。手も付けられない毒物を毎年大量に作り出していったい誰がその責任を取るのか。原子炉を数年かけて建設し、その後うまく運用すれば30〜0年間、利益を生み出してくれる。その後何も問題なかったとして始末するのに30年。その間、ずっと大気や地下水を汚染し、その後何万年という時間をかけなければ放射能はなくならない。その見返りとして得られるのはほんの数十年の間の、電気代や経済的な恩恵、ただそれだけです。悲惨な話ですよ」

 

現地の声を聞く

ーー当連載でもよく書いているのですが、いろいろな人がそれぞれのモノサシでさまざまな意見を言うので、情報として何が正しいのか分からなくなります。ですから、受け入れられるものであってもなくても、さまざまな意見を見聞きした上で最後は自分で判断するしかないと思うんです。
雁屋
「僕が大切だと思うのは良心的な学者をしっかりつかむことだと思います。研究費を大学からもらっていたりなど利害が絡むとそれによって意見が変わることもあるので、僕は個人的には組織に属していない人の方がいいと思っています。いずれにしてもできるだけたくさんの学者の意見をインターネットや本で読んでみるといいでしょう。その上で現実に起こっていることと照らし合わせ、その学者が言っていることが本当かなと自分で考えることが大事です。
また、現地の生の声を直接聞いて歩くことも大事です。ただ、現地の村役場の人たちには、行政の上の意見をそのまま伝えるだけで結果的に嘘を言ってしまっている人も少なくない。飯舘村の役場に行ったんですが、そこの役場の人たちは額に脂汗を浮かべて安全だ、安全だと言っている。そして『事故以来僕たちはマスクをしたことがない』と言う」

 

ーー以前、当連載でも飯舘村の飯舘村前田地区区長であり、福島県酪農業協同組合の理事(当時)であった長谷川健一さんへのインタビューを行ったのですが (第5回)、そういった上の姿勢については長谷川さんも言及していました。
雁屋
「僕がそういうことを言うと残酷だなんて言われて非難されるけど、火事が起こっているのだから、燃えている家にとどまっていないで逃げなさいと言いたい。それのいったいどこが残酷なのか。自分たちが守ってきた家や土地があるという気持ちは分かります。文化財に匹敵するような家があって先祖代々守ってきているとする。それでもそこが火事になったらどうするのか。自分たちの伝統の家と一緒に焼かれると決めたのならそれはそれでいい。でもその時に自分の子どもも一緒にいさせるのかと。そういう問題だと思います」

 

ーー原発の被害で苦しんでいる人がいる現実がある中、オーストラリア政府はウランの輸出先を増やしています。
雁屋
「ウランを採掘している場所の周りに住んでいるアボリジニの生活は本当にひどいものです。それにオーストラリアは物価も人件費も上がり続けていて、ちっとももうかっていないのだから、それもやめてしまう方がいいのにと僕は思いますね」

 

ーーここオーストラリアは、原発自体がなくクリーンなイメージが一件ありますが、実は世界の原発産業を支えている主要国でもあります。その矛盾の中、生活しているのだということを原発被害に実際に直面している日本人としては認識し続けていたいものですね。本日は長い時間、ありがとうございました。
(了)

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