【原発】「原発を止めることはできない」──電力会社・元社員に聞く(前編)

ルポ:シリーズ・原発問題を考える⑨

「原発を止めることはできない」

 ──電力会社・元社員に聞く(前編)


 世界有数のウラン輸出国として原発産業を支えつつ、自国内には原子力発電所を持たない国オーストラリア。被ばく国であるにもかかわらず、狭い国土に世界第3位の原発数を誇る原発大国・日本。原発を巡る両国のねじれた構造を、オーストラリアに根を張る日系媒体が取り上げないのはそれこそいびつだ。ルポ・シリーズ「原発問題を考える」では、原発を取り巻くさまざまな状況を記者の視点からまとめていく。
取材・文・写真=馬場一哉(編集部)


福島第1原発元所長の吉田昌郎氏が亡くなったニュースはオーストラリアでも大きく報じられた(7月11付、シドニー・モーニング・ヘラルドより)

7月8日に原発の新規制基準が施行されたことに伴い、北海道、関西、四国、九州の4電力会社の5原発10機が再稼動申請を提出した。それに対し、一部のメディアは「なし崩し的な再稼動は許せぬ」との論調で記事を書いたが、記者が見る限り、全体として大きな反対意見は出ていないように見受けられる。もちろん、日本国内にいないため、テレビをはじめとしたマスメディアの論調は受身の状態でいれば全く入ってこないし、積極的にキャッチしようとしてもやはりそれほど多くの情報は入ってこない。しかしインターネット全盛のこの時代、パソコンの画面上からでも「なんとなく」の空気感は伝わってくるし、瑣末な情報がシャットダウンされる分、逆に見える側面もあるのかもしれない。記者の目から見ると、日本国内の空気は総体として「積極的に賛成はできないが再稼動はやむなし」の方向にほとんど傾いている。

もちろん、先の参院選の自民党の圧勝をそのまま「日本国民が原発推進を受け入れた」と表現するような乱暴なことはすまい。自民党に票を投じた人々の多くは、経済や雇用、外交、教育、地域振興など、原発から離れた見地から支持しているケースがほとんどであろう。だが、周知の通り、自民党は長い歴史の中で原発を常に推進し、そして今後もその方向性は変わることはないように思える。国内のさまざまな問題、特に経済の課題をクリアする手段としては原発再稼動は規定路線であり、だからこその新規性基準の施行であろう。再稼動を前提に各課題を検討していることが予測できる以上、自民党を受け入れるということはすなわち「原発推進やむなし」と言わざるを得ない立場を選んでいることと同じなのではなかろうか。

しかしながら2009年当時、最大野党だった民主党が政権を奪取した後の情けない采配は誰しも認めるところだろう。政権運営をしたことのない党に任せるのは不安という心理が自民党以外の政党を選ぶ足かせになり、結果自民党を選ばざるを得ない。もちろん安倍総理の姿にカリスマ性を見ている人も多いのだろうが、日本はほかに選ぶ選択肢がないという悲しい現状にいるように思えてならない。

原発の新規制基準施行の翌日9日、福島第1原発・元所長の吉田昌郎氏が食道がんで亡くなった。氏は、事故当時、政府や東京電力の上層部の指示を無視し、原子炉内に海水の注水を続けるなどマニュアルにないさまざまな対応で「最悪の事態」を防いだ人物として知られ、ここオーストラリアでも彼の死とその功績が新聞で大きく取り上げられていた。一部で福島第1原発の防潮堤建設にかつて反対したことでネガティブな言われ方もしているが、しかし、震災後、氏が日本の未来のために立派に尽力したことに変わりはない。ご冥福をお祈りしたい。

変わらぬ日本の構造

6月中旬に、とある伝手から元・大手電力会社社員で実際に代替エネルギー利用のシミュレーションなどを行っていた人物D氏とコンタクトを取り、インタビューを行うことに成功した。震災後も電力会社で重要な役目を担っていた氏は現在、放射性物質の飛散がやまぬまま事態が収束の様相を呈し、かつ原発の稼動ありきで進む日本の未来に不安を感じており、家族での海外移住を検討しているという。当連載では、今回から2回にわたり彼とのやり取りをそのまま掲載していく。過激な物言いも含まれるが、あくまでいち個人の意見ということを念頭に置きつつ、原発問題をさらに深く考えるための材料にしていただければと思う。

 

─電力会社内部から見ると原発反対派の人々の姿はどのように映っていたのですか。
「正直なところ、大騒ぎして反対を叫んでいる人たちほど、その発言には根拠がないなと感じていました。なくしたいという気持ちだけから始まっていて感情的。それにいちいち付き合っていたらきりがない。これは僕自身が原発反対、推進、どちらの立場であっても変わらない思いです」

 

─しかし、実際に放射性物質が飛散し、大変な状況になっている今、感情的にそう叫ぶことも非難できないと思います。
「もちろん分かりますよ。放射性物質は危険な害のあるものですし。しかし、それをどれくらい浴びたら悪影響が出るかなんて誰にも分からないし、数字に根拠なんてありません。一定の数字を示して、それを反対派はだめだと言うし、賛成派は問題ないと言う。いずれにせよ科学的根拠は反対派にはないというのが僕の思うところですね」

 

─正直、専門家の意見もさまざまですよね。何を拠り所にすべきかも分かりません。
「3.11前の過去の裁判でも電力会社側についた証人、原告側についた証人、その話の内容の根拠はてんでばらばらでした。電力会社は3.11の以前からずっと原発がらみの裁判を反対派との間で持ってきましたが、反対派の意見に従って止めるか止めないかなどは、いずれも政治的な背景によって決まった気がします」

 

─原発の再稼動問題はどう思われますか。
「基本的には必要だと思いますよ。全部止めて電気が足りるのですかという質問がよくありますが、全部止めて節約すればどうにかなる。2年間実際にどうにかやっていますからね。ですが、ではその状態で大手家電メーカーが節電モードで生産縮小して、やっていけるかといったらまずあり得ない。大量に生産し、大量に消費してもらわないとやっていけないわけで、そういう観点から考えると電気は足りません」

 

─節電モードでは日本はうまくいかない。
「節電モードで続けますということになれば、メーカーは国外に逃げますよね。新しく原発を作ろうとしている国もあります。そういう国で工場を作った方が電力も安いし人件費も安い。メーカーは国外に移りますよ。再稼動の問題というのは経済全体に関わっているので、一長一短で政府も困ってるんですよ」

 

─安倍政権では再稼動の方向です。
「自民党は昔から推進派ですから。選挙が終わったら、エイヤで再稼動でしょ。昨年の暮れの衆議院選までは規制委員会を厳しくしろ、規制、規制って言っていましたが、最近は『そんなに厳しくしなくても』という声も上がっていたくらい、再稼動ありきの流れに変わっていますね」

 

─再稼動といってもすべてを動かすわけでは当然ないですね。
「福島第1原発の4基は廃炉ですから実質50機あるうち、10がいいのか20がいいのか30がいいのか、いろいろ諸説あって、それは経済の伸び率によるんです。電力会社って、長期的なプランで物事を考えざるを得ないんですよ。発電所などの建設も時間がかかるわけだし、5年、10年先の電力供給、つまりGDPなどの成長率、日本の経済力をマクロ的に見るんです。今の段階で何機必要かという判断には、日本の経済が向こう10年でどれくらい伸びるのかを判断する必要があるわけです。個人的には10前後が有力だと思いますけどね」

 

─あれほどの惨事があったにもかかわらず、日本の構造は結局何も変わっていないのでしょうか。
「みんな反対はしたいと思うんだけど、結局ベネフィットとリスクを図ってベネフィットが勝る。今の生活をやめるのか、続けるのかという話になった時、国民の多くはエレベーターもエスカレーターも照明もしっかりとある今の生活を続けたいと思うはずです。捨てられないなと思った時にそういう選択になる。内心ではやめたいなと思っていてもやめられないというのが本質だと思います」

 

─しかし、次の段階として当然議論になるのは、代替エネルギーとなりますよね。
「しかし、現時点において代わりになるものはありません。ないから今の生活レベルを維持するために原発再稼動しかないんです」

 

─しかし、風力、地熱、太陽光などいろいろ話題には上がっていますよね。
「経済産業省もバカじゃないからもちろんいろいろとやっていますよ。供給計画の中にそれらももちろん入っていますが、それが機能するのかということの検証には莫大な時間がかかるんです」

 

(次号に続く)

 

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