【新年恒例企画】回顧と展望2018/豪州経済(田中健吾)

豪州経済

時事通信
シドニー支局 支局長兼記者

田中健吾

プロフィル◎1994年上智大卒、時事通信社入社。金沢支局、ブリュッセル支局、ニューヨーク総局などを経て2017年9月から現職

豪州の記録的景気拡大、継続か

豪州は2017年も堅調な経済成長を続けた。世界経済の回復の恩恵を受けて輸出がけん引し、懸念されていた住宅価格の高騰は落ち着く様相を呈してきた。26年間にわたり「リセッション(景気後退)」がない、景気拡大の世界最長記録を樹立した。こうした中で時代の変化を感じる出来事もあった。簡単に振り返ってみたい。

乗用車生産なくなる

豪州経済が大きく揺れたのは、自動車メーカーの生産撤退のニュース。自動車はすそ野が広く、雇用や地元経済に与える影響が大きい。トヨタ自動車は10月3日にメルボルン郊外アルトナ工場、同月20日には米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のホールデンはアデレード郊外の工場をそれぞれ閉鎖した。スウェーデン商用車大手ボルボがクイーンズランド州の工場で年間3,000台のトラック生産を続けているが、90年以上にわたる乗用車生産の歴史に幕を閉じた。

豪州は経済が比較的安定していたため、日米の主要自動車メーカーが工場を構えていた。トヨタは1963年に自動車の組み立てを開始し、かつては同社を代表する「カローラ」「クラウン」などを製造。最盛期の07年には約14万9,000台を生産した。

撤退の理由は、豪ドル高を背景に豪州での現地生産で採算が取れなくなったこと。豪ドルは資源ブームの波に乗り、相場が大きく上昇した。人件費の高騰も足かせとなった。豪州製造業の週給は20年間で2倍以上に上昇した。豪州が各国と結んだ自由貿易協定(FTA)を受けて、低関税や無関税で新車が流入したことも重なり、豪国内での生産は競争力をなくした。

ターンブル豪首相は「市場の好みが変化した」と分析し、これに対応できなくなった同国での生産撤退はやむなしとの判断を示した。同時に、「新たな事業が開かれ、雇用機会が生まれる」と新産業の創設に意欲を示した。宇宙産業を育てるため「国立宇宙機関」を設立する方針を示しており、関連産業の振興につなげたい考えだ。

米アマゾンが本格参入

豪州で消費行動を変えそうなのが、米インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コムによる豪市場への本格的な参入だ。同社は12月5日に豪州でのネット通販事業を開始し、書き入れ時のクリスマス商戦に間に合わせた。

アマゾンはこれまで、豪州では電子書籍サービスを展開してきた。メルボルンの郊外に大型の配送センターを設置。地元報道では、事業の正式開始に先立ち、試験運用を始めたという。

アマゾンは米国や日本、欧州、中国で自慢のIT技術を使い、ネット通販事業を拡大してきた。コストを徹底的に削減して、小売店舗との価格競争に打ち勝ってきた。米国では、店舗では実物を見るだけで、実際の購入はネットで安く提示されるサイトから購入する消費者の行動パターンも広がった。豪州では現在、高い配送費用がネックとなり、ネット通販の広がりは限定的。海外の事例を踏まえ、業界アナリストらは「家電量販店やデパートが影響を受けやすい」と分析している。

LNGに注目

来年を展望すると、日本企業が手掛ける液化天然ガス(LNG)事業が注目されよう。国際石油開発帝石は3月までに、豪州北部沿岸沖のイクシスLNG事業の操業を開始する。LNGは年間890万トン生産し、うち7割を日本向けに輸出する計画だ。豪州では最近、大型のLNG事業が相次ぎ始動しており、18~19年度には輸出量が年7,400万トンと、世界首位のカタールに匹敵する規模に達する見込みだ。

日本にとっては、LNGの安定的な調達につながる。東日本大震災後の原発停止を受けて、温室効果ガスの排出が比較的少ないLNGを使った火力発電の利用が増えている。

豪州のマクロ経済では、3%程度の国内総生産(GDP)成長率が見込まれており、記録的な景気拡大が続きそうだ。失業率は5.4%と着実に低下しているが、賃金への反映が遅れ、物価は伸び悩んでいる。最後に、12月に合法化された同性婚の効果は、ブライダル業界の特需につながるが「経済全体への影響は限定的」(アナリスト)とのことだ。

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