政府要人・専門家が見通す2012年

新年恒例企画

回顧と展望

政府要人・専門家が 2011年を振り返り、 2012年の行方を見通す。
 

 

豪州外交

今こそ日豪関係再定義の時

外務大臣
ケビン・ラッド

Kevin Rudd
Minister for Foreign Affairs

  豪州と日本はこの1年、未曾有の試練に 直面しました。昨夏、クイーンズランド (QLD)州は洪水で大打撃を受け、日本は 支援の手を差し伸べました。

 豪州も、日本で2万人近い死者・行方不明 者を出し、想像を絶する自然災害となった 3月のあの日を決して忘れません。

 連邦政府は直ちに被害が甚大だった南三 陸町に捜索救助隊72人を派遣し、空軍が 保有するC17輸送機3機すべてを展開して 支援物資の輸送に当たりました。ギラード 首相は外国首脳として初めて被災地に入り ました。豪州の個人や会社も人道支援に大 きく貢献しました。

 豪州と日本の災害支援協力は、互いの深 い友情を反映しています。

 さて、アラブの民主化運動や欧州発の経 済危機など変化や不安が世界に広がる中 で、豪州と日本はさらなる関係強化を急が ねばなりません。中国とインドの経済的台 頭は、世界の経済と地政学的なバランスを 大きく変えました。急速な変化の中で、地 域戦略や安全保障、経済関係など豪日の パートナーシップはますます重要性を増し ています。

 豪州にとって日本は、アジアで最も親し い長年にわたるパートナーです。しかし、 現状に満足していてはいけません。民主主 義と自由経済という共通の価値観を持つ両 国は、半世紀単位の大局的な視点に立ち、関係を再定義する時が来ているのです。

 豪日は近年、さまざまな問題に共同で取 り組み、かつてないほど緊密な関係を築い ています。2010/11年度の2国間貿易は震 災にもかかわらず、前年度比16%増加し ました。

 日本の対豪直接投資残高も過去3年間で 40%拡大しました。日本がエネルギー戦 略を見直す中で、豪州は今後も資源の安定 的な供給源として、日本のエネルギー安全 保障に貢献します。豪州のサービス産業の 日本との取引拡大も期待されます。

 次に、両国は包括的な2国間の自由貿易 協定(FTA)の締結に狙いを定めていま す。豪日FTAは、2国間の経済交流を飛躍 的に拡大させる可能性を秘めています。わ が国は、野田首相がこのほど環太平洋戦略 的経済連携協定(TPP)の交渉参加を表明 したことを歓迎します。

 日本が高度なFTAやTPPに参加すれば、 大胆な経済改革は避けられません。しか し、貿易・経済の自由化は大きなメリット をもたらします。

 一方、豪日2国間の安保協力も強化して いきます。10年に署名した相互後方補給 支援に関する合意は12年に発効します。 両国は現在、機密情報共有の枠組みについ て詰めの作業を行っています。

 スミス国防相と私は、年初に開催される 予定の日豪外務・防衛閣僚会議(2プラス
2)で、将来にわたって日豪安保協力を強 化していくことで一致したいと考えていま す。11月のオバマ米大統領来豪時に発表 された豪米安保協力強化も、日本を含む地 域のパートナーとの協力をさらに加速させ るでしょう。

 豪日は主要20カ国・地域(G20)、ア ジア太平洋経済協力会議(APEC)、東ア ジア・サミット(EAS)、国連を通じて、 世界や地域の課題に共同で取り組んでい ます。核軍縮をめぐる2国間の長年の協 力は、豪州と日本が共催した「軍縮・不拡 散イニシアチブ(NPDI)」会合の開始に よって新たな段階に入りました。

  12年は、13/14年度の国連安保理事会 の非常任理事国入りを目指す豪州の外交 活動がピークを迎えます。豪州は安保理 改革に伴う日本の常任理事国入りも支持 しています。

 日本は屈指の民主主義国家で、世界の繁 栄を支える経済大国です。日本には、世界 と地域の課題に対処できる力と信頼があり ます。日本が国際社会でそうした主導的な 役割を全うし、もっと大胆な改革と経済の 再活性化に取り組んでほしいと願っていま す。それが、豪州と日本、そして世界の利 益につながるからです。

 両国の友好とパートナーシップをさらに 前進させ、国際舞台での連携を推進してい こうではありませんか。
 

プロフィル◎オーストラリア国立大学卒業後、連邦政府外 務貿易省に入省。スウェーデンと中国の大使館で外交官と して務めた後、1989年にQLD州労働党政権の内閣室長に就 任。KPMGオーストラリアの中国コンサルタントなどを経 験し、98年に連邦下院議員に初当選。2006年に労働党党 首、翌07年の連邦総選挙で11年ぶりに政権交代を実現し、 豪首相に就任。2010年6月に退任後、9月に第2次ギラード 内閣の外務大臣に就任。
 

資源・観光

日本のエネルギー需要を支える

オーストラリア連邦政府
資源・エネルギー・観光大臣
マーティン・ファーガソン

Martin Ferguson
Minister for Resources and Energy
Minister for Tourism

 私は2012年が希望と繁栄の年になると 前向きに考えています。私たちを取り巻 く国際社会は現在、経済においても、政 治においてもたいへんな試練に直面して いますが、アジア太平洋地域は歴史的な スピードで高い経済成長を続けており、 オーストラリアもその果実を享受してい るのです。

 オーストラリアの鉄鉱石や石炭、液化 天然ガス(LNG)の産業が産声を上げたこ ろから、日本はその顧客として、そして 合弁プロジェクトへの投資を通して深く 関与してきました。

 日本は現在も国際石油開発帝石(イン ペックス)とフランスのトタルの合弁に よるイクシスLNGプロジェクト(開発計 画中のオーストラリア北東沖の海底ガス 田)や、BHPビリトン三菱アライアンス (BMA=日本の三菱商事子会社と英豪系 資源大手BHPビリトンの合弁による石炭 会社)に見られるように、大規模な資源 エネルギー開発プロジェクトに投資して います。

 また、石炭や鉄鉱石といったオースト ラリア産の資源・エネルギーの有力な供給 先となっています。

 日本の友人の皆様は2011年、東日本大 震災というたいへんな試練に遭遇されま したが、力強い復興を成し遂げつつあり ます。オーストラリアは長期的な視点に
立ち、信頼性の高い資源供給国として、 日本のエネルギー需要を全面的に支えて いきたいと決意しております。

  私は2011年に長い期間、日本に滞在す る機会がありましたが、日本の資源エネ ルギー需要は依然として非常に力強いも のがあり、2012年以降もさらに拡大する 可能性があると信じています。

 一方、オーストラリアの観光産業は伝 統的に2国間交流の発展に重要な役割を果 たしてきました。

 海外旅行の渡航先同士の競争は激しく なっていますが、日本人観光客にとって オーストラリアは今もお気に入りの渡航 先となっており、需要を喚起するための さまざまな取り組みが行われています。

 例えば、カンタス・グループは日本とア ジアの市場を強化するため、2012年後半 に新しいロー・コスト・キャリア(LCC=格 安航空会社)、「ジェットスター・ジャパ ン」を日本で立ち上げる計画です。

 また、オーストラリア政府観光局 (ツーリズム・オーストラリア)は総額 1,000万ドルをかけて、日本の観光客を呼 び込み、アジア太平洋地域で旅行先とし てのオーストラリアのブランドを売り込 むための販売促進キャンペーンをジェッ トスターと共同で展開していきます。

 加えて、2011年9月に発表された豪日 の航空当局間協議での合意も、2国間の人的交流の拡大につながることが期待され ます。

 ほかにも、観光需要を喚起するための 主なプロジェクトとしては、日本から短 期のワーキング・ホリデー渡航者を呼び込 むことを目的にツーリズム・オーストラリ アと豪輸出促進庁(オーストレード)が 共同で行っているマーケティングのキャ ンペーン「ステップアップ」(Step-Up) などがあります。

 オーストラリアと日本は観光やワーキ ング・ホリデー、留学などを通して2国間 の文化交流を進めています。人と人との 交流は相互理解を深め、経済的な連携を 促進していきます。こうした交流は、両 国にとってなくてはならない非常に重要 なものです。

 私はオーストラリアにおける日本人観 光市場の見通しは明るいと信じていま す。日本人観光客市場がオーストラリア 経済にもたらす波及効果は年間およそ12 億ドルにも達しており、オーストラリア 政府は将来にわたりオーストラリアと日 本の観光交流を活性化させていくととも に、オーストラリアにおける日本人観光 市場を積極的に支援していきたいと考え ております。

 オーストラリア連邦政府を代表して、新 しい年を迎えるにあたり、皆様の末永いお 幸せとご繁栄をお祈り申し上げます。
 

プロフィル◎シドニー大学卒。1990年から6年間オースト ラリア労働評議会の議長を務め、96年からは連邦議会の影 の内閣で、第1次産業、資源、観光、交通などの分野で影 の大臣を歴任。2007年の連邦総選挙後、資源・エネルギー 兼観光相に就任。
 

 

連邦政局

翌年に連邦選挙を控え、与野党に課題

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー
松本直樹

 2010年の6月に首相の座に就いた労働党 のギラードは、その直後に、当面の重要政 策課題として、①気候変動対策、②資源税 政策、そして③ボート・ピープル対策の3つ を挙げている。

 この内の①については、2011年11月に 対策法案が上院でも可決され、成立してい る。また②についても、確かに労働党政府 のオリジナル版であった資源超過利潤税 (RSPT)は、資源・エネルギー業界からの 強い反発を受け、結局、大きく業界寄りに ソフト化された鉱物資源利用税(MRRT) に取って代わられたものの、導入法案は同 じく11月に下院を通過し、早ければ2012 年の3月にも上院で可決され、成立する見 込みである。その結果、同年の7月1日よ り、炭素税ならびに資源税が導入されるこ とがほぼ確実となった。

 最後に、上記の③だが、ギラード政府が 起死回生の一打と期待した、いわゆる「マ レーシア・ソリューション」は、最高裁判 決によって無効となり、その後政府は同判 決を迂回するために移民法の改正を試みた ものの、野党保守連合の反対もあって、法 改正には失敗している。

 いずれにせよ、ギラード首相自らが前面 に掲げ、また客観的に見ても重要政策にほ かならない3政策の内、ギラードは2政策 をほぼ達成、実現したわけで、これは間違 いなくギラード、あるいは労働党政府の功績を見なし得るものである。ところが、 2011年2月以降のギラード政府への支持 率、またギラード個人への評価は、一貫し て超低空飛行を続けている。

 例えば、2011年の第4四半期の労働党 への支持率は29〜32%の間という、実に 惨憺たるものであった。それなりの功績を 上げたはずのギラード政府への評価が低い のは、皮肉なことに正にその「功績」の御 蔭、具体的には上記1の政策のためであっ た。その証拠に、ギラード労働党への支持 率が一挙に低迷し始めた2月とは、同政策 の概要が公表された月であった。

 この気候変動対策については、ほかの大 排出国が対応に消極的な中、小排出国に過 ぎない豪州が、単独的に国内産業や国民に コストを強いる積極策をなぜ採用する必要 があるのか、と疑問が呈されているのだ。 何よりも政府にとって弁解の余地のない点 は、ギラードが10年8月の選挙直前に、炭 素税の導入はあり得ないと、明確かつ繰り 返し公約したことであった。

 ギラードとしては、選挙後の「ハング・ パーラメント」という異例の状況から、グ リーンズの強く推す炭素税を採用せざるを 得なかったのだが、ただこの選挙公約違反 によって、ギラード、ひいては労働党のク レディビリティーは大きく損なわれること となったのである。

 さて、こうして迎える2012年だが、政府にとって最も対応が困難となるのは、昨 年に取り残した上記の③、すなわちボー ト・ピープル問題となろう。上述したよう に、政府は移民法の改正に失敗したことか ら、ボート・ピープル政策を逆にソフト化 せざるを得ない状況に陥っている。これは 豪州がボート・ピープルの「予備軍」や密 入国斡旋業者に対して、「豪州へようこ そ」との看板を掲げることに等しく、既に 豪州を目指すボート・ピープルの数はかな りの勢いで増大しつつある。周知の通り、 豪州の「サイレント・マジョリティー」は ボート・ピープルには相当に冷淡であるこ とから、このまま難民認定の国内審査を継 続すれば、国内有権者の政府への反発を強 める恐れがあろう。

 ただ一方で、アボット率いる野党保守連 合も、これまでの世論調査の好結果に安住 するのは禁物である。というのも、「ネガ ティブ一辺倒」、あるいは「政治を優先し た与党攻撃一辺倒」とのアボットのイメー ジは、野党にとりますますマイナスとなり つつあるし、このままでは高支持率の維持 など、早晩不可能となるのは明らかだから だ。連邦選挙を翌年に控え、有権者が野党 に期待するのは、何よりも魅力的な政策を 提示することを通じて、政権担当能力を示 すことにほかならない。今年の野党には、 「自身を売り込む」ことこそが必要不可欠 と言えよう。
 

プロフィル◎慶応義塾大学商学部卒業後、会社勤務を経 て、1987年オーストラリア国立大学国際関係学科修士課程 修了。同大学豪日研究センター博士課程中退。92年5月か ら95年7月まで、在豪日本国大使館専門調査員(豪州内政 を担当)。95年8月から97年1月まで、オーストラリア防衛 大学国防研究センター客員研究員。96年8月より政治コン サルタント業務を開始。専門領域は豪州政治、日豪関係、 安全保障問題など。
 

 

金融

2012年豪ドルは足元軟調も、乱高下リスクを警戒

三菱東京UFJ銀行
オセアニア総支配人兼シドニー支店長
八尾三郎

 2011年は「財政債務問題」「自然災 害」の影響がより一段と深刻化、世界経済 にとって非常に厳しい1年となった。「財 政債務問題」は日米欧で深刻度合いを増 し、世界経済混乱の根源となっている。

  特に欧州では1999年ユーロ発足以来最 大の危機に直面、ギリシャ、イタリアなど 債務比率の高い国々での状況は日増しに悪 化し、リーマン・ショック時を上回る資金 調達コストを余儀なくされている。また、 この動きは救済資金拠出の中心となるドイ ツ、フランスにも波及、主要国での格下げ 見通しが高まっている。このような状況 下、世界的不況を回避するために金融緩和 を進める世界の中央銀行の数は増加傾向に あり、予断を許さない状況だ。

 一方、地球温暖化の影響によるオースト ラリアの洪水は長期化、また年後半にはタ イでも大洪水が発生した。そして3月の東 日本大震災では、観測史上最大規模の地震 およびそれに伴う大津波により壊滅的な被 害がもたらされたほか、サプライチェーン の寸断により世界経済への影響も非常に大 きいものとなった。またニュージーランド においても2月の大地震により大きな影響 を受けている。

 オーストラリアでは、強い資源価格、中 国を中心としたアジア各国との深い関係を 背景に2011年前半は好調な経済を維持し たが、欧州危機の影響から11月についに利下げに舵を切った。今年7月には炭素税、 資源税の導入も予定されており、今後の経 済に与える影響について慎重に様子を見て いく必要がある。

 さて11年通年の豪ドルの動きを振り返る と、年初1.0230米ドル近辺で寄り付き、日 本の震災を受けたリスク資産回避の動きに 一時0.97米ドル近辺まで急落した。直後に G7によるドル円協調介入が実施されると豪 ドルも反転、ここから一挙に高値を試す動 きとなる。底堅い資源需要、国内資源関連 プロジェクトへの投資ニーズの強さ、さら には政府による洪水復興対策も加わり、豪 州の国内物価指数も上昇、豪ドルは7月末に は1.1080米ドル近辺と最高値を更新した。

 しかし、欧州懸念が再燃、リスク回避の 動きが強まり世界経済停滞が懸念され始め ると、豪ドルも反転し0.94米ドル割れの年 最安値を付けることになる。その後、11月 末には中国が08年以来の預金準備率の引き 下げを実施、また6カ国によるドル・スワッ プ協定の延長、金利水準の引き下げが行わ れると豪ドルもパリティーを回復した。

 対円では協調介入後に一時90円の高値を つけるも、その後は世界的なリスク回避の 動きを反映し72円近辺まで下落後80円近 辺での推移、米ドル・円は復活の兆しが見 えない米国経済情勢を受け75円30銭台と 円最高値を更新している。

 欧州ではユーロの危機により逃避通貨であるスイス・フランが急上昇したが、スイ ス中銀は1ユーロ=1.20フランの水準を維 持することを表明、この思い切った政策に よりその後の相場は落ち着いている。

 金利面では、豪準備銀行(RBA、中央銀 行)は1年にわたり政策金利を据え置いて きたが、昨年11月、12月に各0.25%の連 続利下げを実施、また1年後の経済成長率 およびインフレ見通しを引き下げた。国内 インフレ警戒感は急速に後退しており、12 年前半にはさらに0.5%程度の利下げを予 想する。しかし欧州危機問題の決着には相 応の時間が必要され、豪経済を牽引してき たアジア経済の減速も避けられない。欧州 債務問題長期化の場合にはさらなる利下げ 圧力がかかるだろう。

  豪ドル相場も上記金利の動向を素直に反 映すると考えている。当面はリスク回避が 市場を主導、豪利下げによる金利縮小も手 伝い、豪ドルは年前半には0.90米ドル近辺 を目指す可能性が高い。また、欧州問題悪 化による金融市場混乱時には、豪ドル相場 も乱高下を繰り返すリスクを踏まえておく 必要がある。しかし高格付で資源国、高金 利通貨としての魅力は引き続き強く、急落 時には相応の資金流入ニーズも期待される ことから大幅な下落はないと考える。年後 半、世界経済が安定の方向に向かう兆しが 見られれば、豪ドルも底堅い動きを取り戻 すと予想する。
 

プロフィル◎1984年3月一橋大学経済学部卒業、90年5月 エール大学経営大学院卒業。84年4月東京銀行新宿支店入 行、86年5月同資本市場第一部、90年4月同大阪支店、94年 10月スイス東京銀行(チューリッヒ)、2000年8月東京三 菱銀行ストラクチャード・ファイナンス部、03年9月同メル ボルン出張所長、06年1月三菱東京UFJ銀行アジア法人業務 部次長、08年5月ミラノ支店長、10年4月より現職。
 

 

経済

資源開発ブーム継続も世界に不透明感

時事通信シドニー特派員
小平直樹

 2011年の豪州経済は、QLD州の大洪水 や超大型サイクロン「ヤシ」の被害から 立ち直り、20年度連続のプラス成長を成 し遂げた。世界経済の見通しは欧州の債 務危機で不透明感を増しているものの、 空前の資源開発投資ブームという強みを 持つ豪州は、深刻な世界金融危機の再発 などがない限り、12年も底堅さを維持し そうだ。

  統計局によると、豪実質GDP(国内総 生産)は季節調整済みで、11年1〜3月期 には洪水被害などで前期比0.7%減となっ たものの、4〜6月期には1.4%増に回復、 7〜9月期には1.0%増となった。10年度 (10年7月〜11年6月)としては前年度比 1.9%増を確保した。豪政府は11年度につ いて3.25%の成長を見込んでいる。

 11年は8月以降、欧州の債務問題など で金融市場が大きく動揺した。市場のリ スク選好姿勢に敏感な豪ドル相場をみ ても、7月27日の海外市場で1豪ドル= 1.1081米ドルと、1983年12月の変動相場 制移行後の最高値をつけたが、その後下 落。対米ドル等価(パリティー)を挟ん で行き来した。豪ドルは対円では4月11日 に90円04銭まで上昇、10月4日には72円 02銭まで下落した。

 豪準備銀行(RBA、中央銀行)は11 月、インフレ懸念後退を受けて2年7カ 月ぶりの利下げに踏み切った。さらに、欧州債務危機で世界経済の鈍化見通しが 強まり、豪州への影響波及が懸念される 中、12月に追加利下げを実施。資源部門 の強さの一方で、豪ドル高の影響を受け る製造業など、そのほかの弱さが目立つ 国内の「パッチワーク経済」(スワン連 邦副首相兼財務相)の下支えへの配慮を 強めた。

 日豪関係では、2月に海江田万里経済産 業相(肩書きは当時)が豪州を訪問。経 済連携協定(EPA)交渉の促進を図った が、東日本大震災を受けて交渉は中断。 野田佳彦首相とギラード豪首相は11月の 首脳会談で、交渉再開で合意した。野田 首相は、よりレベルが高いとされる環太 平洋連携協定(TPP)交渉への参加方針を 表明しており、農畜産品の例外扱いで難 航する日豪EPA交渉はその試金石としても 注目されている。

 「日の丸ガス田」開発として注目され る、国際石油開発帝石が主導する豪州沖 「イクシス」液化天然ガス(LNG)プロ ジェクトは、販売先にめどをつけ、着工 に向け大きく前進した。イクシスは日本 企業が初めて主導するLNG事業で、年840 万トンのLNG生産量の約7割が日本向け。 福島第1原発事故で代替エネルギーとして のLNGへの関心が高まる中、日本の今後の エネルギー確保に大きく貢献すると期待 されている。

 12年の豪経済については、中国やイン ドなど新興国の中・長期的な資源需要拡大 をにらんだ資源開発ブームが続くと予想 される。資源・エネルギー経済局(BREE) によれば、11年10月末時点で開発が決定 または着工中の鉱物資源・石油関連開発主 要案件は102件で、事業総額は過去最高 の2,318億ドルとなった。経済協力開発機 構(OECD)は、12年の豪GDP伸び率は 4.0%に加速すると予測している。

 ただ、欧州信用危機が極度に悪化すれ ば、豪州もその影響は避けられない。RBA のスティーブンス総裁は12月の声明で 「アジアの貿易には欧州の顕著な経済活 動鈍化の影響が一部で見て取れる」との 懸念を示した。豪州の最大の資源輸出先 である中国の成長は鈍化してきており、 中国経済をけん引してきた同国の輸出の 先行きには不透明感も漂っている。

 市場では、RBAの追加利下げを予想する 向きが多い。利下げで、変動型住宅ロー ン金利が低下すれば、ローン利用者の可 処分所得が増え、消費拡大への効果が期 待される。住宅市場の下支えにもなる。7 月には炭素税と鉱物資源利用税(MRRT) が導入される見通しだが、課税対象とな る一部の大企業を除けば、実体的な影響 は懸念されてきたほどではないとの見方 も示されている。
 

プロフィル◎1967年生まれ。1992年時事通信入社。外国経 済部、シリコンバレー特派員などを経て、2009年2月から シドニー特派員。
 

 

日豪ビジネス

激動の年から節目の年へ

日本貿易振興機構(ジェトロ) シドニー事務所所長
土屋隆

 新年明けましておめでとうございます。 2012年が皆様にとって幸多き年となりま すよう祈念いたします。

 さて、2011年は豪州、日本両国経済そ れぞれにとって激動の年でした。1月に QLD州で大洪水が起き、石炭産業に多大な 被害が発生しました。その2カ月後の3月 には東日本大震災が起き、サプライチェー ンが寸断されました。豪州、日本ともにそ の後回復して来ていましたが、8月以降、 欧州債務危機の影響などから成長を鈍化さ せました。

 こうした中で、日豪間のビジネスを見 てみると、8月から9月半ばにかけて在豪 日系企業にJETROがアンケートさせてい ただいた結果(213社回答)では、11年 の営業利益見込みについては、「改善」 35.7%、「横ばい」28.6%、「悪化」 35.7%でした。

  2010年の同様な質問の結果と比べて、 「改善」が14.3ポイント減少し、「悪 化」が13.9ポイント増加と、前年に比 べて営業利益を悪化させる企業が増え ており(詳細はhttp://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000732/asia_oceania_enterprises.pdf参照ください)、豪州景気 の下降を反映しているものと見られます。

 他方、日本からは、好調な資源・エネル ギー分野を中心に引き続き多くの投資が 行われました。同分野で活動されている各商社は、豪州での収益が各社の全体収 益に大きな貢献をしていると言われてい ます。また、そのほかの産業部門でも、 内需の低迷と円高を背景として、日本企 業による投資が活発でした。生命保険、 化粧品、飲料水、医療機器、ITインフラ構 築・販売、水処理、林業の分野でM&Aに よる豪州市場への進出が行われました。 また、住宅建設分野では引き続き事業拡 大がなされています。

 一方、豪州企業による日本とのビジネス の話題としては、大きいところではカンタ ス航空と日本企業との出資によるジェット スター・ジャパンの設立がありますが、意 外と知られていないユニークなケースと しては、ゴールドコーストにあるウォー ター・マーク・ホテルによる長崎ハウステン ボス内のホテル経営開始があります。

 7月15日にオープンされた同ホテルは、 ホテル内での公用語を英語としたユニーク なところで(もちろん日本語でも対応でき る)、コールドコーストからベテラン・ス タッフやシェフを派遣して、ホテル、レス トラン経営を行い、受付や接客の人材育成 に当たっています。

 豪州経済は、欧州債務危機からの悪影 響が引き続き懸念され、さらには全輸出 の25%を占める中国の成長鈍化が見通さ れるなど、その成長のレベルに陰りが見て 来ている中で新年を迎えるところですが、在豪日系企業は、前述のアンケート調査で は、12年の営業利益見通しを11年のそれ と比較して、「改善」47.1%、「横ばい」 41.8%、「悪化」11.1%、と回答、先行き について多少楽観的に見ています。

 年央から導入される炭素価格制度や鉱物 資源利用税の経済への影響はどの程度か分 かりませんが、先進国の中でプラスの経済 成長が見込まれる豪州への日本企業の信頼 は底堅く、液化天然ガス(LNG)をはじめ とする資源・エネルギー分野だけでなく、 ほかの分野への日本企業の投資は、当面 は、引き続き活発であると予想され、豪州 経済にとって日本の重要性は一層高まるで しょう。

 また、年末から再開された日豪経済連携 協定(EPA)の交渉が本格化します。韓国 と豪州の経済連携協定は締結寸前のところ まで来ていると言われており、豪州とのビ ジネスにおいて日本企業が韓国企業より不 利にならないためには、日豪EPAも早急な 締結が望まれます。

 1963年からスタートした日豪経済合同 委員会年次総会は10月にシドニーで開催 される総会が50回目となりますので、そ の際に前向きな報告がなされることが期待 されます。

 その意味で、12年は日豪ビジネス関係 のさらなる深化に向けた節目の年と言える でしょう。
 

プロフィル◎2011年4月から現職。直前はジェトロ本部 (東京)で発展途上国の輸出産業育成への支援に従事。海 外勤務はこれまで、ニューヨーク、バンコク、シカゴの ジェトロ事務所。今回で4カ所目。群馬県高崎市出身。東 京外国語大学英米科卒、米国ハワイ大学修士課程修了(ア メリカ研究)。
 

 

会計・税務

中・長期的視野を持つ新法案と新税制の実現へ

アーンスト・アンド・ヤング オセアニア・リーダー/パートナー
菊井隆正

 世界経済不安が続く中、豪政府は 2011/12年度予算案で資源輸出ブームに依 存した歳入をベースに、13年度までに黒 字予算に戻す公約を目指した。しかし長期 的に将来を見据えるのに十分なものではな く、将来の人口増加の基盤となるインフラ や輸出需要に見合った資源インフラ整備、 2速経済の弊害による不均衡是正、環境問 題といった、国家の基盤形成に不可欠な問 題対応には、さらに具体的で十分な歳入・ 歳出計画が必要とされていた。

 その1つとして昨年下期に立法化された のが、2015年のキャップ・アンド・トレー ド(排出権取引)を見越した「クリーン・ エネルギー法」だ。その準備期間として 今年7月から、企業は温室効果ガス排出量 に見合った炭素権(Permit)を政府から 購入することになる。対象となる企業は 天然ガス小売業者や排出量が多い企業で あり、その判定には詳細のテストが必要 となる。その目安としては、温室ガス・エ ネルギー報告システムに基づき、排出量 の報告義務がある2万5,000トンの二酸化 炭素と同等の温室効果ガスを排出する施 設を保有していることが挙げられる。

 会計面では、国際会計基準上の炭素権 取扱い問題や、多大な影響を受ける電 力、その他排出集約型産業の資産評価、 減損の影響を考慮する必要が出てくる。 さらに「総排出量」がある一定の量を超える対象企業には、監査済みの排出報告 書の提出が義務付けられる。また、天然 ガスや電力などのエネルギー・コストが4 〜25%程度まで上昇すると予測されるた め、対象とならない企業でもエネルギー・ コスト上昇により中期予算の修正が必要 となる場合も出てくる。

 2つ目は、昨年11月に下院を通過し、 今年3月までに上院を通り立法化される 可能性が大きい「鉱物資源利用税法案 (MRRT)」である。対象となる石炭・鉄 鉱石セクターでは、採掘時点での利益に 実質税率22.5%が課税され、日系企業に とっては資源調達コストが膨らむ懸念が ある。3月末までに上院を通過すると、会 計面では対象となる日系企業はMRRTの税 効果会計の影響を3月末決算報告書に計上 する必要があり、ここにきてやっと明ら かになった法案に対して緊急な対処が求 められている。

 さらにMRRTと平行して現行の「石油資 源使用税(PRRT)」へのオンショアの石 油・ガス・プロジェクトの追加法案によっ て、炭層ガス・プロジェクトの投資も影響 を受ける。

 一方、政府はこれらの歳入によって、 将来所得税を軽減し(法人税は30%から 29%)、中小企業への支援、新規エネル ギー分野や資源インフラなどへの支援を するなど、将来の基盤作りに注力する意向だが、事業体が「クリーン・エネルギー 法」や「MRRT法案」によって影響を受け る産業への投資を検討する場合は十分に 調査する必要がある。そのほかの産業の 事業主も、圧迫される関連コストが現行 の事業にどのように影響するかを検討す る必要がある。

 最後に挙げたい税務面の課題として、 昨年11月末に発表された海外勤務者に 関する「遠隔地勤務手当て(LAFHA)」 の税務上の優遇措置に関する改革案があ る。立法化されれば、今年7月からは多く の駐在員を抱える日系企業の雇用コスト に大きなインパクトを及ぼすことが予想 され、労働力不足が悪化する中、外国人 熟練労働者の誘致意欲がそがれる懸念が 残る。

 このような政策・税制が、日本を含め海 外からの投資促進を妨げるのでないかと いう懸念が残るが、豪政府は世界経済全 体の枠組みからみて、豪州の安定したイ ンフラや政治リスクが少ないことを考慮 し、そのバランスを見極めていると思わ れる。

 ここ数年、政府は豪州を地域統括の拠 点とするために、あるいは海外への人、 物、金の流出を防ぐために、政策上・税制 上さまざまな対策を立てている。ここで 挙げたナショナリズムの台頭が大きな流 れを妨げないことを願う。
 

プロフィル◎豪州国内で20人の日本人スタッフを抱える世 界4大会計事務所の1つErnst & Youngのオセアニア地域日 系企業担当部門代表。今年で在豪17年。常に監査、会計、 税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供すること で、オセアニアで活躍される日系企業に貢献できるよう努 めている。

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