日豪、2014年の展望


新年恒例企画


回顧と展望 2014

政治・経済・ビジネスの専門家が2013年を振り返るとともに、2014年の行方を見通す。

 


 連邦政局


ナオキ・マツモト・コンサルタンシー

松本直樹
 
プロフィル◎ 慶応義塾大学商学部卒業後、会社勤務を経て、1987年オーストラリア国立大学国際関係学科修士課程修了。同大学豪日研究センター博士課程中退。92年5月から95年7月まで、在豪日本国大使館専門調査員(豪州内政を担当)。95年8月から97年1月まで、オーストラリア防衛大学国防研究センター客員研究員。96年8月より政治コンサルタント業務を開始。専門領域は豪州政治、日豪関係、安全保障問題など。

前途多難なアボット新政権

2013年は年明け早々から波瀾万丈の年であった。その理由は、1月30日に、労働党のギラード首相がキャンベラのナショナル・プレス・クラブで講演し、その中で、次期連邦下院解散および上院半数改選の同日選挙を9月14日に実施するという、「爆弾発言」を行ったからだ。確かに、選挙が昨年の8月初旬以降、11月の末までに実施されることは、既に予想されていたことではあった。また過去にも、連邦選挙日の相当前に実施日が公表されたこともあった。ただ、選挙の実に7カ月半も前に実施日が公表されたことなど過去に例がなく、そのような驚天動地とも言える戦術をギラードが採用したこと自体が、当時の労働党政府の置かれた由々しき状況を物語るものであった。

いずれにせよ、これを契機にして、各政党は一挙に臨戦態勢に突入したわけだが、ところが6月に入ると、肝心のギラードの党内支持基盤は大きく脆弱(ぜいじゃく)化し、結局、ギラードは、ラッド前首相の再度の挑戦を受けて失脚している。

念願を果たして首相に復帰したラッドは、例えばボート・ピープル問題で強硬路線を採用するなど、労働党政府を苦境に陥れてきた政策分野で、かなり思い切った変更策を立て続けに公表。これが功を奏して労働党への支持率も好転している。そしてラッドは、国民との「蜜月期間」を最大限に活用するためには、早期の選挙がベストとの進言を受け入れ、8月4日には、下院と上院半数改選の同時選挙を9月7日に実施することを公表している。

だが選挙キャンペーンの中盤になると、各種世論調査の結果も失速気味となり、ラッド労働党はアボット率いる保守連合に選挙で惨敗を喫し、9月18日には、新保守連合政権が正式に発足している。労働党が惨敗した最大の要因は、ラッド/ギラード労働党政権に対する国民の鬱積(うっせき)した不満、怒りであった。

さて、こうして迎える2014年だが、第28代の首相となったアボットの前途はかなり多難と言える。その理由は、早期に実現するのが困難な課題、また今後も対応が困難な課題を、アボットが数多く抱えているからだ。新政権には、①公約の順守、すなわち公約した政策の実施、②自由党と国民党との良好な連立関係の維持、そして③州等政府との協調関係の構築・維持、が求められているが、これらは決して容易なものではない。

最も重要な①に関し、政府にとって問題なのは、言うまでもなく上院の状況である。まず今年の6月30日まで続く現行の上院は、「過激」なグリーンズが単独で「バランス・オブ・パワー」を握っている。また、現在のところ野党労働党は、野党時代のアボット保守連合と同様に、ネガティブ、反対一辺倒の姿勢であり、そのため現行上院下で、保守政府の重要法案が可決されるのは困難な情勢である。一方、7月1日からスタートする新上院では、マイナー政党の議員が一挙に増加し、与党はこういった泡沫(ほうまつ)議員たちとの交渉、駆け引きを余儀なくされることとなる。最重要な選挙公約である炭素税の廃棄については、新上院下で実現する可能性が高いものの、やはり政府の重要法案の行方には不透明感が漂っていると言えよう。

次に②だが、自由党と国民党は長年にわたって連立関係を結んできたが、中道右派で小ビジネス層などを支持基盤とする自由党と、右派で地方在住層、とりわけ農業従事者層を支持基盤とする国民党では、各種政策分野で少なからぬ差異がある。そのため、良好な両党関係を当然視することは危険である。

最後に③だが、全国でも保守政府が増加中だからといって、今後の国内政治が馴れ合い、談合的になると考えるのは誤りであるし、また一挙に「協調的連邦主義」が現出すると見るのも早計である。というのも、各州等の保守政府は、連邦からの助成、支援をいかにぶんどるかという点でライバル関係にあるし、また党が同じであれ、連邦と州等政府では互いに競合する部分も多いからだ。それどころか歴史的に見ても、連邦と州とが同じ政党である場合は「骨肉の争い」となり、余計に関係が複雑になることも多く、アボットの舵取りが注目される。

 
 


 日豪ビジネス


日本貿易振興機構(ジェトロ)シドニー事務所所長

土屋隆
 
プロフィル◎ 2011年4月から現職。直前はジェトロ本部(東京)で発展途上国の輸出産業育成への支援に従事。海外勤務はこれまで、ニューヨーク、バンコク、シカゴのジェトロ事務所。今回で4カ所目。群馬県高崎市出身。東京外国語大学英米科卒、米国ハワイ大学修士課程修了(アメリカ研究)。

日豪経済関係も「新たな段階」へ

新春のお慶びを申し上げます。

昨年10月9日安倍首相は、ブルネイでアボット首相と会談し、アボット首相と協力し日豪間の「戦略的パートナーシップ」を一層高め、日豪関係を「新たな段階(new phase)」へと引き上げたい旨述べました。アボット首相からは豪州も日本との関係をアジアにおける最良の友人として重視しているとの発言がありました。

「新たな段階」は外交、安全保障などをはじめとする総合的な面での深化ということですが、今年は経済・ビジネス関係面でもそうした段階へと発展することが期待できるでしょう。これらに触れる前に、昨年の日豪ビジネスを振り返ってみましょう。

資源の投資ブームはピークを過ぎたと言われている中で、日本企業によるこの分野での新規投資も大きな動きはありませんでした。他方、都市開発、宅地開発、小売りなどで新たな取り組みが出てきたのが目新しいところです。報道ベースでは、積水ハウスによるシドニー中央駅地域の開発、サンシャイン・コースト郊外のリゾート開発、無印良品や大創(本体)によるメルボルン地域での店舗開店がありました。一方、豪州企業の日本進出も、マッコーリー・キャピタルの前田建設との合弁会社設立、豪州ドミノピザによる日本のドミノピザの買収などが報じられています。

こうした新たな分野での動きは、2012年の第50回日豪経済合同委員会年次総会の共同宣言で謳われた日豪経済関係の「補完から協働」への流れに呼応するものです。その日豪経済委員会の活動では、4月に豪州インフラ・PPP調査ミッション(団長:横尾ジェトロ副理事長(当時))がシドニー、メルボルンで豪州側の協力を得て視察、情報収集を行いました。総勢50名の実務家によるもので、今後の日本企業の豪州への参入が期待されます。

10月に東京で開催された第51回日豪経済合同委員会年次総会も地元日本勢150名の参加に加え、豪州からも130名ほどが参加、盛大となりました。日本開催でこれだけの豪州勢の参加は過去最高とのことです。同年次総会では、日豪EPA、TPPの早期締結の日豪両国政府への要請が共同声明に盛り込まれました。当事務所が11月にシドニーで開催した対日ビジネス促進シンポジウム(Japan: The Awakening – Capitalizing on new opportunities in the Japanese market)には予想、期待を上回る140名あまりの方が参加されました。これらは、安倍政権による日本経済の再興が進み、成長戦略に盛り込まれた規制緩和など諸施策によるビジネス・チャンスの拡大に加えて、2020年の東京でのオリンピック開催による直接的、付随的なビジネス・チャンスの発生に接して、豪州ビジネス界で日本への関心が増してきたことを示しています。

14年は、日本ではこうした流れの中で、関西空港などの既存施設運営や東京オリンピック競技施設建設に係るPPP・PFI、健康・医療分野、情報通信技術分野は、豪州企業にとってチャンスが拡大するでしょう。他方、豪州では、経済成長が昨年の2.5%からあまり改善は期待できない(豪州準備銀行=RBA)中ですが、アボット首相は自らを「インフラ首相」と称しインフラ建設(含む病院)を推進しており、インフラ建設そして住宅投資が成長をけん引すると予想されています(RBA)。当事務所調べでは、計画されているインフラ建設プロジェクトは連邦政府、州政府合わせて39件、総額320億ドルとなっています。これらの分野を中心に日本企業にとってもビジネス・チャンスが拡大することでしょう。

以上の通り今後、日本、豪州の市場で日豪のビジネス交流は一層活発化し、協働のケースも増えてくることが期待されます。また、14年には日豪EPAは、前述の日豪首脳会談の中でアボット首相が1年以内の締結を明言しており、実現するでしょう。さらに、TPPについても最終決着に向けて交渉が行われています。これらに、15年締結を目指す、日・豪など16カ国(*)間のFTA/EPAであるRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)も続きます。このように14年は日豪経済関係が「新たな段階」に向けて1歩を踏み出す年となるでしょう。

(*)日本、豪州、アセアン10カ国、中、韓、インド、NZ

 
 


 豪州経済



プロフィル◎ 1969年生まれ。94年時事通信社入社。福島支局、シリコンバレー兼ロサンゼルス特派員などを経て、13年9月からシドニー特派員。

時事通信シドニー特派員

新井佳文
 

資源ブームの後遺症

豪州経済を長年けん引してきた資源開発投資ブームは2013年、ピークを越えた。成長力が鈍る中、人件費高騰や硬直的な雇用慣行といった資源ブームの「後遺症」は社会に巣くっており、米自動車大手フォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)の豪州生産撤退という形で問題が顕在化した。

「怠惰な習慣が豪州人に染み込んでしまった」。豪メディアによると、英豪系資源大手リオ・ティントのデュプレシス会長は資源ブームの影響をこう表現した。

1991年前後からの資源ブームを享受し、賃金は全業種で軒並み高騰。鉱山のトラック運転手の賃金が年収10万豪ドル(約1,000万円弱)超とは、われわれの常識からかけ外れている。

国際通貨基金(IMF)によると、豪州人の1人当たり名目国内総生産(GDP、2012年)は平均で6万7,304米ドル(約700万円)と、世界5指に入る高所得となり、物価も上昇した。ちなみに、日本人の年収は4万6,706米ドル(約480万円)で12位。

豪州人は日本人の1.4倍以上稼いでいる計算だ。仕事ぶりに比べ、高収入を謳おうか歌している印象は否めない。デュプレシス会長も「資源ブームの強さは、生産性向上が遅れたことの弱点を隠してしまった」と警鐘を鳴らす。「弱点」が浮き彫りになったのが、自動車大手の撤退劇だ。

豪州ではかつて、日米欧の自動車メーカー各社が現地生産していたが、相次いで撤退。現在残る3社のうち、フォード・モーター、そしてGM傘下のホールデンが今年、現地生産をやめる方針を表明した。GMは撤退理由として「豪ドル高や生産コスト高、国内市場の狭さ」(アカーソン最高経営責任者=CEO=)を挙げた。

現地生産を続ける唯一のメーカーとなるトヨタ自動車も、高過ぎる人件費や柔軟性を欠いた雇用慣行など、構造的な高コスト体質にあえいでいる。豪トヨタまで撤退し、5万人以上を雇用する自動車業界は崩壊状態に陥るのか。あるいは雇用制度など高コスト構造に官民でメスを入れ、再生の糸口を見つけられるのか。自動車業界、そして製造業は2014年、正念場を迎えそうだ。

「怠惰な習慣」を物語るエピソードがある。豪トヨタの安田政秀社長は豪紙とのインタビューで、木曜日が祝日になると、4連休にしようと、金曜日に前触れなく病欠連絡を電話でして休む者が続出するそうだ。部署によってはそんな欠勤率が3割にも。「なぜこのようなことが許されるのか理解し難い」と苦言を呈した。

13年をGDP統計で振り返ってみよう。第1四半期(1〜月)の季節調整ずみ伸び率は前年同期比2.5%増。第2四半期も2.6%増、第3四半期も2.3%増と「低空飛行」が続いた。中国景気の減速で、輸出が伸び悩んだ。失業率も高止まりし、11月は5.8%を記録。エコノミストは「失業率上昇に歯止めをかけるには年率3%の成長率が必要」と指摘しており、力不足は明らかだ。

それでも豪州は、金融危機後にリセッション(景気後退)に陥った先進各国に比べれば、まだまだ優等生だ。リセッションとは、前期比でマイナス成長が2四半期続いた状態を指す。豪州経済は13年6月末時点で、22年間続けて「景気後退知らず」の偉業を達成した。

豪準備銀行(RBA、中央銀行)は景気を回復軌道に乗せようと必死だ。金融緩和を続け、8月には過去最低となる2.50%まで政策金利を引き下げた。スティーブンス中銀総裁は「金融緩和政策は金利動向に敏感な支出や資産価値を支えており、金融緩和の効果が十分に表れるにはまだ時間がかかる」と語り、9月以降は金利を最低水準で据え置いた。「住宅バブル」との指摘もあるほど住宅市場は活気付き、政権交代の効果もあって9月以降は企業信頼感が上向いた。しかし、減速感は払しょくされておらず、「緩和局面は継続中で、14年半ばに追加利下げがある」(NAB=ナショナル・オーストラリア銀行のシニア・エコノミスト、デービッド・デガリス氏)との予測もある。

資源ブームは終わったのか。資源大手フォーテスキュー・メタルズ・グループ(FMG)のパワーCEOは「建設ブームが終わっただけで、資源生産ブームは始まっており、資源ブームはこれからだ」と前向きだ。14年も資源産業を中核に、非鉱業部門の着実な成長を待つしかないようだ。

 
 


 金融


三菱東京UFJ銀行 オセアニア総支配人兼シドニー支店長

八尾三郎
 
プロフィル◎ 1984年3月一橋大学経済学部卒業、90年5月エール大学経営大学院卒業。84年4月東京銀行新宿支店入行、86年5月同資本市場第一部、90年4月同大阪支店、94年10月スイス東京銀行(チューリッヒ)、2000年8月東京三菱銀行ストラクチャード・ファイナンス部、03年9月同メルボルン出張所長、06年1月三菱東京UFJ銀行アジア法人業務部次長、08年5月ミラノ支店長、10年4月より現職。

豪ドルは緩やかな下落を予想

2013年は金融市場に影響を与えるさまざまな出来事があった。日本では政権交代を受け、デフレ対策として2%の明確な物価目標が設定され、その実現に向けた大胆な金融緩和が断行された。一方、米国では量的緩和第3弾(QE3)の早期縮小論が活発化した。5月にはバーナンキFRB議長がQE3縮小を示唆し米金利が上昇、新興国からの資金流出が起こった。また、豪州経済への影響も大きい中国では、経済成長鈍化や「シャドーバンキング」と呼ばれる金融取引拡大を背景としたシステミック・リスクがクローズアップされた。

当地豪州では、資源ブーム終焉が囁(ささや)かれる中、9月の総選挙において6年ぶりの政権交代が実現した。こうした中、2008年のリーマン・ショック以降高騰し、その後も高止まっていた豪ドル相場にも久々に大きな動きが見られた。以下、2013年の豪州金融市場を簡単に振り返る。

豪州の相対的な高金利や、日本株急騰などを背景とする市場のリスク許容度向上により、豪ドルは年初から1.05ドル近辺での推移を続けた。しかし、4月以降は日本株が大幅に調整したこと、第1四半期GDPの8%割れで中国経済の減速感が鮮明になったこと、5月には豪州で5カ月ぶりの利下げがあったことに加え、米国ではQE3早期縮小論台頭による金利上昇など、豪ドル安の材料が重なった。中銀が豪ドル高抑制姿勢を鮮明にしたこともあり、豪ドルはパリティーを一気に割り込むと、7月末には0.90ドルをも下抜け、8月上旬には2013年の安値となる0.885ドル近辺まで下落した。

しかし、9月に入ると相場の流れは反転。中銀は8月の追加利下げで政策金利を2.50%としていたが、その後は堅調な住宅投資や中国経済の持ち直しから、金融政策のスタンスを中立的とした。また米国では予想されていたQE3縮小が見送られ、政府債務上限問題を巡る混乱から景気回復の遅れを懸念する見方まで広まったことで、豪ドルは10月半ばにかけて0.975ドル近辺まで値を戻した。その後は再度のQE3早期縮小論から、豪ドルは再び0.90ドルを目指した動きとなっている。

豪ドル円は、円安により4月に105円台まで上昇したが、その後は円安水準の調整や、豪ドルの下げも影響し、85円から95円のレンジで推移している。なお、9月に実施された総選挙の豪ドル相場への影響は限定的なものになっている。

さて、2014年の豪ドル相場は、結論から言うと、緩やかな豪ドルの下落を想定している。当面のポイントは、米国の金融政策動向および豪州の景気動向となる。まず前者は、「豪ドルの相対的な金利優位性」という観点で、中長期トレンドも左右する。リーマン・ショック以降、米国で続く量的緩和により米金利が抑制された結果、豪州の金利優位性は長く維持されてきた。紆余曲折は予想されるものの、2014年中には米金融政策正常化への道筋が明らかとなりそうだ。世界一の経済大国の金融政策正常化は米ドル高要因となる可能性が高く、すなわち豪ドル安が見込まれる。

一方、後者の豪州国内景気はいったん底を打ったと考えている。2011年11月からの金融緩和局面における利下げ幅は既に2.25%に及び、住宅関連投資などを中心に相応の効果が現れ始めているからだ。よって現行2.50%の政策金利は、当面据え置かれると予想する。しかし、豪ドルの想定以上の高止まりによる国内景気回復遅延、特に懸念されている雇用において顕著な改善が見られない場合は、さらなる利下げの可能性も排除できないだろう。いずれにせよ、2014年は豪米金利差が緩やかに縮小することが予想され、豪ドルは2014年末の時点で0.80ドルから0.85ドル近辺を目指すと考えている。

波乱があるとすれば、米経済回復の予想外の遅れによる金融緩和強化が招く豪ドル高止まり、あるいは中国経済懸念および豪資源関連投資の急減速による交易条件悪化を通じた豪ドル安の進行だろう。特に後者のシナリオについて、米金融政策正常化の進行が予想以上に早まる局面と重なった場合には、0.70ドル台への豪ドル急落も視野に入れて置く必要があるだろう。

 
 


 会計・税務


EY ジャパン・ビジネス・サービス アジア太平洋地域統括/パートナー

菊井隆正
 
プロフィル◎ 豪州国内で約20人の日本人スタッフを抱える世界4大会計事務所の1つEYのアジアパシフィックおよびオセアニア地域日系企業担当部門代表。今年で在豪20年。常に監査、会計、税務から投資まで広範囲にわたる最新情報を提供することで、オセアニアで活躍する日系企業に貢献できるよう努めている。

日系企業の成長を後押しする税政策に期待

私たちが昨年9月に実施したキャピタル・コンフィデンス調査の結果では、オーストラリアやニュージーランドを含む世界トップ企業の幹部の世界経済に対する信頼感は回復しており、経営者は投資へと動いていることが示された。特にオーストラリア企業は健全性の高いバランス・シートを維持しており、オーストラリア株式市場も2013年11月末現在では高い水準を維持している。また9月の政権交代によって比較的不確定要素が薄れたこともあり、14年は再び企業がM&Aを通して成長を求める年になることが期待される。

この企業の信頼感に応えるには、まず税制面で企業に安心感を与える方向性を早く示すことが求められる。これまで不確定要素の大きな要因だった労働党政権下の税政策は、産業界の意見聴取を十分行わずにその場限りの対応が目立ったため、先行き不透明感を漂わせ投資を抑制していた。現在まで、オーストラリアには120種類以上の税金があり複雑で不平等、非効率と批判されてきた。オーストラリアの根本的な税改正に向けて期待されたヘンリー・レビューが発表されてから3年以上経過しているにもかかわらず、前労働党政権下では明確な政策の方向性が見えない状況であった。

それを考えると連立政権のスピーディーな出だしは評価できる。政権発足直後に選挙公約だった炭素税および鉱物資源利用税(MRRT)の廃止に関する法案などを提出し、またこれまで公表されていたが議会で未成立の100あまりの税制改正案を見直す計画を発表した。一方、年内に炭素税・MRRTの廃止を目指しているものの、炭素税は昨年導入後、炭素価格に伴うコスト回収のための販売価格の調整、契約の見直しなどあらゆる面で深く経済に浸透しているためその影響を取り除くには相当の時間を要し、実務レベルの課題もいろいろと出てくると想定される。

加えてMRRT廃止に向けて気になるのが会計上の影響だ。これまでバランス・シートに計上していた繰延税金資産/負債がMRRT廃止を受けて当該残高の取り崩しが必要となる。そのタイミングは年末年始にかけて開催される議会での法案可決に左右されるため、これまで繰延税金資産/負債を計上してきた日系企業にとって今期末の業績見通しが把握しづらい状況がしばらく続くことになる。

また連立政権は、グローバル企業が税制の隙間や抜け穴を利用した節税対策により税負担を軽減している状況を是正する方針を打ち出している。その1つが意図的に負債をオーストラリアの会社に積み増しすることによる海外への所得移転であり、過少資本税制のセーフハーバー規定の厳格化、外国ポートフォリオの配当に対する免税処置の変更などの措置で対応すると発表している。

さらに、オーストラリア政府は、海外でも最近注目され始めたBEPS(課税ベースの浸食と低課税国への所得移転)によって法人税収が失われているという認識を強くもっており、OECDのBEPSプロジェクトにおいてリーダシップ的な役割を担っている。これを受け、オーストラリア税務当局は売り上げ1億ドル以上のすべての企業に対してどれだけの税金を払っているかなどの情報の一般公開を義務化する方針であり、今後、該当する日系企業はそういった情報の透明性を高める必要が出てくる。

一方、会計基準では13年からIFRS第10号「連結財務諸表」とIFRS第11号「共同契約(ジョイント・アレンジメント)」で新規定の適用が開始され、一定の条件を満たした場合、連結の対象となる事業体が拡大したり、ジョイント・ベンチャーに参加している企業の会計処理に影響を与えた。ただし、現地日系企業のように通常、被投資企業の議決権の大多数を保有している場合や、マイニング・プロジェクトでよく見られるような非法人形態の共同契約については従来通りの会計処理が適用され、今回の新基準による影響は小さいと言える。

14年は新政権による税改正の発表や、会計面では引き続き企業の財務報告の透明性が求められる中、企業の成長を後押しする政策が期待される。

 

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