ニューヨーク在住 山田 和孝さん

山田 和孝さん
世界の日本人ボランティア⑬
ニューヨーク在住 山田 和孝さん
「子どもたちに異文化を知る素晴らしさを伝えたい」
沖縄三線巧みに操るマルチ僧侶

Photo & Text: Kenji Sakai
 世界の経済、金融、メディアの中心とも言われ、いくつもの言語と文化が入り混じる街ニューヨーク(NY)。さまざまな文化、多様性、価値観、そしてビジネス・チャンスを求め国内はもとより、世界中から多くの人が集まっている。人口の約3分の1を外国人移民が占め、移民によって発展したと言っても過言ではないこの街は、多数の外国人街区が点在し、人種のるつぼと言われる。それがゆえに地域によっては貧富の格差が激しいのも事実である。
 特に低所得者が中心の居住地区では、同じようなバックグラウンドを持つ人同士が集まっており、そこに住む子どもたちは異文化に触れる機会に乏しい環境で育っているのが現状だ。そんなNYの一角、チェルシー地区に住み、ニューヨークやニュージャージーを中心に坐禅の指導をしながら、子どもたちへのボランティア活動を行っている日本の青年がいる。



ニューヨークへの移住
「おはようございます。わざわざ、オーストラリアからかけて頂いてすみませんね。何でも聞いてください」。NYは朝の9時。人柄がにじみ出るような優しい口調でそう言うと、山田さんはインタビューに答えてくれた。
 山田さんの本業は、日本にある禅宗派の1つである臨済宗の僧侶。本人いわく、三線弾き、歌唄いができるお坊さんだという。日本の大学を卒業後、専門道場で8年半修行を積んだ。その道場の先代であった老師が50年ほど前、NYに住み坐禅の指導をしていたのがニュージャージー州にある「西来禅荘」。その後は現在の老師が年に1、2回赴き指導していたが、2001年からは代行として山田さんが渡米するようになった。3年前に道場を引退する際、NYに移り住んで本格的に坐禅の指導をしてみてはどうかという提案を受けた。実際、アメリカで坐禅を習っている生徒に相談してみると、「ぜひ来てほしい。住む場所は手配する」と言う。移住するに当たって、一番不安な要素だった住居を確保してもらえるのであればと渡米を決意。同年には、ニュージャージー州サセックスを本拠地とする非営利宗教団体『Hourin Zen Sangha, inc.』を設立し、山田さんのNY生活は始まった。
異文化を教えられる喜び
 しかし、実際の生活は本当にお金がなく苦労の連続。僧侶という職業の傍らで、生活費を稼ぐために、どんなに天候が悪い日でも道に立ち続け、托鉢を行った。楽しみと言えば、趣味で始めた沖縄三線を弾きながら歌を唄うことぐらい。趣味と実益を両立させて、生活費は無理なく稼げるようになったが、せっかく自分を受け入れてくれたこの街で唄うのであれば、稼ぐよりも与えるようなことをしたいと思うようになっていた。
 ある日、老人ホームの老人たちにメイクやネイル、マッサージをするボランティア活動に、エンターテイメントの担当者を募集する旨の告知をインターネットで目にした。人前で唄えるのならという思いから応募したのが、日本人を中心としたボランティア団体「NYdV(NY de Volunteer)」との出会い。その時の活動で、ボランティアというものが自分の肌に合うと分かり、以降活動に積極的に参加するようになった。
 ここでの活動の中心は、子どもたちに日本文化を教えるプログラム。このプログラムは、NY市が運営するレクリエーション・センターでのアフター・スクールの一貫。多様性を教える教育が注目されているNYの教育界の高い需要に応えている。挨拶、遊び、スポーツ、伝統文化、音楽などといった日本の文化を紹介し、体験してもらうというもの。それゆえ、歌や踊りを得意とする山田さんはこのプログラムには欠かせない存在だ。また、寿司を作ったり、浴衣の着付けをしたりと行事は多彩で、三線を弾きながら沖縄の唄を歌い、伝統の踊り(カチャーシー)を教える音楽の日は特に盛り上がる。山田さんは、始まりにはいつも「キラキラ星」を唄う。たいていの子どもは一緒になって大合唱してくれるが、中には初めて見る異質なものに偏見の目を向ける子もいるという。しかし、3曲、4曲と歌っていくうちに最後には笑顔を見せ楽しそうに踊っている。そういった子どもたちの変化や笑顔を見ることが何よりも嬉しいという。ほかのメンバーに触発された部分も大きいと言うが、 このボランテイアをしていくうちに、代償を求めないで歌うことの素晴らしさを実感することができるようになった。それが喜びとなって返ってくることに大きな満足感が得られるという。
 子どもたちはこのプログラムに参加することで、肌や耳でその違いに触れ、いつしか自分たちとは異なるものを受け入れ、多様な文化、価値観を共有することができるようになるのである。山田さんは、そのような子どもたちの成長にもひと役買っているのだ。
山田 和孝さん子どもたちと一緒に寿司を作った「Sushi Day」
自由でいられる街
 そんな山田さんの1週間は実に多忙だ。普段は、僧侶としてチェルシーやニュージャージーにある禅堂に赴き、托鉢や禅の指導を行っている。それ以外は、自宅で三線教室を開いたり、不定期的に、地下鉄やレストラン、ライブハウスなどで三線ライブを行っている。ニューヨークの好きなところを聞いてみると、一番の魅力はやはり世界中のあらゆる文化、人種と交わえることだという。各々が自分なりの表現方法を持ち、ぶつかり合いながら触れ合っていく。「すごく自分が自由でいられる。むしろ自由に自分を表現することの方が尊重されるんです。それぞれが多くの文化に触れ合うことを期待していますから。自分もそのうちの1人。だから子どもたちにもいろいろなことを教えてあげたいんでしょうね」。
 最近では藤間流の日本舞踊を習い始めた。普段、自由奔放な表現をしているがゆえ、たまには決まりごとの多い表現の中に身を置くというのも楽しいらしい。人に教え、指導する立場になることが多い中、教えてもらうという立場になることは自分のためにも良いという。
 しかしどんな時でも、決して楽しむということを忘れない。「頭で考えない方がいいんです。正しいことをしなければならないと思うと、自分と他人を比較してしまいますから。僕は身体で感じることが大切だと思いますね 。いかに自分がピュアでいられるかどうか。そうすれば自然に笑顔が出てきます。僕は子どもが大好きですし、なにより皆がハッピーになってくれるのが嬉しいですから」
 自らの経験をもとに、いかに異文化を知ることが素晴らしいかを知っている山田さん。禅の布教活動を行う傍らで、これからも多くの子どもたちにさまざまなことを教えてあげたいと語ってくれた。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る