第1回HSC日本語履修資格とは

HSC日本語コースが抱える問題

■シリーズ・教育
HSC日本語コースが抱える問題
日系の子どもは受験できない?

第1回HSC日本語履修資格とは

 オーストラリアの英語環境で育つ日系の子どもたち。その多くは親から受け継いだ日本語を学び続けようと、週末に日本語補習校に通ったり現地校で日本語を選択して勉強したりと、努力を重ねている。子どもたちに日本語を継承してほしいという親の願いも強い。
 しかし、高校の卒業試験(HSC)の受験科目に日本語を選択しようとすると、制度上の問題から履修をあきらめざるを得ないケースがあることが指摘されている。こうした日系の子どもの日本語履修問題に取り組んでいる有志グループ「HSC日本語対策委員会」に、話を聞いた。

HSC日本語コースを履修するには ?
ーーNSW州のハイスクールに通う日系の子どもが、HSC(囲み参照)の受験科目に日本語を選択するには、どうすればよいですか。
 11年生から始まるHSCの日本語コースには、レベル別にビギナーズ、コンティニュアーズ、バックグラウンド・スピーカーズ(BG)の3コースがあり、来年からはヘリテージ・ランゲージ・コースが加わります。まず通っている学校で、希望する日本語のコースが開講しているかどうかを確認します。希望するコースがない場合、もしくは人数制限などのために受講できない場合は、オープン・ハイスクール(言語専門の通信制公立校)など学校外で受講することになります。
 10年生の段階で履修許可申込書を学校に提出します(BGコースを除く)。申込書には生徒の言語背景に関する質問(家庭での使用言語や親の使用言語、第2言語の学習歴など)があり、記入内容をもとに、生徒の履修資格の有無が校長によって判断されます。
ーー日系の子どもというと、「両親または片親が日本人で、豪州生まれ。現地校に通学し、親と日本語で話すことはあるが、兄弟・姉妹や友人とは英語で会話。日本語補習校に通ったことがある(または通学中)」という子が大半ではないかと思います。こうした子どもに適するコースはどれでしょうか。
 ひと口に日系の子どもといっても、日本語の能力には個人差がかなりあります。
今年度までの状況ですと、最も適していると考えられるコンティニュアーズ・コースを希望しても日系という背景から履修を認められず、BGコースの選択肢しかないというケースが大半を占めていました。けれども、ご質問にあるような日系の子にとって同コースの内容は難しすぎます。言語能力が優れた子どもや日本語が特別好きな子どもは、来年から導入されるヘリテージ・コースに付いていけるかもしれませんが、そのレベルに至らない子どもも多数いるはずです。
 親が日本人だからといって、必ずしも子どもが日本語を話せたり、読み書きができるわけではありません。子どもが自分に適したレベルのコースを選択できないというのが現状です。
ーーHSCの受験科目のうち、日本語、中国語、韓国語、インドネシア語のアジア4言語にのみ履修基準(表)が設けられているそうですが、なぜでしょうか。オーストラリア人にとって言語体系の異なるアジア言語は難しく、言語背景を持つ生徒との差を解消するためだと聞いたことがありますが。
 この点について、私たちは活動当初からBoard of Studies (HSCを実施するNSW州政府機関、以下ボード)に説明を求めていますが、納得のいく回答はまだ得られていません。こうした履修基準はほかの言語にはなく、ほかの科目にもありません。
あいまいな履修資格基準
ーー校長が各生徒の履修資格の有無を判断するということですが、そこに問題はありませんか。
 例えば、コンティニュアーズ・コースには、「その言語のバックグラウンドを持つ人と、その言語を使って教室外で持続的なコミュニケーションをしていないこと」という条件があります。けれども、その履修条件の解釈が学校によって異なることがあるため、下記のように、母親が日本人で同じ日本語補習校に通ったという、似た境遇で育った子どもでも、A校では希望コースを履修でき、B校ではできなかったということが実際に起きています。履修基準の記述があいまいなために、解釈の相違が生まれているのです。
【事例】
 J君は母親が日本人で父親がオーストラリア人。豪州で生まれ育つ。小学校は日本人学校の国際部。日本語土曜学校にも通学。
 G君も母親が日本人で父親がオーストラリア人。豪州で生まれ育つ。小学校から現地公立校に通学。日本語土曜学校に小学校1年生から中学3年まで通った。J君と同学年。
 J君はコンティニュアーズ・コースの履修を認められ、HSCの成績優秀者として新聞にも名前が出た。G君は母親が日本人であることと土曜学校に通ったことを理由に、同コースの履修を認められなかった。
ーー校長が認めた履修資格が、後からボードによって取り消されたケースもあると聞いています。なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
 履修申込み後、あるいは履修中にボードが資格基準の記述変更を行い、厳しくなった判断基準が適用されたために起こることがあります。
 履修基準は最初に設けられた1990年以降計5回の変更があり、2005年12月の記述変更では、コンティニュアーズ・コースを学んでいた生徒が「資格なし」とされてしまったケースもありました。
 また、11年生でコンティニュアーズ・コースの学習が順調に進み、日本語の先生がエクステンション・コースに進めさせようとボードに問い合わせたところ、家庭での言語使用などについて改めて調べられ、その結果資格を取り消されたケースもあります。
ーー日本語を勉強する意欲があるのに学習を継続できないというのは、子どもへの心理的影響が非常に大きいと思いますが。
 その通りです。例えば、ハイスクール入学後にフランスから移住してきた級友が仏語のコンティニュアーズ・コースを取れるのに、日本に1度も住んだことがない自分は日本語の同コースを受けられないとなると、アジア系の子どもだけ差別されているような気持ちになってもおかしくありません。また、日本語補習校に通うなど、それまでの努力が否定されてしまったと感じるでしょう。
 また、履修途中で資格を失った場合は、それに代わるほかの科目を途中から履修することになります。そうするとHSCにおいて極めて不利になり、社会に対する不信感を持ったり、過敏な思春期に多大な精神的負担となる場合もあります。
■次号では、HSC日本語対策委員会の活動について、お聞きします。
HSC言語コースの履修条件(Eligibility Criteria) (HSC日本語対策委員会による仮訳)

コース名 履修条件
ビギナーズ ・中等教育(もしくは同等の教育機関)レベルで、当該言語を100時間以上学習していないこと。
・当該言語についてほとんど、もしくは全く予備知識を持っていないこと。交換留学生については、3カ月以上の顕著な国内経験(ホームステイや学校への通学などの経験を含む)を持つ場合は、不適格となる。
コンティニュアーズ ・当該言語を指導言語として用いる学校で、小学校初年度(1年生)以降の正式教育を1年以上受けたことがないこと。
・当該言語がコミュニケーションの手段である国において、過去10年間に3年以上在住していないこと。
・当該言語のバックグラウンドを持つ者との教室外での持続的なコミュニケーションに、当該言語を用いていないこと。
ヘリテージ・
ランゲージ
・10歳の年齢になる年(通常小学校4年生か5年生)以降に、当該言語が指導言語となる学校で、正式教育を受けていないこと。
バックグラウンド・
スピーカーズ
履修条件なし

HSCとは?
High School Certificate の略。12年生を対象にしたハイスクール卒業資格試験。10年生の時点で受験科目を決め、11年生と12年生でその科目を履修する。英語は必修。それ以外の自由科目は数学、社会科目、科学科目、外国語、芸術など多岐にわたり、最低合計10ユニットが必要。これらの科目の学内評価とHSC試験結果を基に、得点(ATAR:Australian Tertiary Admission Rank)が算出される。各大学は毎年コースごとに入学に必要なATARを定めているので、HSCは事実上大学入試の役目を果たす。

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