最終回 履修問題の 改善へ向けて

HSC日本語コースが抱える問題
HSC日本語対策委員会の皆さん

■シリーズ・教育
HSC日本語コースが抱える問題
日系の子どもは受験できない?

最終回 履修問題の 改善へ向けて動

本シリーズではこれまで、HSC日本語コースが抱える問題点を概観するとともに、この問題に取り組んできたHSC日本語対策委員会の活動を紹介した。最終回の今回は、この問題をどのように改善していけるのか、今後目指していく方向について、同委員会に話を聞いた。

履修条件の撤廃を求める
――HSC日本語コースには履修条件があり、通学先の校長によって履修資格がないと判断されることがあるわけですが、その場合どう対応したらよいのでしょうか。
 判断を下した学校(校長)に、その旨と理由を一筆書いてもらい、保管しておくことをお勧めします。履修資格が認められない典型的な例は、コンティニュアーズ・コースを希望した生徒が、親(片親)が日本人であることや、日本語補習校に通ったことを理由に、「日本語が話せるであろうから履修資格がないと判断される」ケースです。
 学校の判断が不服な場合、ボード・オブ・スタディーズ(HSCを管轄するNSW州政府機関、以下ボード)に不服を申し立てて再審査を求めることができます。最近になって、ボードは不服申し立ての手続き方法をウェブサイトに掲載しましたが、不服申し立てをするには、最初に当の校長に接触しなくてはならないので、その点がこの手続きを進める大きなネックとなるでしょう。
 不服申し立てが却下された場合は、2つの選択肢しか残されていません。コンティニュアーズ・コースを諦め、難易度の高いコース(ヘリテージ・ランゲージ・コースまたはバックグラウンド・スピーカーズ・コース)を選択するか、あるいは日本語の勉強そのものを諦めるしかないということになります。
 私たちが把握している例では、校長の判断に納得がいかず、再度交渉をしたり、ボードに直接問い合わせても、納得のいく答えを得られない場合が多かったようです(事例参照)。ただ、ボードは11月に、校長がより適正な判断を下せるようにするための判断材料を公表しましたので、今後は学校側の対応の改善が期待されます。
事例1:オーストラリア生まれの生徒。片親が日本人だが、日本語で継続した会話をすることはできない。しかし「コンティニュアーズ・コースの履修資格なし」と判断され、納得がいかなかった保護者は直接ボードに電話で問い合わせた。担当者から「あなたの子どもは、事前に日本語の知識が全くない生徒に比べれば、不公平なほど有利な立場にある」と言われた。
事例2:オーストラリア生まれの生徒で、片親が日本人。コンティニュアーズ・コースの履修資格なしとした学校の判断に納得できず、交渉した。履修条件に適うように、保護者が「子どもは日本語を継続的に話していない」と書いて署名することで、履修資格を認めてもらえた。
――この問題はどうしたら改善されるでしょうか。
 私たちとしては、根本的な解決策として、ビギナーズ・コース以外の履修条件の撤廃を望んでいます。履修条件を撤廃し、子どもたちが希望するコースで自分の得意科目の勉強を継続できるようにすべきです。
 連邦政府レベルでは、アジア言語を含む第2言語の習得を奨励するプロジェクトが進められています。今後NSW州のボードがそれに同意するよう、政治的・社会的なロビー活動などの強い働きかけが必要だと思います。
――履修資格問題は他州でも同様なのでしょうか。
 州によって言語コースの種類や履修条件は異なります。ちなみにQLD州にはHSCそのものが存在しません。
 他州の履修条件は、全般的にNSW州ほど厳しくないので問題となっていないようです。しかし、学校教育カリキュラムの全国統一化が進められている現在、最も人口が多く政治的発言力も強いNSW州の現行制度が、全国に影響を及ぼす可能性があります。私たちは、このことを非常に懸念しています。今その動きに歯止めをかけないと、日系であるがゆえに日本語を履修できないという問題が、他州にも拡大することになるでしょう。ですから、履修条件を撤廃し、言語科目の履修を積極的に奨励する制度に変えていくことが強く求められるのです。
3段階の不平等
――皆さんが訴えられている「3段階の不平等」とは、どういうことですか。
 日本語を含め、HSC言語コースには3段階の不平等があるのです。
 まず、言語コースと言語以外のコースとの不平等です。例えば、HSCの音楽コースには難易度別にMusic1とMusic2があります。音楽家を親に持つ子どもであれば、幼少時から音楽のレッスンを受けたり家庭でのサポートもあるでしょう。しかし、音楽コースには履修基準がないので、こうした生徒のバックグラウンドが問われることはなく、難易度の低いMusic1を履修することができます。
 次に、言語コース間の不平等です。ヨーロッパ言語のコースには履修条件がないので、例えば、フランスからオーストラリアへ9年生の時に移住してきた生徒でも、フランス語のコンティニュアーズ・コースを履修できます。一方、日本語の場合は、オーストラリアで生まれ育ち、日本に住んだことがない生徒でも、家庭で日本語を話していると同コースの履修資格がないとみなされます。
 そして、言語コース内の不平等です。履修資格の判断は学校長に委ねられているため、同様の生い立ちや生活環境の子どもでも、学校長の判断が異なるということが起きます。A校に通う生徒は履修資格を認められたのに、B校では認められないということがあるわけです。上の子どもは認められたのに、下の子の時は認められなかったというケースもあります。
――そうした不平等はどのように改善できるでしょうか。
 個人の民族的バックグラウンドを理由に履修を認めないのは、言葉を換えれば「差別」だとも言えます。2006年に中国系オーストラリア人生徒の保護者が、「直接的人種差別」だとしてボードを訴えましたが、「現行の履修資格基準は人種差別的ではない」と判決が出たため、ボードはそのように考えています。
 しかし、履修条件にある「(特定の)言語バックグラウンド持つ人」という表現は「間接的人種差別」にあたるという見方があり、その考えに基づいて、オーストラリア人権コミッション、あるいはNSW州反差別委員会に申し立てを行うことができます。履修を認められなかったり、将来認められない可能性があるといった場合に、そのケースについて個人で申し立てるという形です。申し立ての数が増えれば、社会的な問題として認識されていくでしょう。
 また、この制度によって生徒が不利な立場におかれていることは、不服を申し立てることでしか、ボードに伝わりません。ただ、こうした手続きは、すべて英語で文書を作成しなければならないなど、個人で進めるには負担が大きいという面があります。
 私たちはこうした申し立てのお手伝いをしますので、申し立てを考慮されている方がいれば、ご相談ください。また、できる限り多くの方々とこの問題を共有したいので、履修の問題にぶつかった方々には、その体験談をぜひ教えていただきたいと思います。 
 日系コミュニティー全体の問題として、私たちは引き続き州政府や連邦政府の関係機関、関係者に対してロビー活動を行うとともに、生徒や保護者への最新情報の提供活動を続けていきたいと思っています。
■HSC日本語対策委員会の連絡先
Email: hsc.taisaku@live.jp
Web: http://hscjapanese.web.fc2.com/index.html

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