日豪プレス・インターン生取材体験リポート2018 NSW大学日本研究発表会

日豪プレス・インターン生取材体験リポート2018

NSW大学 日本研究発表会

女性の社会進出をテーマに発表を行った「仕事の虫組」
女性の社会進出をテーマに発表を行った「仕事の虫組」

日豪プレスのインターン生として6週間にわたり、職場体験を行った近畿大学・総合社会学部・社会マスメディア系専攻の大学2年生4人が、ニュー・サウス・ウェールズ大学で開催された「第9回日本研究発表会」で編集記者として取材活動体験を行った。編集部指導の元、ニュース体裁で書き上げたリポート記事、及び同世代のオーストラリアの学生たちの日本文化発表に対する4人の感想を併せて掲載する。(リポート:熊井遥、小林朋揮、中川研一郎、前田知暉)

ニュー・サウス・ウェールズ大学日本研究課程は10月26日、日本研究専攻の最終学年コースの学生による公開日本研究発表会を開催した。同発表会は、ニュー・サウス・ウェールズ大学日本研究専攻の学生らによって2011年度より行われており、今回で9回目の開催となる。会場には同研究会の卒業生や日本企業、国際交流基金やJETROなどの政府機関関係者らが観覧に訪れた。また、本発表会の事前準備に携わったお茶の水大学・東北大学の学生らも、スカイプを通して質疑応答などに参加した。

学生らは「インスタ映え組」「人魚組」「カジノ組」「仕事の虫組」「防弾組」の5つの組に分かれ、オーストラリア在住者の視点から「日本でのインスタブーム」「オーストラリアの日系人の歴史」「日本ではカジノが成功するか」「女性の職場進出」「日本の韓流ブーム」について日本語で発表を行った。

「インスタグラム」をテーマとした「インスタ映え組」は、2016~17年における日本人のインスタグラム使用者の急激な増加、更には17年に「インスタ映え」という言葉が流行語大賞を取ったことなどの理由からインスタグラムにスポットを当て、日本のインスタグラム利用の現状説明、オーストラリアのインスタグラム・ユーザーとの比較を行った。インスタ映え組が独自に行ったアンケート結果を基に、日本人とオーストラリア人の美意識の違いがインスタ映えの良し悪しの差に深く関係すると発表した。また、インスタグラムの使用者増加がグローバル・マーケティングに大いに貢献すると予測した。

「オーストラリアの日系人」をテーマとした「人魚組」は、20~21世紀における日系人のアイデンティティーの変化を発表。人魚組によると、パール・ダイバーの時代、真珠産業のためにオーストラリアのブルーム島や木曜島に移住した日系人らは独自の文化を大切にしていたのに対し、第2次世界大戦後駐留したオーストラリア兵士と結ばれた戦争花嫁は白豪主義の時代だったことから、迫害から逃れるために日本の文化を捨てオーストラリア人として生きる道を選んだことを比較した。更に、人魚組が独自に作成したアンケートによると、現在の日系人はオーストラリア社会から受ける外圧がなくなくなったことから、日系人1世・2世どちらも「自分は日本人だ」と認識している人が回答者の70%以上に上ったことを発表した。これらの事実に基づいて人魚組は、「人のアイデンティティーは時代・社会などの外的要因によって変化する」と主張。また、昨今における日本の移民受け入れ問題について、「日本人1人ひとりが多様性を受け入れる努力を行えば、移民者がより快適に生活することができるのではないか」と提唱した。

日本のカジノ政策について発表を行った「カジノ組」のポスター
日本のカジノ政策について発表を行った「カジノ組」のポスター

「カジノ」をテーマとした「カジノ組」は、SWOT分析と呼ばれるビジネスにおいて目標達成のために用いられる経営戦略策定方法を使用し、日本のカジノ設立問題を検討。カジノを設立する「強み」について、観光客の増加、経済的潤い、雇用機会の増加を主張し、「機会」については、中国のギャンブル観光客の来日、建設予定地が東京・大阪・横浜といった観光客が集まりやすい場所であることを挙げた。また、「弱み」について、短期的多額の支出を唱え、「妨げ」については、日本国民の了承が得難いこと、ギャンブル中毒者の増加、犯罪組織の介入を懸念した。カジノ組は、「解決策として海外大企業がカジノを建設すること、日本国家がギャンブルにおける法規制を強化することにより『弱み』『妨げ』を補うことができる」と主張した。また、シンガポールにおけるカジノの成功例を基に、日本におけるギャンブル中毒者は減少すると予測。

「女性の職場進出」をテーマとした「仕事の虫組」は、日本の女性の社会進出が世界基準に比べて著しく低いことを問題視した。原因として、育児における法制度の乏しさ、昭和時代の「男は外働き・女は家庭」という固定概念の名残、職場におけるセクハラ問題を挙げた。また、現在日本が抱える女性の職場進出における問題は、かつてのオーストラリアが抱えていた問題と酷似していることを述べ、一刻も早く日本の女性の社会的立場が向上することへの期待を述べた。また、日本の保育所職員不足の問題については、移民の受け入れ、雇用が解決策につながるのではないかと提案。

韓流ブームについて話した「防弾組」のポスター
韓流ブームについて話した「防弾組」のポスター

「韓流」をテーマとした「防弾組」は、昨今日本で起こっている韓流ブームの実態・社会的影響を検討した。日本の韓流ブームには、主に3つの波があり、冬のソナタによる韓流ファーストウェーブは日本人の主婦層からの絶大な人気を獲得し、現在起きている韓流サードウェ―ブは、若者によって支えられていると主張。また、日本で韓流ブームが起きた原因として、韓国人アイドル特有の「花のような美しさ」「男らしさ」という2つの要素が日本人女性の理想に応えるものであったからだと考察した。防弾組は、「日韓両国の政治上の衝突が度々起こっているにもかかわらず、韓流ブームは日韓関係を良好に維持する1要因として大いに貢献している」と語った。

発表を行った学生は専攻は同じでも日本語の学習歴が異なる。日本語学習歴3年目の学生から、日本在住歴のある学生まで、日本語力、日本社会や文化理解のレベルは多様となっている。同校のトムソン木下千尋・日本研究教授は「それぞれのグループで初対面のメンバー同士も多く、学習レベルの異なる学生同士だったが目標に向かって協力し合うことができたと思う。日本語の不得手な学生を他の生徒がカバーし、支え合ってここまで来られたことに深く感心した」と講評。「この発表は生徒同士のコミュニケーションはもちろんですが、参加者から自分たちの発表についての忌憚(きたん)のない意見を聞き、交流を持てる貴重な場でもあります。この大きな試練を乗り切って得た経験を社会でも生かして欲しい」と続けた。

また、発表会ではお茶の水女子大学・東北大学の学生がスカイプで参加したが、その経緯について同日本研究専任講師の福井なぎさ氏は「お茶の水大学の大学院生は以前、教育実習のため、東北大学生は英語附属学校に短期留学のため、ニュー・サウス・ウェールズ大学を訪れて我々と交流した。それ以降、発表会の作成に協力してくれた」と話している。

発表会後にあいさつを行った来賓者代表のシドニー日本人会理事長・小山真之氏は、「学生たちの更なる成長を期待している。将来、仕事でご一緒できることを楽しみにしている」と話した。

日本研究の最終コースの学生たちの中には卒業後、日本とより深く関わっていく道を選択する者も多いという。

発表会後、トムソン木下千尋・日本研究教授にインタビューを行う近畿大の学生たち
発表会後、トムソン木下千尋・日本研究教授にインタビューを行う近畿大の学生たち
発表会の質疑応答では近畿大の学生も積極的に質問を行った
発表会の質疑応答では近畿大の学生も積極的に質問を行った

取材を終えての感想・考察

熊井遥
熊井遥

日本研究発表会に参加し、学生らの日本語の流暢さ、日本文化への熱意に衝撃を受けた。日本食を始めとする日本文化は、オーストラリアの地に非常に浸透しているそうだ。このように自国の文化が海外で注目されていることをとても誇らしく思う。また、日本語を通して学生たちと意見交換できたことに喜びを感じた。

学生らのテーマは多種多様で、非常に興味深いものばかりであった。その中でも、「人魚組」の発表は特に刺激的であった。私は日本人でありながらも、オーストラリアの日系人の歴史的背景をよく知らなかったからである。また、彼らの発表によって「アイデンティティー(帰属意識)とは何か」を考えさせられた。アンケートの結果によると、オーストラリアの日系1世・2世の回答者70%以上が、「自分は日本人である」という認識を持っているそうだ。私たち単一民族である日本人は、「国籍=アイデンティティー」と捉えがちであるが、「国籍は単なるデータであるのに対して、アイデンティティーは人間の心の奥底にあり、簡単に揺るがないもの」ではないかと感じた。

更に、これからの日本の移民受け入れ問題について「日本人1人1人が多様性を受け入れる努力をするべきだ」という学生の意見にはっとさせられた。日本人は、「わざわざ言葉にしなくても私の言いたいことは相手に伝わっている」というように「同調」しがちだと思った。また、多民族国家の国民と比べて、我々は自身の行動・発言が相手にどう思われているかを考え過ぎる傾向にあると感じる。これらの行動が、多様性の受け入れ難さに直接つながっているのではないかと思った。これから、移民受け入れを行っていくに当たって、日本人の持つこれらの行動は障壁になるかもしれない。

同会は、日本の実態や問題を客観的に捉えることで、日本をより良い国にするにはどうすれば良いかを考える良いきっかけ作りとなった。我々若者が、もっと積極的に日本が抱える問題を思考・考察し、問題解決に取り組んでいくべきだと感じた。


小林朋揮
小林朋揮

一般に日本語を母国語としない人びとにとって、日本語の習得は、英語を母国語として使用する人びとがスペイン語やフランス語、ドイツ語などを学ぶケースに比べて極めて難しいと現在日本語を学習している友人から聞いたことがある。その主だった理由として日本語と英語の発音の大きな差異と文法の構造の違いが挙げられる。しかし10月26日にニュー・サウス・ウェールズ大学において開催された日本研究発表会ではその大きな壁をものともせず日本語で日本の文化と自身の考えについて発表している学生たちの姿があった。

彼らの発表内ですばらしかったのは日本語を懸命に学習し、結果習得したものだと感じさせられた点で、日本人である私たちでも何の疑問もなく聞けるほど流暢な日本語を話す学生が多かった。担当教授の方に話を聞いたところ以前はスピーキングに関して得手不得手の個人差はもう少し大きかったそうなのだが、それを学生同士の助け合いによって現段階まで高めてきたそうだ。彼らのそういった姿勢を私たちも見習っていくべきだと感じた。

また彼らの発表の中でもう1つすばらしかったのはその内容だ。テーマを見てみると「オーストラリアの日系人」や「女性の社会進出」など日本人でも難しく感じるものばかり。その内容をしっかりと把握した上で彼らは自分たちの文化の視点から分析を進めていた。特に印象に残ったのは「カジノ組」の発表だった。日本人の考えるカジノ完成後の影響とは違った観点からカジノ完成のあかつきにどのような点で成功し、どのような点が危惧されるのかをSWOT分析と呼ばれる実際に企業などでも採用される信頼できる方法で行っていた。疑問の余地を挟まないすばらしいものだったと思う。ギャンブル依存症などさまざまな問題が日本のニュースでも挙げられているがそれに関するフォローも他の国のカジノの方針を参考にすれば現実的に防げると発表した。日本では現在60%以上の人がこのカジノ建設に関して否定的な意見を持っていると言われている。日本国内だけでは意見は偏るが他国の意見に耳を傾けることによってより具体的な解決策や新たな問題点が見えてくることがあるのだと感じた。

日本人は基本的に自国の専門家の話を聞いて物事を判断することが多いと感じる。だが客観的な意見として海外にも目を向けた視点を持つことが今の日本に必要になってくると思った。


中川研一郎
中川研一郎

今回の発表会を終えて「多様性」の重要度を実感した。オーストラリアにはかつて「白豪主義」が蔓延していたが、今では多数の人種が住む「移民国家」となっている。「人魚組」による「オーストラリアに住む日系人」の発表では、多様性に深く関わる「アイデンティティー」について深く触れており、今後の日本社会を考える機会になった。昔こそ差別はあったが、今のオーストラリアには社会的外圧がなく、日系人も多く住んでいる。日系人がオーストラリアに住むという「多様性」を、オーストラリアに住む大半の人は認めているということだ。白豪主義が蔓延していた国とは思えない変化だと私は感じた。この話を聞いて、日本は後進国であると感じた。日本では他人と違うと異端の目で見られる、「出る杭は打たれる」という言葉がぴったりな国である。「社会の虫組」による「女性の社会進出」の発表でも、この性質について触れられていた。この先、移民を受け入れるか否かという、多様性が関係した問題に日本は取り組まなければならない。少なくとも今の日本の遅れた価値観では、衰退するばかりだと実感した。だが、ネガティブな印象ばかり受けたわけではない。「防弾組」による「日本の韓流ブーム」の発表で「日本の若者は発想が柔軟」という言葉を聞いて、確かにそうかもしれないと思う部分があった。私の周りにも韓流好きな友人が存在し、韓流から影響を受けて韓国語を専攻する人もいるほどだ。逆に、「慰安婦問題」などの親善問題から韓国を毛嫌いする人も存在する。どんな意見を持とうと個人の自由なので、それを否定するつもりはないが、もう少し冷静になってみるべきなのではないかと個人的に感じる。

日本を離れて、オーストラリアに在住する人から日本に対する意見を聞ける機会というのは非常に貴重なものだった。この発表を聞くまで日本の問題を認知はしていたが、危機感は感じていなかった。しかし、今回の発表で危機を感じ、今後の日本は私たち若者に懸かっていると言っても過言ではないと感じた。


前田知暉
前田知暉

学生の日本語、日本文化への理解の深さに驚くと共に、発表内容も非常に興味深いものであった。特にオーストラリアにおける日系人の歴史は私が知らないことばかりで深く考えさせられるテーマであった。日本の教育では20~21世紀に海外に移住する人がいたことは教えられるが、その後どのような歴史を辿っているかを詳しく学ぶ機会は少ない。パール・ダイバー、戦争花嫁、勉強不⾜の私にとって初めて聞く言葉であった。

現在のシドニーには移民国家という名の通りさまざまな国籍の人が暮らしている。その生活において移民に対する大きな差別、問題はないように見える。私はオーストラリア人のフレンドリーな性格から突如移民が来て、新しい文化が入ってきても問題なく適応できるのだと考えていた。しかし「人魚組」の発表から移民者は当初差別、大きな苦労を経験し、それを踏まえて現在の移民国家としての形ができているのだと学んだ。新しい文化を受け入れることはそれほど難しいのだろう。

日本では労働人⼝が減少傾向のため移民を受け入れるか否か、議論されているが、まず他の移民国家がどのような歴史を歩んできたか学ぶ必要があると痛感した。

またオーストラリアにおける日系人の歴史にも興味を引かれた。アボリジニー、食文化などは日本人にとって独特文化のため注目するが、日系人に高い関心を抱くことは少ないだろう。日本の学生とシドニーで学ぶ生徒では興味を抱く対象、考え方が異なる。分かっているつもりではあったが、改めて気付かされた。その違いを理解し、彼等と協力できる人材が俗に言うグローバル人材ではないか。

私自身オーストラリアでの生活も3カ月となり、文化を理解しているつもりではあるが、異なる価値観に驚くことも時折ある。その違いも歴史を学べば理解出来るようになるのではと同発表を通して思った。移民を受け入れない国でもグローバル化の影響により文化の違いに驚かされる機会も増えるだろう。「人魚組」のエリン・プリンスさんの「⼦どもたちに日系人の歴史を学んで欲しい」という言葉は日本人のみならず多くの国の人びとに当てはまるのではないだろうか。

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